尿失禁(切迫性尿失禁など)を呈する患者への看護目標・看護計画とケア(2016/12/08)
自分の意志に関わりなく尿が漏れてしまう事で悩んでいるけれど、恥ずかしくて我慢しているという人が大勢います。特に比較的若い女性の場合など、家族にも言えず、医師に相談する事もできずに悩んでいるのが実情です。
尿失禁は何も高齢者特有のものでも、珍しいものでもありません。尿漏れの原因もその症状もさまざまで、放っておくと尿路感染症や、時には腎不全など他の疾患を起こしたりする身体的な面だけでなく、心理的・社会的にも大きな影響を及ぼす事になります。
家族が尿失禁の世話をしている高齢者の場合、本人だけでなく家族の生活にも影響が出てしまいます。尿失禁の予防も大切ですが、既に発症している場合も、速やかに診断を受けて対処する必要があります。
目次
1、尿失禁とは
尿失禁とは、自分の意志とは関係なく尿が漏れてしまう事です。加えて、これにより社会的・衛生的に支障を生ずるものと定義付けられています。(日本泌尿器科学会による)
膀胱に250~300mlの尿が溜まると尿意を覚えますが、尿道括約筋が尿の出口をコントロールしていて、放尿できる状況になる(トイレに入って態勢が整う)と膀胱が収縮すると同時に、尿道括約筋が緩んで尿が出ます。このコントロールが効かなくなると、失禁が起きます。
尿失禁が女性に多いのは、男性に比べて尿道が短く、膀胱や尿道を支えている靭帯や骨盤底筋群が元々弱い上、妊娠・出産で負担が増えて益々弱くなるからです。また、排尿機構の異常だけでなく、ADL障害などから排尿がうまくできなくなることによる失禁もあります。
2、尿失禁の種類
尿失禁は、そのさまざまな症状から大きく4つに分けられます。検尿などの他に、膀胱や尿道の内圧、尿の流量や失禁量の測定など、さまざまなテストで特定されます。
2-1、腹圧性尿失禁
尿失禁で一番多いのは、咳やくしゃみをしたり、笑ったり急に立ち上がったり、重い荷物を持ったりして腹圧が急に上がった時に尿が漏れる腹圧性尿失禁です。尿失禁の70%を占め、実に女性の約4割が苦しんでいると言われています。
妊娠・出産による大きな負荷や、加齢による女性ホルモンの分泌量低下によって、骨盤底筋群が弱るためですが、肥満や便秘による腹腔内圧の上昇も骨盤底筋を弱めます。男性の場合には前立腺摘出術の後などに起こります。
参照:腹圧性尿失禁とは? 排尿トラブル改善.com アステラス製薬株式会社
2-2、切迫性尿失禁
腹圧性失禁の次に多いのが切迫性尿失禁です。一旦尿意を催すと、すぐに排尿しないと漏らしてしまう症状を言います。我慢ができず、トイレに行くのが間に合わないため、頻繁にトイレへ行く事で失禁を免れている人もいます。
これといった原因も無しに、膀胱が勝手に収縮してしまう場合もありますが、排尿をコントロールする脳の指令が、脳硬塞や脳内出血、脳腫瘍、その他パーキンソン症候群などによってうまく働かなくなったり、膀胱炎や尿道炎、男性の場合は前立腺肥大症などが原因の場合もあります。
2-3、溢流性(いつりゅうせい)尿失禁
直腸癌や子宮癌の手術の後や、前立腺肥大症や前立腺腫瘍、抗コリン剤やジソピラミドなどの薬剤投与の影響による排尿障害から起きる失禁です。排尿しようとしてもなかなか出てこず、時間をかけてちょろちょろしか出ないにも拘わらず、尿が溜まると少量ずつ漏れる症状です。
2―4、機能性尿失禁
尿道や膀胱の機能が正常なのに、トイレに間に合わずに尿が漏れてしまう症状です。知能障害や肉体的機能障害、精神的または環境的な障害が関連しています。水頭症やパーキンソン病、脳血管性障害による痴呆などの知能障害、種々の心理的不安による情緒障害、精神錯乱といった意識障害などから溢流性尿失禁の症状を呈することがあります。
また、身体的な原因として、認知症などによるADL障害や、関節リウマチや脳卒中の後遺症などによる運動機能の低下で、手足の自由が利かないなどが挙げられます。
これらの他にも、中枢神経の疾患や脊髄の損傷により、少量の尿が膀胱に溜まると、尿意が無いのに尿が漏れる反射性尿疾患や、尿道括約筋の完全損傷からほぼ連続的に尿を漏らす完全尿失禁と呼ばれるものもあります。
3、尿失禁患者への看護目標
尿失禁の患者の看護では、治療によって肉体的・衛生面的・社会的な症状を改善するのはもちろんですが、恥ずかしいという精神的な面でのサポートが非常に重要になります。
尿失禁の種類や症状によってさまざまな治療法があり、簡単な運動でほぼ完治するものから、薬物療法や手術が必要になるものまであります。
患者の命に直接係わる疾患ではありませんが、QOLに大きく影響を与えるので、本人や家族が気持ち良く生活できるようにするのが目標です。
3-1、尿失禁の看護計画
- 尿失禁で入院する患者には、入院による環境の変化や種々の検査・治療処置や手術に対する不安に加えて、尿の匂いに対する恥ずかしさがあります。患者に症状の原因や治療法を丁寧に説明し、不安や恥ずかしさを取り除く事が大切です。
- 尿失禁の患者の一般的な看護は、下記のようになります。
① プライバシーを確保し、気兼ねなく排尿できるようにする。
② 精神的な状況を確かめ、心を安らげるようにする。 ③ 外陰部などの皮膚の状態を調べ、清潔度と発疹・発赤などの有無を確かめる。 ④ 自分で排尿できるかどうか確かめ、必要なら介助する。 ⑤ 失禁した場合は、遠慮せず速やかに援助を求めるよう指導する。 ⑥ 排尿時に痛みや違和感、残尿感が有るかどうかのチェック。 ⑦ 排尿の回数、尿の量や性状のチェック ⑧ 失禁の程度や頻度、おむつや尿瓶・ポータブルトイレ・防水シートなどの必要性と使用状況のチェック。 ⑨ 日々の水分摂取・食欲・睡眠や活動状況のチェック。 |
腹圧性、切迫性、溢流性及び反射性尿失禁には、薬物療法を用いる場合があります。
■腹圧性尿失禁
腹圧性尿失禁が軽症で、比較的年齢層が若く、体力や根気がある患者の場合は、骨盤底筋群の訓練で症状が改善するので、下図のような骨盤底筋群の鍛え方を指導します。ただし、効果が出るまで2~3か月かかります。
■切迫性尿失禁
切迫性尿失禁の場合は、骨盤底筋群の訓練に加えて膀胱訓練も有効です。一日1,200~1,600mlの水分を取り、トイレを我慢する時間を少しずつ伸ばしていきます。
■真性尿失禁
真性尿失禁の場合は尿路異常、膀胱膣ろう、尿道括約筋の麻痺や尿管異所開口などが原因であるため、尿路再建術が必要となります。
■機能性尿失禁
機能性尿失禁では、原因となる疾患や障害の治療が可能な場合と、完治は望めませんが適切なケアによって症状を改善できる場合があります。
テストの結果、失禁量が多い場合や尿失禁が日常生活に大きな影響を与えている場合は、手術で対処します。体への負担は少なく効果がありますが、通常の手術後の看護と同時に尿失禁の改善に関する看護も必要です。合併症の発症を防ぎ、早期回復ができるよう、下記に注意します。
・ 痛みの部位や程度など
・ 尿道バルンカテーテルが挿入されている場合、抜去や屈曲・逆流を防ぐようしっかり固定されていて、挿入部や周りが清潔に保たれていること ・ 手術前後の排尿パターンの変化、尿の流出状態・量・性状など ・ 残尿感がある場合は、自己導尿(下腹部を抑える)を指導 ・ 感染症による発熱・腎機能低下などの有無のチェック |
3-2、尿失禁患者へのケア
尿失禁患者へのケアで大切なのは、失禁を減らす事や無くす事ではなく、できるだけ不快感を軽減して快適な生活を送れるようにする事です。
■ケアのポイント
① 失禁行為や尿の匂いは、本人に罪悪感や自責の念を招きやすいので、恥じる必要は無いと説明します。
② 手術をした場合でも、再発予防としての骨盤底筋訓練の大切さを説明し、症状が改善した後も生活習慣として継続するよう指導します。 ③ 失禁を恐れて水分を控えずに十分な水分を摂取した上で、夕食後の摂取は控えるように指導します。 ④ 原因が肥満の場合には体重コントロールを、便秘の場合はその改善を指導します。 ⑤ 定期的にトイレへ行く利点を説明し、習慣付けるようにします。必要ならトイレへ誘導し、排尿の時刻・量・性状などを記録する排尿日誌の利用も勧めます。 ⑥ 寝たきりの人でも、できればトイレで座って排尿するよう介助します。 ⑦ 尿漏れや下着の汚れの状態に注意し、陰部を清潔に保ち、必要ならおむつや下着の交換を介助します。 ⑧ 排尿しやすい下着や衣服の着用を指導します。 ⑨ 咳やくしゃみが出そうなときに、男性では陰部のつけ根を、女性では尿道口のあたりを押さえると失禁が防げる事を説明します。 |
特に機能性尿失禁の場合は、どうやって失禁を避けられたかなどに注目し、本人が成功を喜ぶように導きます。また、認知症などによるADL障害の場合は、本人にできることを探して、できるだけ本人が自分で排泄できるようにします。
まとめ
尿失禁は恥ずかしさが先立つので、診断や治療を求める段階では、既に長い間苦しんでいた可能性があります。患者の心を和らげ、症状の改善に専心できるよう手助けするのが看護のポイントです。
また、認知症などによるADL障害の場合は、家族の理解を求め、おむつなどの活用法なども指導して、本人も家族もできる限り快適な日常生活が送れるようにする事が重要です。
兵庫県神戸市出身。兵庫県内の一般病院(泌尿器科)で5年勤務の後、キャリアアップのために同県内の大学病院へ転職。泌尿器科で2年、透析科で3年勤務し、出産を機に離職。現在は3児のママとして、専業主婦をしながら空いた時間にライター業務を行っている。
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