脳腫瘍の看護|看護における問題と観察項目、看護計画について(2017/02/20)
死に至ることもある恐ろしい病気というイメージも持たれる脳腫瘍ですが、患者への看護には、綿密さのほか、患者のデリケートな精神面にも対応したケアが求められます。脳腫瘍にはさまざまな種類があり、症状も多岐に渡っています。脳腫瘍および脳腫瘍の疑いのある患者に接する上での注意点やポイントをまとめ、脳腫瘍患者や家族に対して、想定される看護やケアの形も挙げてみましょう。
1、脳腫瘍とは
脳腫瘍は、頭蓋骨の中で腫瘍ができる病気です。発生原因は明らかになっていません。
脳腫瘍には多くの種類があります。脳から発生したものは脳実質内腫瘍、脳を包む膜や脳神経、下垂体んどから発生・発育するものを脳実質外腫瘍と言います。身体の他の部位で発生した癌が転移した場合は、転移性脳腫瘍と呼ばれます。
脳腫瘍は良性から悪性までさまざまなケースがありますが、良性の場合も腫瘍ができる場所などによっては、重症となることもあります。例えば、聴神経腫瘍は、病理学的には良性腫瘍となりますが、大きくなると小脳や脳幹部まで圧迫して吐き気をもよおすようになり、呼吸中枢を圧迫すると死に至る可能性もあります。
出典:聴神経腫瘍 東京女子医科大学脳神経外科
診断には頭部CTやMRIなどの画像検査が用いられます。治療にあたっては患者の年代や腫瘍のできた部位、大きさ、成長度などに応じて方法が打ち立てられますが、手術が基本となります。腫瘍が大きければ、手術でも取り除きにくくなる場合もあります。また、病理診断の結果次第では、放射線治療や化学療法も治療に取り入れられるケースも発生します。
2、脳腫瘍の術後観察項目
前述したように、脳腫瘍の基本的な治療には、手術が外せません。そこで脳腫瘍患者へのケアのうち、術後看護に絞ってポイントをまとめてみたいと思います。
■合併症の予防
脳腫瘍の手術は全摘出を試みるほど術後合併症の頻度がアップすると言われています。警戒すべき代表的な合併症として、患部に到達する過程で凝固切離した動脈から術後出血するケースが挙げられます。腫瘍周囲の脆弱な血管を残す手術の中で術中にヘパリンを使用した場合、術後にしっかりと血圧管理をすることが、術後出血の発症度を下げるポイントとなりますので、血圧のチェックと管理の徹底が求められます。
■身体的苦痛に対するケア
脳に癌が転移した場合、びまん性の頭痛や嘔吐、さまざまな神経症状が起こります。入浴で温めることで痛みを軽減させたり、呼吸法によるリラクゼーションを試みるほか、患者が気分転換できるように外出や外泊を促すことも、痛みに対する看護にあたります。看護ケアを施すことで、がんの痛みの治療効果を上げる可能性もありますので、患者の言葉や行動をよく注意しながら患者の痛みの内容などを理解するように努め、積極的にケアを行うようにしましょう。
出典:脳腫瘍について 熊本市民病院
■日常生活における指導
術後の患者のリハビリには、理学療法士や作業療法士があたりますが、リハビリテーション以外でも、病棟で患者が看護師と一緒にリハビリに取り組むこともあります。リハビリテーションでのプログラム内容の進行具合とも照らし合わせた上で、患者が日常生活に必要な動作が少しでも早期に習得できるような援助を進めていきましょう。
3、ケース別で見る脳腫瘍患者への対応計画
その他に脳腫瘍患者をサポートする環境として考えられるケースを挙げながら、患者やその家族とどのように接し、向き合い、どのような援助ができるか、といったことを示していきたいと思います。
■退院後の在宅介護が予想される患者家族への対応
退院後の在宅介護が要される患者の家族には、入院中に具体的な介助を経験してもらうことが、自宅でのより円滑な介護実践につながります。具体的な介助方法について説明・助言するだけでなく、医師やリハビリ担当スタッフらとも連携して、在宅介護開始時に介護者が抱くであろう戸惑いやストレスを少しでも軽減できるように先手を打った対策を講じましょう。悪性脳腫瘍の場合、患者に状態の変化が起こりやすく、放射線や化学療法の副作用も加わると、患者本人や介護者の不安が大きくなる可能性も考えられます。脳腫瘍によって引き起こされる症状が生活に対してどのような影響をもたらすのか、介助する上での注意事項は何か、といった情報も患者の家族など在宅介護を行う人にしっかりと伝えておくことが重要です。
■維持療法を受ける小児患者の家族への対応
小児悪性腫瘍では、手術後に外来での維持療法が取り入れられます。再発を防ぐために定期的に来院して治療を続けることになるのですが、このような患者の家族が抱える不安として、幼い故に自身の病気のことをよく理解できていなかった患者が将来的に、脳腫瘍に対する情報を得る時が来ることが挙げられます。看護師としてはその時に「子供にどこまで詳しい説明をするのか」といった母親の相談を受け、医師との話し合いもスムーズに実現できるように架け橋の役割を担うことができます。このような病名告知や病気の再発など、同じ不安や悩みを抱える母親同士が情報交換できるような環境づくりにも、一役買うこともできるでしょう。
また、患者が成長して進学や就職に対する不安を持ち始めた際にも、患者の悩みに耳を傾け、相談先を紹介するなどのサポートができます。このように患者や家族の心理的、社会的な負担についても理解した上で、できる限りの配慮を行う役目が看護師に求められていると、言えるでしょう。
末期の悪性脳腫瘍が進行している場合、終末期の患者に対するケアに移行することもあります。ターミナルケアや終末期の患者や家族へのケアも考慮する必要性が生じてきます。
末期になると、患者が激しい痛みを訴えることが少なくなり、徐々に歩行困難や片麻痺といった症状が悪化する状態などが報告されています。ターミナルステージになると、看護計画も外泊に向けたケアに変更する場合があります。
具体的には家に帰りたがったり、治療を拒むなど尊厳死を望む患者に対して精神的安楽を得られるように外泊という処置を働きかけたり、外泊前の患者の家族に対し、点滴や吸引などの指導を行い、嚥下状態を観察して経口摂取時の注意点などを伝えるといった援助法があります。また、患者が苦痛を伴う処置を拒むケースもあり、患者や家族の思いを積極的に医師に伝達し、患者側と病院側で十分な話し合いができる環境づくりを心がけたり、患者の言語や状態から痛みの程度を判断して痛みのコントロールを図っていくことも、看護師の役割と言えるでしょう。
信州大学医学部附属病院看護研究集録の「脳外科における腫瘍末期患者との関わりについて考える」では、以下のようなポイントが示されています。
・患者の声に耳を傾け、可能な限り本人の意志が尊重されるような看護介入を行う。
・外泊することによる精神面のメリットと、身体面に与えるデメリットの可能性を評価する。 ・家族の負担が軽減されるような外泊をすすめる。 |
まとめ
脳腫瘍患者に関しては状態観察や具体的な看護のほか、精神的なケア、患者家族に対する在宅介護や外泊中の患者への対応に関する助言など、看護師の果たす役割は多方面に及びます。日ごろからチーム医療の充実を図ったり、病気に関する新しい情報などを取り入れる姿勢を持って看護に取り組むことも、患者の闘病生活を支える一因になり得ることを確信しながら、個々の患者や家族にとってどのような支援が必要なのか、どのようなサポートができるのか、といったことに気を配りケアを続けることが肝心です。
参考文献
1)伊藤道子・伊藤寿満子 他「脳外科における腫瘍末期患者との関わりについて考える」『信州大学医学部附属病院看護研究集録』
東京都出身、千葉県在住。高校卒業後、一般企業に就職。父が脳梗塞で倒れたのをキッカケに、脳血管障害を有する人の治療に携わりたいと思うようになり、看護師の道を志す。看護学校へ入学、看護師国家試験に合格の後、千葉県内の市立病院(脳神経外科)に就職。父の介護が必要になったことで5年の勤務を経て離職。現在は介護の傍ら、ライターとして活動中。同時に、介護の在り方や技術などにおける勉強も行っている。
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