尿路感染症患者に対する看護目標・看護計画(OP・TP・EP)とケアの方法(2016/10/12)
尿路とは、腎臓で作られた尿が体の外に出るまでの「道」です。その「道」には腎臓、腎盂、尿管、膀胱、尿道、外尿道口といった器官があり、尿はこの順に移動していきます。
尿路を構成している器官に細菌やウイルスが感染するのが尿路感染症です。尿路感染症を起こす主な病気は、膀胱炎、尿道炎、腎盂腎炎が知られていますが、それ以外でもマイナーな病気が存在します。
尿路感染症を引き起こすそれぞれの病気には、痛み方に特徴があるので、尿路感染症の入院患者に対する看護では、患者の痛みの訴えを注意深く観察する必要があります。
目次
1、尿路感染症の基礎知識
尿路感染症を引き起こす3大疾患である、膀胱炎、尿道炎、腎盂腎炎について、基礎的な知識を身につけておきましょう。
1-1、膀胱炎とは
膀胱炎では頻尿や排尿時の痛みなど、排尿障害が見られます。ただこうした症状が出るのは、数時間か1日程度です。
しかし排尿障害の症状が消えても膀胱炎の原因が取り除かれていなければ、膀胱炎は悪化します。排尿障害の次に現れる症状は、発熱や尿の濁り、血尿などです。
また膀胱炎では無症状であることも少なくありませんが、無症状であることは軽症であることを意味しません。痛みがないからといって膀胱炎を放置すると炎症が尿路全体に広がってしまいます。
膀胱炎は女性に多い病気です。男性と比較すると尿道が短いため、細菌が多く存在する膣や肛門と膀胱が近接しているからです。
また、妊娠中の女性は膀胱に物理的な圧迫が加わることから、膀胱を空にすることが難しくなり、これにより膀胱炎が起きることもあります。膀胱に絶えず尿が存在していることは、尿路感染症の大きなリスクになります。
性交も女性には膀胱炎のリスクになります。性交時の動きが尿道の細菌を膀胱に押し上げてしまうためです。男性は射精により、精子と一緒に尿道中の細菌が体外に排出されるため、性交は膀胱炎リスクになりにくいとされています。
1-2、尿道炎とは
尿道炎の症状の特徴は、排尿時の痛み、急な強い尿意、頻尿です。尿道炎は、単純ヘルペスウイルス、クラミジア、淋菌などに感染して発症します。いずれも性交渉によって感染が広がります。
尿道炎の治療では、分泌物の分析が必要になります。綿棒を尿道に挿入し分泌物を採取し、それを検査することで原因菌を特定するのです。薬物療法がメーンとなり、抗生物質が処方されます。
1-3、腎盂腎炎とは
腎盂(じんう)は、腎臓の器官のひとつで、尿を一時的にためておく空間です。また、尿路の出発点でもあります。
尿路感染症を引き起こす細菌やウイルスは元来、尿の中には存在しません。外部から侵入し、尿の中に潜伏するのです。細菌やウイルスは、尿路と外部との接触点である外尿道口にまず付着して、そこから川をさかのぼるように、尿道、膀胱、尿管、腎盂へと到達します。つまり、腎盂腎炎は最も感染が進んだ状態ともいえるのです。
また腎臓という生命に直接関与する臓器に発症することから、症状は膀胱炎や尿道炎より重くなることが一般的です。腎盂腎炎は排尿障害にとどまらず、悪寒や発熱、嘔吐、背中の痛みなど、苦しい症状が起きます。
糖尿病患者や、抗がん剤治療を受けている人など、免疫機能が低下している人は、腎盂腎炎のリスクが高まります。
2、尿路感染症の看護目標
看護目標は、尿路に発生している炎症の消失です。排尿障害をなくし、通常の排尿パターンを取り戻すことを目指します。
また、細菌やウイルスの感染は生活習慣を改善することで回避できることが多いので、看護師は患者に対し、再発予防策を指導する必要があります。
3、尿路感染症の看護計画
尿路感染症の看護では、症状を引き起こしている原因を取り除くことが必要です。細菌やウイルスの除去、さらに尿の滞留の解消が看護計画の柱となります。
また、尿路感染症の治療法の選択では、患者の痛み方が重要な情報になります。看護師には、患者の痛みの訴えに耳を傾けることと、状態の変化を看護記録に詳細に記載することが求められます。
さらに高齢患者の場合、体力の消耗が合併症を引き起こすことがあります。そのため、看護計画の立案では体力の保持も重要課題になりえます。
以下にて、O-P(observation plan、観察項目)、T-P(treatment plan、直接的なケア)、E-P(educational plan、患者への教育と指導)についてご説明します。
3-1、尿路感染症のO-P(観察項目)
尿路感染症の看護の観察ポイントは、体温、悪寒、嘔吐、頭痛、倦怠感、食欲など、全身に及びます。全身管理が必要なのは、炎症の大きさや感染場所の範囲などにより、体調が激変する可能性があるためです。
また、痛みの観察では、特に排尿時の状況を患者から聞き取る必要があります。聞き取りにあわせて、尿道の視認も必要になり、周辺の皮膚の膨張や発赤の有無を確認します。患者は性器を観察されるわけですから、羞恥心への配慮は本来看護としてとらえておく必要があります。
また頻尿がある患者の観察では、特に夜間時の排尿回数の記録に注意してください。夜勤帯は看護師の人数が限られていますが、排尿回数を正確に記録することが求められます。
血尿が出ている患者は、看護師が尿を視認する必要があります。尿の色、臭いなどが観察ポイントとなります。
3-2、尿路感染症のT-P(直接的なケア)
尿路感染症の患者には抗生物質が処方されているので、看護師はその効果の有無を確認しなければなりません。
さらに、尿路感染症の患者は1日1.5~2リットルの水分補給が必要となります。この量は、食事に含まれる水分を除いたものです。水やお茶などでこの量を摂取します。そこで患者の水分摂取量と尿量を記録する水分出納のチェックが必要になります。
患者は安静に臥床させ、安楽に過ごせるよう体位を工夫します。食事面では、免疫が落ちていることや、体力が低下していることなどを考慮して高カロリー、高タンパク質を基本として、ビタミンの補給も心掛けます。
痛みが激しい場合、医師の指示をあおぎ鎮痛剤を使用することがあります。また高齢者の場合、排尿と排泄後の陰部の清潔保持が難しい状況が考えられますので、看護師が支援する必要があります。
3-3、尿路感染症のE-P(患者への教育と指導)
尿路感染症は再発を予防できる病気といえます。看護師は患者の入院期間中に予防法を指導しなければなりません。また、規則正しい生活、陰部の清潔保持、1日の水分補給1.5~2リットルは、患者に習慣付けてもらわなければなりません。
生活習慣では、特に女性は意図的に排尿を制限する傾向があるため、それを避けるように指導してください。尿を貯めないことが予防につながるからです。また退院後に排尿時に異変を感じたら、すぐに医療機関にかかるよう伝えてください。
病気への理解も欠かせません。医療従事者ではない一般の患者にとって、尿路感染症は細菌やウイルスに感染しなければ発症しない、ということを理解することは案外難しいことです。自然発生する病気ではないことや、細菌やウイルスを遠ざける生活の重要性を理解させるためには、口頭での説明に終わらず、紙の資料を渡すとよいでしょう。
また高齢者の患者に対しては、家族への助言が欠かせません。介護施設に入居中の患者には、介護施設の職員にも注意喚起しましょう。
まとめ
尿路感染症を引き起こす病気は、女性と、男女の高齢者に多く見られます。体調不良や過度なストレスを受けるなど、弱っているときほど症状は重くなります。
尿路感染症の患者に対する看護では、体力と免疫力のアップ、そして再発予防策の指導が必要です。入院期間中に目に見えて改善することが多いため、患者の痛みの変化を見落とさないようにしましょう。
兵庫県神戸市出身。兵庫県内の一般病院(泌尿器科)で5年勤務の後、キャリアアップのために同県内の大学病院へ転職。泌尿器科で2年、透析科で3年勤務し、出産を機に離職。現在は3児のママとして、専業主婦をしながら空いた時間にライター業務を行っている。
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