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一過性脳虚血発作(TIA)の看護|原因・症状からみる3つの看護ポイント(2020/02/15)

公開日: : 看護計画 千葉県 脳神経外科 

一過性脳虚血発作(TIA)は、文字通り一時的に脳の血管に虚血が起こることによる様々な症状のことをいいますが、脳梗塞の前兆といわれ、脳虚血によって起こる症状が消えても、脳梗塞へ移行する危険があるため、そのケアはとても重要なものとなります。TIAについてよく知り、適切な看護を行うようにしましょう。

 

1、一過性脳虚血発作(TIA)とは

一過性脳虚血発作(TIA)とは、何らかの原因で脳血管(末梢血管)部分の血流が滞り、血流が途絶えることによって神経脱落症状が出現する発作のことです。この発作は、ほとんどの場合、5〜10分くらい、長くても1時間以内には症状は消失します。

 

脳梗塞の前兆

出典:メディカルノート

 

以前は、24時間以内に症状が消えるものをTIAと定義していましたが、短時間で症状が消えても脳梗塞の兆候が発見されることが多くなり、発作時間ではTIAと脳梗塞が区別できないため、脳梗塞と完全に分けるために発作時間の定義はなくなりました。2009年米国心臓協会・脳卒中協会(AHA/ASA)は「局所(脳、脊髄、網膜)の虚血によって惹起される急性梗塞に至らない一過性の神経障害」と定義づけしています。このように定義づけられていますが、TIAとなった場合、90日以内に脳梗塞へ移行する可能性が15〜20%と高く、早期の対処が必要となるため、その診断と治療、ケアはとても重要になります。また、動脈硬化や心疾患が基礎疾患として存在することもあり、継続しての治療や観察が必要になります。

 

2、一過性脳虚血発作(TIA)のガイドラインについて

一過性脳虚血発作(TIA)は脳梗塞へ移行する可能性があるために、速やかな治療が必要になります。そのための推奨された介入を示すガイドラインは欧米で作成されていましたが、日本で許可されている薬剤が異なり、人種によっても差異があるために、2015年に日本脳卒中学会により日本独自のガイドラインが作成されました。ガイドラインではその治療や介入の方法を推奨グレードによって示しています。

 

推奨グレード 内容
A 行うよう強く勧められる
B 行うよう勧められる
C1 行うことを考慮しても良いが、十分な科学的根拠がない
C2 科学的根拠がないので勧められない
D 行わないように勧められる

参考:脳卒中治療ガイドライン2015(日本内科学会雑誌106巻 5号|2017年)

 

このガイドラインでは脳卒中全体の推奨される介入が示されており、TIAについても記載されています。ガイドラインでは、推奨グレードとは違うTIAの重症度を判定するためのABCD2スコアを使用します。このスコアによって重症度を判定し、必要に応じた介入が行われます。

 

推 奨

1.     一過性脳虚血発作(TIA)と診断すれはば、可及的速やかに発症機序を評価し、脳梗塞発症予防のための治療を直ちに開始するよう強く勧められる(グレードA)。

TIA後の脳梗塞発症の危険度予測 と治療方針の決定には、ABCD2スコアをはじめとした予測スコアの使用が勧められる(グレードB)。

脳画像上の多発性虚血病変、主幹脳動脈病変合併例、ABCD2スコア6~7点は1年以内の脳卒中再発リスクが高い(グレードB)。

2.     TIAの急性期(発症48時間以内)の再発防止には、アスピリン160~300mg/日の投与が強く勧められる(グレードA)。

急性期に限定した抗血小板薬2剤併用療法(アスピリン+クロピドグレル)も勧められる(グレードB)。

3.      急性期以後のTIAに対する治療は、脳梗塞の再発予防に準じて行う。

 

出典:脳卒中治療ガイドライン 2015[追補 2017](日本脳卒中学会 脳卒中ガイドライン委員会|2017年)

 

ABCD2スコア

A Age(年齢)>60歳(1点)
B Blood pressure(血圧)>140/90mmHg(1点)
C Clinical feature(臨床像)>半身麻痺(2点)、麻痺のない言語障害(1点)
D Diabetes(糖尿病)(1点)
D Duration of symptoms(持続時間)(10〜59分1点、60分以上2点)

出典:一過性脳虚血発作について(東京逓信病院)

このガイドラインによって、脳梗塞の発症予防とTIAの再発予防の治療が行われます。

 

3、一過性脳虚血発作(TIA)の原因

TIAの原因は脳梗塞の原因と同じものであり、その重症度によっては脳梗塞に移行する可能性があります。TIAの主な原因は次の通りです。

 

3−1、塞栓

体内でできた血栓が脳血管の末梢部位に流れ込み、つまらせることで血流を途絶えてしまうという「塞栓」が原因となります。塞栓はTIAの原因として最も多く見られ、血栓ができる場所は頚動脈が最も多く、大動脈弓、頭蓋内主幹血管での血栓が塞栓を引き起こすこともあります。

 

3−2、一過性低血圧

脳の主幹動脈に元から閉塞や狭窄がある場合、急な血圧の低下によって一時的に脳の血流が途絶えることによって起こります。この場合、血圧が回復すると症状は消失します。

 

3−3、心原性塞栓

脳梗塞は心房細動や弁膜症によってできた血栓が脳血管の末梢血管に入り塞栓しまう心原性塞栓が主な原因ですが、これはTIAも同じく原因となります。この血栓による塞栓が一時的なものか、または血栓が溶けた場合は一過性の虚血となり、TIAとなります。

 

4、一過性脳虚血発作(TIA)の症状

TIAの症状は、次のようなものがあります。

・手足、顔面の運動障害→失語など

・手足、顔面の感覚障害→失認など

・片目の暗転→片目だけ暗くなったり、霞がかったりして見える

めまい

・嚥下困難

・平衡障害

このような症状は、15〜20分もしくは1時間以内に消失します。その場合、TIAが強く疑われるので、注意が必要です。

 

5、一過性脳虚血発作(TIA)の看護問題

一過性脳虚血発作(TIA)では、疾患自体が重症化するリスク、症状が出現した場合に転倒などによる外傷のリスク、症状が回復すると自覚症状がなくなるために病識が低いことで症状を悪化させるリスクがあり、次の看護問題が挙げられます。

 

#1脳梗塞へ移行する可能性がある

#2症状による身体損傷リスク状態

#3疾患や予防行為に対する知識不足

 

6、一過性脳虚血発作(TIA)の看護計画

上記の看護問題における看護目標はそれぞれ次の通りです。

 

#1重症化せずに経過できる

#2転倒など外傷を起こさない

#3疾患について理解し、予防行動をとることができる

 

上記の看護問題について、それぞれの看護計画を例として立案します。

 

#1

看護目標:重症化せずに経過できる

<OP>

① バイタルサイン(血圧・体温・脈拍・酸素飽和度SpO2

② 症状の有無・程度(頭痛・めまいなど)

③ 運動障害の有無・程度

④ 感覚障害の有無・程度

⑤ 視覚障害の有無・程度

⑥ 既往歴(特に、脳血管疾患の既往の有無)

⑦ 検査データ

⑧ 症状継続時間

 

<CP>

① 安楽な体位の保持

② 医師の指示により、適切な時間に投薬する

③ 脳梗塞様症状が出現した場合は、速やかに医師へ報告する

 

<EP>

① 自覚症状がある場合は速やかに伝えるように説明する

② 症状があるときは、無理せず休養をとるように説明する

 

#2

看護目標:転倒などの外傷を起こさない

<OP>

① めまい、ふらつきの有無

② 運動障害の有無、程度

③ 感覚障害の有無、程度

④ 症状継続時間

⑤ 既往歴

⑥ 今まで転倒したことがあるかどうか

嚥下障害の有無、程度

⑧ 意識レベル

 

<CP>
① 症状が出現したら速やかに医師へ報告する

② 症状の出現時、転倒しないように環境整備を行う

 

<EP>

① 症状が出現したら、ゆっくりと座り、無理に歩いたりしないよう説明する

② 転倒の既往がある場合、転倒しないような履物や環境を工夫するように説明する

 

#3

看護目標:疾患について理解し、予防行動をとることができる

<OP>

① 既往歴

② 症状の有無

③ 日常生活動作

④ 使用中の薬剤

⑤ 病気に対する理解度

⑥ 医師からの説明の理解度

⑦ 喫煙・飲酒の程度

⑧ 検査データ

⑨ 家族歴

 

<CP>

① 医師からの説明時には同席し、理解できたかを確認する

② TIAと脳梗塞について情報を提供する

 

<EP>

① 脳梗塞について説明し、予防方法について指導する

② 喫煙のリスクについて説明し、必要時、禁煙指導を行う

③ TIAについての知識を確認し、必要時情報提供を行う

④ 症状が出現した時の対処方法を説明する

⑤ 自分でできるTIAの予防法を説明する

⑥ 服薬指導

⑦ 栄養指導

 

7、まとめ

一過性脳虚血発作(TIA)は脳梗塞の前触れとして出現し、看護によってTIAの重症化、つまり脳梗塞を防ぐことができます。TIAを予防するとともに、症状がある時に外傷や誤嚥とならないように、そして、脳梗塞とならないように適切な看護を行なっていきましょう。

 

引用文献

1)TIAの新しい概念と対策−日本神経学会,臨床神経(臨床神経学50巻11号910-912|卜部貴夫|2010年11月)

高田典明 看護師

東京都出身、千葉県在住。高校卒業後、一般企業に就職。父が脳梗塞で倒れたのをキッカケに、脳血管障害を有する人の治療に携わりたいと思うようになり、看護師の道を志す。看護学校へ入学、看護師国家試験に合格の後、千葉県内の市立病院(脳神経外科)に就職。父の介護が必要になったことで5年の勤務を経て離職。現在は介護の傍ら、ライターとして活動中。同時に、介護の在り方や技術などにおける勉強も行っている。

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