CO2ナルコーシス患者の看護|観察項目と具体的なケアのポイント(2017/01/17)
普段、私たちは無意識に呼吸をしています。息を吸って吐くことで、生命活動に必要な酸素を体内に取り入れ、不要となった二酸化炭素を排出しています。
通常、体内の酸素と二酸化炭素の濃度は呼吸によって調整されていますが、疾病等により酸素と二酸化炭素のバランスが崩れてしまうことがあります。呼吸機能の障害は、死に直結する可能性が高く非常に危険です。
ここでは、呼吸機能の障害により引き起こされるCO2ナルコーシスの病態や治療、看護ケアについて説明したいと思います。
目次
1、CO2ナルコーシスとは
高炭酸ガス血症により意識障害や中枢神経障害を生じることを「Co2ナルコーシス」と言います。高炭酸ガス血症とは、何らかの原因により二酸化炭素の排出が不十分となり、血中の二酸化炭素濃度が上昇した状態のことです。
重篤の場合は自発呼吸が抑制され、呼吸困難に陥ることもあり、ナルコーシス(Narcosis)は昏睡状態を意味しています。
2、CO2ナルコーシスの原因
CO2ナルコーシスの原因は様々ですが、肺の器質的疾患を有している場合が多く、慢性閉塞性肺疾患(肺気腫、慢性気管支炎)や気管支喘息、結核等が原因となる場合があります。また、呼吸器感染症や、うっ血性心不全、手術による侵襲、気胸等が誘因となり引き起こされることもあります。
■肺気腫
酸素と二酸化炭素のガス交換を担う肺胞が破壊され、呼吸機能が低下し、体内に必要な酸素を取り込むことが困難になる疾患です。主な症状は、息切れ、咳、痰で体動時に呼吸困難を呈する場合もあります。最も多い原因は喫煙で、遺伝子的要素が重なり発症すると考えられています。
■慢性気管支炎
持続性または反復性の痰を伴う咳が、少なくとも毎年3カ月以上続き、その症状が2年以上続いてみられる場合を慢性気管支炎と言います。喫煙や排ガス、大気汚染などが主な原因と考えられており、症状は咳や痰、悪化すると息切れや呼吸困難を引き起こすことがあります。
■気管支喘息
気管支の慢性的な炎症により、発作性の咳や痰、喘鳴や息切れを生じるものを気管支喘息と言います。ダニやハウスダスト等のアレルギーが原因とされ、重症発作になると呼吸困難によるチアノーゼや意識障害を引き起こすことがあります。
⇒気管支喘息患者に対する看護目標・看護計画と具体的なケアの方法
■結核
結核菌により引き起こされる感染症で、咳や痰、発熱などの感冒様症状を呈します。感染しても症状を発症することは少ないですが、体力や免疫力の低下により発症する可能性があります。進行すると喀血や呼吸困難をきたし、死に至る場合もあります。
3、CO2ナルコーシスの症状
高炭酸血症になると、頭痛や振戦、傾眠等の症状が出現し、特に体温に関係なく著明な発汗がみられ、頭痛は頭蓋内圧が亢進されることにより引き起こされます。
高炭酸ガス血症により二酸化炭素濃度が高い状態が続くと、呼吸中枢や神経中枢を抑制し自発呼吸を弱めてしまうため、さらに換気機能が悪化し、血中の二酸化炭素が上昇するという悪循環となり、最終的には意識障害や昏睡状態に陥ってしまいます。
患者の症状や病歴、動脈血ガス分析、胸郭X線写真などにより診断が行われますが、慢性閉塞性肺疾患の患者では血中の二酸化炭素濃度が高くなっても、意識障害を伴わないケースもあるため注意が必要となります。
4、CO2ナルコーシスの治療
CO2ナルコーシスには以下の治療方法があります。
■低濃度、低流量酸素投与
低濃度、低流量で酸素投与を行います。呼吸機能では通常、体内の酸素濃度が上昇すると換気が減少し、酸素濃度が低くなると換気が増加します。そのため、一度に高濃度の酸素を多量に投与すると、血中の酸素濃度が上昇し呼吸が抑制されてしまいます。さらなる呼吸状態の悪化を防ぐためにも、酸素濃度や流量に注意し投与する必要があります。
■人工呼吸管理
鼻マスクや顔マスクにより人工呼吸を行います。意識障害や呼吸停止を伴う場合は、気管挿管による人工呼吸を行います。
5、CO2ナルコーシスの看護目標
CO2ナルコーシスにおける看護の目標は、呼吸状態が安定し、心身の苦痛が軽減されることです。呼吸状態が悪化すると、日常生活動作が制限されるだけでなく、生命の危機に陥る可能性も高いため、患者の精神的苦痛も増強されることが予測されます。
患者の全身状態を観察しながら、個々の患者に合った看護ケアを計画していきましょう。加えて、CO2ナルコーシスの原因となる基礎疾患や誘因となった疾患への治療も、薬物療法等により併せて行っていきます。
6、CO2ナルコーシスの観察項目
呼吸機能が低下すると生命の危機にさらされることになります。特に頭痛や発汗などの症状がみられた場合は、重篤な状態に陥る危険性があるため、迅速なアセスメントと対応が必要となります。
個々の患者の状態を十分に観察し、患者の全身状態を把握することが大切です。意識障害が出現している場合や全身状態が悪化している場合は、自覚症状を訴えることができないため、より全身状態の観察が重要となります。
観察項目 | ・ バイタルサイン(血圧、脈拍、体温、SPO2など)
・ 呼吸状態(回数、リズム、深さ、胸郭の動き、肺音) ・ 呼吸困難の有無(喘鳴、チアノーゼ、爪、粘膜の色調など) ・ 発汗の有無 ・ CO2ナルコーシスに伴う症状、自覚症状の有無 ・ 神経症状、意識レベル ・ 検査データ(胸部写真、血液検査、血液ガス分析など) ・ 精神状態 ・ ADL、安静度 |
7、具体的な看護ケア
CO2ナルコーシスを発症した患者には、①酸素療法および人工呼吸管理、②薬物療法・点滴管理、③喀痰喀出のための援助、④室温調節等の環境整備、⑤安静保持や体位への援助、⑥不安の緩和、⑦ADLに対する援助、などのケアを包括的に行っていきます。
呼吸は生命に関わるものですので、綿密な観察の上、細やかなケアを実施していく必要があります。
①酸素療法および人工呼吸管理
医師の指示に従って、酸素濃度や流量、人工呼吸器の管理を行います。
②薬物療法・点滴管理
指示された薬剤が確実に投与されるよう管理しましょう。
③喀痰喀出のための援助
喀痰は喀出できないことにより、呼吸状態に影響を及ぼす可能性があるため、患者が自分で喀痰の喀出ができない場合は援助が必要です。
④室温調節等の環境整備
室温や室内環境も呼吸状態に影響を与える要素のひとつです。適宜換気を行いクリーンな環境を維持できるよう援助していきましょう。
⑤安静保持や体位への援助
呼吸や全身状態により安静度が制限されます。楽な呼吸ができるよう体位を保持し、少しでも安楽な姿勢を保てるよう援助しましょう。
⑥不安の緩和
呼吸は生命の維持に必要不可欠な機能です。呼吸状態の悪化による苦痛や死への恐怖などにより、不安やストレスが増強する可能性がありますので、精神的ケアにより不安やストレスの軽減に努めましょう。
⑦ADLに対する援助
安静度の制限や身体的状態によりADLが自分でできなくなることがあります。患者ごとにどのようなサポートが必要か、しっかりとアセスメントし患者に合った方法で呼吸状態に影響しないよう援助していきましょう。
まとめ
CO2ナルコーシスは重度になると意識障害や呼吸抑制を引き起こし、死に至ることもあります。呼吸状態が悪いからと言って不用意に高濃度の酸素を投与したり、CO2ナルコーシスを恐れるあまり酸素投与を怠ると、患者が危険な状態に陥ってしまう場合があります。
悪化を防ぐためにも、しっかりと病態を把握し患者の状態を見極めることが大切です。また、万が一のために呼吸抑制に備えた準備をしておくことも重要となります。迅速な対応と適切な看護が提供できるよう、Co2ナルコーシスへの知識を身につけ、理解を深めていきましょう。
京都府出身、大阪府在住。大阪府内の一般病院で呼吸器科に8年間就業の後、現在はフリーの看護師として、さまざまな医療現場で働きながら、看護分野に関する取材や執筆活動を精力的に行っている。座右の銘は「健康第一」。過酷な看護業務に耐えうるため、また患者に対する献身的な看護を実施するため、自身の健康も必要と考え、2012年からマラソンを始める。現在では各地のイベントや大会に参加するなど、活躍の場は看護のみにとどまらない。
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