【2024年最新】TORCH症候群の看護|原因・症状・検査と看護ポイント(2021/03/17)
産婦人科で働いている看護師は母体から胎児へ感染する垂直感染(母子感染)について、詳しく知っておく必要があります。母子感染の感染症の中でも胎児へのリスクが高いものをTORCH症候群と呼びます。
TORCH症候群の基礎知識と原因・症状、検査について説明していきますので、実際の看護の参考にしてください。
目次
1、TORCH症候群とは
TORCH症候群とは、母子感染の原因となる疾患群で、特に感染すると母体への影響は軽微ながら、胎児への影響は大きく重篤な後遺症のリスクがあるものを指します。
それらの感染症の英語での頭文字を取って、「TORCH症候群」と呼ばれるようになっています。
TORCH症候群の種類は次の5つです。
・T:Toxoplasmosis(トキソプラズマ)
・O:Other(その他:B型肝炎ウイルス、梅毒、パルボウイルスB19、水痘など) ・R:Rubella(風疹) ・C:Cytomegalovirus(サイトメガロウイルス) ・H:Herpes simplex virus(単純ヘルペスウイルス) |
妊娠中に母体がこれらの感染症に感染しても、風邪程度で済み、命への影響はほとんどない場合が多いです。
しかし、胎児への影響は大きく、流産や死産、胎児奇形などを引き起こしたり、新生児期に低体重や血小板減少、肝脾腫などの先天性感染症状を引き起こすことがあります。
TORCH症候群の中でも、特に多いのが先天性サイトメガロウイルス感染です。日本における1年間の症例数はこちらです。1)
・先天性サイトメガロウイルス感染(CMV):1000例(後遺症あり)
・先天性トキソプラズマ感染:200例 ・先天性ヘルペス感染・新生児ヘルペス:27例 ・先天性梅毒感染:18例 ・先天性パルボウイルスB19感染:8例 ・先天性風疹感染:0~5例 |
現在の年間出生数は約90万人です。ということは、900人に1人は先天性サイトメガロウイルス感染による何らかの後遺症があるということになります。
そう考えると、TORCH症候群は妊婦にとって非常にリスクが高く、看護師などの医療職者はTORCH症候群予防のための情報提供を積極的に行う必要があるとわかりますね。
2、TORCH症候群の原因と症状
TORCH症候群の原因と症状を、それぞれの感染症ごとに説明していきます。
2-1、トキソプラズマの原因と症状
■トキソプラズマの原因
トキソプラズマは猫や豚に寄生するトキソプラズマ原虫が原因の感染症です。トキソプラズマ原虫は猫の糞や生肉・十分に加熱していない肉(豚・鶏・羊肉)に含まれています。
そして、母体への感染経路は経口感染です。猫の糞に触った手から、もしくは生肉・加熱不十分な肉を食べたことが原因で感染します。
胎児への感染経路は経胎盤感染になります。
■トキソプラズマの症状
母体がトキソプラズマに感染しても、無症状のケースが多いです。場合によっては発熱や頸部リンパ節腫脹などの症状が現れます。
胎児に感染が起こると、流産・死産、脳内石灰化、水痘賞、脈絡網膜炎、精神運動障害などが起こります。
妊娠初期での感染は胎児感染率は10%以下と低いですが、胎児への影響はより大きく、症状が重症化する傾向があります。
先天性トキソプラズマ感染症に罹患した新生児は、4~27%で脈絡網膜炎を発症して視力障害を起こし、1~2%で知的障害があったり死亡したりします。
2-2、梅毒の原因や症状
■梅毒の原因
梅毒は梅毒トレポネーマに感染することが原因の感染症で、性感染症の1つです。感染部位と粘膜・皮膚の直接接触が原因で感染します。
胎児への感染は経胎盤感染です。母体が無治療の第1期~第2期の場合は母子感染が起こり、潜伏梅毒や第3期だと母子感染の確率は20%程度で、全体での母子感染の確率は60~80%とされています。
■梅毒の症状
母体の梅毒の症状は、まず感染部位にしこりができたり、鼠径部のリンパ節の腫脹が起こります。その後、いったん症状は軽快しますが、無治療だと第2期に移行してバラ疹が出現します。
胎児は梅毒に感染したら、無症状であることも少なくありませんが、先天性梅毒を発症することもあります。先天性梅毒は皮膚病変やリンパ節腫脹、膜炎、脈絡膜炎、水頭症、痙攣、知的障害、仮性麻痺などの症状が現れます。
また、遅発性先天梅毒として7~14歳ごろにゴム腫性潰瘍、骨膜病変、視神経委縮、中枢神経障害等が現れることもあります。
2-3、パルボウイルスB19の原因の症状
■パルボウイルスB19の原因
パルボウイルスB19は伝染性紅斑(リンゴ病)の原因ウイルスです。パルボウイルスB19の感染経路は飛沫感染や接触感染ですので、母体の感染原因は近くにリンゴ病の患者がいたことです。
胎児への感染経路は経胎盤感染です。妊婦がパルボウイルスB19に初めて感染した場合、約20%の確率で胎児感染を起こします。
■パルボウイルスB19の症状
パルボウイルスB19に母体が感染した場合、リンゴ病の症状(発熱・鼻汁、両頬の赤み、手足の網目状の発疹)等が現れます。
胎児に感染した場合は、流産・死産に至るほか、胎児水腫、胎児腹水、胎児貧血、心拡大、胎児発育不全、肝脾腫などの症状が現れます。
2-4、風疹の原因と症状
■風疹の原因
風疹の原因は風疹ウイルス(rubella virus)への感染です。母体への感染は飛沫感染や接触感染です。
胎児への感染経路は経胎盤感染になります。妊娠3ヶ月までに母体が風疹に感染すると、母子感染の発症率は10~40%と高くなっています。
■風疹の症状
妊婦が風疹に感染すると、発熱や発疹、リンパ節腫脹などの症状が現れますが、10~20%は不顕性感染です。
胎児に感染すると、先天性風疹症候群を発症します。先天性風疹症候群の症状は、難聴や眼症状(白内障・緑内障・色素性網膜症)、先天性疾患などがあります。
2-5、サイトメガロウイルスの原因と症状
引用:小児難聴 | 奈良県立医科大学 耳鼻咽喉・頭頸部外科学
■サイトメガロウイルスの原因
サイトメガロウイルスは接触感染・性行為感染・母子感染・輸血など様々な感染経路で感染しますが、日本人妊婦の約70%はサイトメガロウイルスの抗体を持っています。
胎児・新生児への感染原因は、産道感染・経胎盤感染・母乳感染等があります。
以前は、妊婦の約90%が抗体を持っていましたが、抗体保有率が下がってきているため、胎内感染が増加してきています。
■サイトメガロウイルスの症状
サイトメガロウイルスに母体が感染しても、ほとんどが無症状で済みます。しかし、経胎盤感染によって胎児が感染すると、先天性サイトメガロウイルス感染症を発症します。症状には小頭症や網膜脈絡膜炎、肝脾腫、巨細胞封入体症などがあります。
また、遅発性の症状として難聴や精神発達遅滞、運動障害等が現れることがあり、小児の難聴の原因の4分1はサイトメガロウイルスというデータもあります。
2-6、単純ヘルペスウイルスの原因の症状
■単純ヘルペスウイルスの原因
単純ヘルペスウイルスは性器ヘルペスの原因となるウイルスです。感染力が非常に強いことが特徴です。母子感染の経路は主に産道感染ですが、経胎盤感染が起こることもあります。
■単純ヘルペスウイルスの症状
妊娠中に単純ヘルペスウイルスに感染すると、痛みを伴う水疱が陰部や肛門部に多発します。経胎盤感染が起こると、先天性感染症を発症します。先天性感染症の発症は稀ですが、発症すると小頭症や水頭症など重篤な中枢神経系異常の症状が現れます。産道感染による新生児ヘルペスは多臓器不全で死亡したり、脳障害が起こすことがあります。
3、TORCH症候群の検査
TORCH症候群は基本的に血液検査での抗体の有無で診断します。単純ヘルペスウイルスは、細胞診の検査で診断することもあります。
しかし、TORCH症候群の抗体検査は、妊娠中に全部必ず行われるわけではなく、スクリーニングされずに見逃されることもあるのです。
特に、特にサイトメガロウイルスやトキソプラズマの検査は、妊娠時にルーティンで行われることは多くなく、希望者のみ・追加オプションとして検査することが多いです。
サイトメガロウイルスやトキソプラズマは、母体が感染しても無症状であり、気づかないままに感染していることも多いのが現状です。
4、TORCH症候群の看護のポイント
TORCH症候群の看護のポイントを確認しておきましょう。
■TORCH症候群の予防のための指導
産婦人科の看護師は、TORCH症候群の予防のための情報提供・指導を指導していきましょう。
TORCH症候群を防ぐには、母体がTORCH症候群の感染症に感染しないことが最も重要です。
・手洗いをしっかり行う ・猫を飼っている人は糞の処理に気をつける ・肉類はしっかり加熱する ・妊娠希望者で抗体価が低い場合には風疹ワクチン(MRワクチン)の接種を進める ・同居家族に風疹ワクチン未接種者がいたら、ワクチンを接種してもらう ・乳幼児とフォークやコップなどの食器の共有や食べ残しは避ける ・げっ歯類やそれらの排泄物には触れないようにする ・風疹流行時は不要不急の外出は避ける ・妊娠中の性行為はコンドームを使用する |
これらのことをしっかり指導して、TORCH症候群の予防の指導をしていきましょう。
もちろん、TORCH症候群の胎児への影響をしっかり伝えていくことが一番重要で効果のある予防法になります。
■妊婦や家族への精神的なケア
妊娠中にTORCH症候群の感染症に感染してしまった妊婦や家族には、精神的なケアをしていく必要があります。
妊婦は自分を責める人が多いですし、夫婦関係に亀裂が入ることもあります。
また、夫婦によっては妊娠継続を望まないという結論に至る可能性もあります。
TORCH症候群の感染が分かった場合は、看護師は妊婦とその家族に寄り添い、受容的な態度で接して、不安の吐露ができるような関係性・環境を作るようにしましょう。
■正しい情報提供
TORCH症候群の妊婦や家族へは、正しい情報提供をしましょう。
TORCH症候群について、胎児に感染するリスクや出生後の後遺症の種類、程度、確率、また出生後の治療などをしっかり伝えて下さい。
この時、妊婦や家族はしっかりと現状を把握し、理解できているかを確認する必要があります。
社会資源・福祉制度などの情報提供も行っていくと良いでしょう。
まとめ
TORCH症候群の基礎知識やそれぞれの感染症の原因と症状、TORCH症候群の検査についてまとめました。TORCH症候群は母体への影響は少ないけれど、胎児・新生児への影響は非常に大きく、恐ろしい症候群です。
しかし、検査や予防法の実践で、胎児・新生児への影響を少なくすることはできます。看護師は妊婦と接する時はTORCH症候群に関する正しい情報を提供するようにしましょう。
参考文献
1)山田秀人 神戸大学産科婦人科学教室 平成27年度「母子感染の予防と対策」研修会 母子感染の基礎知識
・日本医科大学多摩永山病院女性診療科・産科医局-情報-感染症
・妊婦が感染すると胎児に感染(先天性感染)するサイトメガロウイルス母子感染の実情と症状|厚生労働科学研究費補助金成育疾患克服等次世代育成基盤研究事業
1983年生まれ。宮城県石巻市出身。正看護師歴10年。看護短大を経て、仙台市立病院の小児科で勤務。その後、小児科での経験を生かし、保育園看護師として同市内の保育園に就職。現在は1児のママとして、育児の傍らWEBライター・ブロガーとして活動している。
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