クリティカルシンキングを用いた看護過程の展開・問題の解決(2015/11/02)
昨今、医療現場においてクリティカルシンキングという言葉が多用されるようになりました。クリティカルシンキングは、患者に最適な看護を提供するために必要不可欠な考え方であり、その重要性はますます高まっているため、クリティカルシンキングとはどのような考え方で、どのように活用すれば良いのか、しっかりと理解しておかなければいけません。
以下にて、看護過程ならびに看護実践におけるクリティカルシンキングの考え方や、思考形成のためのポイントなどを分かりやすくご説明しますので、最後までしっかりお読みください。
目次
1、クリティカルシンキングとは
クリティカルシンキングとは、目標達成のために“論理的”かつ“批判的”に物事を解釈し問題を追及する考え方のことです。患者に最適な看護を提供するためには、「アセスメント」、「看護診断」、「看護計画」、「看護介入」、「看護評価」という一連の過程を踏みますが、この過程の中で、①なぜそうなるのか、②どうすれば良いのか、③何がいけないのか、といった思考が生まれます。
この疑問的思考を事実に基づいて、“それは本当に正しいのか”という批判的な思考を持って問題を追及する思考過程がクリティカルシンキングであり、各患者にとって最適となる看護を提供するために必要不可欠な考え方です。
患者が抱える問題はそれぞれ異なり、真に求める解決策を見出すのは容易ではありません。しかしながら、論理的かつ批判的思考を持って看護過程を展開することで、さまざまな問題点を抽出することができ、患者が真に求める解決策を見出すことができるのです。
2、論理的・批判的とは何か
上項で“論理的”という言葉が出てきましたが、論理的思考というのは、「前提」→「証拠」→「結論」という流れを持った考え方のことです。
たとえば会話の中で、「状況説明」→「フリ」→「オチ」という一連の流れがありますが、このように話されると非常に分かりやすく引き込まれるはずです。この流れは漫才などでも活用されているため、私たちの生活の中にありふれている思考過程です。
また、音楽においても、「イントロ」→「Aメロ・Bメロ」→「サビ」という一連の流れがあり、これも論理的思考に基づいて構成されています。
論理的思考は、一般的に「ロジカルシンキング」と呼ばれており、“前提が正しい”という判断のもと展開していきますが、クリティカルシンキングは、“前提は本当に正しいのか”という批判的解釈を踏まえて展開していくため、ロジカルシンキングよりさらに高度な思考法なのです。
3、ビジネスにおけるクリティカルシンキング
医療現場において、患者に最適な看護を提供するためにクリティカルシンキングが必要不可欠ですが、これはビジネスにおいても非常に重要な思考法です。
ビジネスにおいて、目標達成のために“問題の提起”や“解決のための手法”などを考えていきますが、このさまざまな過程の中で批判的態度を持って考えることで、よりより解決を導くことができます。
■クリティカルシンキングのステップ
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この6つの過程の中で取得した情報について、常に“正しい”か“正しくない”かを考えることで、より質の高い結果を得ることができます。なお、ビジネスにおけるクリティカルシンキングの考え方は、「①②-アセスメント」、「②③④―看護診断」、「⑤看護計画」、「⑤看護介入」、「⑥看護評価」というように、看護過程に通じています。
4、看護におけるクリティカルシンキング
クリティカルシンキングは、看護過程において非常に重要なアプローチであり、クリティカルシンキングなくして、患者によりよい看護を提供することはできないと言っても過言ではありません。
自分の思考過程を批判的・論理的に看護過程を展開するためには、「①情報の明確化」、「②推論の検討」、「③行動の決定と問題解決」の3つの批判的思考と構成要素について知っておく必要があります。
①情報の明確化
アセスメントを行う目的は、情報を取得・明確化することにあります。診断や計画の立案に先立って、患者の客観的・主観的データやニーズ・心配事などの情報を、観察や対話において取得しますが、取得した情報を明確にすることで、患者が抱える問題点も明確になってきます。
そして、問題提起のための仮説・前提・危険性に焦点を当て、取得した情報が正確性の高いものなのかという批判的な視点で追求することがアセスメントにおけるクリティカルシンキングであり、取得した情報が正確性に乏しければ、真に解決すべき問題が異なるため、取得した情報の明確化・正確性の追求が求められます。
②推論の検討
看護診断では、アセスメントによって得た正確な情報をもとに、患者が真に抱える問題を見出すとともに、それらの問題が解決可能であるかどうか吟味した上で決定します。
まず、得た情報に不確実性が伴っているかを、観察・データ・患者との対話・家族との対話・報告書など分析・評価し、多角的な情報から一致・不一致を判別します。そして、一致した正当性の高い情報をもとに、推論を立てていきます。
推論とは、根拠から結論を導くプロセスのことで、看護計画を立案する際に重要な要素です。正当性の高い情報から導き出した看護における患者の問題を解決するために、リスクはないか、利益はあるか、効率的か、バランスよく実施できるか、などを考慮・吟味した上で、実施する内容が真に患者にとって適切な行為なのかを判断・決定します。
看護過程におけるクリティカルシンキングで、最も重要となるのが「推論の検討」であるため、“なぜ”、“どのように”という疑問を常に持ち、効果的かつ効率的な解決策を見出す必要があります。
③行動の決定と問題解決
最後に、「情報の明確化」、「推論の検討」のプロセスに基づいて結論を導き出し、行動決定や問題解決を行います。看護介入を行う際には、患者の反応をアセスメントし、決定した行動が真に患者にとってより良いものなのかを考え、否または改善の余地があれば再実施に向けて、“なぜ”適切ではなかったのか、“どのように”改善すれば良いのかを検討・判断します。
このように、正確性・根拠のある情報から問題点を導き出し、その問題を解決するために最適となる看護ケアを決定し、実践・評価するというプロセスを踏む看護過程において、“なぜ”や“どのように”という疑問を投げかけ、批判的視点を持って展開していくアプローチ(クリティカルシンキング)は、患者の真に抱える問題解決のために必要不可欠な思考能力なのです。
なお、「アセスメント」、「看護診断」、「看護目標」、「看護介入」、「看護評価」の看護過程における5つのプロセスすべてにクリティカルシンキングが対応しているわけではなく、おおむね、「アセスメント」、「看護診断」、「看護目標」の3つのプロセスに対応していると認識しておきましょう。
⇒看護診断(NANDA・NIC-NOC)に対する理解と知識の習得
5、批判的に物事を考えるための思考・態度
クリティカルシンキングは、根拠を明確にするために、情報や証拠が“正しいか”という批判的思考を持って追求することですが、この批判的思考の有無によって、提供する看護の質が大きく変わってきます。
批判的に物事を考えるためには、“意識改革”が何より大切であるため、以下に挙げる思考・態度をしっかり抑えておきましょう。
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クリティカルシンキングを習得するためには、“考えること”が大前提であり、さらに“積極的な態度”を持って思考回路の形成に努めなければいけません。
6、参考となる書籍
クリティカルシンキングの考え方は非常に奥が深く、包括的かつ具体的に理解するまでには多大な時間と努力を要します。
また、ひとえにクリティカルシンキングと言っても、“合理的(論理的)かつ反省的(批判的)な思考”という定義については共通の理解があるものの、教育的視点・心理的視点・社会的視点など、人によって考え方が異なります。
それゆえ、多角的にクリティカルシンキングを理解したいという方は、現在までに出版されている書籍をぜひ活用しましょう。
批判的思考について多角的な視点から論じた、基礎・臨床領域とコミュニティー・ヘルスの領域における論理的・批判的思考に基づいた考え方を綴っている。看護師として、自らの思考過程を検証し、よりよい看護のための思考スキルの開拓に役立つ、看護師など医療関係者に向けた専門教材。 |
看護学生のためのクリティカルシンキングと書き方―基本的な考え方と活用
クリティカルシンキングの基礎を学ぶために、具体的事例を踏まえて分かりやすく解説されている。学習課題にも役立つ、看護学生向けの一冊。 |
楽しく学ぶクリティカルシンキング―根拠に基づく看護実践のために
クリティカルシンキングの概要や思考様式、クリティカルシンキングを用いた看護過程の展開など、看護ケアにおいて実践的な考え方について詳細かつ分かりやすく述べられている。 |
現代社会において、より良く生きるために必須となる「思考」と「態度」について、実用的な視点で書かれている。社会におけるクリティカルシンキングに関する書籍ではあるが、心理的側面から物の考え方や判断を知ることができ、看護においても応用可能であるため、一読しておきたい一冊。 |
まとめ
クリティカルシンキングの根本となる考え方は誰しもが有しているものです。たとえば、日常生活において、他人の言葉を100%信じる人はいないでしょう。この疑うという思考がクリティカルシンキングそのものであるため、誰もが日常的にクリティカルシンキングの考え方を活用しています。
しかしながら、追求すれば実に奥が深く、追求すればするほど、①物事が明確になる、②根拠に基づいた正しい判断を行うことができる、③的確な問題点を見出すことができる、というように問題解決能力が向上し、患者にとって最適な看護を提供することができるようになります。
まずは、1つ1つの情報や問題点に対して“それは本当に正しいのか”、“それは本当に患者のためになるのか”という疑問を意識的に持ち、看護過程を展開していきましょう。常に批判的態度で考えることで、自ずとクリティカルシンキングの姿勢が確立されていくでしょう。
東京都在住、正看護師。自身が幼少期にアトピー体質だったこともあり、看護学生の頃から皮膚科への就職を熱願。看護学校を経て、看護師国家資格取得後に都内の皮膚科クリニックへ就職。ネット上に間違った情報が散見することに疑問を感じ、現在は同クリニックで働きながら、正しい情報を広めるべく、ライターとしても活動している。
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