全身麻酔の合併症と術前・術後における観察項目・看護計画(2015/04/16)
患者にとって全身麻酔は、手術よりも怖いものです。また、医療技術の向上によりリスクは減っているものの、アセスメントや観察を怠れば容易に合併症を招いてしまいます。
患者のリスク・負担を最小限に抑えることが看護師の役割です。そのため、全身麻酔における概要や看護ケアの注意点など、しっかりと学んでいきましょう。
目次
1、全身麻酔とは?
全身麻酔は外科手術における痛みを取り除くための処置で、薬物や鍼などを神経に作用させて、一定時間、体全体を反射喪失の状態を作り出す方法のことを言います。
全身麻酔化における患者は、1、無意識、2、無痛、3、反射の抑制、4、筋弛緩、これらの4つが全て伴う状態にあるため、眠っている間に手術が終わります。それゆえ、医師側・患者側、両者にとって非常に有効な処置法なのです。
1-1、全身麻酔法の過程
全身麻酔法には、「①静脈麻酔法」と、気管内挿管法とマスク麻酔法からなる「②吸入麻酔法」があり、一般的には①→②の順番で使用されます。
まず、ディプリバンやラボナールなどの薬を静脈に流し込み、意識を無くします。その後、気管に管を入れイソフラルンやセボフルランなどの吸入麻酔薬を用い、意識消失をきたす状態を継続させます。この際、手術が円滑に行えるよう筋弛緩剤や全身麻酔用の鎮痛剤などを導入します。
麻酔科の医師によって過程が異なる場合がありますが、上記のように、静脈麻酔→吸入麻酔→筋弛緩剤など導入、の手順で行われます。
1-2、麻酔深度の段階
全身麻酔の進み方は、大脳→小脳→脊髄→延髄の順番で麻痺が起こり、その過程は4段階によって分けられています。
■第1期(無痛期)
静脈麻酔法や吸入麻酔法によって意識が失われ、体全体の痛覚が減弱する時期がこれにあたり、この段階ではまだ完全に痛覚が麻痺していません。
■第2期(興奮期)
上位の中枢から抑制性制御が麻痺することにより、患者は無意識に体を動かしたり、うわごとを呟いたりと、半ば見せかけの興奮状態化にある時期がこれにあたります。対光反射・嚥下反射などはまだ存在しています。
■第3期(外科的麻酔期)
この時期は、完全に麻酔が効いている状態であり、骨格筋の緊張がとれることで呼吸は睡眠時のように規則正しく深くなります。眼球は固定され、角膜反射も消失するため、この時期に入ると手術が行われます。ただし、メスを入れた際に呼吸数の増加、もしくは動脈圧の上昇が起こる場合には、麻酔が浅いと判断され、麻酔が完全に効くまで待機するか、麻酔薬の追加導入が行われます。
■第4期(中毒期)
麻酔薬の導入量が多すぎることで、呼吸が不規則になり、血圧の下降やチアノーゼの症状が現れます。呼吸麻痺をきたして死に至るケースもあります。
2、全身麻酔を受ける患者の看護計画
全身麻酔は患者に負荷がかかる施術です。また、全身麻酔ならびに手術において誰しもが不安を抱えているため、体調や精神状態、さらに合併症などにも考慮した看護計画が必要となります。
手術を円滑に進め、患者の負担を最小限に抑えるために看護師は大きな役割を担っています。最大限の努力をもって看護計画を立てていきましょう。
■看護目標
全身麻酔または手術における不安を軽減し、手術に向けての精神的準備ができている状態にすることが第一目標となります。患者の多くは精神的不安から体調に変化が現れるため、不安なく手術に向かうことができるよう不安解消ケアに取り組んできましょう。
■観察計画
後に詳しく述べますが、全身麻酔により合併症が起こることがよくあります。アセスメントや観察を怠れば容易に合併症を招いてしまいます。それゆえ、細やかな観察計画をもって実施していく必要があります。
■実施計画
アセスメントで得た情報をもとに、万全の体勢で手術(全身麻酔の実施)に臨めるよう、体調やストレスに対するケアをしていきます。特に呼吸器系の異常、貧血の有無、食事制限などに気をつけておかなければいけません。
3、各段階における全身麻酔の観察項目
全身麻酔をうける患者の観察は、術前、術中、術後、全てにおいて実施しなければいけません。中でも術前における観察は非常に重要であり、術中・術後の合併症の発現に大きく関わってくるため、しっかり観察しなければいけません。
3-1、術前の観察項目
医師が患者に対して全身麻酔の安全管理における質疑応答や検査が行われますが、不十分であることも多いため、看護師がしっかりと観察しておく必要があります。特に術前1週間は細心の注意を払って観察しましょう。
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3-2、術中の観察項目
術中においては、主に「呼吸器系」、「循環器系」、「体温」に影響がないか観察していきます。術中における観察は、看護師にとって大きな役割を担っているため、モニターだけでなく患者本人からも迅速に変化を察知できるよう、医師の援助とともに集中して観察する必要があります。
①気道の閉塞
舌根沈下、体位の異常、気道内の異物などが原因となります。呼吸に伴い異音を発し、呼吸パターンが不規則になる場合、軌道の閉塞が考えられます。マスク麻酔では下顎を前方に引き上げ、後頭を反屈させて気道を確保。異物による閉塞の場合は吸引を行います。
②呼吸の抑制
主に、麻酔薬・前投薬の過量による中枢性の抑制が原因で起こります。麻酔薬投与後、すぐみられるため、投与後は特に注意して観察する必要があります。
③声門(喉頭)の痙攣
声門の筋肉が痙攣し収縮することで気道を塞ぐことがあります。浅麻酔時の挿管操作・吸引・分泌物などの刺激や、迷走神経を介する反射が主な原因。チアノーゼや換気障害の症状が現れるため、呼吸バッグを用いて加圧呼吸や筋弛緩薬の投与をもって対処します。
④気管支の閉塞
慢性気管支炎・喘息・アレルギーを有する患者に起こりやすく、麻酔における刺激が原因となる場合もあります。酸素の欠乏、二酸化炭素の蓄積、特有の呼吸音が主な症状となり、加圧呼吸で処置します。
⑤血圧の低下
麻酔薬による迷走神経反射、心抑制、末梢血管拡張作用などにより、血圧が低下することがあります。また、麻酔深度や疼痛などにより血圧が上昇することもあります。この場合、酸素の需給バランスが崩れることで不整脈や心筋虚血が生じることがあるため、血圧にも注意が必要です。
⑥体温変化
麻酔作用、末梢血管の拡張、室内温度などにより、低体温になることがあり、麻酔覚醒の遅延や覚醒時のシバリングなど、術後に影響を及ぼします。また、脱水、感染、覆布によるうつ熱や過度の加温により、体温が上昇することもあります。悪性高熱症になれば死亡率が50%を超えるため、体温変化の観察も非常に重要です。
全身麻酔における弊害は主に「呼吸器系」、「血圧」、「体温」との関わりが深いため、全体を通して注意深い観察が不可欠です。
3-3、術後の観察項目
術後(覚醒後)の観察は主に、①呼吸状態、②循環動態、③意識・精神状態、の3項目から成ります。これらの3項目を注意深く観察し、異常がある場合に迅速に対処することが大切です。
①呼吸状態
全身麻酔に使われる薬剤により、術後に呼吸抑制が生じる可能性があります。呼吸抑制が生じても対処が早ければ大事には至らないため、呼吸が正常であるかよく観察しておきましょう。なお、術後すぐだけではなく継続的に観察する必要があります。
②循環動態
血圧や脈拍などが正常であるか観察します。血圧が下がっている場合には、手術による出血が主な原因となりますが、血圧が上がったり脈拍が正常でない場合には対処が必要です。特に不整脈になると心室細動に移行することが多いため注意が必要です。
③意識・精神状態
ごく稀に、麻酔薬を導入したことにより意識障害または精神障害が起こることがあります。慣れない環境下や負担によるストレス、脳の広範な領域での神経細胞死など、原因は多岐に渡りますが、万が一、術前と術後で意識や言語などに変化がみられる場合には、主治医に伝えてください。
4、小児における全身麻酔の注意点
小児麻酔において看護師にとっての最も大きな役割がご両親に対するアセスメントと指導です。子供は大人よりも呼吸や循環の安全性の蓄えが少ないため、麻酔薬における影響の変化が激しく、短時間に危険に陥りやすいのです。それゆえ、術前・術中・術後、全ての過程において細かい観察と対応が必要です。
■術前のアセスメント・指導
術中・術後における合併症を未然に防ぐために、「3-1、術前の観察項目」の事項を両親からしっかりと聞いておきましょう。また、風邪に関する聴取も大切です。その他、飲食制限など、準備における指導もしっかり行ってください。
■術中の不安解消
術中においては体調の変化や合併症に細心の注意を払ってください。また、子供の場合、麻酔薬の導入時に嫌がって暴れることがあるため、優しく声をかけ安心させてあげるのも看護師の大きな役割です。
■術後の観察
大人よりも麻酔薬による影響が大きく、短時間に危険に陥りやすいことから、違和感もしくは何かしらの異常がある場合には速やかに対処してください。また、体調管理だけでなく、心のケアも非常に重要です。
5、全身麻酔薬
全身麻酔を行う際に使用される薬剤は、「①吸入麻酔薬」と「②静脈麻酔薬」に分けられます。病院や担当医によって使用する薬剤が異なるため、代表的なものは網羅しておきましょう。
■吸入麻酔薬
イソフルラン
(フォーレン) |
エーテル臭が強く、気道に刺激を与えやすいため、緩徐導入は困難ですが、生体内における代謝率が低いため、主に肝機能・腎機能が低下した患者に用いられます。 |
セボフルラン
(セボフレン) |
現在、最も一般的に使用されているのがセボフルランです。緩徐導入が容易であり、様々な用途に用いることができ、副作用が極めて少ないことから、小児麻酔薬としても使用されています。 |
ハロタン
(フローセン) |
強い鎮痛作用は持っているものの麻酔作用は弱いため、単独では使われず、他の吸入麻酔薬と併用して用いられます。N2Oは温室効果の原因となるため、現在はあまり使用されていません。 |
N2O
(亜酸化窒素=笑気) |
強い鎮痛作用は持っているものの麻酔作用は弱いため、単独では使われず、他の吸入麻酔薬と併用して用いられます。N2Oは温室効果の原因となるため、現在はあまり使用されていません。 |
■静脈麻酔薬
チオペンタール
(ラボナール) |
これはバルビツール系静脈麻酔薬で、副作用が少ないため。小児にも使用が可能。脱臼の整復や妊娠中絶など、短時間の麻酔にも使用されています。 |
プロポフォール
(ディプリバン) |
現在、もっとも使用されている静脈麻酔薬がプロポフォールです。肝臓での代謝が早いため導入が容易であり、覚醒が早く、術後の悪心や嘔吐が少ないため、広く用いられています。 |
ミダゾラム
(ドルミカム) |
循環抑制が軽いため、重症患者の麻酔導入や前投薬として用いられています。 |
6、全身麻酔の合併症
全身麻酔薬に関連した合併症は多く、重篤になりやすいものがほとんどであるため、未然に防ぐために各合併症について知っておきましょう。
術後痴呆・せん妄 | 入院や手術など環境の変化に伴うストレスが原因で、主に高齢者”ボケ”の症状(不可解な言動、異常な興奮など)が見られる場合があります。しかしながら、一時的なものがほとんどなので過度な心配はいりません。 |
術後神経麻痺 | 術中における不自然な体位により、術後に手や足などに痺れが生じることがあります。 |
誤えん性肺炎 | 麻酔薬導入時に起こりやすい合併症で、吐物が気管から肺に入ることで起こります。 |
アレルギー反応 | 麻酔薬や点滴などに対してアレルギーを持っている患者は、術中ないし術後に蕁麻疹や喘息のような症状が現れることがあります。 |
悪性高熱症 | 麻酔薬に対して特異な反応を起こし、ごく稀に高熱によるショック状態に陥る方がいます。悪性高熱症は10万人の1人の割合で起こると報告されています。 |
肺塞栓症 | 下肢に血流が停滞することで、血管内の血液が固まり、肺に詰まることがあります。この場合、重篤なショック状態に陥るなど危険度の高い合併症です。健康な人と比べて、喫煙、肥満、高脂血症の人はより発症確率が高くなります。 |
7、全身麻酔の影響
全身麻酔による影響としては上で記した合併症が主ですが、そのほか薬剤の副作用や機器、体位などが原因で、術後に様々な症状が現れることがあります。
吐き気・嘔吐 | 麻酔薬の作用により、術後の吐き気や嘔吐を伴うことがあります。吐くこと自体は心配ありませんが、続くようであれば対処する必要があります。 |
頭痛 | 薬剤もしくは術中における体位などにより、覚醒後すぐに頭痛の症状が現れる場合があります。一過性ですので、安静にしていれば次第に緩和されていきます。 |
喉の痛み、声のかすれ | 気管内挿管法を実施した場合、喉の痛みを感じたり声がかすれたりする場合があります。基本的には数日のうちに治ります。 |
歯・唇の損傷 | 麻酔薬導入時に管によって歯・唇が損傷することがあります。予防するために、ぐらつく歯がないか術前にチェックしておきましょう。 |
寒気・発熱 | 麻酔薬の影響で体温の調節能力が低下し、寒気や発熱が起こることがあります。毛布などで体を温め、様子をみておきましょう。 |
まとめ
全身麻酔薬は一種の麻薬であることからリスクはつきもの。そのリスクを最小限に抑えることが看護師の役割です。患者にとってよりよい状況下で治療・リハビリができるよう、最大限の努力をもってケアしていきましょう。
jdepo
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