ERCP、ERBDの検査や合併症、適切な手技のための看護ケア・計画立案(2015/05/07)
医療技術の発達により、近年では内視鏡を用いた検査・治療が多くなっています。その中の1つにERCPが挙げられ、治療においては外科的手術よりも身体的侵襲が少ないため、高齢者にも用いることができ、さらに入院日数の短縮など、さまざまな利点があります。
その反面、ERCPをはじめとした内視鏡検査・治療は、偶発症(合併症)のリスクが高いということも覚えておかなければいけません。それゆえ、看護師は準備から検査・治療後まで、しっかりと患者さんの指導・観察を行う必要があります。
今回は、ERCPに関する概要や、観察、看護のポイントなど、包括的に説明していきますので、ERCPについて自信がないという方は、しっかりとお読みください。
目次
1、ERCPとは
ERCPは「Endoscopic Retrograde Cholangiopancreatography」の略称で、内視鏡を用いて胆管や膵管を造影する検査のことを言い、「内視鏡的逆行性胆管膵管造影」とも呼ばれています。
1960年代後期・1970年代前期に、ジョージ・ワシントン大学のウィリアム・S・マッキューン、癌研究会附属病院の高木國夫、東京女子医科大学の大井至によって、ERCPの施工法が報告され、その後に各大学や公的機関の研究によってERCPが確立。今日まで、膵臓疾患や胆道疾患の有効な検査・治療方法として用いられています。
1-1、ERCPが適応となる病気
ERCPは肝臓や胆道、膵臓の病気を調べるための検査であるため、主に「膵臓疾患」や「胆道疾患」の検査・治療に用いられます。また、胆汁と膵液の出口である乳頭部も調べることができるため「乳頭部疾患」も適応となります。
膵臓疾患 | 膵臓癌、嚢胞性疾患、慢性膵炎、膵管癒合不全、輪状膵 |
胆道疾患 | 胆管癌、胆嚢癌、胆道結石症、胆管狭窄、膵・胆管合流異常 |
乳頭部疾患 | 乳頭部癌、乳頭機能不全症 |
1-2、ERCPの検査手順
ERCPを行うためにはまず、円滑に遂行するために消泡薬の服用や麻酔の実施を行います。検査・治療中は医師が行うため、看護師の役割は患者さんのバイタルチェックや医師の補助がメインとなります。
事前準備:
●消泡薬の内服
(ERCPを円滑に行えるようにするため、胃内の泡を取り除きます。) ●咽頭麻酔の実施 (ゼリーやスプレーなどを用いて咽頭部に局所麻酔を実施します。) |
検査手順:
① 内視鏡(後方斜視鏡)を挿入する。
② カテーテルを乳頭開口部へ挿入する。 ③ 胆管・膵管造影を撮影する。 ④ 必要な検査と治療を行う。 ⑤ 内視鏡を抜去する。 |
1-3、ERCP・ERBDの関連手技
ERCP・ERBDを用いた検査・治療方法はさまざまあり、必要に応じて使い分けられます。以下に一般的な手技を紹介します。
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1-4、病気発見後の追加処置
ERCPは主に検査を目的として用いられますが、病気の発見、もしくは疑いがある場合には、より詳細を確認すべく、また、検査・治療を円滑に行うために、追加で「生検・細胞診」、「ドレナージ術」、「超音波検査」、「乳頭拡張術」、「乳頭切開術」などの処置が行われます。
■生検・細胞診
組織の一部や胆汁、膵液などを採取して、顕微鏡で観察します。胆汁や膵液の採取では、下記で説明するドレナージ術を併用して数日間連続で採取することがあります。
■ドレナージ術
胆管や膵管の狭くなった所に、チューブを通し、流れを良くする方法です。短いチューブを留置する方法と、一時的に鼻から体外にチューブを出す方法を、用途によって使い分けます。
■超音波検査
胆管や膵管の内部で超音波検査を行い、異常箇所がないかより詳しく調べます。
■乳頭拡張術
膵管や胆管の出口を風船(バルーン)を用いて拡張し、処置を行いやすくします。
■乳頭切開術
膵管や胆管の出口を切開し、処置を行いやすくします。
2、ERCPの偶発症(合併症)
ERCPは効果的な検査法ですが、偶発症のリスクが高いと言えます。検査・治療後に起こりやすいものの、検査・治療中においても様々な偶発症が起こる可能性があるため、注意深く観察しておかなければいけません。ERCPの偶発症は以下の通りです。
検査・治療中 | 穿孔、アナフィラキシーショック、バスケット嵌頓、蛋白分解酵素阻害薬の血管外濾出、出血(マロリーワイス症候群、EST後出血) |
検査・治療後 | 急性膵炎、急性胆管炎、消化管出血、消化管穿孔、肺炎、胆管炎、造影剤によるショック |
3、ERCPの看護計画(観察と実践)
ERCPは上述のように様々な合併症のリスクがあるため、“指導”と“観察”が非常に需要となります。リスクを最小限に抑えるため、飲食、喫煙、服薬を徹底的に禁止する指導を行い、敢行できているかしっかりと観察する必要があります。
また、アレルギーの有無や病歴など、細かい情報があればあるほどリスクが減ります。これらは医師より看護師の方が役割が大きいため、最後まで責任をもってしっかりと行っていきましょう。
3-1、検査・治療前
■ERCPに関する患者さんの理解度
ERCPの方法や合併症など詳しく患者さんに説明をする。
■絶飲食の説明・指導
検査前日の21時以降から検査まで。なお、ERCP終了から3時間後の採血時に飲水可を指示し、食事においては翌日の採血評価後。
■頸椎症や腰痛
術中において体位の確保が難しい場合には、検査中における患者さんの体位について相談しておくこと。
■薬剤アレルギーの有無
消泡薬、咽頭麻酔薬、鎮静薬などERCPに用いる薬剤のアレルギーの有無を確認する。
■既往歴
手術歴の確認。特に胃切除術の有無について確認すること。
■常服薬
常服薬と術中の用いられる薬剤との相互作用に留意すること。
■歯のぐらつき・義歯
内視鏡挿入に際する弊害になるため、事前に確認。義歯の場合は可能であれば除去。
■口腔内の清潔度
腔内が不潔だと検査・治療後の誤嚥性肺炎を発症する可能性があるため、清潔に保っておくこと。
■アルコール摂取量
アルコール摂取量の多い患者さnは、鎮静が得られないため、事前に絶飲し、検査・治療開始期間を延長すること。
■ペースメーカーの留置
高周波電流を用いる手技では、誤作動を起こす可能性があるため、必ず確認しておくこと。
3-2、検査・治療中
■既往歴の再確認
使用薬剤の中でも鎮痙薬(ブスコパン)は出血性大腸炎、緑内障、前立腺肥大、心疾患の症状を悪化させる可能性があるため、しっかり確認すること。
■呼吸状態
局所的麻酔の影響下にあるため、誤嚥のリスクを考慮。呼吸抑制など発症した場合には、拮抗薬の投与など速やかに対処を行うこと。
■バイタルサインの変動
苦痛による血圧の上昇、出血による血圧の下降などモニターより確認。
3-3、検査・治療後
■全身状態の確認
合併症やアレルギー症状など、異常がないか確認を行うこと。
■呼吸状態
内視鏡による口腔・咽頭部の損傷や、麻酔による呼吸の乱れなど、各種呼吸の状態を確認。
■バイタルサイン
血圧、脈拍、体温などに異常がないか確認すること。
■皮膚の損傷や疼痛
特に長時間検査・治療が行われた場合には、同一体位による皮膚の損傷や疼痛がないか確認すること。
■排便状況
治療部からの出血により、血便がみられることがあるため、患者さんに排便色の確認を指導すること。また、看護師は患者さんに便状を確認すること。
4、検査・治療後の注意点
ERCPの検査・治療が終了した後に、合併症が起こる可能性があるため、上述したように、バイタルチェックや呼吸の状態、疼痛など、さまざまなことを観察しておく必要があります。また、観察における注意点がいくつかありますので、以下にて紹介します。
■疼痛が発現した場合
疼痛の多くは長時間の検査・治療における同一体位により発現しますが、むやみに鎮痛剤を使用すると診断が遅れてしまうため、偶発性の兆候を見逃してしまう可能性があります。それゆえ、医師に報告することが先決。
■嘔気が見られる場合
そのままにしておくと舌根沈下や舌根沈下や誤嚥の可能性があります。嘔気が見られる場合には、ただちに患者を横向き(側臥位)に寝かせるようにしてください。
■筋性防御が見られる場合
検査・治療後、2~3時間ほどで筋性防御(腹壁の緊張)がみられる場合には、重症膵炎や穿孔を発症している可能性があります。絶食や抗菌薬の投与などで回復がみられることが多いですが、状況に応じて対処してください。
■出血が見られる場合
ESTを実施した場合、吐下血や、頻脈・血圧低下により、出血がみられる場合があります。これは、検査・治療後すぐのことではなく、約1週間くらいまでは出血の可能性があるため、注意深く観察しておきましょう。
■アミラーゼが上昇する場合
造影剤が膵菅に圧入されたことにより膵酵素が逸脱し、多くの場合、検査・治療後にアミラーゼが上昇しますが、基本的に問題はありません。しかし、急性膵炎の可能性があるため、腹痛など腹部症状が出現していないか、注意深く観察しておかなければいけません。
まとめ
ERCPは高齢者にも行うことができ、入院期間を短縮できるなど、さまざまなメリットがありますが、その反面、合併症のリスクという大きなデメリットが存在します。発症させることがないよう、患者さんにしっかりと説明・指導し、効率的かつ円滑に行えるよう観察しておく必要があります。
また、検査・治療後に起こり得る合併症を早期に発見することが大切です。出血や疼痛、呼吸状態など、さまざまな観点からしっかりと観察を行いましょう。
すぐに痛みを訴える人、我慢する人、隠す人など、人によって本当にさまざまです。それゆえ、“観察”がとても大切なのです。ERCPは合併症のリスクが高いだけに、少しでも異常がみられる場合には、すぐに対処し、最大限の努力をもって患者さんの安全に配慮していきましょう。
愛知県名古屋市在住、看護師歴5年。愛知県内の総合病院(消化器外科)で日勤常勤として勤務する傍ら、ライター・ブロガーとしても活動中。写真を撮ることが趣味で、その腕前からアマチュア写真家としても活躍している。
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