看護におけるケーススタディ(事例研究)の書き方と例題(2016/02/22)
看護学生や看護師が一度は経験するケーススタディ。自身の看護を見直すため、看護技術の向上のために実施される非常に重要な勉強の1つですが、初めて取り組む方は、どのように実施すれば良いのか、どのように記述すれば良いのか、必ず悩むことでしょう。
そこで、当ページではケーススタディの実施経験が浅い方のために、「1、ケーススタディとは」、「2、ケーススタディの目的」、「3、ケーススタディの2つの方式」、「4、ケーススタディの構成」、「5、テーマの例」、「6、実施における注意(倫理的態度)」の6項目について詳しくご説明します。
目次
1、ケーススタディとは
ケーススタディとは、ある1つの事例(ケース)に対して仮説を立て、それを検証していく研究のことです。「看護研究」よりも簡易的であるため、「プレ看護研究」とも呼べます。また、「事例研究」と称されることもあります。
看護研究とケーススタディ(事例研究)の違いは、看護研究は“看護全体”に対する研究であり、ケーススタディ(事例研究)は“1つの事例”に対する研究のことです。
また、看護研究は確証されていない看護実践を取り上げた研究であるため、主に看護師としての経験が豊富な方が行います。それに対して、ケーススタディは1つの事例を取り上げ、自身の看護技術の向上や“気づき”を得るための研究であるため、主に看護学生や新人看護師が行います。
2、ケーススタディの目的
ケースタディの主な目的は、上で述べたように看護学生や看護師が自身の看護技術の向上や“気づき”を得るために行うものであり、いわゆる「学習」のための研究です。自分の力でアセスメントや看護診断などを行うことによって、問題解決のプロセス構築や倫理的思考の訓練を行うことができるのです。
また、「研究」を目的として行われる場合もあります。ケーススタディは看護研究よりも簡易的なものでありながら、1つの事例に対して深く研究することで、新たな看護方法を発見できることも多々あります。それゆえ、研修体制が充実した医療施設では、新人看護師だけでなく熟練の看護師に対しても実施を促すことがあります。
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3、ケーススタディの2つの方式
ケーススタディは、1つの事例に対する研究ですが、厳密には「ヒストリカル・スタディ」と「インシデント・スタディ」の2つの方式が存在します。
■ヒストリカル・スタディ
ヒストリカル・スタディは、事例(問題)の初めから終わりまでの一連の過程を取り上げて研究する方式です。主に、患者1人を対象とした個別的な問題解決を行う場合に用いられるため、通常のケーススタディといえばヒストリカル・スタディの事を指します。
■インシデント・スタディ
インシデント・スタディは、事例(問題)の断面を取り上げ、問題の原因や対策を考える方式です。主に、患者1人だけではなく、複数の患者を対象とし、比較検討する場合に用いられるため、看護研究に近い方式と言えます。
4、ケーススタディの構成
ケーススタディを記述する際には、ある程度の構成に従う必要があります。しかしながら、構成は厳密に決められているわけではなく、基本的には「動機」・「患者情報または事例の概要」・「看護診断から導いた看護問題」・「実施内容と結果」・「考察」が書かれていれば、どのような構成でも問題ありません。
以下に、ケーススタディの構成の一例を挙げますので、どのように記述していけば良いのか分からないという方は、以下の構成で記述していけば良いでしょう。
■テーマ
担当患者への看護行為などについて、自分の興味あること、気掛かりなこと、失敗したことなどを取り上げる。 ■はじめに 疾病の概要、看護の実情、研究の動機などを記述する。 ■研究場所・研究期間 研究場所や研究期間(例:平成○○年○月○日~○月○日)を記述する。 ■患者情報 研究対象者(患者)の氏名(A氏のように記述)、年齢、性別、診断名、身体的特徴、発病から入院までの経過、受け持ち時の状態(アセスメント)などを記述する。 ■看護の実際 看護問題、看護目標、期待される結果などを記述する。 ■実施及び結果 看護問題を解決するために行った看護行為、その結果を記述する。 ■考察 結果までの内容の概略、結果の解釈や私的・個人的な意見、今後の課題などを記述する。 ■おわりに 研究により学んだこと、感じたことなどを記述する。 ■参考文献・引用文献 参考にした文献、または引用した文献があれば記載する。 |
なお、以下に各項目の概要についてご説明します。「研究場所・研究期間」に関しては、特筆して説明することがありませんので省略します。
4-1、テーマ
ケーススタディを始めるにあたって、まずテーマが決まらなければ進みません。疑問を持った出来事はないか、自分は何がしたいのかなど、今一度考えてみましょう。
ケーススタディは、自分の看護行為に対する反省ではありません。自身の看護の質向上のために、どのようにケアを行うべきかを検討・研究するものです。それゆえ、「こうしたらこうなるかもしれない」という事例に目を向けてみると良いでしょう。
なお、取り上げるテーマの概略は最初に決める必要がありますが、本文と一致または狭義的でなくてはならないため、最終決定は本文を記述した後にしましょう。
4-2、はじめに
「はじめに」では、“このような研究を行った”という研究全体の要約を記述します。つまり、「どんな対象のどんな課題に対して、どんな介入を行い、どんな結果を得た」というように、実施した研究の概略を記述するのです。
それゆえ、冒頭の項目ではあるものの、全ての記述が終了していないと書くことはできません。必ず最後に書くようにしてください。または、最初にある程度の要約を記述し、最後に修正してください。
また、当項目は読者の心を惹きつける上で最も重要であるとともに、疑問や混乱を起こしやすい項目ですので、以下の注意点を守り、時間をかけて記述することを強くお勧めします。
■本文と内容が一致していること
「はじめに」は、実施した研究の概略を説明する項目であるため、本文にはないこと、または本文と相違のあることを記述しないよう注意してください。
■キーワードを統一すること
「援助」「支援」「介入」「看護援助」「看護支援」「看護介入」といったように、同じ意味を持つキーワードがたくさんあります。キーワードを変えて書いてしまうと、“このキーワードは何を意味するのか”と、混乱を招いてしまいます。必ず、キーワードは統一するようにしましょう。
■主語を明確にすること
これは内容を分かりやすくするためです。「自分」「患者」「疾病」など、主語を明確にすることで、読みやすい(伝わりやすい)文章になります。
■一文が長くなりすぎないようにすること
これも内容を分かりやすくするために必要なことです。たとえば、「~しており、~によって、~することで、~の結果が出たが、~によって、~が生じた。」というように、一文が長くなりすぎると読みにくくなってしまいます。どうしても長文になってしまう場合には、接続語を上手く活用して、文を分けてください。
また、主語を長くするのも考えものです。たとえば、「同年代の親しい療養仲間の死の影響で精神的不安が増大した患者への看護は・・・」のように、主語は「患者への看護」でありながら、主語の修飾が非常に長くなってしまうと、理解しにくくなります。この場合も文を2つに分けて書くようにしてください。
なお、これらの注意点は「はじめに」だけでなく、本文すべてに当てはまることですので、質の高いケーススタディにするために、本文全体を通して遵守してください。
4-3、患者情報
「患者情報」には、患者の氏名(A氏のように記載する)、年齢、性別、診断名、身体的特徴、発病から入院までの経過、受け持ち時の状態(アセスメント)などを記述します。
誰のどのようなことに対する研究であるかを明示しなければ、実施した看護行為や結果の正当性がみえてきません。
特に患者の身体的特徴やアセスメントした内容について深く説明することで、研究の“土台”が築かれ、実施した看護行為や結果が明確になりますので、得た情報(研究に関連する)は全て記述してください。
4-4、看護の実際
「看護の実際」には、看護問題(患者の問題)、看護目標、期待される結果、看護活動などを記述します。研究の内容を読者に伝えるために最も重要な項目であるため、詳しく記述してください。
また、文面上で分かりやすく分類するために、1)看護問題、2)看護目標、3)期待される結果、4)看護活動、のように各項目に分けて記述しましょう。
■看護問題
看護問題は、すでに患者に起こっている問題と起こる可能性のある問題の両方を取り上げます。アセスメントから得た情報をもとに看護過程に従って診断を行い、看護問題を導き出してください。また、列挙するだけでなく、各看護問題の詳細の説明も忘れないでください。
■看護目標
看護過程において、アセスメントと看護診断を経て導き出した看護問題に対して、看護介入を行うことでどのように改善を図れるのかを考え、目標を設定します。記述の際には、端的にまとめましょう。
■期待される結果
看護介入によって、どのような成果が期待できるかについて記述します。これは、「実施及び結果」に繋がることですが、関連する事柄でなくても問題はありません。研究開始時に思ったことを書いてください。
■看護活動
看護問題を解決するために実施した看護介入について記述します。必ず、看護問題に関連した事柄を記述してください。なお、看護介入の詳しい内容については次項で説明するため、ここでは端的に箇条書きで構いません。
4-5、実施及び結果
「実施及び結果」には、研究開始から終了まで、看護問題を解決するために患者に対してどのような看護介入を行ったのかを詳しく記述します。
「1日目」「2日目」というように、詳細な時系列で看護介入の内容をこと細かく説明する必要はなく、ある程度の時系列でポイントとなる事項を取り上げて記述してください。
当項目では文章が長くなるため、「看護介入をカテゴリー別に分けて書く」または「段落ごとに時系列で書く」という構成で記述すれば、読者にとって読みやすく、整理された内容に仕上がります。
■例①(看護介入をカテゴリー別に分けて書く)
1)転倒予防のためのケア
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 2)抱いている不安感情に対するケア ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ |
■(例②段落ごとに時系列で書く)
ケア実施1週間目。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ ケア実施2週間目。 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ |
これらはあくまで一例ですので、この通りにする必要はなく、読者にとって分かりやすく記述されていれば書き方は何でも問題ありません。
4-6、考察
「考察」には、結果までの内容の概略、結果の解釈や私的・個人的な意見、本研究における今後の課題、研究を通して発見した新しい事実、達成できなかった看護問題、反省点・改善点など、いわゆる実施した内容を通しての総評を記述します。
4-7、おわりに
「考察」と似ていますが、「おわりに」には研究を通して学んだことについて記述すると良いでしょう。また、今後どのようにしていきたいかなどについて書いても良いでしょう。
4-8、参考文献・引用文献
参考にした文献や引用した文献があれば記載しましょう。特に引用文献においては、どこの文章かが明確に分かるように、テーマや氏名だけでなく、ページや行、引用文献の年代(研究当時)など詳しく記述してください。
5、テーマの例
次に、これまでに実施されたケーススタディのテーマの一例をご紹介します。どのような事例を取り上げたら良いのか悩んでいる方は、参考にすると良いでしょう。
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参照元:公立学校共済組合 九州中央病院 看護部
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参照元:医療法人社団仁成会 高木病院 看護部
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6、ケーススタディ実施における注意(倫理的態度)
ケーススタディの実施にあたっては、健康上の問題を有し、医療を受けるために入院している患者を対象とする場合が多いため、患者に負担をかけるようなことがあってはいけません。また、「プライバシー」「自己決定」「匿名性と守秘性」「公正な取扱いを受ける権利」など、患者の人権に対して十分に配慮する必要があります。
特に看護学生は、看護師としてはまだ正当に看護ケアを行える立場にはありませんので、過剰な看護ケアによる患者の自立意欲や治療における積極的態度の損失を招く危険性があります。
それゆえ、患者の「自立」や「自己決定」を尊重するとともに、看護過程の中で患者の果たす役割を十分に考慮しなければいけません。なお、事例として研究する患者(協力者)の同意は必ず得ておきましょう。
また、必要な場合には、施設内の倫理審査委員会の許可を求めるなどして、患者を第一に考えた上で実施する必要があります。その他、他の研究で使用した調査用紙やデータは必ず出典を明らかにし、引用や参考にした研究についても必ず明記してください。
まとめ
ケーススタディの実施に際して、また記述に際して、多くの時間を費やすはずです。しかしながら、自分の看護を見直すため、看護の質向上のために、非常に大切な勉強の1つです。
また、レポートとして多くの人が閲覧し、時には先行研究として参考にされることもあるでしょう。看護学生や看護師の毎日は多忙を極めますが、自分のために、患者のために、他の医療従事者のために、時間をかけて納得できるものに仕上げてくださいね。
なお、ケーススタディは後に看護研究へと進展していくもので、看護研究の書き方に通じるところが多々ありますので、以下の記事も併せてお読みください。
東京都在住、正看護師。自身が幼少期にアトピー体質だったこともあり、看護学生の頃から皮膚科への就職を熱願。看護学校を経て、看護師国家資格取得後に都内の皮膚科クリニックへ就職。ネット上に間違った情報が散見することに疑問を感じ、現在は同クリニックで働きながら、正しい情報を広めるべく、ライターとしても活動している。
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