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腎盂腎炎の看護|原因、予防、治療と発症患者に対する看護計画(2016/12/26)

公開日: : 最終更新日:2017/12/15 看護計画 兵庫県 腎・泌尿器科 

腎盂腎炎

腎盂腎炎は大きく急性腎盂腎炎と慢性腎盂腎炎に分けられます。急性で、適切な処置を受ければ、通常3~5日で症状が改善する一方、処置が遅れると入院が必要になったり、慢性化したりすることもあります。悪くすると腎不全から、透析導入の原因にもなります。患者と医療側の確実な判断と処置が求められる病気と言えます。

 

1、腎盂腎炎とは

腎盂腎炎は、尿路に起こる細菌感染症全般を指す尿路感染症の一種です。尿路は、尿をつくる腎臓から腎盂、尿管、膀胱を経て尿道で終わります。細菌感染が腎盂で起これば腎盂腎炎、尿道で起これば尿道炎、膀胱で起これば膀胱炎と呼ばれます。

急性腎盂腎炎の症状は、尿路感染症の中でもっとも強いものです。悪寒、ふるえ、高熱、わき腹や膝の痛みが主な症状であり、早期では悪寒、ふるえ、わき腹の痛みなどが現れます。

慢性腎盂腎炎においては、急性と比べて軽微で自覚症状がない場合もあります。ただし、尿路結石などの複合的な要因がある場合もあり、菌血症や敗血症を合併する恐れもあります。

 

2、腎盂腎炎の予防

急性腎盂腎炎の患者は、特に20~30歳代の若い女性に多い傾向があります。女性は男性と比べて尿道が短く、細菌が進入しやすいのが理由とされます。

細菌はほとんどの場合、大腸菌など大便由来のため、陰部を清潔に保つことが一番の予防策になります。入浴や排便後のシャワーも効果的です。排尿は、細菌が尿道を上るのを防ぐことにもなります。水分を多めにとるほか、尿意を我慢しないことも大切です。

免疫力の低下から発症することもあるため、免疫力を低下させる薬を使用しているときは普段以上の注意が必要です。免疫力を低下させる薬には、免疫抑制剤、抗がん剤、インフリキシマブ、エタネルセプトなどがあります。

 

3、腎盂腎炎患者への看護計画

腎盂腎炎の看護のポイントを、「観察項目」「ケア項目」「教育・指導」の3つのテーマで並べます。ケア項目は、治療の上での「安静」と「水分摂取と点滴による補液」の部分に当たります。他の多くの病気に共通する基本の看護を、しっかりと行うことが大切になります。

 

3-1、観察項目

■自覚症状

患者の自覚症状を把握する必要があります。治療の上でも患者の精神状態を落ち着かせる意味でも大切です。主なチェック項目は次の通りです。

①熱感、②悪寒、③背部痛、④腰痛、⑤肋骨脊椎角部の叩打痛、⑥吐き気、⑦嘔吐

 

■尿の状態

炎症部の状況をダイレクトに伝えるものとして、尿を観察しましょう。主なチェック項目は次の通りです。

①混濁・浮遊物・血尿・膿尿の有無、②尿沈渣(尿を遠心分離器にかけて行う検査)の所見、③尿培養(尿を培養して行う検査)の所見、④尿のPH値

 

■血液の状態

血液検査で炎症の状況が伺えます。CRP反応や、末梢血白血球の増多を測ります。

 

3-2、ケア項目

■発熱による悪寒・熱感への対応

発熱が起こる理由を踏まえつつ、保温や冷却など、状況に応じた看護が必要です。例えば、体温がぐんぐん上昇する上昇期は、熱を逃がさないことが大切です。上昇期の体では、「熱を作り出す」と「熱を逃さない」の2つの作業が続いています。体がぶるぶると震えるのもその作業の一つです。

患者が急に元気を失い、ふるえだしたら上昇期の可能性があります。また、体の末端である手足の温度が下がることも上昇期の特徴です。その後の顔が紅潮する「極期」から、多量の汗をかく「解熱期」に向けては、患者が楽なように熱をさます方向で看護します。

看護師が悩む発熱時のクーリングの効果と実施の可否について

 

■全身倦怠感への対応

治療が長引くと、原因不明の倦怠感を訴える患者が出てきます。食事、排泄、睡眠などの援助を基本通りに根気強くつづけることで改善することがほとんどです。

 

■水分の摂取

腎盂腎炎の治療では、炎症の原因となっている細菌を、尿とともに体外に排出するために、水分を多く摂取することが大切です。1日に1・5リットル以上が目安になります。

しかし、一口に水分摂取といっても、人により摂取方法に傾向や嗜好があり、言葉で促すだけではうまくいかない場合があります。傾向や嗜好を早めに見極めることは、スムーズな治療の為に大切です。傾向、嗜好は、朝一番に水を飲む人、午前より午後に水を飲む人、食事をとりながら水を飲む人、食後に水を飲む人などさまざまです。

 

急性期の対応

特に急性腎盂腎炎の急性期の全身症状は強いものです。安静を保てる環境をつくり、体温や体位調整などの日常生活の援助も丁寧に行いましょう。

 

3-3、教育・指導

急性腎盂腎炎の症状は、早ければ3~5日で収まりますが、発病原因を取り除かない限り、再発を繰り返して慢性化することもあります。悪くすれば腎不全に陥ることもありますので、再発防止のための教育は大切な看護項目です。

・   陰部を清潔に保つ

・   水分の摂取を心掛け、尿の量を増やす

・   尿意を我慢しない

・   性交渉後に排尿をする

・   トイレットペーパーを使用する際は、前方から後方に向かって拭く

・   体を冷やさない

・   過労を避ける

また、尿管結石など構造上の原因で腎盂腎炎が発症する事もあります。それらの対策もしっかりと教育しましょう。

 

4、妊婦への対応

急性腎盂腎炎は、妊娠中にかかりやすい内科系合併症です。大きくなった子宮が尿管を圧迫することなどが理由とされ、妊婦のおよそ1%に起こります。

妊婦が腎盂腎炎にかかった場合は、セファロスポリン系の抗生物質で治療するのが一般的です。治療を始める前に、妊娠の有無を確実に確認しましょう。また、過去の妊娠の際に腎盂腎炎にかかったことのある人には、次の妊娠初期に細菌尿の検査をするよう促しましょう。

 

まとめ

患者と医療者側の適切な判断と処置が施されれば、3~5日で治るはずのものが、どこかで歯車が狂うと、最悪の場合では死に至るのが腎盂腎炎という病気です。

看護師に求められるのは、ほかのすべての病気にいえることですが、「凡事徹底」の姿勢でしょう。ここに説明した「観察項目」「ケア項目」「教育・指導」をしっかりと覚えて、看護に生かしてください。

大野明子 看護師

兵庫県神戸市出身。兵庫県内の一般病院(泌尿器科)で5年勤務の後、キャリアアップのために同県内の大学病院へ転職。泌尿器科で2年、透析科で3年勤務し、出産を機に離職。現在は3児のママとして、専業主婦をしながら空いた時間にライター業務を行っている。

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