VT(心室頻拍)の看護|原因や心電図波形、看護師の対応4ステップ(2020/02/08)
VTは心室期外収縮が連続して起こっている状態のことで、そのまま放っておくと、死に至ることもある不整脈です。そのため、看護師はVTを起こした患者を発見したら、冷静に適切な対応ができるように正しい知識を身につけておく必要があります。VTの基礎知識や原因、心電図波形、症状、治療法とガイドライン、看護師対応についてまとめましたので、実際の看護に役立ててください。
1、心室頻拍(VT)とは
心室頻拍(VT=Ventricular Tachycardia)とは、心室期外収縮が1分間に120回以上の頻度で3連発以上と高頻度に出現した状態のことを指します。心室期外収縮とは、正常の心臓のリズムではなく、心臓の異常興奮によって生じる心室の収縮のことです。
つまり、VTは正常リズムではなく、異常興奮で心室が連続して収縮してしまっている状態と言えます。VTが起こると、心室のポンプ機能は正常に働かなくなるため、循環を保つことができず、非常に危険な状態です。
また、VTはさらに悪性度の高い不整脈である心室細動(Vf)に移行する場合もリスクもあります。VTには30秒以上続く持続性VTと、30秒未満で自然停止する非持続性VTに分けられますが、持続性VTは自然停止することはないため、何らかの治療をしてVTを停止させなければいけません。
2、VTの原因
VTは心筋梗塞や狭心症、弁膜症、CT延長症候群、心筋症などの心疾患があると発症しやすくなりますが、心疾患がなく健康な心臓の人でもVTを発症することがあります。基礎疾患がないのに起こったVTを特発性VTと言います。
睡眠不足やカフェインの摂りすぎ、ストレスなどがVTの引き金になることはありますが、これといった誘因がなく、突然VTが起こることもあります。
3、VTの心電図波形
心電図が苦手な看護師は多いので、「不整脈の心電図」と聞くとそれだけで拒否反応を示してしまうかもしれませんが、VTの心電図波形は特徴があり、わかりやすいので大丈夫です。VTの心電図波形は、たくさんある不整脈の中でも一番わかりやすく、心電図に詳しくない看護師でも一目でVTが起こっていると判別することができます。
これが、典型的なVTの12誘導の心電図波形です。VTの心電図波形の特徴は、次の2つです。
・QRS幅が広い(0.12秒)
・RR間隔は一定 |
つまり、幅の広いQRS(Wide QRS)が一定のリズムで出現していれば、VTということになります。看護師は、最初は「P波は?」、「STはどうなっている?」と難しく考える必要はありません。とりあえず「幅の広いQRSが規則的に出現しているか?」だけに着目しましょう。
4、VTの症状
「VT=脈なし・心停止」と思われがちですが、VTは脈なしVT(無脈性VT・Pulseless VT)と脈ありVTに分けることができます。無脈性VTの時は、意識を消失し、呼吸停止・心停止となります。脈ありVTは「脈が触れる=循環は維持できている」ということになりますので、意識消失が起こらないことも珍しくありません。
意識を消失しない脈ありVTの時は、動悸、息切れ、めまいやふらつきなどの自覚症状が出てきます。
5、VTの治療法とガイドライン
VTの治療方法は、次の2つのガイドラインによって定められています。
・不整脈薬物治療に関するガイドライン(2009年改訂版)(一般社団法人日本循環器学会|日本循環器学会,日本小児循環器学会,日本心臓病学会,日本心電学会,日本不整脈学会|2009年)
・「不整脈の非薬物治療ガイドライン(2011年改訂版)」(一般社団法人日本循環器学会|日本循環器学会,日本胸部外科学会,日本人工臓器学会,日本心臓血管外科学会,日本心臓病学会,日本心電学会,日本心不全学会,日本不整脈学会|2011年)
このガイドラインによると、VTの急性期の治療は、この2つが行われます。
・カウンターショック(無脈性VTは除細動、脈ありVTはカルディオバージョン)
・薬剤投与(アミオダロン、ニフェカラント、リドカイン) |
長期的な治療となると、VTの発作を起こさないという視点ではなく、VTによる突然死を起こさないという視点での治療が行われます。以下の3つの治療が行われることが多いです。
・薬物治療
・カテーテルアブレーション |
この治療でも効果が見られないという場合は、外科的手術による治療が選択されることになります。
6、VT患者への看護師の対応
VTを起こした患者を発見した時の看護師の対応の流れ・手順を確認しておきましょう。VTを起こしている患者を発見すると、焦ってしまう看護師が多いと思います。VTは迅速に対応しないと、死に至ることになりますので、看護師は冷静に対応できるようにあらかじめ知識を身につけておく必要があります。
①バイタルサインのチェック
心電図上でVT波形を確認したら、まずはバイタルサインを確認する必要があります。と言っても、この時のバイタルサインは体温や呼吸数など細かく測る必要はありません。まずは、頸動脈で脈が触れるかどうかを確認しましょう。頸動脈で脈が触れれば、血圧60mmHg以上はあるということです。脈を確認出来たら、意識レベルの確認や血圧を測定するようにしてください。頸動脈で脈が触れなければ、無脈性VTということになります。
②応援を読んでCPRを開始
脈が触れたら、バイタルサインを医師に報告して、患者の状態の変化に注意しながら、医師の指示に従って対応します。無脈性VTの場合は、すぐにナースコールを鳴らしたり、大声を出して応援を呼ぶのと同時にCPRを開始します。胸骨圧迫を1分間に100回のペースで行いましょう。
CPRをしている間に、応援の看護師が来てくれると思います。そうしたら、救急カートやカウンターショックの準備を指示し、さらに処置ができるようにベッド周囲のスペースを確保するなどの環境整備をお願いしましょう。
④ACLSのアルゴリズムに沿って対応する
医師が来たら、基本的には医師の指示に従って対応することになりますが、多くの医師はACLSのアルゴリズムに従って処置をしていくはずですので、看護師もVT治療のアルゴリズムを理解しておくと、時間のロスなく処置をすることができます。AHA(アメリカ心臓協会)のACLSのアルゴリズムによると、無脈性VTでは迅速な除細動とCPRが治療の原則です。
だから、医師が来たらすぐに除細動が行えるように、準備しておく必要があります。
<無脈性VTの簡単なアルゴリズム>
1.除細動
2.CPR2分間(5サイクル) 3.リズムチェック 4.VTが続いているようなら除細動 5.アドレナリンの投与 6.CPR2分間(高度な気道確保を考慮) 7.リズムチェック 8.VTが続いているようなら除細動 9.アミオダロンやリドカインなどの抗不整脈薬の投与を検討 10.CPR2分間 |
このアルゴリズムの簡単な流れを覚えておけば、看護師は医師の指示を待って準備するのではなく、指示される前に準備ができますので、時間のロスが少なく、迅速に対応でき、救命率を上げることが可能になります。また、アルゴリズムを理解しておけば、自信を持ってVTの対応ができますので、焦って空回りすることもないでしょう。
まとめ
VTの基礎知識や原因、心電図波形、症状、治療法とガイドライン、看護師の対応についてまとめました。VTは心疾患がない患者にも突然起こり得るものですので、救急部門やICU、循環器系の診療科の看護師だけでなく、ほかの診療科の看護師も適切に対応できるように正しい知識を身につけておく必要があります。慌てず冷静に対応できるように、VT患者への看護師の対応をもう一度見直しておきましょう。
東京都在住、正看護師。自身が幼少期にアトピー体質だったこともあり、看護学生の頃から皮膚科への就職を熱願。看護学校を経て、看護師国家資格取得後に都内の皮膚科クリニックへ就職。ネット上に間違った情報が散見することに疑問を感じ、現在は同クリニックで働きながら、正しい情報を広めるべく、ライターとしても活動している。
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