【2024年最新】急性・慢性膵炎の看護|看護計画や看護のポイント(2016/10/28)
症状のレベルなどによって、軽症から死亡の可能性も濃厚になるなど、幅広い病態をもつ膵炎。それぞれの症状の進行を食い止め、患者の回復のための適切な看護計画を実行するために、膵炎とは何かを改めて振り返ります。
目次
1、膵炎とは
膵炎とは、何らかの要因により膵臓が炎症を起こした状態の総称を指します。症状としての代表的なものは嘔吐や下痢などの消化器症状や上腹部から左背部への痛みなどが主にあげられています。
この膵炎に対する看護処置ですが、まずは膵炎が臨床の発症状態において、急性膵炎と慢性膵炎によって大きく分けられる事を知っておくことが重要です。
いずれの状態かによって看護計画が全く異なる事を事前知識として認識しておく必要があります。
1-1、急性膵炎とは
急性膵炎とは、非活性型で分泌されていた膵消化酵素が何らかの要因で活性化され、膵臓自体を消化するという自己消化の症状が本態です。
悪心や嘔吐と共に激しい腹痛が特徴となっており、特に上腹部の激痛で発症します。その後に心窩部または左季肋部に持続痛がおこり、背部、左肩にかけて痛みは放散していきます。
圧痛も心窩部および左季肋部にあって、病変が進行すると腹部全体に広がっていきます。これら全ての症状に伴う痛みは激痛であるということが急性膵炎の大きな特徴です。
比較的予後の良い疾患ではありますが、重症になると多くの重要臓器が障害され、多臓器不全を呈します。また、全身病に進行すると死亡率が極めて高くなります。
1-2、慢性膵炎とは
慢性膵炎とは、膵実質の破壊と脱落がゆるやかなペースで進行し、その結果として生じた不規則な間質結合組織の増生が基本的な病変です。
病変の範囲としては広範なものから限局している場合などもあり、病態も症状も多彩なのが特徴と言えます。
要因となるものは一般的にアルコール性と非アルコール性、もしくは膵石の有無で石灰性、非石灰性のそれぞれに大別され、病期は代償期と非代償期に分けられます。検査、診断、治療方針は病期によってもそれぞれ違います
代償期の症状は腹痛の発症からスタートし、痛みが長時間にわたって起こります。疼痛は間欠的もしくは慢性的で、上腹部、心窩部、左季肋部に起こった後に背部に放散されます。
痛みの種類としては刺し込むような痛みとされており、鈍痛から激痛まで程度はさまざまです。また、嘔気や嘔吐、食欲不全も症状に含まれます。
非代償期の症状は代償期とは異なります。膵酵素が減少して消化器吸収障害が起こり、消化不良、下痢、脂肪便が出現します。膵内部の分泌機能が障害されることによって、糖代謝にも異常がみられるようになります。食欲不振や消化不良のほかに、治療に伴った長期にわたる食事制限などによる体重減少もみられます。
2、膵炎の治療方法
2-1、急性膵炎の治療
急性膵炎の治療は絶飲食・安静と大量輸液が基本になります。
膵炎ではなぜ絶飲食で安静にするのか?その理由は、膵炎の安静を保つためです。
膵炎が起こることで血管透過性が亢進して循環血液量が減少しますので、大量輸液をして循環血液量を保つようにします。
症状に応じて、循環や呼吸機能を維持する治療も並行して行います。
さらに、急性膵炎では上腹部や背部の激痛が起こりますので、鎮痛薬や蛋白分解酵素阻害薬、麻薬を用いての鎮痛・除痛も行われます。
2-2、慢性膵炎の治療
慢性膵炎では疼痛コントロールと食事療法・生活習慣の改善などがあります。
また、場合によっては内視鏡治療や体外衝撃波結石破砕術、手術を行うこともあります。
3、患者との信頼関係によって導き出される膵炎の看護計画
膵炎の症状における観察ポイントは、症状の発症した状況や経過時間、痛みの種類です。急性か慢性かを切り分ることが、今後の治療に大きな影響を及ぼすためです。そのためには患者から適切なヒアリングを行う必要があります。
また、膵炎はアルコールから遺伝性のものまで様々な起因が考えられます。起因の判別や退院後も再発を防止するために普段の生活習慣についてもヒアリングすることも看護の過程として必要なポイントになってきます。
3-1、急性膵炎と診断された場合の看護計画
急性膵炎は、急性腹症の代表的な疾患の一つです。激痛と共に急速に発症してくるため、看護や処置も早急な対応が求められます。
できるだけ早急に成因を含めて病態を正確に把握した診断ができるかと、重症度のレベルを判定した看護を行うことが急務となってきます。
症状によっては疼痛緩和のほか、絶対安静や絶飲絶食の対応が必要になる場合もあります。また、急性炎症を繰り返することにより慢性膵炎に移行しやすいのも特徴です。
急性炎症の症状が消失したあとの体調管理や、退院後の経過観察も含めた適切な看護援助が必要になります。
■強い疼痛がある
急性膵炎では激痛が生じますので、疼痛コントロールをする必要があります。除痛のために、蛋白分解酵素阻害薬を用いることがありますが、蛋白分解酵素阻害薬は血管から漏れると、静脈炎や潰瘍・壊死を起こしますので、刺入部の皮膚の確認が必要です。
看護目標 | 疼痛の軽減ができる |
OP(観察項目) | ・バイタルサイン ・検査データ ・疼痛の程度・部位 ・表情や言動 ・鎮痛薬の効果 ・睡眠状況 ・点滴刺入部の皮膚の確認 |
TP(ケア項目) | ・指示された薬剤の適切な投与 ・安楽な体位を取らせる ・気分転換を促す ・環境整備 ・受容的な態度で接する |
EP(教育項目) | ・疼痛は我慢せずに伝えてもらうようにする |
■膵炎に対し強い不安がある
急性膵炎は急激に発症し、激痛が生じます。絶飲食となり、大量の点滴、さらに場合によっては人工呼吸器やCHDFなどを装着することもあり、患者さんとその家族は状況・状態を良く理解できないまま、治療が始まり、強い混乱・不安の中で治療を進めていくことになります。
強い混乱・不安があると、治療をスムーズに進められないことがありますので、看護師は患者・家族の不安を取り除くケアをする必要があります。
看護目標 | 不安を表出でき、積極的に治療に参加できる |
OP(観察項目) | ・バイタルサイン ・検査データ ・患者や家族の言動や表情 ・睡眠状況 ・医師の説明を受けている時の様子 ・キーパーソンと患者の関係性 |
TP(ケア項目) | ・こまめに声掛けをする ・必要であれば、医師の説明の補足をする ・必要であれば、医師に再度説明をするように促す ・不安の傾聴をする ・受容的な態度で接する |
EP(教育項目) | ・不安や疑問があればいつでも声をかけるように伝える |
■循環血液量減少によりショックを起こす可能性がある
急性膵炎は血管透過性が亢進することで、循環血液量が減少してショックを起こすリスクがあります。
看護師は異常の早期発見に努めなければいけません。
看護目標 | 異常の早期発見ができる |
OP(観察項目) | ・バイタルサイン ・検査データ ・意識レベル ・尿量、水分出納 |
TP(ケア項目) | ・指示された薬剤の適切な投与 ・ナースコールを手元に置く ・救急カートを用意しておく |
EP(教育項目) | ・自覚症状等で変化があれば伝えてもらう |
膵炎は尿量をなぜ観察するのでしょうか?これは、循環血液量の指標になるからです。血管透過性が亢進することで、循環血液量が減少すると尿量も減少します。尿量を経時的に観察し、血管内脱水が起こっていないかを確認することで、異常の早期発見につながります。
3-2、慢性膵炎と診断された場合の看護計画
慢性膵炎の病変は不可逆です。再発を防ぐために、薬物療法のほかに禁酒や食事療法、規則正しい生活などの生活管理が退院後も求められます。
患者は強い痛みや今後の病変への恐怖を抱いている事が多いため、常に不安を抱いているケースが少なくありません。そのため物理的な看護のほかに、精神的な看護、援助が不可欠です。
■セルフケア不足で退院後の生活に不安がある
急性膵炎・慢性膵炎共に、退院後は自己管理が必要になります。
生活習慣を改善し、飲酒や喫煙を節制する生活を送らなければいけません。
看護師は、その必要性を患者に理解してもらい、退院後には実行できるようにケアしていきましょう。
看護目標 | 退院後の生活習慣の改善の必要性を理解できる |
OP(観察項目) | ・患者の理解度や認知度 ・生活環境や仕事の状況 ・同居家族やキーパーソンとの関係 ・食生活や飲酒・喫煙状況 |
TP(ケア項目) | ・キーパーソンや家族も含めて退院後の自己管理を説明する ・パンフレットや画像・動画を用いて、視覚的に訴える ・わかりやすい言葉を用いる ・患者の生活環境をふまえ、実現可能な範囲で提案する |
EP(教育項目) | ・わからないことや不安があれば、いつでも声をかけるように伝える |
4、膵炎を理解することで見えてくる共通の看護ポイント・注意点
患者は急性・慢性にかかわらず痛みや今後の症状について強い不安を持っています。入退院の中で各症状に着目しながら、精神的なケアも並行して行うことが求められます。膵炎の注意点やポイントを急性膵炎・慢性膵炎に分けて見ていきましょう。
4-1、入院中に注意すべき看護ポイント・注意点
膵炎の注意点は絶飲食の指示が守られているかの確認です。
絶飲食の重要性を認識していない患者さんは、「ちょっとだけだから大丈夫」と思って飲食をすることがあります。
また、嘔吐があった場合は吐物の性状、量、胃液分泌の性状、量の観察を行います。
膵炎において、痛みの状態は重要な着目点となります。鎮痛剤使用時の効果のヒアリングや痛みに対しての表情、動作、言葉の表現も観察が必要です。
衣服を緩め、腹壁の緊張を取り、腹圧をかけない体位を工夫します。嘔吐を伴う場合は口腔の清潔も保つようにしましょう。不安を軽減できるような落ち着いた口調での声かけも患者にとって精神的な支えになりえます。
また、気分転換を図ったり落ち着いた静かな環境を提供することや、疼痛時には鎮痛剤を使用することができることを伝えることで患者のストレスを和らげます。
4-2、退院にむけて、退院後に注意すべき看護ポイント・注意点
入院時や退院後も患者が医師や看護師を信頼でき、病状の急変時に適切な処置が受けられる体制を整えておくことが大切です。
また、患者が疾患の経過を適切に理解でき、食事制限や生活習慣改善などの予防手段をとったり、日常の行動をコントロールできるようになることも看護目標として挙げられます。そして、膵炎は継続的治療の必要性があるということもきちんと認識してもらうことも重要な看護目的のひとつです。
再発防止のために、医師が本人や家族に病気の説明を行うときはなるべく同席し、病気について理解できていない部分があれば補足します。不安を表出しやすい雰囲気作りをして思いを傾聴することや心身ともに休める環境の提供を提案しましょう。
また、膵炎の病識がないことは再発のリスクも高めます。日常生活を患者本人が自らコントロールできるよう、飲酒が原因であれば禁酒の指導を行い、患者に実現可能な食事制限などの指導を心がけましょう。
いずれにしても、継続的な治療や経過観察、食事制限などを行うためには、看護師と患者本人との信頼関係の構築が必要不可欠になってきます。
まとめ
軽度から重篤な症状まで、様々な症状がみられる膵炎は、状況に応じて様々な対応が求められます。また、患者の精神状態や医師・看護師への信頼度によってもヒアリングの精度が左右され、病態への対応速度も変化します。
また、食事制限などの継続的治療も必要です。病気への理解を深め、再発を防止するためにも、患者との信頼関係の構築を常に心がけ、病状の変化を見落とさない看護を心がけましょう。
参考文献
急性膵炎 | 東京大学医学部附属病院消化器内科 胆膵グループ
慢性膵炎ガイド|患者さんとご家族のためのガイド|日本消化器病学会ガイドライン
愛知県名古屋市在住、看護師歴5年。愛知県内の総合病院(消化器外科)で日勤常勤として勤務する傍ら、ライター・ブロガーとしても活動中。写真を撮ることが趣味で、その腕前からアマチュア写真家としても活躍している。
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