リラクゼーションの看護|目的と効果がわかる呼吸法の看護技術(2017/03/17)
スピードや結果を求められる現在社会で、私たちの心と体はストレスにさらされています。ハーバード大学の医療機関によると、心療内科を訪れる約60~90%患者は、ストレスが原因と考えられているそうです。疲れた心と体を癒すために、私たちが選ぶリラクゼーションの方法は人それぞれです。ある人は、温泉にゆったりつかること、家で猫と遊ぶことかもしれません。不眠や不安が続く人は、薬を定期的に飲んだり、カウンセリングを受けて改善しようとするでしょう。それでも、ストレスによる症状を解消することは簡単なことではありません。特に、癌などによる痛み、手術をする前の不安などを抱える患者のストレスは計り知れません。そのため、リスクが少なく効果があるといわれている、リラクゼーションを看護のケアに取り入れていくことは大切です。これらの方法は、不規則な勤務や強いストレスの下で働く、医療者にも有効であるのでぜひ試してください。
1、リラクゼーションの目的
リラクゼーションの意味は、緊張を解くことです。ストレスにより、脳と身体反応します。「闘争・迷走反応」とも表現されます。脳が脅威や生存にかかわる恐怖を感じたりすると、交感神経という自律神経の一部が活発になり、アドレナリンが放出されます。また、視床下部から分泌されるホルモンが副腎も刺激して、コルチゾールが放出されます。コルチゾールの放出量が正常より多いと、消化不良、血管は収縮、聴力の弱くなります。また、頻脈や唾液の量が減るなどの身体症状が出現します。このようなストレス反応が長期にわたると、さらに心と身体にさまざまな負の影響が表れるといわれています。たとえば、免疫不全、そして、怒り、ふさぎ込み、不安、胸の痛み、頭痛また不眠などの精神的な症状も出現することがあります。だからこそ、いつでもどこでも行えるリラクゼーションの方法を身につけることで、毎日を健康で穏やかな気持ちで過ごすことができます。
2、リラクゼーションの効果
リラクゼーションを実施することで、QOLを高め、ストレスホルモンのレベルが下がるといわれています。ある研究結果では、手術前にリラクゼーション方法を学んだがん患者は、手術後の痛みの程度が少なく、痛みを和らげる薬剤の使用も少なかったとう報告があったそうです。また、呼吸法やリラクゼーションを行った乳がんの患者は免疫力が高くなったという結果がでたそうです。リラクゼーション法は、一般的に健康な人が行う場合は安全と考えられますし、治療計画の一環として用いられている方法です。
2-1、リラクゼーションにより改善すると考えられている症状の例
以下のような症状にはこのリラクゼーション法による治療が効果的とされています。
①不安症:恐怖症やパニック障害の治療にもリラクゼーション法は治療の補助として使われています。
②PMS:月経前症候群
③痛み:腹痛や術後の痛みが和らぐ可能性がある研究結果があります。
④うつ病:認知行動療法ほど効果はないが、何も行わないよりはリラクゼーション法を行ったほうが良いという報告があります。
⑤不快な腹部症状(吐き気・過敏性腸症候群など)
⑥心臓病と心臓の症状
一般的な症状としてまとめたものが以下になります。
不妊
高コレストロール 不眠:慢性な不眠症の改善に役立つエビデンスがあります。 出産 喘息 癲癇 悪夢 |
3、看護のケアに生かせるリラクゼーションの主な種類
■自律訓練法
自律訓練法とは、1932年にドイツの神経科医師のシュルツによって体系化されました。静かな場所にいることを想像し、体の暖かさに集中し、足から心臓まで順番に感じていきます。
■呼吸法
周期的な深い呼吸を繰り返して行います。呼気を意識した、腹式呼吸とともに気持ちを集中させ身体の緊張を取り除いていくことを目的としています。
■段階的筋弛緩法
足の先から頭までの筋肉を意識して緊張を解く方法です。
■瞑想
マントラやマインドフルネスもこの分類に入ります。誘導イメージ療法や自律訓練法と似ていますが、セラピストにお願いしたり、CDを聞きながら、深いリラクゼーションの中に誘導していきます。
4、呼吸法
リラクゼーションには上記以外でも多様な方法がありますが、そのすべての方法の目標は同じで、穏やかな気分や身体のリラックスした状態を引き起こすことです。今回は、一般的によく使われている腹式呼吸とスタンフォード大学の脳外科医James R. Doty,MDが自身の本やサイトで紹介しているリラクゼーションを紹介したいと思います。
■腹式呼吸法
呼吸は、リラックスするための最も簡単な方法です。呼吸を調えることによって、気持ちを落ち着け、身体の疲れを和らげることができます。ゆったりとした呼吸をとおして、心と身体の緊張を取り除き、リラックス(=再び弛める)した、気持ちの良い状態で過ごしましょう
リラックスのための呼吸法のポイントを次に示します。
<4つの準備>
・静かな落ち着いた場所で練習します。
・時計や眼鏡をはずして、身体をしめつけないゆったりとした衣服で行います。
・背もたれのある椅子に深く腰掛け、身体を楽にします。
・両足はゆったりとおろして肩幅くらい開いて、両手は膝の上に軽く乗せておきます。
<呼吸法の練習の進め方>
①練習中はこころを空っぽにして、受け身の気持ちで過ごします。何かが浮かんできても、そのまま受け流すようにします。
②気持ちを集中させるために、眼は軽く閉じておきます。
③息を吐きだすたびに、「ひとーつ」と唱えながら身体の力を抜いていきます。
④鼻からゆっくりと吸い込んで、さらにゆっくりと吐き出していきます。
⑤やり方が正しかったかを気にする必要はありません。気持ちよくできればそれでよいのです。
<呼吸法の実際>
(まず最初に、軽く吐き出してから)鼻からゆっくりと吸いながら(頭の中で)1、2、3、4と数えます。
一端息を止めてから(口元をすぼめ加減にして)ゆっくりと細く長く吐きながら1、2、3、4、5、6、7、8と数えます。
慣れてきたら「ひとーーつ」と唱えながら、自分に合ったリズムで行うと良いでしょう。
■Relaxing the body ~からだを緩める~
呼吸法によるリラクゼーションの方法をご紹介します。以下の手順で行ってください。
①邪魔をされずに練習ができる時間と場所を見つけてください。
②ストレスを感じていたり、ほかのことに気を取られたり、お酒を飲んでいたり、疲れているときは避けましょう。
③始める前に、数分座ってただリラックスします。
④目を閉じます。
⑤まずは鼻から息をゆっくりと口から息を出し、三度深く呼吸します。この呼吸法に慣れるまで繰り返し、呼吸そのものが集中を乱さないようにしましょう。
⑥この呼吸法になれたら、座り方に意識を向け、あなたを見ているあなた自身を頭に浮かべましょう。
⑦つま先に意識を向け、リラックスさせます。次に足に意識を向けて、筋肉を温めます。呼吸を続けるごとに足が溶けていく様子を想像してください。つま先と足だけに集中しましょう。はじめを気が散ったり、別のことを考えたりしがちですが、そんな時は、またつま先と足の筋肉を緩めることから始めましょう。
⑧つま先と足をリラックスさせたら、意識をだんだんと上に向けてふくらはぎや太ももをリラックスさせます。
⑨腹筋と胸の筋肉をリラックスさせます。
⑩背骨に意識を向け、背骨に沿った筋肉を緩めて方と首もリラックスさせます。
⑪最後に顔と頭皮の筋肉を緩めましょう。
⑫全身の筋肉をリラックスさせ、次第に心が静まっていくのを感じてください。いい気持ちになっていることを感じます。ここまでくると、眠たくなったり、本当に眠ってしまうこともありますが、眠らずにいることには訓練が必要なので、焦らず、自分に優しくしましょう。
⑬今度は心臓に意識を向けて、ゆっくりと呼吸をしながら心臓の筋肉をリラックスして呼吸がゆっくりなるごとに、心拍もゆっくりになっていることに気づくでしょう。
⑭体が完全にリラックスした状態を思い浮かべ、ゆっくりと呼吸しながら、ただそこにいるあなた自身を感じてください。温かさを感じましょう。ふわふわ浮いているような感覚を覚え、平穏が広がってくるのを感じるでしょう。ゆっくり息を吸い、その後息を吐き続けましょう。
⑮このリラックスした感覚、平穏、温かさを意識して記憶してください。
⑯ゆっくりと目を開けます。目を開けたまま数分間何も考えずに座りましょう。
引用元:James R.Doty,MD. (2016). Into the magic shop
まとめ
上記に上げたリラクゼーションの方法の良いところは、いつでも、どこでも、費用が掛からず行えるところではないでしょうか。特別どこかに行かなくても、自分の部屋や、また病院のベッドでも行えます。特別必要な物品もなく、必要なのは時間と最初はうまくいかなくても繰り返し行うことです。そのため、リラクゼーションを有効的にケアに入れていくためには、患者とのコミュニケーションをとり、気持ちを落ち着かせ、環境を整えることが重要です。また、医療者自身が仕事後も心身の緊張がとれず、体の不調を感じたらリラクゼーションを試してみてください。
参考文献
1)National Center for complementary and integrative health(NCCIH)
2)University of Maryland Medical Center
東京都在住、正看護師。自身が幼少期にアトピー体質だったこともあり、看護学生の頃から皮膚科への就職を熱願。看護学校を経て、看護師国家資格取得後に都内の皮膚科クリニックへ就職。ネット上に間違った情報が散見することに疑問を感じ、現在は同クリニックで働きながら、正しい情報を広めるべく、ライターとしても活動している。
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