中心静脈による栄養投与「IVH・CV・TPN」の管理と観察(2016/01/29)
中心静脈から血液に栄養を投与するIVH。効果的な栄養法であるものの、感染の発症率が高いため、適切な無菌操作が必要不可欠です。また、各栄養素の過剰・不足に陥りやすく、場合によっては重篤化することもあるため、栄養素の管理も非常に重要です。
IVHの管理は容易ではなく、軽視すると患者のQOL低下はもちろん、症状の増悪ならびに合併症を発症させてしまいます。それゆえ、適切な観察・管理を行い、患者にとって最適となる看護を提供してください。
1、IVHとは
IVHとは、「Intravenous Hyperalimentation」の略で、「高カロリー輸液」のことを言い、「中心静脈栄養法」と呼称されることもあります。人間の体は常に栄養を摂取する必要があり、いかなる疾患を患っていようとも様々な手段を用いて体内に栄養を送る必要があります。
通常、飲食物を口から摂取しますが、それが難しい患者に対しては鼻腔からチューブを入れて胃に直接的に流動食を流し込む「経鼻経管栄養法」や、胃ろうを造設して直接的に流動食を流し込む「胃ろう栄養法」などが選択されます。これらはチューブ(管)を介した栄養投与法であることから「経管栄養法」と総称されています。
しかしながら、消化管(胃や腸)に何かしらの異常がある場合は経管栄養法を安全に行うことができません。その場合には血液中に直接的に栄養素を投与する必要がでてきます。血液中に栄養素を投与する場合には一般的に腕の静脈などから点滴を行いますが、点滴は補佐的なもので、必要なすべての栄養素を投与することができません。
また、高カロリー(高濃度)の輸液を投与すると苦痛を伴うだけでなく、静脈炎を起こす可能性があるため、点滴から一日に必要な栄養素を十分に投与することが難しいのです。
そこで選択されるのが上大動脈などの中心静脈にカテーテルを留置し、血液中に直接的に栄養素(輸液)を投与するIVHなのです。IVHは心臓に近い太い静脈を介することから苦痛が少なく、継続的に高カロリーの栄養素を投与し続けることができ、経口摂取ならびに経鼻・経腸(経管栄養法)からの栄養投与が難しい患者に対して行われる、いわば栄養投与法の最終手段なのです。
なお、IVHは国際的に用いられる言葉ではありません。国際的にはTPN(Total Parenteral Nutrition)という言葉が使われており、TPNは完全非経口(非経腸管)的栄養法のことで、経口・経腸(経鼻含む)以外の栄養投与法、つまり静脈を介した栄養投与法のことであるため、IVHとTPNは同様の意味(静脈栄養法)で用いられています。
2、IVHの適応疾患
上記のように、IVHは経口摂取が難しい患者や消化管に何かしらの異常がある患者に対して行われる栄養投与法であるため、適応となる症例は多岐に渡ります。
■日常治療の一部として行う場合
①消化管の栄養素吸収能がない場合
a. 小腸広範囲切除患者 b. 小腸疾患(強皮症、全身性エリテマトーデス、スプルー、慢性特発性偽性腸閉塞、クローン病、多発性小腸瘻、小腸潰瘍 c. 放射線腸炎 d. 重症下痢 e. 重症で長期間続く嘔吐 ②化学療法、放射線療法、骨髄移植 ③中等度〜重症膵炎 ④消化管機能の障害を目前にひかえている高度栄養障害患者 ⑤消化管が5〜7日間以上機能しないと思われる高度異化期患者 |
■通常、役に立つことが期待できる場合
①大手術
(大腸全摘、食道癌手術、膵頭十二指腸切除、骨盤内臓全摘、腹部大動脈瘤など) ②中等度侵襲:中等度の外傷、30〜50%熱傷、中等度膵炎 ③消化管瘻 ④炎症性腸疾患 ⑤妊娠悪阻 ⑥集中的治療を必要とする中等度栄養障害患者 ⑦5〜7日間に十分なENを行うことが不可能な患者 ⑧炎症による小腸閉塞 ⑨集中的化学療法を受けている患者 |
なお、消化吸収機能に障害がない脳血管障害後遺症や神経・筋疾患に伴う嚥下障害においては原則として適応とならず、消化管に異常がない場合は経管栄養法が選択されます。また、IVHが選択に挙げられる場合でも効果が十分に認められない症例や、原則として施行すべきでない場合もあります。
■十分な価値が認められない場合
①消化管を10日以内に使用可能で軽度の侵襲や外傷を受けた栄養状態良好な患者
②7〜10日以内に消化管が使用できるかもしれない患者の手術・侵襲直後 ③治療不能な状態にある患者 |
■施行すべきでない場合
①十分な消化吸収能をもった患者
②高カロリー輸液が5日以内にとどまる場合 ③緊急手術が迫っている患者 ④患者、あるいは法的保護者が強力な栄養療法を希望していない場合 ⑤強力な化学療法を行っても予後が保証されない場合 ⑥高カロリー輸液の危険性が効果を上回る場合 |
引用元:高カロリー輸液施行のガイドライン(成人)(参考文献7-1-3)
このように、IVHが適応となる条件・症例は多岐に渡り、施行の可否は多角的な情報をもとに決定します。
3、IVHの合併症
IVHが数ある栄養投与法の中でも最終手段として用いられるのは、その合併症の発症率の高さです。また、発症しうる合併症も多岐に渡るため、可能な限り、経口摂取または経管栄養法が施行されるのです。
以下にて、IVH時に起こりうる合併症を「カテーテル挿入時」「カテーテル管理」「栄養管理」の3つのカテゴリーに分けてご説明します。
3-1、カテーテル挿入に際する合併症
■静脈切開時
IVHは心臓に近い静脈を切開し、そこにカテーテルを留置して輸液を流し込みますが、静脈を切開する際に“動脈損傷”の可能性があります。特に、小児は動脈と静脈の区別が難しい場合があり、誤って動脈を傷つけてしまうことがあります。また、部分的な“神経損傷”の可能性もあり、神経を損傷した場合には一時的な痺れ、知覚異常がみられることがあります。
■穿刺時
定められた方法により中心静脈を穿刺しますが、中心静脈付近には太い動脈が走行しており、誤って動脈を穿刺してしまうことがあります。この際、圧迫止血により治療を行いますが、稀に血腫が形成されることによる気道圧迫・呼吸困難を起こす場合があります。また、鎖骨下静脈を穿刺する場合に肺に針が当たり、“気胸”や“血胸”をきたす場合があります。なお、気胸や血胸は術中だけではなく、稀に術後数日経ってから生じることもあります。
■局所麻酔
術前に患者の情報を正確に取得して、麻酔薬に対するアレルギー過敏症の有無(薬歴確認)を調べますが、薬歴がない患者に対しては過敏症の有無を正確に判断することができません。それゆえ、麻酔薬によるアレルギー反応(ショック)は避けることができないのが実情です。アレルギー反応を起こすと、血圧低下・意識消失・呼吸困難などの症状を認め、時として呼吸停止から重篤な脳障害により死亡に繋がるケースがあります。
3-2、管理に際する合併症
■感染症
IVHで最も発症頻度が高いのが感染症です。体の外と中心部がカテーテルで繋がれていることで、カテーテルを介して細菌が侵入しやすく、ひとたび細菌が侵入すると一気に全身に広がり、敗血症になることもあります。感染症の発症時には抗生物質を用いて治療を行いますが、敗血症により全身状態が著しく不良の場合などにはカテーテルを抜去せざるを得ないため、IVHの感染症予防は看護の大きな課題と言えるでしょう。
■血栓の形成による閉塞
カテーテルを留置することにより、カテーテルの周囲や内部に血栓ができ、カテーテルの内部が閉塞することがあります。この場合には、直ちに抜去します。
■血管炎
カテーテルの先端が血管の壁に接触することで血管炎を起こし、輸液が胸腔内に溜まることがあり、呼吸困難を呈することが多い傾向にあります。血管炎を起こした際には、直ちに胸腔ドレーンを入れ、胸腔内に溜まった輸液を体外に排出させます。
■カテーテル位置異常
カテーテルの挿入に際してはX線によりカテーテルが正しく位置されているか確認しますが、その後に他の血管へ迷入する、浅くなる・深くなる、血管外へ逸脱するなどの現象が起こることがあります。カテーテルが適切な位置にないと血管外への輸液の漏出をきたす可能性があるため、カテーテル位置異常の場合には直ちに抜去を行います。
■カテーテル断裂
何らかの原因により、留置されているカテーテルが断裂を起こし、肺や心臓の血管内に入ってしまうことがあります。この場合には、心臓カテーテルを行い、断裂したカテーテルを摘出します。
3-3、栄養・成分に関する合併症
通常、IVHに使用される輸液は組成上20%程度の糖が含有しており、静脈内に直接的かつ継続的に投与を行うため、高血糖状態が維持されます。また、場合によっては低血糖症状をきたすことがあります。
これには投与速度が大きく関係しており、速度を速めると高血糖、速度を遅めると低血糖になる可能性があります。患者によって代謝や症状などは異なるため、糖管理は非常に難しく、血糖値を正常範囲内に維持するには数時間単位のきめ細やかな管理が必要となります。
■高トリグリセリド血症
輸液にはブドウ糖を主として、アミノ酸、ビタミン、脂肪などの栄養素を含めて投与を行いますが、輸液の投与速度が速すぎると血中の脂肪(トリグリセリド)が増加する高脂血症をきたすことがあります。回避するためには、糖の投与速度を基に含有量を調整します。
■過剰投与
IVNの投与量は35kcal/kgが上限とされており、それを超える場合には肝臓の脂肪変性を引き起こす可能性があります。過剰な糖やグリコーゲンが肝細胞内に蓄積することで肝臓が腫大します。なお、IVNの栄養投与に際して糖に頼ったエネルギー投与は二酸化炭素の発生を助長するなど、偏った比率はさまざまな合併症の発症を促すため、患者の状態に見合った栄養素の投与が不可欠です。
■ビタミン欠乏症
ビタミンは体で作られず、体外からの摂取が必要不可欠な栄養素です。ビタミン(特にビタミンB1)が不足するとアセチルCoAへの代謝が抑制されピルビン酸が乳酸に代謝されることで乳酸アシドーシスを起こします。最近ではビタミン投与が当たり前になっているため、欠乏症をきたすことが少なくなりましたが、万が一、代謝性アシドーシスが進行した際にはビタミン欠乏症を疑い、血清乳酸値をチェックし、ビタミンの投与を行います。
⇒アシドーシス・アルカローシスの症状と原因、カリウムとの関係性
■微量元素欠乏
IVHを施行する際、特に長期的にIVHを必要とする患者の場合は亜鉛や銅などの微量元素が欠乏することがあります。IVHの輸液だけでは微量元素の含有量が十分でないため、適宜、補充が必要となります。なお、最近では微量元素製剤を必ず投与するようになっているため、欠乏に陥ることは以前と比べてかなり少なくなりました。
他にも、電解質異常、腎前性高窒素血症、酸塩基平衡以上、胃液の過剰分泌による胃炎・潰瘍形成、消化管粘膜の萎縮など、IVHに際する合併症は非常に多く存在します。また、経口摂取でない場合、どのような栄養投与法を用いようとも、何かしらの合併症は存在しますが、中でもIVHの合併症数は多く、発症率の高さは際立っています。
特に感染症や各栄養素の過剰・欠乏は、時に重篤な疾患へと繋がりますので、看護師は適切な観察のもと、患者管理を徹底しなければいけません。
4、IVH・CVの観察・管理
IVHでは中心静脈カテーテル(CVCライン)を用いて高カロリー輸液の投与を行いますが、上述のようにカテーテル挿入における合併症や栄養素に関する合併症が数多く存在するため、さまざまな点において観察・管理しなければいけません。以下にIVHならびにCVCラインにおける観察・管理事項をご説明します。看護師は必ず各項目について熟知しておきましょう。
■穿刺・挿入部の観察
カテーテルを挿入した皮膚の周りに出血・疼痛・腫脹などがないか確認します。圧迫により起こる場合もありますが、不潔状態が続くことで発熱を伴う感染症状が現れることがあります。このように、挿入部位や全身状態を観察し、感染が疑われる場合には直ちにカテーテルを抜去し、各部位の感染症の治療に専念します。
■穿刺・挿入部の消毒
挿入部は細菌感染を起こしやすく、常に清潔な状態を保つ必要があります。挿入部の周辺は10%ポビドンヨード(イソジン®)、ヨードチンキ、グルコン酸クロルヘキシジンアルコール(ヒビテン®アルコール)などを用い、滅菌ガーゼや綿棒などで清拭・消毒を行いますが、清拭・消毒の際に用いる用品の滅菌対策も忘れてはいけません。
■カテーテルの屈曲の確認
カテーテルが屈曲していると、輸液の滴下速度が遅くなる(または滴下しない)現象が起こり、これが継続化すると各栄養素の不足ならびに欠乏が生じてしまいます。輸液による確認はもちろん、カテーテルの状態を直接みて屈曲の有無を確認してください。また、カテーテルにテンションがかかっている場合には抜ける恐れがあるため、同時に確認してください。
■ドレッシング交換
CVC挿入部には、細菌感染の予防やカテーテルの固定のためにドレッシング材を張ります。ドレッシング材にはフィルム型とパッド型がありますが、どちらも概ね週に1~2回の交換を行います。剥がれていないか、剥がれにくい工夫がなされているか、密封されているかをしっかり確認してください。
■輸液フィルターの沈殿物の有無
輸液ラインには、輸液中の沈殿物・異物・細菌などの微生物が血液中に入らないようにする、空気塞栓を防止する目的でフィルターがついています。また、薬剤相互間の反応による沈殿物がフィルターにつくことがあるため、沈殿物が付着している場合には適宜交換を行います。交換の際に感染予防のために、細心の注意を払ってください。
■輸液ラインの無菌的管理
輸液はカテーテルを通して血管内に流し込むために、それぞれ独立した輸液とカテーテルを接続します。この接続部は常に外気と接触することで無菌操作を誤れば容易に細菌の侵入(CRBSI)を許してしまいます。酒精綿で拭うだけという簡易的な考え方での管理は行うべきではなく、70%エタノールなどを用い消毒し、無菌状態を保持しておかなければいけません。なお、接続部が多いほど細菌侵入の機会が増えるため、三方活栓ではなく一体型が推奨されています。
■各値の観察
高血糖・低血糖、脂肪過多による高トリグリセリド血症、投与量超過による稼働投与、ビタミン・微量元素の欠乏など、IVH時に起こりうる栄養素関連の合併症は多岐に渡ります。尿や各種測定機器により値を調べ、過剰または欠乏状態にある場合には、投与量・投与速度の調整、または含有成分の調整を行い、正常範囲内に収めるよう努めます。
このように、IVHに際する観察・管理の項目は多く、特に感染症の予防に最善を尽くす管理が求められます。また、患者のバイタルサインを確認し、異変を素早く察知し、異常の早期発見に努めなければいけません。
まとめ
IVHは在宅でも行うことができる栄養投与法であり、既有疾患を有することが通常であるため、意識は既有疾患の方に向きがちです。それに伴い、看護者はIVHを軽視しがちなのが実情です。
しかしながら、IVHは感染症などの合併症の発症率が高く、時として重症化を招く恐れもあるため、病棟勤務の看護師はもちろん、訪問看護師もしっかりとIVHの管理を行い、合併症を未然に防ぐとともに、既有疾患の早期改善、QOLの向上に向けて患者にとって最適となる看護を提供する必要があります。当ページ記載の各事項を参照し、さまざまな点においてきめ細やかな観察・管理を行ってください。
愛知県名古屋市在住、看護師歴5年。愛知県内の総合病院(消化器外科)で日勤常勤として勤務する傍ら、ライター・ブロガーとしても活動中。写真を撮ることが趣味で、その腕前からアマチュア写真家としても活躍している。
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