点滴の看護技術|静脈内注射(DIV)の看護観察項目と成人滴下数計算、小児滴下数計算(2017/04/24)
注射とは、経皮的に行う薬剤の投与方法です。消毒滅菌された注射針と注射器あるいは注射セットなどを用いて薬剤を皮内・皮下・筋肉内・血管内に注入し速やかに患部への薬剤効果を期待するものです。注射は患者さんにとって必要であるけれど苦痛を伴うものであることを私たち医療者は念頭に、正確かつ安全に施行していかなければなりません。
目次
1、点滴静脈内注射(DIV)とは
静脈内注射には1回のみの薬液注入と、持続注入(点滴静脈内注射)とがあります。点滴静脈内注射は大量の薬液を静脈内に持続的に注入する方法です。
末梢静脈→右心→肺循環→左心→体循環という経路をたどり全身に薬物が行き渡るのに要する時間は5〜10分と迅速です。薬効作用は早く薬物の投与方法では最も効果的ですが、生命に危険のある副作用を引き起こす可能性も高いので十分な注意が必要です。
1−2、静脈内注射の目的
患者さんの状態により輸液速度を調節します。通常1分間60滴位の緩徐な輸液が長時間行われますが、出血やショックのある患者さんに対しては急速輸液が行われます。
①解質の補正や血中濃度の以上を速やかに正常化しなければならない時
②脱水時の補液
③出血時の補液
④栄養補給
⑤治療薬剤の持続投与など
2、点滴静脈内注射の実施
2−1、準備
手洗いを行い、注射指示書に基づき患者氏名、薬剤・薬液、時間を確認しながら輸液の準備をしていきます。持続点滴なのか、終了後に抜針なのか、持続であれば1日何本投与するのか、投与量も確認しましょう。
①5Rをもとに看護師同士ダブルチェックを行いながらミキシングや薬剤の溶解を行う。
②必要物品を用意する。
・注射針:主に18G〜24Gの留置針または21〜23Gの翼状針。(輸血や血液製剤の注入を行う場合はなるべく太い留置針が望ましい。)
・駆血帯
・固定用のテープ
・点滴スタンド
・輸液セット
・アルコール綿
・針捨てボックス
・必要に応じて延長チューブなど
③輸液セットを開け、点滴チューブの針をゴム栓に垂直に刺す。
④点滴ボトルを逆さにして点滴筒の1/2〜1/3程薬剤を貯めてから輸液セット全体に薬剤を満たす。(翼状針を使用して1回のみの静脈内注射を行う場合は、針先端まで薬剤を満たしておく。)
2−2、ルート確保と輸液投与の実施
①ベッドサイドへ行き、患者氏名、薬剤、時間を再度確認し点滴を行なう旨を説明します。
②注射部位より中枢側に駆血帯をしめ、静脈の浮き出るのを待って、穿刺しやすい静脈を決めアルコール綿で消毒します。
□主に注射針は18〜23Gを用いますが、細い静脈には24Gを選択するなど患者の血管の状態によって使い分けましょう。
③注射針の切り口を上方に向け、静脈を伸展するように皮膚を軽く押さえ、皮膚面に対して15°〜20°位の角度で皮膚を穿刺、次いで静脈を穿刺します。静脈内に入ると血液の逆流が確認できます。(針が静脈内に入る時、針先の抵抗の減弱を感じられます。)
④駆血帯を緩め留置カテーテルを進めながら穿刺針を抜きます。
⑤点滴をつなげてゆっくり開始し、穿刺部の腫れ・疼痛の有無を確認します。
⑥留置カテーテルと点滴チューブの接続を確認し固定用テープでしっかり固定します。(固定方法は各施設のマニュアルに従って行いましょう。)
⑦注入速度を調節し、しばらく患者の一般状態を観察します。
引用元:株式会社京都科学
MEDICATION ADMINISTRATION
引用元:Pinterest • The world’s catalog of ideas
3、点滴静脈内注射時の観察
点滴中の患者さんの観察は、点滴スタンド→点滴ボトル→点滴ライン→患者さんの順に指差し確認を行い、患者さん自身の状態や点滴刺入部まできちんと確認することが大切です。
3−1、点滴中の観察:OP
①バイタルサイン
②意識レベルの変化の有無・程度
③発汗などの皮膚状態の変化
④刺入部及びその周辺の皮膚状態
⑤点滴の残量、滴下速度の確認(輸液ポンプを使用している場合は、流量は正しいか、積算量・予定量の確認をしておきましょう。)
⑥IN-OUTバランスのチェック
⑦点滴に対する不安や苦痛の有無
⑧安楽な体位が取れているか
⑨点滴ラインの屈曲やねじれ、接続部の緩み・漏れの有無
⑩固定テープが剥がれてきていないかの確認
⑪ナースコールや点滴スタンドの位置は適切か
*点滴終了後に抜針する患者さんで、翼状針を使用する患者さんに関しては、点滴終了までベッドから動けなくなりますので、点滴前にトイレを済ませていただく等の配慮が必要です。
4、点滴の滴下数の計算方法
輸液セットには成人用・小児用ルートの2種類あります。滴下数は1mlの輸液を落とすのに何滴必要かを示すものです。計算式を理解して正しい計算ができるようにしておきましょう。
4−1、成人輸液ライン(1ml≒20滴/ml)
1分間あたりの滴下数=(指示輸液総量)÷(指示輸液時間)×20(輸液セット1mlあたりの滴下数)
輸液の指示は時間(hr)で指示が出されていることが多いので、単位を分に直してから計算します。
例えば、「2時間かけて」という指示であれば60×2=120分、「24時間で」という指示であれば、60×24=1440分となります。
これらを理解した上で実際に計算してみると・・・
「500mlの点滴を12時間かけて輸液」
1分あたりの滴下数=500ml÷(12時間×60分)×20滴
=500ml÷720分×20滴
≒13〜14滴/分
となります。
4−2、小児輸液ライン(1ml≒60滴)
小児輸液ラインにおける計算式も成人と同じです。輸液セットの1mlあたりの滴下数が成人と違い60滴になりますので、この部分の数字を変えて計算します。
「500mlの点滴を24時間かけて輸液」
1分あたりの滴下数=500ml÷(24時間×60分)
=500ml÷1440分×60滴
≒20滴/分
4−3、10秒あたりの滴下数の計算
実際に滴下数を調節するにあたっては、5秒もしくは10秒で何滴落とすかを計算した方が管理しやすいですね。1分間の滴下数を6で割ると、およその10秒あたりの滴下数が計算できますが、ここでは10秒あたりの滴下数の計算式もご紹介ししておきます。
■計算方法
①1時間に投与する量を計算します。(総輸液量÷輸液時間)
②成人用ルートの場合は「18」で割ります。
「500mlの点滴を12時間かけて輸液する」
10秒あたりの滴下数=500ml÷12時間÷18
≒2滴
③小児用ルートの場合は「6」で割ります。
「500mlの点滴を24時間かけて輸液する」
10秒あたりの滴下数=500ml÷24時間÷6
≒3滴
※小児の輸液においては、輸液ポンプを使用することが多いと思いますが、輸液速度が遅い場合にはポンプを使用することで逆流、ルートの詰まり防止ができると同時に正確な輸液が行えるというメリットがあります。状況に合わせて自然滴下か輸液ポンプを選択するようにすると良いでしょう。
5、静脈内点滴の合併症
点滴静脈内注射は、救命救急や栄養補給などに対して速やかかつ確実に薬剤の組織移行が行われるため大変効果的な治療法となります。しかし、薬剤の性質や種類によっては様々な副作用が出現する可能性があるため合併症が起こった時にすぐ対応できる看護技術を身につけておく必要があります。ここでは血管外漏出と静脈炎の対応について見ていきます。
5−1、静脈炎・血管外漏出とは
静脈炎とは、静脈壁内膜の炎症です。点滴の刺入部より上部の血管に沿って発赤や疼痛が出現します。これに対し、輸液が血管内に注入されず血管外(多くは皮下組織)に漏れることを血管外漏出と言います。医療現場ではよく「点滴が漏れた」と言いますね。血管外漏出の症状は静脈炎の症状と似ており、早期に気づくことで患者さんへの苦痛軽減や症状悪化の防止になります。
5−2、静脈炎・血管外漏出の症状と観察ポイント
①血管外漏出が起こると、点滴刺入部やその周辺に次のような症状を認めます。
・疼痛
・発赤
・腫脹
・硬結
・点滴の落ちが悪い
・逆血がない
漏出初期には注射部位及びその周辺の発赤や疼痛、腫脹が見られ、薬剤によっては数時間から数日後に炎症が進行、水疱形成や硬結・潰瘍・壊死に至ることもあります。
②静脈炎においては、血管壁の肥厚や血管収縮による血流低下を認め血栓が起こりやすくなって点滴の詰まりや血管外漏出の原因になります。
③静脈内に留置された針は、しっかり固定されていれば挿入部位の四肢を動かしても簡単に抜けることや点滴が漏れてしまうことはほとんどありませんが、血管がもろい、あるいは細いような時には漏れに対する注意が必要です。
④輸液ポンプを使用している場合には、刺入している血管が破れても、しばらくの間はアラームがなることなく薬液を押し続けるので皮下に貯留する薬液の量は自然滴下の場合より多くなってしまいます。このため、点滴部位の観察はとても重要です。
5−3、血管外漏出した時の対処
血管外に点滴が漏れてしまった時には速やかに対処し皮膚状態の悪化を最小限に抑える必要があります。
①直ちに輸液を中止して抜針する
②必要があれば患部の冷湿布の貼用・患肢の挙上をする
③薬剤や皮膚障害の程度により必要な処置が異なるため医師に報告、指示を仰ぐ
④患部の皮膚状態の観察・処置を継続して行う
⑤再度留置針を挿入しなければならない時は反対の手にするなど同一部位や同じ血管は避ける
引用元:BD
まとめ
点滴静脈内注射を行う患者さんは長時間同じ体位を取ることを強いられるので、そのための配慮や点滴部位の観察がとりわけ重要になります。点滴の実施中は、輸液ルートを上から下まできちんと見ること、機械任せにせず自分の目で確かめることが大切です。持続点滴をしている患者さんに対しては、定期的に1日に何度かチェックを行う習慣をつけることで正確な輸液投与や皮膚トラブルの防止をしていきましょう。また、点滴が漏れてしまった時に早期に対処できる技術や知識を身につけておくことも重要です。
参考文献
血管外漏出とは – キッセイ薬品工業株式会社(2016年6月改訂)
国立がん研究センター がん情報サービス(2006年10月01日掲載)
東京都在住、正看護師。自身が幼少期にアトピー体質だったこともあり、看護学生の頃から皮膚科への就職を熱願。看護学校を経て、看護師国家資格取得後に都内の皮膚科クリニックへ就職。ネット上に間違った情報が散見することに疑問を感じ、現在は同クリニックで働きながら、正しい情報を広めるべく、ライターとしても活動している。
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