てんかんの看護計画|発作時・重要発作時の看護と観察項目、薬(2017/05/01)
さまざまな原因によって脳波に異常波が起こり、反復性の発作を起こすのがてんかんです。突如てんかんを起こしている患者に遭遇したら、あなたならどうしますか?今回は、てんかんの種類や治療、看護計画についてお話ししますので、突然の事態の対応に役立ててください。
目次
1、てんかんとは
世界保健機関WHOによると、てんかんとは、種々の原因によってもたらされる脳の慢性的疾患、大脳ニューロンの過剰な発射に由来する反復性の発作(てんかん発作)を特徴とし、それについての様々な臨床症状および検査所見がみられるものと定義されています。てんかんの原因はさまざまで、大脳皮質の神経細胞が異常に興奮し、脳波に異常波が起こることで発作が生じると言われており、刺激のある環境や体調不良、睡眠不足、ストレスなどが誘因となりえます。好発年齢は生後から2歳までと思春期の若い年代に多いのが特徴で、約200~400万人のアメリカ人がてんかんに罹患しており、その多くは小児ともいわれています。てんかんは原因により特発性(特定の病変や原因がない)と症候性(脳の奇形や脳の器質的病変などが原因)に分類され、さらに発作の発現部位により局在関連性(部分発作)と全般性(全般発作)に分類されます。
■てんかんの分類
局在関連性(部分発作) | 全般性(全般発作) | |
特発性
(原発性) |
中心・側頭部に棘波をもつ
良心小児てんかん 後頭部に突発波をもつ 小児てんかん など |
小児欠神てんかん
若年欠神てんかん 若年ミオクロニーてんかん など |
症候性
(続発性) |
側頭葉てんかん
前頭葉てんかん 頭頂葉てんかん 後頭葉てんかん など |
ウエスト症候群
レノックス・ガスト―症候群 など |
出典:医療情報科学研究所|看護師国家試験のためのなぜ?どうして?チェキラ第6版|メディックメディア(462図てんかんの分類 平成27年7月10日)
てんかん発作の症状は、全般発作と部分発作で症状が異なり、一般的には複雑な症状を伴う部分発作は意識消失をきたします。全般発作は通常、小発作か大発作のいずれかに分けられ、小発作は通常4歳以降、思春期以前のこどもが罹患します。まれに成人にも発症し、発症が70歳に及ぶことも。小発作ではけいれん性の運動を伴わずに突然意識的活動が停止し、この状態が数秒から数分間続き、この間に瞬目や低発性のミオクローヌスなどの軽度の運動徴候を呈します。発作後はすぐに意識を取り戻すため意識混乱はみられません。それに対し大発作はてんかん発作のうち最もよくみられ、はじめから全般性けいれんを伴うものと、部分発作が二次的に全般化する場合があり、通常何の予告もなしに起こり、決まった経過をたどります。
①強直相:体幹及び四肢の強い収縮、姿勢保持能力の消失、てんかん性の絶叫、チアノーゼが見られ、これらが2~3分続く
②間代相:強直性収縮から徐々に間欠的な両側性のすばやい運動に移行していく。 ③痙攣後:発作が起こった記憶がなく、逆行性健忘を示すこともある。 |
部分発作では、意識を保ったまま発作が起きる単純部分発作と意識を失う複雑部分発作の症状が出現し、複雑部分発作の特徴は、その場にそぐわない意味のある行動をすることで、舌なめずりしたり、目的もなく歩いたり、服をつまんだりする自動症がよくみられます。
■てんかん発作の種類と症状
全般発作 | ・強直・間代発作(大発作):
強直性けいれんから間代性けいれんへと続く発作 ・欠神発作(小発作): 数秒間の意識消失、けいれんなし ・ミオクローヌス発作: 四肢などの瞬間的な収縮、光刺激で誘発されやすい |
|
部分発作 | 意識は保たれる
→単純部分発作 |
・運動徴候:
けいれんの左右差や姿勢、眼球の変化 等 ・感覚症状 ・腹痛、悪心、頻脈、発汗など自律神経症状 ・神経症状 |
意識を失う
→複雑部分発作 |
・自動症:口をくちゃくちゃ、舌打ち など |
出典:医療情報科学研究所|看護師国家試験のためのなぜ?どうして?チェキラ第6版|メディックメディア(463図てんかん発作の種類と症状 平成27年7月10日)
2、重積発作とは
けいれんする発作またはけいれんしない発作が通常より長く続くか、何度も繰り返す状態を重積発作といい、全般発作でも部分発作でも起こりえます。通常てんかんは長くても数分以内におさまりますが、1回の発作が続いたり、1回の発作の後に次の発作が続いて起こる場合は緊急を要し治療を必要とします。
3、てんかんの治療薬
てんかんの治療には、神経の異常な興奮を抑える抗てんかん薬を使いますが、発作の種類により使用する薬剤は異なります。眠気、ふらつき、発疹、造血機能異常などの副作用も出現するため、患者への生活指導も必要になります。中にはてんかんのために、自動車の運転や教育の機会を失う患者も少なくありません。実際、てんかん患者の25%は与薬をうけながらも発作を繰り返し、10%は施設に収容され、5%は病人として家にこもっているといわれています。
■主なてんかん薬
抗てんかん薬 | 概要 | 特徴的な副作用 |
バルプロ酸ナトリウム | 全般発作の第一選択薬 | 催奇形、肥満、肝障害、高アンモニア血症 |
カルバマゼピン | 部分発作にもよく用いる | 重症発疹、白血球減少、再生不良性貧血、催奇形 |
クロナゼパム | 部分発作の第二選択 | 過度の鎮静、不穏、多動、興奮、気道分泌亢進 |
出典:医療情報科学研究所|看護師国家試験のためのなぜ?どうして?チェキラ第6版|メディックメディア(464図 主なてんかん薬 平成27年7月10日)
4、てんかんを起こす患者の看護計画
4-1、身体損傷の潜在的状態:発作時意識消失、けいれん発生に関連した
■看護目標:身体損傷を起こさない
■観察項目
・ベッドの高さ
・ベッド柵は確実についているか ・皮膚トラブルの有無 ・靴にすべりどめはついているか |
■ケア項目
・ベッドは最下床に保つ
・ナースコールを患者の手の届くところに置いておく ・ベッド柵4点強化 ・車いす、ストレッチャー以上の際は必ずロック ・発作の感覚に応じてベッドサイドにエアウェイ設置 ・吸引器を準備しておく ・指示に従い酸素吸入行う ・誤嚥予防のため側臥位にする ・出血や分泌物があれば口腔ケア行う ・履物指導を行う ・院内感染予防実施 ・確実に内服できるよう工夫する ・発作の危険があるため、入浴や排せつの際は付き添う |
■指導項目
・前兆を見極め、そのときとるべき行動について説明する
・バランスのとれた食事とアルコールなどの刺激物を避けることが大切であることを説明する ・過剰なストレスや興奮は避けるよう説明する |
4-2、無効な呼吸パターン
■看護目標:呼吸量を低下させず安楽になる
■観察項目
・安楽な体位か
・SPO2値 ・呼吸回数、呼吸の深さ、呼吸音 ・チアノーゼの有無 ・鼻腔の拡大の有無 |
■ケア項目
・咳嗽をしている際は患者の胸郭を動かさないようにする
・疼痛をおさえるため医師の指示に従い弱い鎮静薬投与行う ・適宜挿管を行う ・頻回な体位変換と安楽な姿勢の調整を行う ・瞑想、リラクゼーション、リラクゼーションにより疼痛を軽減させる |
■指導項目:深呼吸し咳嗽するよう促す
4-3、栄養状態の変調:摂取不十分(てんかん発作による食事不可能な状態)
■看護目標:栄養素を摂取し、身体の機能を維持する
■観察項目
・体重
・食事摂取量 ・患者の好み ・嚥下能力 ・食欲 ・吐き気、疼痛 ・検査データ(ALB、TP、リンパ球数) →経鼻栄養チューブで栄養をとっている場合 ・チューブが確実に胃内に入っているか ・吸引した胃内容物の性状と残量 ・食事の温度 →CVで栄養をとっている場合 ・注入流量 ・血糖値 ・刺入部の異常の有無、ドレッシング剤のはがれはないか |
■ケア項目
・毎日体重測定を行う
・食前に吐き気や疼痛がある場合は指示により薬剤投与し食事する ・適宜食事介助 ・患者と食べやすい食事形態を話し合う →経鼻栄養チューブで栄養をとっている場合 ・胃内容物を吸引し残量測定を行う ・吸引した内容物が50ml以下の場合は食事を続ける ・食事は適温にし投与する →CVで栄養を取っている場合 ・訪室のたびに注入流量をチェックする ・血糖値測定 ・病棟で決まった曜日にCV刺入部消毒を行う |
5、けいれん発作時の対応
けいれん発作時は、気道確保が最優先になります。誤嚥を防ぐため体位を側臥位にし、患者を安全な場所に移動させ、光や音、振動などの刺激を少なくします。そしてけいれんが始まった時間、持続時間、全身状態を注意深く観察し、もし重積発作を引き起こした場合はただちに医師に連絡し処置をします。
まとめ
てんかんは、無意識に起こってしまう発作により思わぬ事故を招いてしまったり、重積発作のような緊急事態に陥いることもある恐ろしい病気です。もし目の前で発作を起こしてもてきぱきと対処できるよう、何度も復習して発作に備えましょう!
参考文献
クリニカルナーシング7神経疾患患者の看護診断とケア(株式会社医学書院|石川稔生、樋口康子、小峰光博、中木高夫|205-207、211、213 1990年9月1日)
クリニカルナーシング1看護診断-診断分類の理論的背景と診断名一覧(株式会社医学書院|石川稔生、樋口康子、小峰光博、中木高夫|44、48、166、169、1991年1月1日)
看護師国家試験のためのなぜ?どうして?チェキラ第6版|メディックメディア(医療情報科学研究所|462-465平成27年7月10日)
第7章重積発作などの緊急時の対応(てんかんセンター)
東京都出身、千葉県在住。高校卒業後、一般企業に就職。父が脳梗塞で倒れたのをキッカケに、脳血管障害を有する人の治療に携わりたいと思うようになり、看護師の道を志す。看護学校へ入学、看護師国家試験に合格の後、千葉県内の市立病院(脳神経外科)に就職。父の介護が必要になったことで5年の勤務を経て離職。現在は介護の傍ら、ライターとして活動中。同時に、介護の在り方や技術などにおける勉強も行っている。
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