【2024年最新】悪性リンパ腫の看護|症状・治療や看護過程・看護計画・観察項目(2017/05/30)
悪性リンパ腫はリンパ球ががん化して、無制限に増殖していく病気です。悪性リンパ腫は化学療法や放射線療法で治療を行いますので、看護師はその副作用のケアを行っていかなければいけません。
悪性リンパ腫の基礎知識や症状、看護過程、看護計画、観察やケアのポイントをまとめました。今後、悪性リンパ腫の患者の看護をする時の参考にしてください。
目次
1、悪性リンパ腫とは
悪性リンパ腫とはリンパ球ががん化して異常増殖する疾患で、血液のがんとも言われる病気です。
2018年に日本で悪性リンパ腫と診断されたのは約36,000人もいます。発生率は10万人に10人の割合です。
出典:悪性リンパ腫・総論 – 医療法人 原三信病院
白血球の中にNK細胞やT細胞、B細胞などのリンパ球がありますが、これらががん化することで無制限に増殖していき、頸部や腋窩などのリンパ節に腫脹が見られるようになります。
悪性リンパ腫の発生部位は、リンパ系組織とリンパ外臓器に分けることができます。
・リンパ系組織:リンパ管、リンパ液、胸腺、脾臓、扁桃など
・リンパ外臓器:甲状腺、骨髄、肺、肝臓、皮膚、胃、腸管、脳など
悪性リンパ腫は、リンパ系組織から発生することが多いのですが、リンパ外臓器の肝臓や脳などから発生することもありますので、全身いたるところで、悪性リンパ腫が発生する可能性があるのです。
また、悪性リンパ腫はがん細胞の形態などで細かく分類されますが、組織学的には大きくはホジキンリンパ腫と非ホジキンリンパ腫の2つに分けられ、非ホジキンリンパ腫はB細胞リンパ腫、T/NK細胞リンパ腫に分類でき、さらに細かく分けられます。
<悪性リンパ腫>
・B細胞リンパ腫(濾胞性リンパ腫、MALTリンパ腫、リンパ形質細胞性リンパ腫など) ・T/NK細胞リンパ腫(末梢性T細胞リンパ腫、血管免疫芽球性T細胞リンパ腫、未分化大細胞型リンパ腫、成人T細胞白血病リンパ腫など) ・ホジキンリンパ腫 |
悪性リンパ腫は細かく分類すると100種類近くがありますが、日本人の場合はホジキンリンパ腫は5~10%と少なく、ほとんどが非ホジキンリンパ腫になります。日本人の場合はホジキンリンパ腫は5~10%と少なく、ほとんどが非ホジキンリンパ腫になります。
日本人に多い非ホジキンリンパ腫は悪性度から3つに分類することができます。
■低悪性度リンパ腫(インドレント リンパ腫)
年単位でゆっくりと進行する悪性リンパ腫で、場合によっては経過観察となることもあります。
■中悪性度リンパ腫(アグレッシブ リンパ腫)
月単位で進行する悪性リンパ腫です。悪性リンパ腫と診断された時点で治療が必要になります。
■高悪性度リンパ腫(高度アグレッシブ リンパ腫)
日~週単位で急速に進行していく悪性リンパ腫です。入院が必要になり、強力な化学療法を行わなければいけません。
悪性リンパ腫の余命は、そのステージによって大きく異なりますが、5年生存率は67.5%1)です。
2、悪性リンパ腫の症状
悪性リンパ腫の主要な症状は、リンパ節の腫脹です。頸部や腋窩、鼠径などにリンパ節の腫脹が見られますが、痛みはないことがほとんどです。病状が進行すると、このリンパ節の腫脹が全身に広がり、発熱や体重減少、寝汗(盗汗)などの全身症状が現れます。
この発熱、体重減少、寝汗(盗汗)の3つの症状を「B症状」と呼び、このB症状が出ていると、それだけ病状が進行していて、予後が良くないとされています。
悪性リンパ腫の発生部位によっては、胃や腸にしこりや潰瘍ができたり、肝臓や脾臓、縦隔に腫れが見られる場合もあります。
悪性リンパ腫は治療しないと死に至ります。
3、悪性リンパ腫の治療
悪性リンパ腫は完治ではなく、寛解を目指して治療を行います。悪性リンパ腫の治療は、ホジキンリンパ腫か非ホジキンリンパ腫なのか、またそれぞれの病型によって選択する治療法は異なりますが、悪性リンパ腫で用いられる治療法は次の4つがあります。
・化学療法
・放射線療法
・モノクローナル抗体療法
・造血幹細胞移植
患者1人1人の病型や病期によって、この4つの治療法を組み合わせながら治療を行っていきます。
悪性リンパ腫の化学療法ではCHOP (チョップ) 療法が主に用いられます。CHOP療法とは3種の抗がん剤に副腎皮質ホルモン(ステロイド)を組み合わせた治療方法です。
悪性リンパ腫でステロイドがなぜ使われるのか?それは、ステロイドにはリンパ球を傷害する効果があるからです。
ほかにも食欲増進作用や吐き気止めとしての効果も期待できます。
悪性リンパ腫の病気は4段階に分けられます。
Ⅰ期=1つの領域のみのリンパ節が腫れている
Ⅱ期=上半身、または下半身のみの2ヶ所以上のリンパ節が腫れている
Ⅲ期=上半身、下半身両方のリンパ節が侵されている
Ⅳ期=臓器を侵していたり、骨盤や血液中に悪性細胞が広がっている
■ホジキンリンパ腫のⅠ期、Ⅱ期
ABVD療法という化学療法を4回行った後に、腫れている部位のリンパ節に放射線治療を行います。
■ホジキンリンパ腫のⅢ期、Ⅳ期
進行しているホジキンリンパ腫に対しては、ABVD療法を12~16回行います。
■非ホジキンリンパ腫のⅠ期、Ⅱ期
非ホジキンリンパ腫のⅠ期やⅡ期は、化学療法の中のR-CHOP療法を3~4回行い、その後に主張しているリンパ節に放射線療法を行います。
■非ホジキンリンパ腫のⅢ期、Ⅳ期
進行している非ホジキンリンパ腫はR-CHOP療法とモノクローナル抗体療法を組み合わ背て治療をするのが、標準治療になっています。
ABVD療法は2週間に1回の点滴治療を行い、R-CHOP療法は3週間に1回行われますので、悪性リンパ腫の治療は数ヶ月以上の長期にわたって行われることになります。
造血幹細胞移植は年齢や組織型によって適応が異なりますので、全ての患者に行われるわけではありません。
4、悪性リンパ腫の看護過程
悪性リンパ腫は化学療法や放射線療法の効果が高く、比較的予後が良い疾患ではありますが、患者は長期にわたって治療を続けていく必要がありますので、看護師はそのことを考慮しながら、ケアを行っていく必要があります。
そのため、患者の全身状態だけでなく、患者の病識や理解度、周囲の支援体制、家族の理解度などを情報収集し、アセスメントしていかなければいけません。
特に、悪性リンパ腫の化学療法は外来で行われることもあり、自宅療養をしながら、悪性リンパ腫の治療をきちんと受けられるように、看護師は入院中だけでなく退院後のことも考慮して、看護計画を立案するようにしてください。
5、悪性リンパ腫の看護計画・ケア
悪性リンパ腫の看護計画の看護計画・ケアの一例をご紹介します。
5-1、放射線療法に関連した看護計画・ケア
■放射線療法の副作用がある
悪性リンパ腫では放射線療法を実施することが多く、皮膚炎や口内炎、嘔気・嘔吐、下痢などの副作用が現れますので、これらの副作用に対するケアを行う必要があります。
看護目標 | 放射線療法の副作用を理解でき、苦痛を軽減できる |
OP(観察項目) | ・照射部位や照射量 ・発赤や疼痛、びらん等皮膚の状態 ・嘔気や嘔吐、下痢などの有無 ・食欲や食事摂取量 ・検査データ(WBC、PLT) |
TP(ケア項目) | ・皮膚のびらんがある時には、医師の指示に基づいた外用薬の塗布 ・患者の嗜好により食事を変更する |
EP(教育項目) | ・症状は照射が終了すれば消失することを説明する ・照射部位のスキンケア方法を指導する ・皮膚に優しい素材の衣服を用意することを伝える ・皮膚の異常が見られたら、すぐに伝えて貰う |
放射線療法の看護については、「放射線治療の看護|種類と方法、副作用を踏まえた看護ケア・指導」を参考にしてください。
5-2、化学療法に関連した看護計画・ケア
■感染リスク状態
悪性リンパ腫で化学療法をしている患者は、免疫力が低下しますので、感染症を発症しやすくなります。
看護目標 | 感染症を起こさない、感染予防の行動をとれる |
OP(観察項目) | ・バイタルサイン ・血液データ ・食事摂取 ・皮膚や粘膜の状態 ・カテーテル挿入部の状態 |
TP(ケア項目) | ・手洗い徹底 ・マスクの着用 ・清潔操作の徹底 ・清潔ケアの介助 ・高タンパク高カロリーの食事 |
EP(教育項目) | ・感染しやすい状態であることを説明する ・手洗いやうがいを徹底してもらう ・家族にも感染しやすい状態であり、感染防止のために協力が必要であることを説明する |
■栄養状態の変調
悪性リンパ腫の治療では化学療法が行われますが、化学療法の副作用で嘔気・嘔吐が現れます。また、放射線療法での照射部位によっては食道炎や口内炎などの副作用が現れますし、リンパ節の腫脹部位に圧迫されるため、食欲不振が起こり、栄養状態が悪化することがあります。
看護目標 | 栄養状態が悪化しない、体重が維持できる |
OP(観察項目) | ・バイタルサイン ・血液データ ・嘔気や嘔吐 ・食事摂取量 ・食思の有無 ・疼痛の有無や程度、部位 ・消化器症状の有無 ・食べられないことに対するストレス ・水分出納 |
TP(ケア項目) | ・嗜好に合わせて食事変更をする ・食事時間を制限せず、食べられるときに食べてもらう ・医師の指示に基づいた制吐剤などの投与 |
EP(教育項目) | ・化学療法や放射線療法の副作用を説明する ・食べられる時に食べられるものを食べるように説明する |
これらの感染リスク状態に対する看護計画、栄養状態の変調に対する看護計画以外にも、化学療法をしている患者さんは便秘や嘔気・嘔吐、脱毛などの問題に直面しますので、しっかりアセスメントをして看護問題が生じたら、看護目標・看護計画を立案するようにしましょう。
5-3、その他の悪性リンパ腫の看護計画・ケア
■疾患に対する不安がある
悪性リンパ腫は血液のがんの1つですし、長期的な治療が必要であるため、患者は予後や家族内での役割の変化、経済的なことなど様々なことに不安を抱いています。
看護目標 | 悪性リンパ腫を正しく理解でき、不安や心配を軽減することができる |
OP(観察項目) | ・患者の病識や理解度 ・表情、言動 ・家族構成、社会的背景 ・入院に対する受け止め方 ・不安の表出 ・睡眠状況 ・食事摂取量 ・家族関係 ・相談できる人の有無 |
TP(ケア項目) | ・医師の説明の後に、理解不十分な時は看護師が細くする ・コミュニケーションを図り、患者や家族と信頼関係を築く ・利用できる社会資源があれば紹介する |
EP(教育項目) | ・不安や心配があれば、何でも伝えてほしいと説明する ・医師の説明がわからなければ、声をかけてもらうように伝える |
■退院後の自己管理不足
悪性リンパ腫は外来通院で化学療法を行うことがありますので、退院後も自宅で療養しながら、適切に治療を続けていけるように、入院中から指導する必要があります。
看護目標 | 自宅療養の注意点を理解できる |
OP(観察項目) | ・病識や理解度 ・家族や周囲のサポート体制 ・日常生活への意欲 ・家族内や社会的役割の変化 ・表情や言動 ・不安の表出 |
TP(ケア項目) | ・外来での治療内容の把握 ・不安を表出できるように促す ・利用できる社会資源の紹介 |
EP(教育項目) | ・退院指導を行う ・化学療法後は感染しやすいことを伝える ・感染予防法を指導する ・規則正しい生活を送るように指導する ・身体に異常がある時は外来受診をするように伝える |
悪性リンパ腫の気をつけることなどをリスト化して患者さんに伝えると良いでしょう。
6、悪性リンパ腫の看護観察やケアのポイント
悪性リンパ腫は長期的な治療が必要になります。そのため、悪性リンパ腫の患者への看護は、身体的な側面だけでなく、精神的・社会的な側面にも注目して、看護介入していく必要があります。
化学療法や放射線療法の副作用が出現すると、食事が取れなくなったり、易感染状態になります。
そのため、看護師は患者の精神的なケアを重要視すると共に、家族の協力を得られるようにケアをしていく必要があります。
看護師は患者の表情や不安の表出、疾患への理解度などを観察し、それに応じてケアを行っていきましょう。
また、家族の協力を得られるように、化学療法や放射線療法の副作用について、家族にも説明し、安楽な体位の調整や感染予防に関しては家族に理解してもらい、協力してもらえるようにする必要があります。
治療を続けていく上で、社会的な役割の変化や経済的な不安が出てくる人も少なくありませんので、必要であれば、医療ソーシャルワーカーと連携を取って社会制度の活用・情報提供をすると良いでしょう。
まとめ
悪性リンパ腫の基礎知識や症状、治療、看護過程、看護計画、観察やケアのポイントをまとめました。悪性リンパ腫は長期的な治療が必要になりますし、治療の副作用が強く出ることがありますので、患者だけでなく家族にもしっかり疾患について理解してもらえるような看護をしていきましょう。
参考文献
ホーム|造血器腫瘍診療ガイドライン 2018年版補訂版|一般社団法人 日本血液学会
大阪市立大学 血液内科 日野雅之「悪性リンパ腫(非ホジキンリンパ腫)」
悪性リンパ腫:[国立がん研究センター がん情報サービス 一般の方へ]
1986年生まれ。北海道札幌市出身・在住。同市内の看護学校を卒業後、北海道大学病院の内科で2年勤務。その後、同市内の個人病院で6年間勤務し、結婚・出産を機に離職。現在は育児をしながら、看護師としての経験を生かし、WEBライターとして活動中。
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