PICCカテーテルの看護|安全な管理方法と観察ポイント(2017/09/03)
末梢から挿入する中心静脈カテーテル、PICC。中心静脈カテーテルCVに比べ、感染リスクの低さ、合併症の低さなどから注目されているカテーテルです。長期にわたり留置できる分、スキントラブルや静脈炎を起こすこともあるため注意が必要です。とはいえ国内ではまだまだ知名度が低いため病棟で目にすることも少ないことでしょう。もしPICC留置中の患者に出会ったとき、安全な管理ができるよう、PICCの仕組みと管理方法をここで復習しましょう!
1、PICCとは
PICC(Peripherally Inserted Central venous Catheter)とは、末梢から挿入する中心静脈カテーテルのことで、肘または上腕の静脈を穿刺して上大静脈内に先端を留置させます。
出典:Chapter3 静脈栄養2.中心静脈栄養法(TPN)5.PICCとその留置法(NPO法人PDN|井上善文|2012年)
■PICC留置の適応
中心静脈栄養の実施、血管作動性薬剤・化学療法剤などの刺激性薬剤の投与、末梢静脈路の確保が困難な場合に適応になります。
■PICC留置の禁忌
末梢とはいえど中心静脈に留置するため、安静が保てない患者や体位がとれない患者は危険なため実施できません。出血傾向がある患者も穿刺の際や自己抜去されてしまう際に大量出血する恐れがあるため行いません。
■PICCの特徴や利点
PICCの特徴や利点を以下の表にまとめます。
・末梢静脈カテーテルと比較すると、薬剤による静脈炎のリスクが低く、血管外漏出のリスクも軽減することができる
・中心静脈カテーテル(CV)と比較すると、挿入時の合併症が少ない(PICCは腕の静脈から比較的表在の静脈に挿入するため、気胸・血胸、動脈穿刺が発生することがない) ・中心静脈カテーテルと比較すると、感染リスクが低い ・グローションカテーテルを使用している場合は採血を行うことも可能 |
以上の特徴や利点をふまえると、結果的に患者の生活の質を今まで以上に向上させることができるのは事実ですが、日本ではこの利点があまり知られておらず、PICCの普及が遅れています。
■PICCの課題
利点が多いPICCカテーテルですが、実施上の課題も同様にあります。
・一定の技術習得を要するため挿入できるようになるまで時間がかかる(エコーを見ながら穿刺する技術が必要)
・管理する医師・看護師の知識が必要 ・細く長いため急速輸液投与にはむかない |
患者に穿刺・管理できるようになるまで病棟の知識・技術向上が求められるため時間がかかってしまうのが現実です。
2、グローションカテーテルとは
PICCカテーテルの先端がグローションカテーテルの場合があります。グローションカテーテルは、柔軟で先端が丸みを帯びた構造になっています。先端には弁の役割をする切れ目があり、血液が逆流しない仕組みになっています。輸液投与時には陽圧によりバルブが外側へ開き、採血時には陰圧によりバルブが内側へ開き、カテーテルを使用しない期間にはバルブは閉鎖状態となります。血液が逆流しないため、中心静脈カテーテル(CV)から投与の際行っていたヘパリンロックも不要というメリットがありますが、長期投与を続けていると、バルブの機能が弱ってくることもあります。
出典:僻地診療所における新しい在宅輸液療法の考案と実践(へき地医療の体験に基づく学術論文集No.6 日本財団図書館(電子図書)|馬庭芳朗|1997年)
3、PICCカテーテルの刺入部消毒と固定の仕方
グローションカテーテルを固定するには2つの方法があり、刺入部付近で付属のスーチャーウイングを用いて縫合する場合と、カテのウイングをスタットロックで固定・貼付する場合です。
スーチャーウイングを使用した場合 | グローションカテーテルは長期留置が可能であるため縫合による固定は推奨されていません。 |
スタットロックを使用した場合 | スタットロックを使用している場合は、週1回の交換が目安です。 |
交換手順を以下に示します。
準備物品:手指消毒剤、未滅菌手袋、スワブスティック、ドレッシング剤、スタットロック、アルコール綿
①ドレッシング剤を引き延ばしながらコネクタ部分まで剥がし、指定のテープでコネクタ部を固定する ②パッドの粘着面にアルコールを浸潤させながら持ち上げ、ゆっくりと剥がす ③リテイナー(台座)のカバーを開け、カテーテルをスタットロックから外す ④皮膚のアセスメントをし、汚れている場合は清拭する ⑤付属の前処置材(消毒と皮膚保護剤を含んでいる)を貼付部分に塗布し10秒以上乾燥させる ⑥カテーテルをスタットロックに取り付ける(カテーテルの固定位置を前回と変え、ゆったりとループを描くようにして止める) 出典:スタットロック(CV・中心静脈カテーテル用)(メディコン)
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4、PICCカテーテル留置中の患者の観察項目
PICCカテーテルは長期にわたり留置できる分、皮膚トラブルが心配です。感染徴候の早期発見、皮膚トラブルの防止に努めましょう。観察項目を以下に示します。
■刺入部
・発赤、腫脹、疼痛、熱感の有無
・刺入部からの漏出の有無 |
■スタットロック部
・発赤、かゆみ、びらん形成はないか
・固定が外れそうになっていないか ・固定箇所はループを描いて留めてあるか |
■カテーテルの長さ
・定期的に挿入の長さを確認し、抜けてきていないか観察する
・カテーテルの長さを記録に残す |
■輸液投与中
・輸液ラインの接続の多さで感染を起こす可能性があるため、一体型ルートを使用するか、側管からの投与を少なくする(三方活栓はなるべく使用しない)
・接続部から投与せざるを得ないときは、必ず手指消毒、手袋着用、接続部消毒を実施する ・急な熱発に注意する |
5、カテーテル内腔を維持するために
カテーテル内腔を維持するため、生食フラッシュを行います。中心静脈栄養・薬剤投与した後や採血実施後、カテーテルを使用していないときは1週間ごとに生食フラッシュします。フラッシュ時はパルシングフラッシュ法を用いると効果的です。
■パルシングフラッシュ法とは
断続的に生理食塩水を注入して、カテーテル内に水の乱流を起こし、内腔の物理的洗浄効果を高めるフラッシュ法です。少し押して止める、また少し押して止めるを繰り返していき、最後に陽圧ロックします。
6、グローションカテーテルからの採血をする場合
グローションカテーテルがあればPICCからの採血が可能です。実施手順を以下に示します。
①カテーテル先端を血管壁から離れさせるため、生食でフラッシュする
②逆血を確認し、新たなシリンジに付け替える ③採血が終了したら10ml生食シリンジでパルスフラッシュ法を用いてフラッシュする |
まとめ
中心静脈カテーテル(CV)に比べると利点に溢れているPICCカテーテルですが、医師の穿刺、看護師が行う管理もなかなかに難しいのが現実です。とはいえ合併症の少なさから、患者の生活の質の向上や医療従事者の時間効率の向上にもつながるため、PICCの管理法を熟知しておくと必ず役に立つことでしょう。長期留置中のスキントラブルやカテーテル抜け、静脈炎を起こさないよう早期発見に努め、安全に輸液投与ができるよう注意していきましょう!
参考文献
末梢挿入型中心静脈カテーテルと従来の中心静脈カテーテルの多面的比較(日本環境感染学会誌vol24 NO.5 302-331|森兼啓太、森澤雄司、操華子、姉崎久敬||2009年7月8日)
病院感染対策マニュアル(市立札幌病院|2014年2月)
Chapter3 静脈栄養2.中心静脈栄養法(TPN)5.PICCとその留置法(NPO法人PDN|井上善文|2012年11月20日)
東京都在住、正看護師。自身が幼少期にアトピー体質だったこともあり、看護学生の頃から皮膚科への就職を熱願。看護学校を経て、看護師国家資格取得後に都内の皮膚科クリニックへ就職。ネット上に間違った情報が散見することに疑問を感じ、現在は同クリニックで働きながら、正しい情報を広めるべく、ライターとしても活動している。
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