急性硬膜下血腫の看護|原因と症状、看護問題と看護計画とそのケア(2017/04/14)
頭部外傷には大きく分けて頭蓋骨骨折、局所性損傷、びまん性脳損傷があります。急性硬膜下血腫はこの中の局所性損傷に分類されます。更に、硬膜下血腫には急性硬膜下血腫と慢性硬膜下血腫があり、急激な転機をたどるのが急性硬膜下血腫です。ここでは急性硬膜下血腫について原因や症状を知り、看護計画・ケアに繋げていきましょう。
目次
1、急性硬膜下血腫とは
急性硬膜下血腫とはくも膜と硬膜の間に生じる血腫で、硬膜とくも膜の間には強固な結合組織がないため血液が脳表に広く広がるのが特徴です。 硬膜は頭蓋骨のすぐ内側にあって、脳を覆っている結合性の強い膜です。この「硬膜」と脳の表面(くも膜)の間に出血が生じゼリー状に固まったもの(血腫と言いますね)が脳を圧迫するのが急性硬膜下血腫です。多くの場合、大脳の表面に発生しますが左右の大脳半球の間にある小脳表面に発生することもあります。受傷直後から一時性能脳損傷による意識障害が生じ、多くは意識半清明期を経て昏睡に至ります。
引用元:CLINICAL REHABILITATION(2013年3月)
2、原因
急性硬膜下血腫の原因のほとんどは、頭部外傷によるものです。最も多く発生するのは、頭部外傷により脳表に脳挫傷が起こり、その部分の血管が損傷して出血、短時間で硬膜下に血腫を形成するものです。その他外力によって脳表の静脈や動脈が損傷して出血することもあります。受傷機転は交通外傷、殴打や転落によるもので、あらゆる年齢層に見られます。また、抗血栓薬を内服されている方など外傷とは関係なく発症することもあります。診断はCTにて行い脳表を覆うような三日月型の高吸収域として描出されます。出血は硬膜下に広がるため、短時間で血腫が形成されて片側の大脳半球全体を覆います。
3、症状
硬膜下血腫は強い外傷で起こることが多いため、血腫による脳への圧排により頭蓋骨の内側の圧が高まり(これを頭蓋内圧亢進といいます)、意識障害、めまい、頭痛、嘔気・嘔吐、運動麻痺や感覚障害、失語などが認められます。また、血腫の増大に伴って徐々に脳が圧排され受傷当初にははっきりしなかった意識障害が徐々に出現してくることもあります。その他高次脳機能障害が引き起こされることもあります。血腫の状態が脳ヘルニアにまで進行すると、深部にある生命維持中枢である脳幹が侵され呼吸障害を引き起こして最終的には死に至ります。
4、看護上の要点
急性硬膜下血腫の患者さんを看るにあたって、起こりうる看護問題をあらかじめ予測、確認しておきましょう。そうすることで、異常の早期発見・対応が可能となり、全身状態の悪化を最小限に抑えることができます。
4-1、バイタルサインの把握
医療者間で共通したフィジカルアセスメント、病態の理解をしましょう。バイタルサインを正しく測定、異常の有無がないかを観察していきます。尿量や出血の程度やIN-OUTバランスなどの循環管理も必要となります。あらかじめ外傷時の状況、受傷時の状態とその後の経過、既往歴の聴取を行い、患者さんを知っておくことが大切です。既往歴から発作を起こす病気や頭蓋内感染のリスクを高める疾患、全身管理で問題となる疾患を知ることができます。
4-2、意識状態の観察、レベル低下の早期発見
JCSやGCSを使用して意識障害の有無を観察・判定します。神経症状は判断が難しいこともありますが、患者さんが入眠しているだけなのか、意識レベルが低下しているのか、理解しているけれどできないのか等様々な症状を正確に判定していかなくてはなりません。特に指示が入る時と入らない時で「ムラ」がある場合は、正常なのか異常なのかを正しくアセスメントする必要があります。
4-3、瞳孔不同、呼吸障害
瞳孔の大きさや左右差、視野、眼球の位置と運動をチェックしましょう。また、呼吸状態の変化にも十分注意が必要です。モニターがついていても、呼吸の回数や胸の上がり方、どのような呼吸の仕方をしているかを実際に目で見て確認します。(正常な呼吸・努力呼吸・陥没呼吸などあらかじめ呼吸についても知識として身につけておく必要があります。)
4-4、急変時の処置
患者さんが急変した時にすぐ対応できるよう準備をしておきます。
■救急カート:挿管チューブ、酸素マスク
■呼吸器
■アンビューバッグ
■必要となる可能性のある薬剤
4-5、合併症について
手術が行われる患者さんに対して術前から術後に起こりうる合併症を予測しましょう。周手術期は迅速な対応が求められます。このため術前から術後に起こりうる合併症について以下のことをチェックしておきましょう。
■年齢・既往・術前の状態
■全身麻酔による影響や術後出血
■神経症状、感染の兆候の有無など全身状態の変化
4-6、全身状態の把握
患者情報を把握した上で術後の看護をしていく必要があります。オペ記録から術式や術中の様子がわかりますので、自分が受け持つ患者さんの状態をきちんと情報収集しましょう。
■どのような手術をしたのか
■手術中の全身状態・創部の状態
■術中の水分バランス・出血量
4-7、頭蓋内圧亢進症状を早期に発見する
頭蓋内圧亢進とは、頭蓋内圧(Intracranial Pressure: ICP )が正常上限を超えた状態を言います。(20cmH2O以上を超えること)
頭蓋内圧上昇→脳灌流圧低下→脳灌流圧を維持するために全身血圧が上昇→
脈拍低下→拍動が強くなる
これらは頭蓋内圧亢進症状として重要なバイタル変化になります。頭蓋内圧亢進による以下の症状に注意しましょう。
■頭蓋内圧亢進症状
・頭痛:早朝頭痛(Morning headache)が有名
・嘔吐:悪心を伴わない嘔吐(嘔吐中枢の刺激による)
・視力障害・うっ血乳頭:かすみ、閃光(光視症)
・外転神経麻痺
・意識障害
・Cushing現象(血圧上昇+徐脈)
■頭蓋内圧亢進の原因としては、
・頭蓋内占拠性病変:出血、腫瘤
・脳浮腫・脳腫脹
・髄液の通過障害:水頭症
・静脈の閉塞:脳静脈洞血栓症など
・突発性頭蓋内圧亢進症:腹圧亢進(肥満など)、中心静脈圧亢進(右心不全・気胸など)が誘因となることがあります。
頭蓋内圧亢進が進むと脳幹を損傷する脳ヘルニアに至り、血圧低下、自発呼吸の停止、対光反射の消失や瞳孔の散大、徐皮質硬直・徐脳硬直が引き起こされます。初期の頭蓋内圧亢進症状である頭痛・嘔吐、脳ヘルニアの初期徴候としての瞳孔不同・片麻痺が観察のポイントとなります。また、呼吸や血圧、心拍数の変化にも注意が必要です。
下図左側では、上が徐皮質硬直、下が徐脳硬直で、徐皮質硬直では上肢は屈曲、下肢は内転して足が足底方向に伸びています。一方、徐脳硬直では上肢は伸展・回内し手は屈曲しています。また、脳ヘルニアによる呼吸異常については、チェーンストークス呼吸は間脳障害・脳ヘルニアの初期徴候、失調性呼吸は延髄呼吸中枢に障害が及んでいることを示し、呼吸停止の恐れが高いのが特徴です。
引用元:Home Decore Inspiration
引用元:救急隊員のための基礎講座
5、看護問題とケアプラン
患者さんをケアする上でどんな点に気をつけなければならないかを理解し、個々の患者さんにあったケアを看護計画として立案、観察していきましょう。患者さんの状態に応じて観察項目やケア項目を増減していく必要があります。
■看護目標:頭蓋内圧亢進・脳ヘルニア等症状・異常の早期発見・対処ができる
5−1、観察項目:OP
①.バイタルサイン
②.呼吸状態
③.意識レベルの評価
④.瞳孔の大きさ、瞳孔不同・対光反射の有無
⑤.頭痛、嘔気・嘔吐の有無
⑥.麻痺の有無・程度
⑦.知覚障害・失語・見当識障害の有無・部位と程度
⑧.痙攣の有無
⑨.ICP(脳圧モニター)のチェック
⑩.創部の状態(出血の有無・程度、感染兆候など):外減圧術を行なった場合は、開頭した骨片を元に戻さず、皮下組織と皮膚のみで閉頭しているため、乾燥を防ぐ・感染予防等の処置がとられています。
⑪.ドレーンからの排液の性状・量
⑫.血液データ
⑬.尿量・水分バランスのチェック
⑭.CT・MRI検査の結果
Japan Coma Scale (JCS : 3-3-9度方式) Glasgow Coma Scale
引用元: Minds(マインズ)ガイドラインセンター
Glasgow Coma Scale Made Easy – MedicTests.com
5−2、ケア:TP
①.異常の早期発見
バイタルサイン、意識レベル等、全身状態の観察・評価を行い、「おかしい」、「いつもと違う」など、データ上の変化だけでなく自分が観察していてちょっと違うと感じた時はすぐに医師に報告する。
②.血圧管理
③.呼吸管理
④.循環管理
⑤.良肢位の保持
⑥.関節の拘縮・変形の予防
⑦.安静度に合わせて褥瘡予防のため体位交換を定期的に行う
⑧.点滴やドレーンの管理
5−3、実施:EP
①.患者・家族への病状の説明
②.患者に意識がある場合は苦痛等あれば遠慮なく伝えてもらうよう説明する
③.家族へは質問があれば医師や看護師から説明できることを伝える
④.不安を傾聴する
⑤.処置を行う際は、始める前に患者さんに説明・声がけする
⑥.ベッドやベッド周囲の環境整備
まとめ
頭蓋内出血は、出血によるショックは少ないですが意識障害を伴うことが多く、問題なのは出血の脳に対する圧迫で、圧迫症状は出血量・速度・部位によって異なります。急性期における患者の状態は複雑で多様であるため、場合によっては即時に適切な治療が行われないと、生命の危険度が高い状態となります。頭部外傷の術後には新たな頭蓋内血腫が出現したり、増大したりすることがあります。このため、常に緊張感を持って観察していくことが必要となります。急性硬膜下血腫は、血腫の増大による急激な脳への圧迫により脳幹の機能不全をきたし、呼吸障害、脳死へ至ることが多いということを念頭に全身状態をしっかり観察し異常の早期発見に努めていきましょう。
参考文献
重症頭部外傷の急性期管理(2012年11月)
東京都出身、千葉県在住。高校卒業後、一般企業に就職。父が脳梗塞で倒れたのをキッカケに、脳血管障害を有する人の治療に携わりたいと思うようになり、看護師の道を志す。看護学校へ入学、看護師国家試験に合格の後、千葉県内の市立病院(脳神経外科)に就職。父の介護が必要になったことで5年の勤務を経て離職。現在は介護の傍ら、ライターとして活動中。同時に、介護の在り方や技術などにおける勉強も行っている。
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