看護師が行う6つの体位と体位変換の方法および注意点(2020/11/06)
看護技術の中でも日常、頻繁に行われている体位変換。以前は体位交換と言われることが多く「体交」という言葉がしっくりくる方もいらっしゃると思います。今ではあまり体位交換という言葉は使用されなくなり、体位変換という言葉が用いられることが多くなりました。通常、私たちは寝ている間にも無意識に体位変換を自ら行っています。普段、寝ている間に褥瘡ができたりはしませんよね。しかし、病気等の理由により自分自身で体位変換が行えない場合や安静等で同一体位の保持を余儀なくされる場合は、同一の部位が長時間にわたり圧迫されてしまうケースが多く、褥瘡のリスクが高まってしまします。それを防ぐためにも、定期的な体位変換が必要となるのですが、体位変換にはそれ以外にも様々な目的があります。今回は、体位変換の目的や方法、注意点などについて説明していきます。
1、体位変換とその目的
自分自身で体の向きを変えることが困難な患者や身動きが取れない患者、また身動きが不十分な患者に対し、他社が定期的に体の向きや位置を変えることを体位変換といいます。長時間、同一部分が圧迫されることにより、血行障害が起こり褥瘡のリスクが高まります。また、動きが制限されることによって拘縮や変形、循環障害が起こる可能性があります。体位変換はそれらを予防するために行われます。また体位変換は、肺の拡張を促し、気道内の分泌物を排出しやすくする目的でも行われます。体位変換の方法や頻度は患者の状態により異なるため、患者の状態と起こりうるリスクを把握した上で、方法や頻度を決定することが大切です。
2、体位の種類
体位変換の方法を学ぶ前に、まずは主にどんな体位があるのかを見ていきましょう。それぞれ、どのような場合に用いられるかも合わせて学習していきましょう。
①仰臥位
一般的に言う「あおむけ」の状態です。背中を下にし、上を向いた状態のことを言います。循環の安定を目的とする場合に用いられることが多い体位です。同一体位による局所への圧迫で褥瘡等の合併症を引き起こす可能性があるため、適宜、除圧を行いながら、良肢位を保持します。
②側臥位
横向きの状態です。右側を下にしている場合を右側臥位(うそくがい)、左側を下にしている場合を(さそくがい)といいます。肺塞栓等がある患者に対し、ガス交換の改善を目的する場合に用いられることがあります。健側肺を上にした体位をとることで、血流障害のない肺に空気が入りやすくなり、ガス交換の改善が期待できます。
③腹臥位
仰臥位の反対の意味で、「うつ伏せ」の状態を指します。お腹を下にした状態のことを言います。無気肺を予防や改善を目的に用いられ、無気肺のある肺野に重力がかからないようにすることで、健側肺の血流が増加し、ガス交換及び酸素化の改善が期待できます。仰臥位では背側に形成しやすく、側臥位<完全側臥位<前傾側臥位<腹臥位の順に改善見込みが高くなります。背面解放がポイントです。
④ファーラー位
仰臥位の状態から上半身を40度に起こした状態を指し、半座位とも言われています。上半身の角度が15度から30度程度起こした体位はセミファーラー位と言います。人工呼吸器による肺炎等の合併症予防のために効果的な体位です。上半身の拳上角度が30度から45度で人工呼吸器関連肺炎(VAP)のリスクが減少すると言われています。また、頭蓋内圧亢進時には15〜30度頭高位のセミファーラー位を保持することで、静脈灌流を促進させ、頭蓋内圧を低下させる効果があります。
⑤座位
仰臥位の状態から、上半身を90度に起こした状態を言います。換気量を増やす目的で用いられることが多く、横隔膜の位置により換気量は変動します。
⑥立位
立った状態のことを言います。
3、体位変換の方法
体位変換を行うには、さまざまな方法があります。どの体位から、どの体位に変換するのか、何人で体位変換を行うのかなど、患者の状態や施行者の人数によりその方法が異なります。では実際にどのように体位変換を行うか、その方法を確認していきましょう。
①仰臥位から側臥位への体位変換
・まず体位を変換する方向に枕を移動させ、患者の顔を横に向けます。
・患者の両腕を前胸部で組み、上側になる方を上にします。 ・患者の両膝を引き上げて立てます。 ・引き上げた両膝を変換する方向へ倒して、肩に手を添え側臥位にします。 |
②側臥位から仰臥位への体位変換
・枕を中央に移動します。
・患者の上側の下肢を支えながら後方に回旋させます。 ・枕で患者の体が固定されている場合は、丁寧に外します。 ・上側の肩と腸骨部分をしっかりと支え、背部側に回旋します。 ・頭から下肢が直線になるように、骨盤の位置をずらします。 |
③仰臥位から端坐位にする場合
・患者の手を介助者の肩に置きます。
・患者の頸部を肘で支え肩甲骨を持ちながら、患者を浮かせます。 ・患者の上半身を手前に寄せて、腕を押さえながら弧を描くように起こします。 ・介助者の手を患者の膝の下に入れます。 ・患者の膝を立て、背部を支えながら殿部を軸にして90度回転させます。 |
④水平に移動させる場合(介助者が1名で施行する場合)
・患者の後頭部をしっかりと支えます。
・枕を手前にずらし、患者の頭を枕に戻します。 ・患者の上半身と下半身を分けて移動させます。 |
⑤上方へ移動させる場合(介助者が1名で施行する場合)
・ベッドの上部に枕を移動させます。
・患者の腕を組み、両膝を立てます。 ・足元側の腕で腰部や大腿部を支え、頭側の腕で肩甲骨部を支えます。 ・介助者側に患者を引き寄せます。 |
4、体位変換時の注意点と観察項目
体位変換は単に体位を変えるだけでなく、体位変換の際には以下の点に注意し、患者の状態を観察していくことが大切です。
①循環
・血圧・脈拍数、不整脈、循環障害の兆候・症状の有無
②呼吸
・呼吸数、呼吸状態
③意識状態
・意識障害、頭蓋内圧の変化の有無
④身体的・精神的状態
・創部の状態、疼痛、苦痛の有無、睡眠状態、患者の表情、精神的ストレスの有無
⑤皮膚
・損傷・刺激・圧迫など皮膚トラブル、褥瘡の有無
⑥医療機器等
・ルートや呼吸器、ドレーン等の屈曲、閉塞の有無
まとめ
体位変換では「安全であること」「安楽であること」「安定性があること」が重要なポイントとなります。特に「安全であること」に関しては、患者だけでなく、施行者の安全確保も重要です。よく、体位変換で腰痛がひどくなったなどの話を耳にします。体位変換を実施する場合には、周りの環境が安全であることの確認を行うことはもちろんですが、施行者の身体的負担が少なく、効率的に体位変換を行うことができる体勢や位置、身体の使い方などを研究していく必要があります。ここに記載した基本的な方法をしっかりと押さえたうえで、患者にとっても看護する側にとっても安全で安心な体位変換を身につけていきましょう。
参考文献
褥瘡予防・管理ガイドライン(第4版)(褥瘡会誌17 487~557|日本褥瘡学会教育委員会ガイドライン改訂委員会|2015年)
東京都在住、正看護師。自身が幼少期にアトピー体質だったこともあり、看護学生の頃から皮膚科への就職を熱願。看護学校を経て、看護師国家資格取得後に都内の皮膚科クリニックへ就職。ネット上に間違った情報が散見することに疑問を感じ、現在は同クリニックで働きながら、正しい情報を広めるべく、ライターとしても活動している。
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