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多系統萎縮症の看護|症状や治療・リハビリ、看護計画、看護ポイント(2017/06/20)

公開日: : 最終更新日:2018/02/17 看護計画 千葉県 脳神経外科 

多系統萎縮症とは脊髄小脳変性症の1つで、小脳失調症やパーキンソン症状、自律神経障害などの症状が現れ、発症すると徐々にADLが低下していく病気です。多系統萎縮症の基礎知識や症状、治療・リハビリについて、看護計画、看護のポイントをまとめました。多系統萎縮症の患者の看護をする時の参考にしてください。

 

1、多系統萎縮症とは

多系統萎縮症とは、脊髄小脳変性症の1種の神経疾患です。脊髄小脳変性症の中でも遺伝性ではなく

(孤発性)、神経変性が小脳以外にも広がるものが多系統萎縮症に分類されます。

 

出典:脊髄小脳変性症 (せきずいしょうのうへんせいしょう) 病名から探す| 社会福祉法人 恩賜財団 済生会

 

脊髄小脳変性症の中の約70%が非遺伝性(孤発性)であり、そのうちの65%が多系統萎縮症、残りの35%が皮質性小脳萎縮症とされています。多系統萎縮症はオリーブ橋小脳萎縮症と線条体黒質変性症、シャイ・ドレーガー症候群という3つの病気が含まれています。

小脳失調症が主症状であるオリーブ橋小脳萎縮症と、パーキンソン症状が主症状の線条体黒質変性症、自律神経障害を主な症状であるシャイ・ドレーガー症候群は、一見違う病気に思えますが、神経細胞に共通の病変が見つかり、さらに病気が進行することで各症状が重複することから、3つの病気をまとめて多系統萎縮症と呼ぶようになりました。

 

2、多系統萎縮症の症状

多系統萎縮症の症状は、主に3つの種類に分けられます。

 

■小脳失調症

小脳失調症は小脳の変性により、四肢をコントロールできなくなるため、歩行時にふらついたり、不規則な歩行になったりします。また、構音障害や眼球運動障害などが起こることもあります。

この小脳失調症の症状は、オリーブ橋小脳萎縮症の患者は早期から出現します。

 

■パーキンソン症状(錐体外路症状)

パーキンソン症状は線条体黒質変性症の患者は早期から出現する症状で、動作が遅くなる、手足がこわばる、小刻み歩行、転びやすいなどが主症状になります。

多系統萎縮症のパーキンソン症状は、パーキンソン病に特有の安静時振戦はほとんど見られないという特徴があります。

 

■自律神経障害

自律神経障害は、シャイ・ドレーガー症候群の患者に早期から出現する症状で、排尿障害、消化管機能障害、体温調節障害、呼吸障害などが現れます。

排尿障害は、畜尿障害と排出障害のどちらも見られることが多いので、尿失禁尿閉、頻尿、尿意切迫感、排尿時間延長などが出現します。また、消化管機能障害は便秘の症状が現れ、体温調節障害は発汗できないことで体に熱がこもりやすくなります。さらに呼吸障害は声帯の奇異性運動によって上気道が閉塞したり、睡眠時の無呼吸が起こることがあります。

これらの多系統萎縮症はどれが最初に現れるのかは、人によって異なりますが、病気の進行に伴い、3つの症状がすべて現れるようになります。また、多系統萎縮症は進行が比較的早く、発症後5年で車イス使用になり、8年で寝たきりになり、その後は死に至るとされています。

 

3、多系統萎縮症の治療・リハビリ

多系統萎縮症の根本的な治療法は確立されていませんので、対症療法とリハビリを行うことで、治療を行います。

多系統萎縮症の対症療法は薬物療法が中心で、小脳変性症の症状にはタルチレリン、パーキンソン症状にはパーキンソン病治療薬を、自律神経障害には起立性低血圧や排尿障害を改善する薬剤を用います。また、多系統萎縮症では、リハビリもとても重要になります。リハビリをすることで四肢や体幹の筋力を維持し、構音機能や嚥下機能の低下を予防します。

寝たきりになった後も、リハビリを続けていくことで、廃用性症候群を予防し、QOLの低下を防ぐことができるのです。

 

4、多系統萎縮症の看護計画

多系統萎縮症の看護問題は、病気の進行度によって大きく変わってきますが、ここでは代表的な6つの看護問題に沿って、看護計画の一例をご紹介します。

 

■転倒リスク状態

多系統萎縮症の患者は小脳失調症によって歩行にふらつきが出ますし、パーキンソン症状で小刻み歩行が見られますので、転倒のリスクが高くなります。そのため、転倒防止のための看護計画を立案して、ケアしていく必要があります。

看護目標 転倒せずに、安全に過ごすことができる
OP(観察項目) ・歩行状態

・ふらつきの有無

・ADL

・行動パターン

・歩行器などの補助具の使用状況

・環境

・衣服や履物

TP(ケア項目) ・ベッド回りの環境整備

・ベッドの高さを調整する

・歩行器を手が届く場所に置いておく

・必要時はポータブルトイレを設置

・衣服や履物は動きやすいものを家族に用意してもらう

・必要時は歩行に付き添う

・ナースコールを手元に配置する

EP(教育項目) ・転倒の危険性を説明する

・歩行状態によっては、離床するときにはナースコールを押してもらうように伝える

 

■セルフケア不足

多系統萎縮症の患者は、小脳失調症やパーキンソン症状などにより、病気の進行に伴って車イスや寝たきりの生活になりますので、セルフケア不足が問題になります。

看護目標 介助をすることで、セルフケアの不足が解消される
OP(観察項目) ・ADLの自立度
・残存機能
嚥下障害の有無
・意欲や依存心、ストレス
・家族のサポート状況
・生活習慣
TP(ケア項目) ・全介助はせずに必要部分のみを介助する
・支持的姿勢で接する
・ベッドサイドの整理整頓、安全の確保
・摂食、清潔、更衣、排泄等を本人の意向を汲んで援助する・自尊心に配慮して援助する・利用できる社会資源を紹介する
EP(教育項目) ・できることは自分で行ってもらうように説明する

・家族に介助のコツや見守ることの重要性などを説明する

・社会資源の活用して、住環境を整えるように家族に指導する

 

■誤嚥のリスクがある

多系統萎縮症の患者は病気が進行すると、嚥下障害が起こりますので、誤嚥のリスクが出てきます。

看護目標 誤嚥を起こさない
OP(観察項目) ・バイタルサイン

・呼吸状態や喘鳴、肺雑音の有無

・顔色、四肢冷感、チアノーゼの有無

・ADL

・嚥下状態

・咀嚼や自己摂取能力

咳嗽反射の有無

・口腔内の残渣、貯留物の有無

血液検査データ

・胸部レントゲン

TP(ケア項目) ・食事の体位の調整

・食事前にアイスマッサージをする

・口腔内を清潔に保つ

・とろみをつける

・食形態を工夫する

・咳嗽、むせこみがある時には中止する

・誤嚥時は吸引やタッピングをする

・嚥下状態によっては、経管栄養の導入を医師に提案する

EP(教育項目) ・ゆっくり少量ずつ摂取するように説明する

・嚥下能力に適した食形態を家族に指導する

・口腔内の清潔保持の重要性を説明する

 

褥瘡発生のリスクがある

多系統萎縮症の患者は寝たきりになることで、褥瘡発生のリスクがあります。

看護目標 褥瘡が発生しない
OP(観察項目) ・バイタルサイン

・皮膚の状態

・機械的な刺激の有無

・栄養状態

・ADLの状態

・自力での体位交換の可否

・排尿や排便の状態

・血液検査データ

TP(ケア項目) ・自力で動けるときには、体位交換を促す

・適宜体位交換の介助をする

・シーツや寝衣のしわを伸ばす

・皮膚が湿潤しないように注意する

・尿失禁や下痢がある場合は、こまめにおむつ交換をする

・骨突出部はクッションなどで圧が分散するように工夫する

・皮膚の清潔を保つ

EP(教育項目) ・自力で動ける患者には、できるだけベッド上で動くように説明する

・家族に褥瘡予防のポイントを説明する

 

拘縮のリスクがある

多系統萎縮症の患者はADLが徐々に低下し、寝たきりになることで、関節拘縮のリスクがあります。

看護目標 関節拘縮を起こさない、悪化させない
OP(観察項目) ・ADL

関節可動域

・筋力の状態

・拘縮の有無

・他動運動時の関節の疼痛の有無、表情

TP(ケア項目) ・良肢位を保つ

・更衣や清潔ケア、体位交換などのケアの時に、関節を動かす

・傾聴を行い、精神的なケアをすることで、リハビリへのモチベーションを保つ

・他動運動の前には関節を温める

EP(教育項目) ・家族に他動運動をするように説明する

・良肢位を保つことの重要性を説明する

・拘縮が起こることのリスクを伝える

 

■無呼吸のリスクがある

多系統萎縮症の患者は、呼吸筋の低下は見られないものの、自律神経障害で上気道が閉塞しやすく、睡眠時に無呼吸になることがあるため突然死につながるリスクがあります。これに対しては、CPAPの導入や気管切開で対応しますが、人工呼吸器の装着に至ることもあります。ここでは、気管切開をした患者さんの看護計画をご紹介します。

看護目標 呼吸苦がない
OP(観察項目) ・バイタルサイン
・チアノーゼ、皮膚冷感の有無
・呼吸苦の有無
・呼吸状態
・痰の性状や量
・検査所見
・動脈血ガス
TP(ケア項目) ・医師の指示に基づいた確実な酸素投与
・適宜、痰の吸引をする・体位ドレナージなどで排痰を促す・気管切開部の消毒やガーゼ交換
EP(教育項目) ・呼吸苦や痰の貯留があるときには、すぐ、知らせてもらう

 

5、多系統萎縮症の看護ポイント

多系統萎縮症の患者は訪問看護を使いながら、自宅療養をする患者が多いため、看護師は家族にも看護・介護のポイントをきちんと指導しておく必要があります。また、病棟看護師は退院前に何か不安や疑問があったら、気軽に相談してもらえるように、訪問看護師は状態が悪化したり心配事あったら、すぐに連絡してもらえるように、日ごろから患者や家族と信頼関係を築いておくことが大切です。

 

まとめ

多系統萎縮症の基礎知識や症状、治療・リハビリ、看護計画、看護のポイントをまとめました。多系統萎縮症は根本的な治療法は確立されていませんが、看護によって患者のQOLを改善することが可能ですので、患者や家族のニーズをアセスメントして、適切な看護ができるようにしましょう。

 

参考文献

脊髄小脳変性症 (せきずいしょうのうへんせいしょう) 病名から探す| 川尻 真和|社会福祉法人 恩賜財団 済生会

高田典明 看護師

東京都出身、千葉県在住。高校卒業後、一般企業に就職。父が脳梗塞で倒れたのをキッカケに、脳血管障害を有する人の治療に携わりたいと思うようになり、看護師の道を志す。看護学校へ入学、看護師国家試験に合格の後、千葉県内の市立病院(脳神経外科)に就職。父の介護が必要になったことで5年の勤務を経て離職。現在は介護の傍ら、ライターとして活動中。同時に、介護の在り方や技術などにおける勉強も行っている。

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