精神科の役割|仕事内容や給料、専門・認定看護師について(2015/04/24)
今回は、精神科看護師として働こうと考えている学生さんや、転職を考えている方のために、精神科看護についてご紹介したいと思います。概要、役割、資格、必要なスキル、求人、給与など、詳しく説明していきますので、精神科看護に興味がある方は、ぜひ一読ください。
目次
1、精神科看護とは
精神科看護は、他業種と比べてよく特殊だと言われています。それは、身体的治療ではなく心の問題を相手にしなくてはいけないという非常に難しい側面を持っていること、精神的な病気を抱える患者さんを相手にしたくない、という2つの要因によるものではないでしょうか。
それゆえ、精神科で働いていると言うと、「大変だね」、「よくやっていけるね」など、励ましの言葉を贈られることがよくあります。偏見を持たれがちな精神科ですが、実際はやりがいが多く、他業種に移りたくないという看護師が多いのもまた事実なのです。
1-1、精神科看護の定義
精神科看護がどういうものなのか、日本精神科看護協会(2項にて後述)によって定義されています。以下にその定義を記載します。
①精神科看護の対象
精神科看護は、精神的な病を有する者を対象とし、疾病の予防や治療に限らず精神疾病や心の問題の緩和に取り組み、心の健康を保持・増進するケアをすること。
②個人の尊厳と権利擁護
単なる精神疾病・心の問題の緩和に取り組むのではなく、患者さんの尊厳や権利を尊重しなければなりません。要するに、強制的にケアしていくのではなく、可能な限り患者もしくは家族の同意のもと、専門的知識を持って良質な医療を提供しなければいけません。
③自律性の回復とその人らしい生活
さらに、薬物治療やカウンセリングを通して、改善後の患者さんのより良い生活のために最善を尽くす必要があります。精神科看護は、患者さん自らが精神的健康について考え、より良い生き方を見出せるように支えることを目的としているため、その場凌ぎのケアではなく、最後まで責任を持って担当しなければいけません。
1-2、主な精神障害
次に、精神科を受診する患者さんが、どのような病気を抱えているのか、主な精神疾患を紹介します。精神科で受診する患者の約8割は以下の病気が該当します。
■鬱病
憂鬱、悲観的思考、絶望感など様々な症状があり、誰しもが起こり得る病気であるため、精神科における患者さんの病気として最も多いのが鬱病です。
自我の機能が低下することで、悪口が聞こえるなど幻覚症状や妄想などの他、思考の貧困化や意欲の低下などもみられます。統合失調症にかかっている人の割合は約100人に1人と言われていることから、鬱病と同様、患者数が多い病気です。統合失調症患者への患者は、「統合失調症の看護|陽性・陰性症状と各治療に基づく看護計画」をご覧ください。
■神経症
過度の不安、意識と無意識の不調和などによって起こる病気です。「不安神経症」、「恐怖症」、「強迫神経症」、「心気神経症」、「抑うつ神経症」、「離人神経症」、「心気症」などが当てはまります。
■人格障害
別名、「パーソナリティ障害」と呼ばれている人格障害は、自らの考え方や見方、反応の仕方などに適用できなくなる精神病です。「境界性人格障害」、「反社会性人格障害」、「分裂病質人格障害」などが当てはまります。
■摂食障害
主に痩せることに過剰な意識を持つ若い女性に見られる病気で、摂食障害には「過食症」と「拒食症」があります。多くの場合、過食行動と拒食行動を繰り返し、嫌悪感などによって鬱病をはじめとした他の精神疾患を併発することがあります。
■児童期精神障害
「夜尿症」、「吃音」、「自閉症」、「発達障害」など、主に両親が抱える心理的な問題によって引き起こされることが多い病気です。
■思春期精神障害
「家庭内暴力」、「ひきこもり」、「不登校」、「自傷行為」など、家庭や学校により様々な要因から起こる思春期の精神病を一括して、思春期精神障害と言います。これらは、近年増加傾向にあり、患者数は軒並み増え続けています。
■老年期精神障害
「老年痴呆」、「夜間せん妄」、「幻覚妄想状態」、「躁状態」、「うつ状態」など、老年期に発現しうる様々な症状を一括して老年期精神障害と言います。精神科看護において最も難しく、危険が伴う可能性が高い病気と言えます。
痴呆・認知症については「認知症|種類別にみる症状と看護計画・看護ケアのポイント」、せん妄については「せん妄に対する予防的看護ケアと夜間せん妄の対応・対処」をご覧ください。
2、日本精神科看護協会について
日本精神科看護協会(略称:日精看)は、精神保健・医療・福祉領域での業務経験を有する者が集い合い、精神科看護領域における研究・教育・調査などを通して、看護師など精神科看護の従事者のスキルアップを図る目的で設立された団体です。
以前は「特例社団法人 日本精神科看護技術協会」でしたが、現在では「一般社団法人 日本精神科看護協会」に名称が変更されています。
2-1、日精看の事業内容と活動
日精看では、精神科看護の従事者が患者さんに対し、より良い治療・サポートができるように様々な活動を行っています。
事業内容:
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主な活動:
2-2、日精看の入会方法
日精看では現在、約4万人の会員があり、会員になると精神科看護に関するスキルアップを図れる他、会員同士での交流など、さまざまなメリットがあるため、精神科看護に従事する看護師は、是非とも入会しましょう。
■入会条件
看護師、准看護師、保健師、医師の免許取得者、および、精神保健・医療・福祉領域での業務経験を有する者。
■年会費
10,000円(4月1日から翌年3月31日の1年間)継続する場合は、年度ごとに支払う必要があります。
2-3、精神科認定看護師について
日精看では、看護現場における看護のケアの質の向上を図ることを目的として1995年に精神科認定看護師制度が創設されました。精神科認定看護師になるためには、指定の病院で研修を受けた後、認定試験に合格する必要があります。
≪受講要件≫
①日本国の看護師の免許を有すること。
②5年以上の精神科看護の臨床における実務経験を有すること。
(臨床で実務を行っていない場合は、 精神科看護を実践する場を1か月に 28 時間 以上 (週7時間程度) もち、それを証明すること。)
≪受講期間(時間)≫
約2年間で下記の過程が行われる(基礎科目:195時間、専門基礎科目:180時間、専門科目:105時間、演習・実習:255時間)
≪費用≫
受講資格審査料:15000円、受講料:530000円、認定試験審査料:30000円、登録料:15000円(合計590000円(非会員は890000円))
資格取得までを大まかにまとめると、「受講資格審査」→「教育課程(研修会・実習)」→「認定試験」→「登録」→「更新(5年毎)」という流れになります。
精神科認定看護師になるためには、費用と時間がかかりますが、スキルアップを図れるほか、病院によっては資格手当として月6万ほど支給されることがあります。未だ知名度の低い資格ですが、今後さらに知名度が高くなるにつれて、待遇面も良くなっていくことが容易に予想できるため、今のうちに取得しておくというのも1つの手です。なお、精神科看護領域における資格には、日本看護協会が認定する精神看護専門看護師もあります。
3、精神科看護の役割と業務内容
当項では、精神科看護の役割や、患者さんにどのようなケアをするのか等について紹介していきます。精神科は一般科と比べて雰囲気なども大きく異なるため、一般科から精神科へ転職しようと考えている方は、事前準備として当項の内容をしっかり読んでおいてください。
3-1、精神科看護の役割
精神科看護は、精神障害を患う患者さんの心のケアを第一とし、障害の背景を全人的に理解し、患者自身が自分の力で改善するサポートをすることが主な役割です。
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3-2、精神病患者の主な症状
ヒトの精神機能には、「意識」、「知能」、「記憶」、「感情」、「思考」、「行動」など様々な側面があり、単独もしくは複数の機能が絡み合って精神障害が引き起こされます。それゆえ、精神障害の種類は非常に多く存在し、同じ障害を持つ患者でも症状が異なることがよくあります。さまざまな症状に柔軟に対応するためにも、まずは精神障害者に多い症状を知っておいてください。
■意識障害
せん妄、幻覚、妄想、昏迷などの症状が主となります。注意しなければならないのが、意識障害をともなう疾患。熱性けいれん、てんかん、糖尿病・低血糖症、脳梗塞、くも膜下出血・脳出血、心筋梗塞、腎不全、脳炎・髄膜炎、肝硬変など、様々な病気と関係しているため、綿密な観察・診察が必要です。
■知的機能障害
失認、失行、感覚性失語、運動性失語などの症状のほかに、児童虐待など他者へ暴力をふるうケースもあります。
■記憶障害
いわゆる記憶を思い出すことの出来ない状態で、認知症などの痴呆性疾患のみならず、うつ病や統合失調症などでも一時的もしくは長期的に記憶障害になることがあります。思い出せないイライラや認識のズレなどによりヒステリックを起こすことが多く、言動には注意が必要です。
■思考障害
神経症や統合失調症など、思考の異常から起こる精神病をまとめて思考障害と総称されています。思考が進まない、話がまとまらないという症状のほか、被害妄想、誇大妄想、貧困妄想といった症状が現れます。
■感情・気分の障害
興奮、不安、怒り、恍惚、憂鬱など、感情や気分にまつわる精神障害の場合は、急にヒステリックを起こすことがあります。また、暴言や暴力が伴う場合もあり、言動や態度に注意を払う必要があります。
3-3、精神科の看護師に求められるもの
精神障害を持つ患者さんのサポートするのは容易なことではなく、様々なことに注意しなければいけません。それゆえ、一般科の看護師よりも求められるものは多く、専門的なスキル・知識が必要となります。以下に、精神科の看護師に求められるスキル・知識を紹介します。
■コミュニケーション能力
患者さんの多くは不安や焦りなど負の感情を持っているため、治療効果を高めるためにコミュニケーションは非常に重要となります。患者さんとの会話の中で原因を特定することが多く、また信頼関係を強くなればなるほど、患者さんの症状が緩和されていきます。それゆえ、相手の気持ちを理解し、相手のペースに合わせたコミュニケーション能力が求められます。
■カウンセリング能力
患者さんを受け止める「受容」が大切で、主にカウンセリングを行うのは医師もしくは臨床心理士ですが、原因を明白にし、効果的に治療を行うために、話を引き出す能力や改善策を提示・推奨し、それを受け入れてもらうカウンセリング能力も大切なスキルです。
■感情抑制能力
患者さんの中には暴言を吐いたり、暴力を振るったり、はたまたヒステリックになる人が多くいらっしゃいます。そのような患者さんを受け持つ際、自身の感情をコントロールして、冷静に対処する能力、感情抑制能力が大切になります。また、看護師側が焦ったり動揺すると、患者さんにとっては悪影響となり、効果的に治療を行うことが出来なくなることがあります。このような状況を避けるためにも、いつ何時も冷静に対処する能力が必要なのです。
■薬に関する専門知識
精神科の場合、薬に触れる機会は非常に多く、種類や服用管理など、薬に関する深い知識を有しておく必要があります。日々、創薬技術や医薬品が進歩していることから、最新の専門知識を持っていなければいけません。
なお、求められるこれらのスキルは、経験を積めば積むほど向上していきますので、初勤務もしくは経験の浅い方は過度に心配する必要はありません。
4、精神科の求人探しのポイント
初めて精神科で働こうと考えている方、転職を考えている方など、求人情報はよくチェックされていると思います。求人数は実にさまざまで、どのように決めれば良いのか分からない方は多いのではないでしょうか。そこで当項では、求人探しのポイントなどを紹介したいと思います。
4-1、給与を最優先する場合
求人情報には「給与」という欄に、基本給、諸手当(残業手当・危険手当、通勤手当、住宅手当、資格手当など)、賞与など、実にさまざまなことが書かれています。ほとんどの病院では、嘘偽りない求人情報を掲載していますが、“曖昧な表現”である場合、特に諸手当に関しては応募の際にしっかり確認しておくことが大切です。
曖昧な例:(月給28万~)(月給28万8500円~※夜勤手当含む)
このように基本給しか記載されていない場合、多くの場合は諸手当が含まれています。それゆえ、各種手当に該当しない場合には、記載されている基本給より安いことがあるため、明白に書かれている求人に応募するか、応募・面接の際にしっかりと確認しておく必要があります。
4-2、仕事時間を最優先する場合
定時に帰りたい、有給は必ず消化したいなど、仕事時間を最優先する人は「勤務時間」や「休日制度」などの欄をしっかり確認しましょう。精神科勤務の場合、基本的には残業はありませんが、病院によってさまざまです。また、病床を持つ病院の場合、交代制がとられていることが多いのが特徴です。
勤務時間:
交代制の場合は病院によってさまざまですが、フルタイムの場合は主に9時~17時が勤務時間になります。休憩時間や残業の有無など書かれているので確認しておきましょう。なお、“ほぼ残業なし”など曖昧の場合には、問い合わせてみることが一番です。
休日制度:
4週8休制、年間休日120日以上、特別休暇(慶弔休暇、育児休暇)、年末年始6日、有給休暇10日
など、求人情報には休日に関するさまざまなことが書かれています。シフト制なのか、土日休みなのか、有給休暇消化率はどうなのか、そのほか特別休暇(慶弔休暇、育児休暇、産前産後休暇など)の有無など、書かれていない情報についてはしっかりと確認することが大切です。特に有給休暇や特別休暇は曖昧なことが多いため、必ず問い合わせてみましょう。
4-3、職場環境を最優先する場合
多忙かどうか、職場の雰囲気は良いのか等、職場環境を最優先する場合には、一度希望の病院に行ってみることをお勧めします。紙面ないしネット媒体では詳しく知ることが出来ないため、自分の目で確認する必要があります。応募前に訪ねてみるのも良いですが院内をうろうろするわけにはいかないので、面接の際に体験勤務の旨を伝えて、1日~3日ほど、職場環境を見させてもらうのが最善の策と言えます。
5、精神科の看護師の給料・年収
精神科の看護師の給料は、諸手当込みで25万~30万程度と、一般病棟に勤務する看護師と変わりはありません。しかしながら、残業がほぼなく、あっても短時間である場合が多いため、一般病棟の看護師よりも年収は低くなります。
病院によって基本給与額や各手当、残業の有無などさまざまですが、病院形態によって大きく分けることが出来るため、下記で紹介します。
■大学病院の精神科病棟
基本給与が高いほか、残業手当や危険手当など、待遇面でしっかりしているため、年収は高い傾向にあります。ただし、病床を持つ病院がほとんどで来院患者数が多いため、年収は高いものの多忙を極める環境であると言えます。
■総合病院の精神科病棟
私立系や民間系に分けられますが、どちらも基本給与が安い傾向にあります。また、地方の場合には残業手当が安く、危険手当がつかない場合が多いため、年収も基本的に安いと考えておいた方がいいでしょう。ただし、総合病院の総数は非常に多いため、この限りではありません。
■精神科の単科専門病院
単科専門病院の場合には、総数が少なく求人数に限りがあるものの、基本給は大学病院並み、もしくは大学病院以上に高いと言えます。通常、残業手当や危険手当がしっかりとついてくるので、高い年収がのぞめます。また、精神科を専門とした病院であるため、精神科看護領域におけるスキルアップには最も向いている職場環境だと言えます。
このように、病院の形態によって大きく分けることが出来ますが、やはり給与は病院によって大きく異なります。年収には、基本給与や残業手当・危険手当のほか、賞与(ボーナス)が絡んでくるため、求人情報をくまなくチェックし、希望の病院を探しましょう。年収が高い病院は人気であるため、少しでも早い応募が吉となります。
まとめ
精神科は心の問題と向き合うため非常に難しく、危険が伴うこともよくあります。また、残業がほとんどないため年収は一般科の看護師と比べて安い傾向にあり、勤務し始めの頃は慣れない環境や患者さんの対応などでストレスが溜まるのが常です。
しかしながら、精神科看護にはやりがいが多いというのもまた事実なのです。さらに、コミュニケーション能力や感情自制能力の向上により、日常生活にも大きな恩恵を受け、一人の人間としてのスキルアップも出来るのです。
看護師不足が深刻化している昨今、精神科における看護師数は患者数に対して足りておらず、精神科看護の需要は増々高まっています。就職・転職を考えている方、すでに勤務されている方に関わらず、精神看護の必要性を再認識し、少しでも多くの患者さんの心を癒せるよう邁進していきましょう。
1983年生まれ、広島県広島市出身。看護学校を卒業後、広島県内の大学病院(精神科)に就職。夫の転職を機に退職し、妊娠していたこともあり、そのまま専業主婦の道へ。現在は2児のママとして、子育てに奮闘しながら看護師の知識を生かし、在宅ライターとして活動。復職を視野に入れ、看護ならびに心理学の勉強に精を出している。
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