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静脈麻酔の看護|術中・術後の観察と副作用・合併症(2016/05/18)

公開日: : 最終更新日:2017/12/09 看護用語 福岡県 手術室 

静脈麻酔

手術の際の意識消失・鎮痛を目的として行われる静脈麻酔。手術が円滑になる、患者の負担が大きく軽減するなど多くのメリットがある反面、副作用・合併症のリスクは常につきまとい、重篤化することも珍しくはありません。

重篤化を防ぐためには術中・術後における綿密な観察が必要不可欠であり、同時に患者のQOLの低下を防ぐために、また向上させるためには寄り添う看護が重要となってきます。

オペ室看護師、看護麻酔師(CRNA)、病棟看護師など、静脈麻酔に関わりを持つ医療従事者は、当記事を参考に起こりうる副作用・合併症、術中・術後における観察項目・看護などについて習熟し、患者が安心・安全・安楽に手術が行えるよう、また安心・安全・安楽に術後生活が送れるようサポートしていってください。

 

1、静脈麻酔とは

静脈麻酔とは、静脈に直接的に麻酔薬を注入し、意識や全身の痛みの消失を促す全身麻酔法のことです。術中に痛みが伴うと円滑に治療を遂行することができず、また激しい痛みにより患者に多大な負担がかかってしまいますが、麻酔薬を用いることで痛みから患者を守ることができ、さらに手術がスムーズに行える環境を整えてくれるのです。

全身麻酔法には静脈麻酔のほかに吸入麻酔もありますが、静脈麻酔は麻酔薬が血液を通って速やかに脳に届くことから意識の消失・鎮痛が早く、また鎮痛の効果が高いために、吸入麻酔よりも積極的に行われています。ただし、近年では静脈麻酔と吸入麻酔を併用することも多々あります。

素早く意識の消失・鎮痛できる非常に便利な静脈麻酔ですが、麻酔時には意識の消失に伴って自発呼吸が弱くなり、また舌根沈下などにより気道の閉塞の危険があります。ゆえに、気管挿管などによる人工呼吸措置が不可欠となります。

また、術中に意識が急に覚醒する、ショック症状が発現するなど、緊急処置を要する事態も多々起こっていますので、オペ室看護師・看護麻酔師(CRNA)は術中の患者のバイタルサインや全身状態を入念に観察することが求められます。

麻酔薬の副作用・合併症は術後に起こることが多く、中には重篤な症状が発現することもあります。病棟看護師は可能な限り訪室し、術後患者のバイタルサインや全身状態を入念に観察し、重篤化を未然に防ぐことが求められます。

 

2、静脈麻酔の利点・欠点

上で軽く述べたように、静脈麻酔は吸入麻酔と比べて即効性や鎮痛効果に優れています。また、全身麻酔一般においては無痛(Analgesia)、健忘(Amnesia)、無意識(Anesthesia)、不動(Akinesia)の“4つA”を達成することができ、痛みを感じることなく、また出血など手術に際する嫌な記憶が残ることなく、円滑かつ安楽に手術を遂行することができるのです。

その反面、脳内での麻酔薬の濃度の推定が不確実であり、未だ麻酔薬の脳内濃度を体外から確実にモニターする方法が確立されていません。それに伴い、術中に覚醒してしまうことが稀にあり、痛みやショックなどにより対応困難となる例も多々報告されています。

そのため、近年では意識消失・鎮痛の導入として静脈麻酔を行い、麻酔薬の濃度(肺へ出入りするガス濃度)の測定が容易な吸入麻酔に切り替える医療機関が増えてきています。

 

3、静脈麻酔の適応・禁忌

静脈麻酔は非常に有効な全身麻酔法であり、その適応は広範囲に渡ります。脳外科、心臓外科、呼吸器外科をはじめ、整形外科婦人科泌尿器科形成外科など、ほぼすべての分野において実施されており、静脈麻酔単独、局所麻酔単独、静脈麻酔と硬膜外麻酔(脊髄麻酔)との併用など、手術の部位により使い分けられています。

 

適応分野

  全身麻酔 局所麻酔 併用
脳外科 ×
心臓外科 × ×
呼吸器外科 ×

(硬膜外麻酔)

外科

(硬膜外麻酔or脊髄くも膜下麻酔)

整形外科

(硬膜外麻酔or脊髄くも膜下麻酔)

婦人科

(硬膜外麻酔or脊髄くも膜下麻酔)

耳鼻咽喉科

×

泌尿器科

(硬膜外麻酔or脊髄くも膜下麻酔)

形成外科

(硬膜外麻酔or脊髄くも膜下麻酔)

眼科

×

※全身麻酔は静脈麻酔に加え吸入麻酔も含む。

 

静脈麻酔の禁忌は、基本的に使用する薬剤に準じます。使用する薬剤の種類によって作用が異なり、たとえばバルビツール系のチオペンタールは呼吸抑制に加え、交感神経の抑制が強いため喘息には禁忌、ケタミンは頭蓋内圧亢進作用があるため頭蓋内圧亢進症には禁忌など、禁忌となる症例は薬剤に依存します。

 

4、静脈麻酔薬

静脈麻酔で用いられる主な薬剤は、「バルビツール系」、「ベンゾジアゼピン系」、「ケタミン」、「プロポフォール」などがあります。

それぞれが持つ作用によって適応となる症例、禁忌となる症例があるため、患者が有する疾患や常服薬、生活習慣など、さまざまな観点から使用する薬剤を選択しなければいけません。

 

バルビツール系

概要 バルビツール系麻酔薬には、主にチオペンタール、チアミラールが用いられています。溶解性に富んでいるため、中枢神経系に速く到達しますが、同時に再分布も早いことで持続時間は短め。脳圧を下げる作用があるため、主に脳外科で使用され、小児にも成人にも使用可能です。鎮痛作用はありません。
副作用 疼痛の増強、呼吸抑制・交感神経の刺激(しゃっくり・喉頭痙攣・気管支痙攣など)、頻脈、心筋収縮力の減弱、ポルフィリン代謝の阻害など。
禁忌 気管支喘息、ポルフィリン症、腎障害(副作用増強のため)、ショック患者、呼吸困難を伴う心不全、筋緊張性ジストロフィー、収縮性心膜炎、バルビツール系麻酔薬に対して過敏症のある患者など。

 

ベンゾジアゼピン系

概要 ベンゾジアゼピン系には、主にジアゼパム・ミダゾラムが用いられています。抗不安作用・睡眠作用・抗痙攣作用・筋弛緩作用があり、鎮静・麻酔作用が強いのが特徴。呼吸器系や循環器系への抑制作用も強いため、高齢者に対してはあまり使用されていません。
副作用 呼吸抑制、循環抑制、健忘、運動機能・強調運動障害、神経過敏など。
禁忌 重症筋無力症、急性狭隅角緑内障、ショック患者、帝王切開、ベンゾジアゼピン系に対して過敏症のある患者など。

 

ケタミン

概要 体性痛に対して強力な鎮痛作用を有している解離性麻酔薬。大脳皮質を抑制し、大脳辺緑系や網様体賦活系を活性化する作用があり、バルビツール系麻酔薬が禁忌となる患者に対して使用されます。筋緊張が保たれ、呼吸抑制が少ないという長所がある反面、覚醒時には悪夢・幻覚・興奮といった他の静脈麻酔薬にはない副作用が存在します。また、アルコール中毒者には効果が薄くなるため注意が必要です。
副作用 呼吸抑制、循環抑制、不随意運動、筋緊張亢進、痙攣、悪夢・幻覚・興奮、唾液分泌量亢進など。
禁忌 てんかん、頭蓋内圧亢進症、緑内障、虚血性疾患、脳血管疾患、ケタミンに対して過敏症のある患者など。

 

プロポフォール

概要 円滑かつ迅速に導入でき、麻酔深度の調整が容易な静脈麻酔薬。アナフィラキシーを引き起こさないなど副作用を考慮して開発されたこともあり、他の静脈麻酔薬と比べて副作用が少ないのが最大の特徴。ただし、重篤化しやすいという欠点があります。作用発現が速く蓄積しないという長所を持っているものの、持続時間が短いことで継続投与ならびに周到なモニターが必要不可欠。また、小児に対する安全性は未だ確立されていません。
副作用 血管痛、徐脈、呼吸抑制、循環抑制、てんかん様体動、不全収縮、心室頻拍肺水腫、悪性高熱類似症状など。
禁忌 小児・妊婦・授乳婦、プロポフォールに対して過敏症のある患者など。

 

そのほか、麻酔薬全般にみられる副作用には、発熱、頭痛めまい、悪心・嘔吐、痙攣、などがあります。これら軽度の副作用の発生頻度は高いものの、通常は術後3日以内に収まります。ただし、症状の程度は患者によって異なり、さらに重篤化するケースもありますので、術後には綿密な観察が必要不可欠です。

 

5、術中・術後の看護・観察

上述のように、静脈麻酔に用いられる薬剤には多くの副作用・合併症が存在します。このうち1つ以上は必ず発現するといっても過言ではなく、重篤化するケースも珍しくはありません。

重篤化を防ぐためには何より早期発見・早期対処が大切です。起こりうる副作用・合併症を念頭に置きながらの綿密な観察が必要不可欠です。

術中においては「呼吸器系の異常」「循環器系の異常」「急激な体温の上昇」「アナフィラキシーショック」「術中の覚醒」、術後においては「呼吸器系の異常」「循環器系の異常」「副作用」「ストレスケア」などが特に重要となる観察項目・看護であるため、これらについては習熟しておいてください。

 

5-1、術中合併症における観察・看護

呼吸器系の異常

静脈麻酔に用いる薬剤のほとんどが合併症に呼吸抑制があります。注入中は人工呼吸器による呼吸管理を行いますが、呼吸抑制や呼吸筋の筋力低下により、舌根沈下や喉頭痙攣により気道閉塞・呼吸停止が起こることがあります。多くは呼吸が浅く呼吸数が減少するため、気道閉塞などが疑われる場合、または発現している場合には体位や呼吸管理を見直します。

 

循環器系の異常

麻酔薬による循環器系への合併症には、血圧下降・上昇や脈拍数の減少・上昇、不整脈などがあります。多くは経過観察で問題ありませんが、急激な変化がみられる場合には麻酔薬の注入速度を遅くするなど慎重投与を行います。

また、循環器系の変化は起こりうるさまざまな合併症と起因していますので、患者の全身状態を注意深く観察しなければいけません。急激な血圧の下降がみられる場合には患者の頭部を下げる、血漿増量剤・昇圧剤を投与するなど、循環器系の各合併症に対して迅速かつ適切な処置が求められます。

 

急激な体温の上昇

急激な体温の上昇がみられる場合には悪性高熱症が疑われます。40℃以上の高熱に加え、頻脈、チアノーゼアシドーシスなどの症状が発現すれば悪性高熱症の可能性が高いと言えます。

悪性高熱症は重篤化しやすく死亡例も報告されているため注意が必要。疑われる場合には直ちに麻酔薬の投与を中止し、ダントロレンの静注と全身冷却により対処します。

 

アナフィラキシーショック

アナフィラキシーショックは麻酔薬に起因する最も重篤な合併症の1つです。呼吸困難や気管支痙攣などの呼吸器系症状、血圧の低下、失神、全身的な蕁麻疹、口唇・舌の浮腫、痙攣など、発現する症状は多岐に渡り、使用薬剤によって、また患者によって異なります。約90%は麻酔薬の導入後すぐに発現し、対処が遅れれば命に関わることもあるため、迅速かつ適切な処置が必要不可欠。

一般的には、気道の確保、呼吸・循環管理を行い、アドレナリン・ステロイド・抗ヒスタミンなど状況に応じて適切な薬剤の投与とともに補液を行い改善を図ります。すべての麻酔薬がアナフィラキシーショックを起こす可能性を持っており、時には初期症状が弱い場合もありますので、導入後まもなくは特に患者の全身状態を綿密に観察しなければいけません。

アナフィラキシーの看護|症状と原因、発症患者への治療・対応

 

術中の覚醒

術中に覚醒する患者は約0.2%と統計されています。覚醒する因子には術前のタバコやアルコール摂取などの生活習慣、術前のコンプライアンス不良(絶飲食など)が関与していることが多く、また麻酔薬の投与量・投与速度も深く関わっています。

全身麻酔すべてにおいて鎮痛するため、術中に覚醒しても痛みは感じませんが、多大なストレスや不安を感じ高率で術後にPTSDを発症します。術中に覚醒すると血圧の上昇や脈拍の増加、頻脈などがみられるため、モニターをしっかり確認し、麻酔薬の投与量を増加するなど、状況に応じて対処します。

 

5-2、術後合併症における観察・看護

呼吸器系の異常

術後には麻酔薬の合併症として呼吸抑制が残ることがあります。また、気管挿管に伴う粘膜の刺激や損傷による喉頭部の痛みや嗄声が現れることもあります。その他、痰の排出障害、痰を含む分泌物による気道閉塞など、呼吸器系のさまざまな合併症が出現します。

麻酔薬による呼吸抑制の影響は呼吸数(8回/分)を目安とし、8/分以下であれば必要に応じて酸素の投与を行ってください。喉頭部の痛みや嗄声においては、時間とともに消失するため経過観察で構いません。気休め程度ですが、継続的な水分補給(少量ずつ)、トローチ等の服用により改善を図ることができます。

術後の分泌物による気道閉塞は呼吸停止など重篤になりやすい傾向があります。特に舌根沈下は睡眠時に起こることが多いので、定期的に巡回を行っても気づきにくく、発見が遅れることで重篤化するケースが多々あります。患者に痰の自力排出を促し、痰出力が落ちていれば吸引またはスクイージングを行ってください。

吸引の看護|口腔・鼻腔・気管カニューレ内吸引の手技と留意点

 

循環器系の異常

麻酔薬の術後合併症には、循環抑制や循環刺激に伴う血圧の上昇・低下、不整脈・頻脈・徐脈、心機能の低下・心室細動、術後イレウスなどがあります。麻酔薬が原因となっている他、出血や疼痛、ストレスなど原因はさまざまですので、原則として経過観察を行い、必要に応じて症状に応じた薬物の投与を行います。

低血圧に対しては毛布などで保温を行うなど、看護師ができることも多いので、症状に応じて積極的に対策をとってください。また、急に変動することも多々あります。綿密に観察を行うとともに傾聴し、異常があれば速やかに看護師長ならびに担当医に報告してください。

 

副作用

発熱、頭痛、めまい、悪心・嘔吐、痙攣、蕁麻疹・かゆみ、喉の渇きなど、術後に起こりうる麻酔薬の副作用は多岐に渡ります。通常、時間の経過とともに改善されていくため経過観察で問題ありませんが、症状の程度によっては薬物の投与などの対処の行い早期改善を図ってください。

 

ストレスケア

特に術中に覚醒した患者のストレスケアは非常に重要。術中覚醒を経験した患者の多くがPTSDを発症しています。また、誰しもが大なり小なりストレスを感じるため、術後のストレスケアは積極的に行ってください。励ましの一言だけでも患者は安心します。できることから実施していってください。

 

まとめ

静脈麻酔は手術の円滑化、患者の負担軽減において非常に有益である反面、常に副作用・合併症のリスクがつきまといます。

術中は主に麻酔科医が静脈麻酔における患者管理を行いますが、1人で完璧に管理できるわけではありません。ゆえに、看護師も大きな役割を担っています。術後における患者管理の看護師の役割はさらに大きく、早期発見・早期対処ができるかは看護師にかかっていると言っても過言ではありません。

起こりうる副作用・合併症を念頭に置き、患者が安心・安全・安楽に術後生活を送れるよう、観察はもちろん寄り添う看護でしっかりサポートしていってください。

 

全身麻酔の合併症と術前・術後における観察項目・看護計画

局所麻酔の看護|術中・術後の観察と副作用・合併症

硬膜外麻酔(エピドラ)の看護|副作用・合併症における観察

加藤裕子 看護師

福岡県福岡市在住、看護師歴8年。福岡市内の一般病院でICUとして2年、手術室看護師として6年就業。現在はツアーナースとして各地で看護業務を行いながら、九州各地の病院・クリニックへの取材、ライター活動などを行っている。

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