COPD(慢性閉塞性肺疾患)の看護計画|肺気腫の治療・原因・症状と4つの要点(2017/09/24)
タバコ煙を主とする有害物質を長期に吸入曝露することで生じた肺の炎症性疾患で、呼吸機能検査で非可逆性の気流閉塞を示すCOPD(慢性閉塞性肺疾患)。活動により呼吸困難を起こすため、活動が制限されることで筋力低下、食欲不振を招き悪循環に陥りやすい疾患です。自宅でもセルフマネジメントを行いながら、安全に日常生活が送るための3つの看護ポイントをまとめました。
目次
1、COPD(慢性閉塞性肺疾患)とは
呼吸とは、生命の維持に必要なエネルギーを得るために、空気中から肺胞へ酸素を取り込み各組織へ供給するとともに、各組織から肺胞へ二酸化炭素を運搬し、体外へ排出する生理機能のことをいいます。呼吸が何らかの原因によって正常な生体機能を営めなくなった状態を呼吸不全といい、この状態が1か月以上続くものが慢性呼吸不全です。COPDとは、タバコ煙を主とする有害物質を長期に吸入曝露することで生じた肺の炎症性疾患で、呼吸機能検査で非可逆性の気流閉塞を示します。診断には気管支拡張薬投与後の1秒率(FEV1.0%<70%)が必須の条件です。
出典:COPDのリスク(独立行政法人環境再生保全機構)
以前は肺気腫と慢性気管支炎の2疾患単位で分けられていましたが、実際にはそれらの要素を種々の割合で有していることが多く、両者を総称した疾患概念としてCOPDが用いられるようになりました。
2、COPDの原因
COPD患者の9割に喫煙歴があるといわれており、喫煙が最大の危険因子となっています。中年以降の男性に多くみられ、そのほか発症・増悪には、加齢、大気汚染、感染症(肺炎球菌やインフルエンザ桿菌)、粉塵、有害物質の吸入などが関与しています。
3、COPDの治療
慢性安定期呼吸困難時には、大気汚染や職場環境などの病因を除去し、積極的な排痰(体位ドレナージ)、呼吸リハビリテーション、薬物療法(抗コリン薬などの気管支拡張薬、吸入ステロイド、去痰薬を使用する)、酸素療法を行います。PaO2≦55TorrおよびPaO2≦60Torrで睡眠時または運動負荷時に著しい低O2血症が見られる場合は在宅酸素療法を導入します。それでも症状が改善しない場合は外科的手術(肺容量減量手術)が行われます。呼吸困難時には、腹式呼吸、口すぼめ呼吸、リラクセーションなどによる効果的な呼吸法の習得が望まれます。
4、COPDの症状
COPDでは咳嗽、喀痰、労作時呼吸困難が主な症状です。胸部打診では過共鳴音、聴診では肺胞呼吸音減弱、呼気延長を示します。COPDでは気管支閉塞により呼気が延長するため口すぼめ呼吸が見られるのが特徴です。胸部X線では樽状胸郭、肺の過膨張所見として、透過性の亢進、横隔膜の平低化、滴状心をみとめます。
出典:COPD(慢性閉塞性肺疾患)とは?(地方独立行政法人神奈川県立病院機構神奈川県立循環器呼吸器病センター)
またCOPDの合併症は全身に及ぶため注意が必要です。合併症を以下にまとめます。
■肺高血圧症・肺性心の合併
COPDが進行すると、肺動脈圧が上昇する肺高血圧症を合併します。これは予後不良や病態の悪化を意味します。持続的な肺高血圧症の存在は右心室肥大と拡張をもたらし、肺性心とよばれる状態になります。さらに進行すればうっ血性心不全を起こし、頸静脈怒張、下腿浮腫、肝腫脹、体重増加、尿量減少などの右心不可の症状が出現するようになります。
■低栄養状態
COPDの患者には低栄養状態や痩せ型が多く見られ、疾患の予後を左右する因子の一つとなっています。COPDになると呼吸筋の仕事量が増大するため、安静時でもエネルギー消費量が増大しているにも関わらず、活動の制限や低酸素血症のため消化管の働きが悪く、慢性的な食欲不振を生じます。また胃の中に食べ物が入り充満すると、横隔膜の働きが制限される結果、食後に呼吸困難が増強することもあります。
■活動能の低下
COPDになると労作時に呼吸困難を呈するため活動が制限されます。また呼吸困難に対する恐怖や不安により患者は活動することに消極的になってしまいます。それにより筋力低下、食欲不振をまねきさらに呼吸困難が悪化します。
5、COPDの看護目標
COPDの患者の身体的、心理的、社会的特徴をふまえ、以下のような看護目標が適切です。
1、呼吸困難を回避・軽減し、活動を維持できるように援助する
2、病状の悪化、障害の進行を防ぐために、呼吸機能障害の進展や合併症を予防するための療養法を身に着け、実践できるように援助する |
6、COPDの看護援助
6-1、症状をマネジメントする
■生活上の呼吸困難を軽減する
労作時の呼吸困難を最小限にするため、効率よく酸素を取り入れられるよう口すぼめ呼吸と腹式呼吸を習得する必要があります。一般的にCOPD患者は以下の表の際に呼吸困難を呈することが多いため、そのことを理解してもらう必要があります。
動作 | 動作の例 |
重力に逆らう動作 | 坂道や階段を登る、浴槽から出る、立ち上がる、持ち上げる |
上肢を挙上する動作 | 洗髪、かぶるタイプのシャツの着脱、洗濯物を干す |
上肢の使用を反復する動作 | 歯を磨く、身体を洗う、掃除機をかける、拭き掃除 |
体幹を屈曲させる動作 | かがむ、しゃがむ、靴下・ズボンの着脱、足を洗う |
息をこらえる動作 | 排便、重い物を持ち上げる |
出典:成人看護学慢性期看護 病気とともに生活する人を支える(株式会社南江堂 217|鈴木久美、野澤明子、森一恵|2015年3月)
■排痰法の習得
気道分泌物は気道を閉塞させ、換気量を減少させたり、感染源となりうるため喀出することが大切です。吸入や体位ドレナージ、ハッフィングなど効果的に排痰できる方法を習得できるよう援助します。
■急変した際の対処法を知る
急性増悪時は、低酸素血症、高二酸化炭素血症、右心不全を生じ、呼吸困難、咳、喀痰といった苦痛症状が増強します。まず気道を圧迫しない安楽な姿勢(セミファーラー位や起坐位)をとらせます。酸素療法を実施する場合、CO2ナルコーシスを起こさないよう注意が必要です。
6-2、セルフモニタリングができるよう援助する
患者自身が、症状の増悪に気づき対処できるようになるため、体温、SPO2、体重を継続的に測定し、体温37.5℃以上、SPO2が90%以下、体重が1キログラム以上の急激な増加があった際は注意を要することを知ってもらう。また日々の変化を医師に報告できるよう、日記をつけてもらうことも有効な方法です。
6-3、日常生活における教育的支援および援助の実施
■禁煙指導
COPDにとって喫煙は大きなリスクファクターであり、患者だけではなく、患者の周囲の人々にも禁煙を指導する。禁煙はニコチンに対する依存症であるため、禁煙は簡単にはできません。カウンセリングなども利用し継続的に禁煙が行えるようにします。
■薬物療法
病態に応じて、ステロイド、気管支拡張薬、抗菌薬、利尿薬を使用します。吸入は適切に使用しなければ効果が得られないため、吸入薬に応じた特性や使用法を患者・家族に使用します。
■在宅酸素療法(HOT)
患者が在宅でも安全で有効に酸素療法を管理できるよう知識や技術の習得を促します。HOTの指導項目を以下に示します。
指導項目 | 内容 |
在宅酸素療法の必要性 | ・患者自身の病態
・低酸素血症が身体に与える障害 ・酸素吸入の目的 |
在宅酸素療法のしくみ | ・機器の種類
・健康保険による在宅酸素療法のしくみと自己負担 |
酸素吸入処方の遵守 | ・安静時、労作時、睡眠時の酸素流量(L/分)
・労作時に、より多くの酸素吸入をする必要性 ・酸素吸入量を独断で変更することの危険性 |
酸素供給装置とその安全な利用 | ・酸素供給装置の取り扱い
・酸素濃縮器のフィルター掃除、加湿器の手入れ、カニューレの交換 ・酸素供給装置の設置場所を火気から2m以上離す ・回路の水滴、折れ曲がり、破損に注意する |
機器の保守管理 | 在宅酸素療法事業者の保守管理の内容 |
災害・緊急時の対応 | ・故障・事故時の連絡先
・機器類の故障、停電、災害などの緊急対応体制 |
日常生活 | ・日常生活範囲に酸素が供給されるよう酸素供給装置を設置し、必要に応じて延長チューブを設置する
・外出時に使用する携帯用の酸素供給装置は、患者に合った携帯方法(バッグ、カート、リュックなど)を選択する |
出典:成人看護学慢性期看護 病気とともに生活する人を支える(株式会社南江堂 219|鈴木久美、野澤明子、森一恵|2015年3月)
6-4、社会的支援
身体障碍者福祉法や介護保険制度などの社会資源を最大限に利用し、在宅療養を支援し、経済的負担を軽減できるよう支援します。
まとめ
COPD患者は、日常生活を営むために、疾患や治療、酸素療法の知識と技術を習得する必要があるため苦痛を感じます。患者だけではなく家族に協力してもらったり、有効な社会資源を利用するなどして、少しでも負担が少なくなるよう援助していきましょう。
参考文献
看護師・看護学生のためのレビューブック2016第17版(株式会社メディックメディアI-41-43|岡庭豊|2015年3月)
成人看護学慢性期看護 病気とともに生活する人を支える(株式会社南江堂 211-220|鈴木久美、野澤明子、森一恵|2015年3月)
京都府出身、大阪府在住。大阪府内の一般病院で呼吸器科に8年間就業の後、現在はフリーの看護師として、さまざまな医療現場で働きながら、看護分野に関する取材や執筆活動を精力的に行っている。座右の銘は「健康第一」。過酷な看護業務に耐えうるため、また患者に対する献身的な看護を実施するため、自身の健康も必要と考え、2012年からマラソンを始める。現在では各地のイベントや大会に参加するなど、活躍の場は看護のみにとどまらない。
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