高次脳機能障害の看護|障害部位との関連から見る症状と看護計画、研究について(2017/03/02)
1、高次脳機能障害とは
高次脳機能障害とは、知覚、記憶、学習、思考、判断などの認知過程と行為の感情(情動)を含めた精神(心理)機能を総称するものです。脳血管障害や事故などの脳外傷によって脳が損傷されたために認知機能に障害が起きた状態のことを高次脳機能障害と言います。脳が障害された部位によって認知行動や行動障害、人格変化などの症状が引き起こされますが、外見的には事故による怪我は治癒しているように見えるため、周囲から後遺障害が残存してしまったことに対する理解が得られにくく、社会復帰することが難しいという特徴があります。また、社会復帰が難しいだけでなく、家族への負担も決して少なくありません。
高次脳機能障害を引き起こす原因は、脳血管障害や変性疾患、頭部外傷などにあります。脳梗塞や脳出血、くも膜下出血により脳の血管に血栓がつまり血流が途絶えてしまったり、脳の血管が破れてしまったりするものがあります。血管が破れたり詰まってしまうことにより、手足の痺れや記憶障害が起きたりすることがあります。脳の障害部位は頭部CTやMRIで確認することができ、参照画像のように出血が見られ、梗塞部位は白く変化しています。
出典:社団法人老人病研究会
1-1、高次脳機能障害の症状
高次脳機能障害には以下のような症状がみられます。
■高次機能障害
記憶障害や注意障害などの様々な症状がみられます。
記憶障害とは、事故が起きる前に経験したことが思い出せなくなる、新しい経験や情報を覚えられなくなった、などの状態を総称していいます。経験したことのほかに、今日の日付が分からなくなり、自分の今いる場所が分からない、何度も同じことを繰り返し質問してしまう、人の名前や作業の手順が覚えられないなどの症状がみられ、社会生活への復帰が難しくなってしまう場合が多いです。
■注意障害
周囲からの刺激に対して必要なものに意識を向けたり、重要なものに意識を集中させたりすることが上手くできなくなった場合の状態をいいます。長時間一つのことに集中し続けることが難しく、ぼんやりしていてミスばかりしてしまう、周囲の状況を判断せずに行動を起こそうとしてしまうなどの行動がみられます。また、半側空間無視も注意障害に含まれ、片側にあるものだけを見落としてしまったり、認識できなくなってしまうような症状がみられます。
■遂行機能障害
論理的に考え、計画を立てて問題を解決し、推察して行動するといったことができない症状です。また、自分の行動を評価したり分析することもできない状態であり、自分で計画を立てることができない、指示してもらわないと何もできない、物事の優先順位をつけられない、効率よく仕事をこなすことができないなどの行動がみられます。
■社会行動障害
適切な場面に合わせて感情や行動をコントロールできなくなった状態です。すぐに怒ったり、笑ったり、お金を使い切ってしまったり、場違いな行動や発言をしたり、じっとしていられないなどの症状がみられます。
■自己認識の低下
病識の欠如とも言われており、自分が障害を持っていることに対する認識が上手くできない、上手くいかないのは相手のせいだと考えている、自分自身の障害や治療などを拒否する、必要なリハビリや治療などを拒否してしまう症状がみられます。
■失行症
麻痺や運動機能の障害はないが、目的として意識した行為が正しくできない状態です。日常動作がぎこちなくなってしまったり、位置関係を認識できないことによる着衣失行などの行動がみられます。
■失語症
自分の話したいことを上手く言葉にできなかったり滑らかに話せないなどの症状です。相手の話は理解できるが上手く話すことができないブローカー失語(運動性失語)と話すことはできるが相手の話を理解することができないウェルニッケ失語(感覚性失語)に分類されます。脳の障害部位によって表れる症状が変わってくることが特徴です。
出典:関岡クリニック
■構音障害
言語の理解はできるが、言語の発生に必要な舌・口唇・口蓋・喉頭・声帯などの器官や機能に異常があり正しく発音ができない症状です。
■失認
対象物が何であるか認識できない状態であり、触っているものが何か分からなかったり、人の顔がみんな一緒に見えて判別できないなどの症状です。病態失認や左右失認、半側空間無視などの種類があります。
2、高次脳機能障害の看護計画
高次機能障害の看護計画を立案する際には高次機能障害の原因によって計画立案の内容が変わって来ます。高次機能障害に多くみられる脳梗塞では、脳梗塞により後遺症が残ってしまう場合が多いため病気、障害の受容ができるような心理的な関わりも重要になってきます。また、治療だけでなくリハビリテーションに意欲的に取り組めるような環境作りや、運動麻痺によって日常生活が送れない場合は身体介助、コミュニケーション障害がある場合はコミュニケーションの取り方の工夫などが計画に必要になってきます。病気になってしまった本人の病気の需要とリハビリへの意欲向上のための関わりも大切ですが、患者を支える家族への負担も大きく患者と家族のケアも視野に入れた関わりを行なっていくことが求められます。看護計画立案時には、退院時のことも考え地域連携室の退院調整看護師や訪問看護などの在宅療養が安心して行えるよう計画を進めていくことが大切です。
2-1、高次脳機能障害の看護研究
高次機能障害を持った患者との関わりでは、障害を乗り越えて元の生活に戻れるようなサポートが重要視されているが、患者のセルフケアの再構築を促す看護介入の研究も行われている。聖マリア学院大学で行われた高次機能障害の看護研究では、障害によって日常生活を送る上で必要なセルフケアが行えなくなってしまった患者に対して、日々の看護の中で患者の慣れ親しんだ道具を積極的に使用したり、環境を整えたりすることでセルフケア能力を取り戻す関わりが研究として示されています。また、高次機能障害を持った患者の中で多くみられるコミュニケーション障害についても看護研究が進められています。高次機能障害を持った患者は見た目では分からないことも多いため、コミュニケーションが上手く取れないことも多いです。看護師はそのような患者と関わる機会も多く、患者の意思をしっかり読み取る関わりが必要になるため、円滑なコミュニケーションを図るための基礎知識の獲得の必要性や会話の援助の必要性などを研究として示しています。
まとめ
脳出血や脳梗塞、脳外傷などが原因で引き起こされる高次機能障害ですが、障害される場所によって出現する症状も異なるため障害部位を把握して症状観察を行うことが大切です。また、高次機能障害によって人格が変わってしまうこともあり、見た目には分からない障害が残ってしまうことも特徴です。このような後遺症が原因で元の社会生活を送ることが難しくなり、家族の介護が必要になってしまうなどの様々な視点から看護を通してサポートしていくことが必要です。高次機能障害の治療は主にリハビリテーションがメインになりますが、身体機能に後遺症が残った場合は退院後も介助が必要になってしまうため、入院中から退院後の生活を視野に入れた退院調整を進めていくことが円滑な在宅療養への第一歩となります。退院直前になり家族が介護ができないなどのこともあるので、入院時から家族との関係構築と情報収集、地域連携室との退院調整のためのカンファレンスなどの関わりを行うことが看護師として求められるのです。
東京都出身、千葉県在住。高校卒業後、一般企業に就職。父が脳梗塞で倒れたのをキッカケに、脳血管障害を有する人の治療に携わりたいと思うようになり、看護師の道を志す。看護学校へ入学、看護師国家試験に合格の後、千葉県内の市立病院(脳神経外科)に就職。父の介護が必要になったことで5年の勤務を経て離職。現在は介護の傍ら、ライターとして活動中。同時に、介護の在り方や技術などにおける勉強も行っている。
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