もやもや病(ウィリス動脈輪閉塞症)の症状や治療、看護のポイント(2021/04/14)
「もやもや病」はその病名から、それほど重篤な病気ではないというイメージを持つ人もいますが、もやもや病は命にかかわることもありますし、深刻な後遺症が残るリスクがある難病です。
もやもや病(ウィリス動脈輪閉塞症)の基本情報や症状、治療法と看護のポイントなどをまとめましたので、実際の看護の参考にしてください。
目次
1、もやもや病(ウィリス動脈輪閉塞症)とは
もやもや病は、内頚動脈の終末部が閉塞・狭窄する進行性脳血管閉塞症です。2002年度まではウィリス動脈輪閉塞症と呼ばれていましいた。厚生労働省の指定難病になっている疾患です。
内頚動脈は頚動脈から脳に血液を送る太い動脈です。この内頚動脈の終末部分が閉塞・狭窄すると、脳に十分な血液が送られず、虚血状態になります。脳の虚血状態を回避するために、閉塞・狭窄部の周囲には細くて脆い異常血管が発達します。
この異常血管はタバコの煙のようにもやもやして見えるので、もやもや病と呼ばれるようになりました。
引用:[117] もやもや病 ─ ここまできた診断・治療 | 脳 | 循環器病あれこれ | 国立循環器病研究センター 循環器病情報サービス
もやもや病は左右どちらかだけでなく、左右両方の内頚動脈で閉塞・狭窄が起こることが多いという特徴があります。
もやもや病は日本で発見された疾患であり、日本人に多いことが分かっています。有病率は10万人に対して3~10.5人であり、男女比は1:2.5ですから女性に多い傾向があります。好発年齢は5~10歳と30~40歳の2パターンがあります。
また、遺伝との関係が指摘されていて、家族性の発症が10~20%認められています。
2、もやもや病の症状
もやもや病は内頚動脈が閉塞・狭窄で、脳の虚血を回避するために、細くて脆い異常血管が発達します。
内頚動脈が閉塞すれば、脳の虚血が起こります。
また、側副血行路として発達した異常血管は脆いので、出血しやすく、脳出血が起こることもあります。
もやもや病は小児では脳の虚血が起こりやすく、成人では脳出血の症状が多いという特徴があります。
また、脳虚血・脳出血以外に、てんかん型や頭痛型などの症状もあります。
2-1、小児のもやもや病の症状
小児のもやもや病は脳が虚血状態になり、一過性脳虚血発作(TIA)や脳梗塞が起こることが多いです。
・意識障害
・脱力発作(四肢麻痺や片麻痺)
・感覚異常
・不随意運動
このような発作が起こり、血流が回復すると症状が回復することが反復発作的に出現します。
小児のもやもや病の症状は次のような過呼吸によって誘発されることが多いです。
・泣く
・熱いラーメンをフーフー吹く
・笛やリコーダー、ハーモニカなどを吹く
これはフーフーと吹くことで、血中の二酸化炭素濃度が低下し、脳の血管が収縮するためです。
一過性脳虚血発作の場合は、血流が回復すれば、症状は改善します。
しかし、脳梗塞が起こると、梗塞部位に応じて、運動麻痺や言語障害、知能低下、視野障害などの後遺症が残ることがあります。
2-2、成人のもやもや病の症状
成人のもやもや病では脳虚血が起こる場合はもちろんありますが、小児に比べると脳出血が起こる確率が高いという特徴があります。
異常血管網は細く脆いため、脳の虚血を回避するために、大量の血液を送ろうとすると、その血圧に耐えることができず、脳出血を起こすことがあります。
成人のもやもや病では脳内出血や脳室出血、くも膜下出血等が起こり、出血部位や出血量に応じて、運動麻痺や言語障害、頭痛、意識障害、痙攣などの症状が現れます。後遺症が残るケースも少なくなく、高次脳機能障害が残ることもあります。
成人のもやもや病では、脳虚血よりも脳出血の方が重症例が多く、もやもや病での死亡例の多くは脳出血(頭蓋内出血)となっています。
また、もやもや病では一度脳出血を起こすと、繰り返し出血を起こす可能性が高いです。
再出血率は1年で7%になりますので、計算上は5年で30%がという高確率で出血を起こすことなりますので、非常に危険な病気であり、経過観察が欠かせない病気と言えるでしょう。
3、もやもや病の治療
もやもや病の治療は、外科的治療と内科的治療に大きく分けることができます。
ただ、脳出血や脳梗塞を起こしてもやもや病が発覚した場合は、まずは脳出血・脳梗塞の治療をして、状態が落ち着いてから、もやもや病の治療をすることになります。
3-1、もやもや病の外科的治療法
もやもや病は内頚動脈の閉塞・狭窄による脳虚血が本質的な病態になります。
そのため、基本的な治療法としては脳虚血を治し、血流を確保するための血行再建術が行われます。
ただ、もやもや病の患者全員がオペ適応になるわけではなく、3人に1人は外科的治療法は必要ないとされています。1)
■直接的血行再建術(直接バイパス術)
直接的血行再建術は頭皮の血管と脳の表面の血管を直接つなげて、血流を確保する手術。
■間接的血行再建術(間接バイパス術)
血流が豊富な組織(頭部の筋肉や血管など)を脳表に接着させて、血管新生を促す手術。
間接的血行再建術は手術は簡単で短時間で済みますので、身体への負担は少ないですが、血管が新しくできて、血流が増えるまでに時間がかかります。
一般的に、小児では直接バイパス・間接バイパスのどちらも適応になりますが、成人は直接的血行再建術が選択されます。
3-2、内科的治療法
もやもや病では薬による内科的治療が選択されることもあります。
脳の虚血が起こりやすい場合、抗血小板薬を用いて、細い血管でも血液が流れやすいようにします。また、脳梗塞を予防する効果もあります。
ただ、脳の血流量を増やすわけではないので、内科的治療だけでは根本的な治療になりません。
4、もやもや病の看護の4ポイント
もやもや病の患者に適切な看護ができるように、看護のポイントを押さえておきましょう。
■異常の早期発見
まずは異常の早期発見です。
もやもや病で外科的治療をした後は、全身管理が必要になります。
術後は手術中の一時的血流遮断や低血圧などにより、脳梗塞を起こすことがあります。
また、直接バイパス術の場合は、術後に一気に血流量が増えることで、脳浮腫や脳出血が起こるリスクもあります。
そのため、看護師は患者の異常の早期発見に務めましょう。
バイタルサインや水分出納、血圧管理、神経所見、自覚症状・他覚症状などをチェックしてください。
また、オペ後は創部の感染にも注意して観察してください。
■精神的なケア
もやもや病は厚生労働省の指定難病であり、命の危険がある疾患です。
症状によっては、すぐに外科的治療が必要になることもあります。
そのため、もやもや病と診断された患者はショックが大きく、不安が大きいです。
疾患・治療に対する不安が大きいと、治療に対して消極的になり、治療・リハビリがスムーズに進みません。
そのため、看護師は患者に適切な情報提供を行い、さらに精神的なケアを行って、不安を取り除いていくようにしましょう。
■退院指導・生活指導
オペ後は1週間程度で抜糸し、その数日後には退院することができます。
脳虚血が改善され、脳の血流量が十分に増えたら、基本的には運動制限もなく、日常生活を送ることができます。
ただ、退院したら、それで完治というわけではありません。
・定期な健診は必要なこと
・格闘技やラグビーなど強いボディコンタクトがある運動は控えたほうが良い
・脳血流量が減るため、脱水には注意すること
・喫煙者は禁煙すること
・アルコールは適量を守ること
・頭に何か異変を感じたら、すぐに受診すること
これらのことをしっかりと患者に指導しておきましょう。
患者が小児の場合は、患者と保護者で一緒に指導する必要があります。
■家族歴の聴取
もやもや病は遺伝と関係していて、家族性の発症が10~20%と高くなっています。
そのため、看護師はもやもや病の患者のアナムネを取る時には、家族にもやもや病と診断された人はいるのか、若くして脳卒中を発症した人はいるか、もやもや病のような症状(TIAなど)がある人が家族にいるかなどを確認してください。
まとめ
もやもや病の基礎知識や症状、治療法、看護のポイントをまとめました。もやもや病は日本人に多く、全国に16,000人前後の患者さんがいます。
もし、もやもや病の患者さんを受け持つことになった時に、適切な看護ができるようにしておきましょう。
参考文献
もやもや病Q&A|福岡山王病院
[117] もやもや病 ─ ここまできた診断・治療 | 脳 | 循環器病あれこれ | 国立循環器病研究センター 循環器病情報サービス
東京都出身、千葉県在住。高校卒業後、一般企業に就職。父が脳梗塞で倒れたのをキッカケに、脳血管障害を有する人の治療に携わりたいと思うようになり、看護師の道を志す。看護学校へ入学、看護師国家試験に合格の後、千葉県内の市立病院(脳神経外科)に就職。父の介護が必要になったことで5年の勤務を経て離職。現在は介護の傍ら、ライターとして活動中。同時に、介護の在り方や技術などにおける勉強も行っている。
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