術後イレウス(腸閉塞)の看護|早期診断のための観察と発症患者への看護ケア(2016/12/22)
腸管内容物の貯留によって発症するイレウス。発現症状は、腹痛や嘔吐といった一般的なものであるため、早期に特定することは難しく、重症化してから発見されるケースは珍しくありません。
また、術後早期に起こるイレウス(癒着起因が大半)は、保存的治療によって多くが軽快するものの、処置が適切になされないと患者の負担増・QOL低下はもちろん、重症化することも多々ありますので、綿密な観察に加え適切な看護ケアが必要不可欠です。
今回はイレウス、特に術後イレウスにスポットライトを当て、その概要や機序、症状、原因のほか、看護師が行うべき適切な看護ケアについて詳しくご説明します。
目次
1、イレウス(腸閉塞)とは
イレウスとは、何らかの原因によって小腸や大腸など腸管の内容物が肛門側へ流れなくなり、腸管内に貯留し続けてしまう病態(腸閉塞)のことを指します。腸管に内容物が貯留し続けると、腸管壁の壊死や穿孔を引き起こし、死に至るケースもあるために、イレウスが疑われる場合には早急に検査・治療を行う必要があります。
しかしながら、イレウスは外観的に判断できるものではなく、また主な症状が腹部膨張感や腹痛、嘔気・嘔吐など、一般的に頻度の高いものであることから、初期段階での発見が困難なのが実情です。
ただし、胃や腸の術後早期に発症する術後イレウスにおいては、患者が看護師など医療従事者の管理下にありますので、早期発見は比較的容易と言えます。そのためには、患者の入念な観察が必要不可欠となりますので、頻回な訪室により関連症状の有無を適切に観察し、イレウスが疑われる場合はもちろん、軽度症状でもイレウスを含む合併症の発症を考慮し、画像診断の実施などの迅速な対応が求められます。
2、イレウス(腸閉塞)の分類
イレウスは大きく分けて、腸管管腔の狭窄・閉塞に伴う通過障害「機械的イレウス」、腸管蠕動の低下・消失に伴う通過障害「機能的イレウス」の2つに分類されます。また、機械的イレウスにおいて、血流障害が伴えば「絞扼性イレウス」となります。
機械的イレウス
(狭窄・閉塞) |
管外性 | 術後癒着、捻転、索状物、ヘルニア |
腸管壁由来 | 炎症、腫瘍、腸重積 | |
管内性 | 異物誤嚥、胆石 | |
機能的イレウス
(蠕動の低下・消失) |
神経性 | 開腹術後、脊髄病変 |
血管性 | SMV閉塞、SMA閉塞 | |
麻痺性 | 麻薬(麻酔)、向精神薬 | |
腹膜炎 | 虫垂炎、膵炎、憩室炎 |
イレウスの3大原因は「術後癒着」「ヘルニア」「大腸がん(上表/腫瘍)」であり、およそ90%(術後癒着が最高率)が機械的イレウスで占めています。
過去の統計における術後イレウスの発症頻度は、胃手術後で約1~35%、結腸直腸手術後で約3~13%1~3)とまちまちであり、大規模な統計はありませんが、総じて発症頻度は低くなく、軽視できない合併症です。
3、術後イレウスの発症頻度
術後に発症するイレウスには、上述の分類にあるように癒着や手技に伴うもの、麻薬(麻酔薬)の影響による腸管蠕動の抑制など、実にさまざまな原因が考えられます。中でも発症頻度が高いのが癒着であり、イレウスのうちのおよそ80~90%4~5)が癒着によるものとのデータがあります。(文献によっては半数以上としているものもある)
また、日消外会誌(1976年)によると、開腹に伴う術後癒着性イレウスの発症頻度は、3,115症例中129例6)(4.14%)と高頻度で発症しています。いずれのデータも古いものではありますが、医療技術の進歩が著しい今日においても、その発症頻度に大きな変化はみられません。
4、癒着性イレウスの発生機序
開腹手術によって腸管や腸膜の漿膜(しょうまく)が損傷されると、線維素が析出します。通常、損傷した漿膜は他の漿膜面または大網に接触しなければ損傷する前の正常な漿膜に修復されますが、他の漿膜面または大網に接触すると、これらの面に膠着(繊維素性癒合)が起こります。
そしてこの膠着が可逆的な場合には繊維素性が吸収され、また中皮細胞が新出し、損傷・剥離した漿膜の治癒が行われますが、繊維素の吸収が十分でないと膠着が不可逆的なものとなり、線維芽細胞が出現し、漿膜面における線維織化が発生します。こういった経緯を経て、他の漿膜または大網との間に繊維素性癒着が発生すると考えられています。
つまり、癒着性イレウスは開腹手術操作に伴う腸管や腸膜の漿膜(しょうまく)の損傷が原因であり、腸管漿膜の修復と癒着における一種の生体反応とも捉えることができます。
なお、腸管と癒着する部位としては、大網のほかにも腸管(腸管同士)、腹壁腹膜、後腹膜などがあります。この癒着は開腹手術を行った多くの患者にみられるものですが、必ずしも「癒着=癒着性イレウス」ないし「癒着=イレウス」ではありません。
5、術後イレウスの症状・診断
基本的に術後イレウスのみならず、イレウス全体を通してその発症を外観的に特定することはできません。また、癒着性イレウスにおいてはその癒着の状態を画像診断などで確認するのは困難であるため、多くの場合は腸雑音の亢進、腸管におけるガス・便の貯留、腸管の拡張状態などをみて鑑別を行います。
■イレウスの症状
腹部膨張感 | 場合によっては膨隆がみられる |
腹痛(圧痛) | キリキリとした痛み(激痛)、疝痛発作もみられる |
嘔気・嘔吐 | 初期では透明~白色の胃液・腸液、進行すると内容物の逆流がみられる |
排便・排ガスの減少 | 胃内容物の貯留が原因であり、嘔吐物に便臭を伴うことがある |
これらの症状を踏まえた上で、「腹部単純X線写真」「超音波検査」「造影CT検査」などにより診断を行います。
■イレウスの診断
腹部単純X線検査 | 一般的には、まずX線(立位優先、不可の場合は側臥位)にて診断を行う。二ボー像の検索を第一とする。 |
超音波検査 | 腸管拡張を指摘することで鑑別が可能な場合には、超音波検査での診断を行う。また、X線にて二ボー像が不明瞭な場合に適応となる。 |
単純・造影CT検査 | 血流障害が伴う絞扼性イレウスが疑われる場合に、CTを積極的に実施する。 |
≪絞扼性イレウスを示唆するCT所見≫
1. 腸管の造影効果の減弱・欠如、造影効果の異常な持続
2. 単純CTで腸管壁のdensity上昇:腸管壁内への出血 3. 腸管壁内ガスや門脈内ガス 4. 大量腹水:混濁腹水、血性腹水(絞扼性イレウスのおよそ90%が腹水を認める) 5. 腸間膜血管の異常走行・びまん性拡張、腸間膜脂肪浸潤像 |
文献7より引用、一部改変
6、術後イレウスの治療
一般的に術後早期に起こるイレウスに対しては、イレウス管の挿入や輸液による「保存的治療」、癒着による術後イレウスに対しては「保存的治療」ないし「高気圧酸素治療」が行われます。
CTなどにより血流障害が認められた場合(絞扼性イレウス)、腸管の壊死・穿孔、腹膜炎、バクテリアル・トランスロケーションによる敗血症など、重大な合併症を引き起こす危険があるため、緊急に「外科的治療」を行う必要があります。
■保存的治療
保存的治療では主に、イレウス管の挿入・吸引による内容物の排出や減圧、輸液による水・電解質の補正を行います。医療機関によって異なりますが、イレウス管挿入の目安として、術後癒着性イレウスではCT像上において腸管が直径3cm拡張している場合に、バクテリアル・トランスロケーションの防止や腸管浮腫の抑制などの観点から、入院後24時間以内(発症後もある)に行います。
術後早期に起こるイレウスの多くは軽症であり、保存的治療により改善されますが、保存的治療でも改善されない場合、およそ1週間を目途に手術療法に切り替えます。
■高気圧酸素治療
術後癒着性イレウスに対して、高気圧酸素療法を行う医療機関もあります。高気圧酸素療法は低侵襲であり、高齢者にも小児にも施行でき、また有効であるという実績がこれまでに数多く報告されています。
ただし、①嘔吐を繰り返す患者、②癒着・屈曲・狭窄が高度の患者、③耳抜きができない患者、④認知症の患者、などに対しては行うことができません。
■外科的治療
術後癒着性イレウスに対しては、原因である癒着を外科的に剥離します。剥離が困難な場合、または腸管壁の損傷が激しい場合には、腸管の切除・吻合を行います。
絞扼性イレウスに対しては、捩れの解除ならびにヒモ状組織の切除を行います。ただし、壊死が進んでいる場合には該当部位を切除の後、吻合を行います。
7、術後イレウスの観察項目
術後のイレウスを早期発見するためには、患者の全身状態や発現症状などをアセスメントすることが重要となります。
全身状態 | バイタルサイン(発熱、血圧低下など) |
発現症状 | 腹部膨張感、腹痛(圧痛)、嘔気・嘔吐、排便・排ガスの減少 |
既往歴・手術歴 | 基礎疾患の有無、術式(開腹か否か)・使用麻酔薬 |
なお、術後イレウスの大半を占める癒着性イレウスにおいては「腸雑音(腸蠕動音)の亢進」を認めることが多々あります。最終的には画像診断などによって鑑別を行いますが、腸雑音は周囲に聞こえるほどに大きな音になることもありますので、検査を行う一つの目安になりえます。
8、術後イレウスに対する看護
術後イレウスにおける看護では、「早期発見・早期対応」「絶飲食の指導」「輸液・IVHの管理」「イレウス管の管理」「軽快後・退院後の予防指導」を主体として実施しています。
このうちの直接的な看護ケアは、「絶飲食の指導」「輸液・IVHの管理」「イレウス管の管理」の3つになりますが、1つでも疎かにすると、治癒・離床の遅延を招くばかりか、患者の負担が増加し、さらに場合によっては重症化することもありますので、綿密なケアが必要不可欠です。
8-1、早期発見・早期対応
術後早期に起こりうるイレウスとしては、癒着に伴うもの(癒着性イレウス)、麻酔薬によるもの(麻痺性イレウス)が大半を占めます。手術に伴う癒着は創傷治癒の一つであるために必ず起こるものですが、通常は自然に軽快していきます。
また、術後早期の多くは保存的治療で改善されますが、場合によっては急速に症状が増悪し、重篤化するケースもあります。さらに、腹部膨張感や腹痛(圧痛)、嘔気・嘔吐、排便・排ガスの減少などの症状は、イレウスに限らず術後の一般的な副作用としても起こるため、イレウスの発見が遅れることがしばしばあります。
患者の苦痛軽減のため、また重篤化の防止、早期離床の推進のために、早急に検査を実施し早期治療が行えるよう、患者の全身状態や発現症状をしっかりと観察してください。
8-2、絶飲食の指導
胃や腸など消化管の術後まもなくは絶飲食が原則ですが、イレウスの場合は腸管に内容物が停滞し続けるために、軽快するまで経口的に飲食するのは厳禁となります。半日や1日程度であれば基本問題はありませんが、絶飲食の状態が2・3日以上続くと、飲食への欲求が強くなっていき、隠れて飲食する方もいらっしゃいます。
そうなると治癒までの期間が延長され、場合によっては増悪することもありますので、指示があるまで絶飲食を厳守する旨、さらには飲食による影響などについて、しっかりと説明・指導するようにしてください。
8-3、輸液・IVHの管理
腸管内に大量の腸液が貯留(血管内の水分が逃げだす)すること、また嘔吐により脱水状態に陥るため、輸液にて水分と電解質の補正を行います。また、IVHによる栄養管理を行う場合もあります。
特にIVHにおいては、カテーテルの位置異常や断裂、感染などのリスクがあり、加えて栄養面においても厳密な管理が必要となるため、観察を怠らないようにしてください。
⇒中心静脈による栄養投与「IVH・CV・TPN」の管理と観察
8-4、イレウス管の管理
腸管内の減圧を目的として、症状発現時にイレウス管を挿入します。また、癒着などによる術後まもなくのイレウス発症が懸念される場合には、事前に挿入することもあります。
イレウス管は24時間留置するために、身体的・精神的苦痛や活動制限などにより、患者による自己抜去の危険性があり、またカテーテルの位置異常や閉塞・屈曲が起こることもあります。そのため、これらに関する徹底的な管理が必要不可欠です。
■カテーテル異常と排液量
排液量は患者により大きく異なることもありますが、一般的には500ml以上(挿入初日)排出されます。カテーテルの位置異常や閉塞・屈曲が起こると、排液量が大きく減少し(例:200ml以下/日)、見た目にも容易に判断がつきますので、排液量が急減した場合にはカテーテルの異常を第一に疑い、しっかりと確認しましょう。
なお、排液量は日に日に減少していきますが、挿入3日目の排液量が500ml以上の場合には、イレウス管による保存的治療の継続効果は少ない(手術を考慮すべき)という報告8)があります。
8-5、軽快後・退院後の予防指導
術後イレウスは、術後3日~7日以内に起こる場合(癒着自体は術中~術後まもなく)や、1か月以内ないし1年以上経過して起こる場合もあります。癒着イレウスに関しては、癒着は一度できるとそのままの状態が継続されるため、退院後に発症し再来院となるケースも少なくありません。
現状、イレウスの完全な予防法はありませんが、胃や腸の蠕動運動を促進させること、負担をかけないことで、ある程度は予防することができますので、①便秘をしないよう心がける(便秘時に薬の使用など)、②適度に運動する、③正しい食生活を心がける(過食しない)、④アルコールを控える(少量は可)、などについてしっかりと指導してください。
まとめ
術後のイレウスは発症率が高く、また多くは保存的治療で軽快していくために軽視しがちですが、時には急速に増悪することもありますので、重い合併症と捉え、できるかぎりの最善の看護ケアを実施していってください。
また、術後イレウスは入院中だけでなく、退院後にも起こりうるものです。入院中だけ看護してればよいという考えではなく、退院後の発症予防のために、また安楽な生活のためにしっかりと指導し、包括的な看護を提供していきましょう。
参考文献
1)松村 長生,松崎 孝世,西島 早見,他:癒着性イレウスの統計的観察本邦40外科施設における7641例のイレウス統計より,日臨外医会誌,32,53-62,1971.
2)森山 雄吉,恩田 昌彦,吉葉 昌彦,他:臨床統計よりみたわが国のイレウス,外科,49(12),1389-1398,1987.
3)沢田 寿仁,早川 健,堤 謙二,他:大腸癌術後合併症としての早期イレウスについて,日本大腸肛門病会誌,49,347-354,1996.
4)Perry,J.F.,Jr.,Smith,GA.andYenehiro,E.R.:Intestinal obstruction caused by adhesion.Ann.Surg.,142;810,1955.
5)矢野 博道,他:二急性腸閉塞症の臨床的観察.外科治療,27,1,1972.
6)粕川 剛義,鎌田 重康,尾作 忠彦,小野田 肇:下部消化管術後癒着性イレウス―その予防策と成績について, 日消外会誌9(6):902~908,1976年.
7)腹部急性疾患の画像診断 イレウスのCT診断の進め方 日本赤十字社 高松赤十字病院
8)榊原 巧,原田 明生,石川 忠,他:癒着性イレウスに対するイレウス管管理の重要性と手術時期の検討, 日消外会誌38(9):1414~1419,2005年.
愛知県名古屋市在住、看護師歴5年。愛知県内の総合病院(消化器外科)で日勤常勤として勤務する傍ら、ライター・ブロガーとしても活動中。写真を撮ることが趣味で、その腕前からアマチュア写真家としても活躍している。
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