肺がん患者への看護計画(OP・TP・EP)と終末期におけるケア(2016/12/06)
近年、日本人が罹患するがんの部位は、大腸、肺、胃、前立腺、乳房の順に多くなっていますが、がんによる死亡原因のトップは肺がんです。
2015年の統計1)によると、がんによる部位別死亡数は、男性53.208名、女性21.170名となっており、男女合計では7万4378人で最多となります。今回は、患者数の多い肺がんとその看護について、知見を深めていけたらと思います。
目次
1、肺がんとは
肺は呼吸をするための器官で、体内に酸素を取り込み、体外へ二酸化炭素を排出しています。口や鼻から吸った空気は、気管と気管支を通して肺に入り、気管支が分岐を繰り返して、肺胞で血液中の二酸化炭素と空気中の酸素を交換しています。
肺がんとは、肺の気管、気管支、肺胞の一部の細胞が正常の機能を失い、なんらかの原因でがん化したものです。進行するにつれてまわりの組織を破壊しながら増殖し、血液やリンパの流れにのって広がっていきます。
肺がんは、採取した組織を顕微鏡で精密に調べる病理検査によって、主に腺がん、扁平上皮がん、小細胞がん、大細胞がんに分類されます。治療上では、経過や治療方法や治療効果の違いから、非小細胞肺がんと小細胞肺がんの2種類に大きく分けられます。
■非小細胞がん
肺がんの約80-85%を占めています。腺がん 、扁平上皮がん 、大細胞がんなど、多くの異なる組織型があり、がんの発生しやすい部位、進行の度合いとその速さ、症状などはその種類によって異なります。いずれの部位でも化学療法や放射線治療で効果が得られにくく、手術を中心とした治療が行われます。
■小細胞肺がん
肺がんの約15-20%を占めています。がん細胞の増殖のスピードが速く、転移(肺から離れたリンパ節、脳、肝臓、副腎、骨などにがん細胞が移動し、そこで増殖すること)しやすい悪性度の高いがんです。発見時には、すでに多臓器へ転移していることがしばしばみられます。しかし、非小細胞肺がんよりも抗がん剤や放射線治療の効果が得られやすいと言われています。
組織分類 | 多く発生する場所 | 特徴 | |
非小細胞肺がん | 腺癌 | 肺野部 | 女性の肺がんで多い 症状が出にくい |
扁平上皮癌 | 肺門部 | 喫煙との関連が大きい | |
大細胞癌 | 肺野部 | 増殖が速い | |
小細胞肺がん | 小細胞癌 | 肺門部 | 喫煙との関連が大きい 転移しやすい |
1-1、肺がんのステージ
肺がんのステージは、がんの広がり・転移の有無により、進行を潜伏がん、0、I、II、III、IV期に分類されます。肺がんでは上記表のステージIAまでを早期がん、それ以降を進行がんと判別されます。
ステージ | 状態 | |
0期 | がんがまだ粘膜内に留まっている。進行がかなり浅い | |
ステージI期 | IA | がんが肺の中に留まっており、リンパ節転移の無い状態で、がんの直径が3cm以下である。 |
IB | がんが肺の中に留まっており、リンパ節転移の無い状態で、がんの直径が3cm~5cmである。 | |
ステージII期 | IIA | リンパ節転移の無い、がんの直径が5cm~7cmである。
がんが転移しているが、肺の入り口までで留まっているものであれば、がんの直径は3cm~5cm。 |
IIB | リンパ節転移の無い、7cmより大きいが手術で摘出できる大きさのがん。
がんが転移しているが、肺の入り口までで留まっているものであれば、がんの直径は5cm~7cm。 |
|
ステージIII期 | IIIA | 最初にがんができた側の肺の周辺組織(縦隔リンパ節・胸膜・胸壁・横隔膜・心膜など)にがんが広がっている。 |
IIIB | 最初にがんができた側の肺の反対側の周辺組織(縦隔リンパ節・胸膜・胸壁・横隔膜・心膜など)にまで、がんが広がり転移している。 | |
ステージIV期 | がんが脳・肝臓・副腎など、肺から遠い位置にある他の臓器や組織にまで転移している。悪性の胸水を伴っている。 |
1-2、肺がんの症状
肺がんの初期症状は、主に以下のような症状が挙げられます。
■初期の肺がんの症状
・ 咳(なかなか治りにくい咳)
・ 発熱 ・ 呼吸困難 ・ 息切れ ・ 息苦しさ・呼吸時のゼーゼー音(喘鳴) ・ 声のかれ(嗄声:させい) ・ 体重減少 ・ 痰 ・ 血痰 (血の混じった痰) ・ 胸の痛み |
しかし、これらは必ずしも肺がん特有の症状では無い場合があり、呼吸器疾患の症状と区別がつかないことがあります。また、早期の肺がんは進行度に関わらず、症状がほとんどない場合が多く、症状があったとしても風邪や体調不良の為だと考えてしまうケースが珍しくありません。
進行肺がんには以下のような症状があります。初期の肺がんと異なり、進行した肺がんは、骨転移や肺転移、肝臓転移、脳転移などの遠隔転移を起こすため、さまざまな自覚症状が現れてきます。
■進行肺がんの症状
骨に転移 | 肩や背中、腰の骨などに痛みを感じるようになります。 |
副腎に転移 | ホルモン分泌の異常によって顔が浮腫んだり、骨粗鬆症や多毛になることがあります。その他、悪心や嘔吐、低血圧の症状が出ることもあります。 |
肝臓に転移 | 背中や腰、お腹が張るような痛みを感じる、食欲不振、体か重く感じる、黄疸がでるなどの症状が出ます。 |
脳に転移 | 目のかすみや、ふらつき感、味覚の変化、ろれつが回らなくなるなど、さまざまな症状があります。 |
2、肺がんの看護
肺がんも他の看護と同様に、看護過程を経て看護問題を作成します。以下の項目などについて、アセスメントと看護診断によって、適切な看護問題を取り上げます。
患者の背景、現病歴、既往歴、職業、生活習慣、飲酒、栄養状態、排泄状態、病気についての認識、苦痛の有無、コミュニケーション能力など |
2-1、肺がんの看護過程・関連図
看護過程における関連図は、患者に関連した情報を示す図になります。全体像を把握するのに有用なツールとなります。関連図によって「病態関連図」と「全体関連図」に分かれ、それぞれ病気に関する情報の認識と、患者の健康状態や、生活習慣、家族関係などを把握することができます。関連図によって病気と患者の全体像を理解することによって、的確な「看護問題」を抽出することができます。
2-2、肺がんの看護計画・目標
患者の症状や治療方法によって、肺がんの看護計画と看護目標を作成し実施してきます。
例)化学療法の看護
・ 看護問題 - #1 腎毒性 ・ 看護目標 - 尿量が維持される ・ 看護計画 |
■OP(観察項目)
- 血液検査データから、腎機能の低下がないか確認する
- 排尿回数、尿量、IN OUTバランスに注意し、尿量が確保されているかを確認する
- 浮腫みの有無、体重の変化、動悸、呼吸困難の有無、頻脈
- バイタルサインに注意し、心拍や血圧に変化があった際は医師に報告する
■TP(ケア項目)
■EP(教育・指導項目)
- 排泄の重要性を説明する
- 浮腫み症状を感じたら、看護師に報告してもらう
- 必要飲水量の説明をし、水分不足にならないよう気を付けてもらう
3、肺がん治療
肺がんの治療方法は、主に外科手術、化学療法(抗がん剤)、放射線療法の3つがあります。肺がん治療を行う際には、がんの種類、がんのステージ、患者の体力などの身体的状態によって治療方針を決定します。
3-1、肺がん外科手術
肺がんの外科療法は、がんの転移や浸潤がみられない段階初期の場合に選択される治療方法です。主に以下の3種類の外科手術が行われます。
■標準手術
肺がんの外科手術の基本となる手術で、がんのある肺葉を切り離す「肺葉切除手術」になります。転移を防ぐために、肺の周囲にあるリンパ節も同時に切除されることがほとんどです。肺がんが大きい場合は、肺葉のみだけではなく、片方の肺を切除する症例もあります。
■縮小手術
5つに分かれた肺葉は、さらに肺小葉という小さなブロックに分かれます。肺がんが小さい場合には、「縮小手術」と呼ばれる、肺小葉の切除が行われます。標準手術よりも身体への負担を減らすことができるため、肺機能の低下を防ぐことができます。
■拡大手術
肺がんが肺の周囲に浸潤している場合に行われる手術です。がんが広がっている周辺の臓器や組織も含めて広範囲を切除することから「拡大手術」と呼ばれています。拡大手術は、身体にかかるダメージが大きいので、患者の体力を考慮して手術が行われます。術前に放射線治療などを行ってがんを縮小させた上で手術を行うことも少なくありません。
3-2、肺がん化学療法(抗がん剤)
肺がんの化学療法は、抗がん剤を用いた治療方法です。抗がん剤の効力で、がんを抑制し減少させることを目的として行われます。外科手術で取り除くことが難しいがんや、多臓器に肺がんの転移がみられる際に、化学療法が行われるケースが多くなっています。
■非小細胞がんの化学療法
非小細胞がんは、小細胞がんに比べて抗がん剤の効果があらわれにくいという特徴があります。非小細胞がんの治療は、外科手術による切除が基本的な治療となっているため、外科手術の準備段階として化学療法が併用されることが多くあります。
■小細胞がんの化学療法
小細胞がんには「抗がん剤が高い効果を示す」という特性があるため、化学療法は手術よりも有効な治療法だと考えられています。小細胞がんは、がん細胞の増殖スピードが早く、初期段階から転移がみられます。そのため、外科手術が行われるケースは稀で、手術が実施される場合であっても、化学療法や放射線治療が併用されます。
なお、化学療法の看護に関しては、以下のページで詳しく解説しています。
3-3、肺がん放射線治療
放射線療法とは、X線やγ線などをがん細胞に直接照射することでダメージを与えて、がん細胞を死滅させる治療法です。肺がん細胞が比較的小さく、周囲の臓器などに広がっていない場合に有効な治療法になります。
放射線治療は、細胞の増殖スピードの速いがんに効き目が高いため、非小細胞肺がんよりも小細胞肺がんへの治療に高い効果を発揮します。また、がん細胞縮小により、痛みの軽減や、術後のがん再発予防を目的として、放射線治療が行われることもあります。
4、肺がんの終末期(ターミナル)
肺がんの終末期によくみられる症状としては、痛み、極度の疲労感、咳、息切れ、死前喘鳴、せん妄、発熱、出血などがあります。最終的な末期になると浮腫や痛みが強くなり、食欲もなくなるので衰弱が進みます。
がんの治療から、苦痛や痛みを和らげる緩和ケアの移行選択が必要不可欠になってきます。緩和ケアによって患者自身のQOLを改善させるために、痛みや呼吸困難の症状を薬で和らげながら精神的なサポートも行われます。
緩和ケアで使われる鎮痛薬には種類がありますが、最終的にはモルヒネを使用します。モルヒネで痛みは緩和されますが、悪心嘔吐、血圧低下、便秘、眠気、呼吸抑制などの副作用があり、またモルヒネの使用量によって患者は眠るように楽になりますが、コミュニケーションはできなくなってしまいます。緩和ケアの選択には患者を含む家族の意思決定が重要になってきます。
まとめ
肺がんは、数あるがんの中でも死亡率が高く、軽快したとしても再発や転移することが少なくありません。
観察や基本的な看護ケアはもちろんのこと、精神的ケアも非常に重要となりますので、患者が安心して治療を行えるよう、また安心して療養生活を送れるよう、寄り添う看護を実施していきましょう。
参考文献
京都府出身、大阪府在住。大阪府内の一般病院で呼吸器科に8年間就業の後、現在はフリーの看護師として、さまざまな医療現場で働きながら、看護分野に関する取材や執筆活動を精力的に行っている。座右の銘は「健康第一」。過酷な看護業務に耐えうるため、また患者に対する献身的な看護を実施するため、自身の健康も必要と考え、2012年からマラソンを始める。現在では各地のイベントや大会に参加するなど、活躍の場は看護のみにとどまらない。
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