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廃用症候群のリハビリ治療における看護計画とケアのポイント(2015/06/22)

公開日: : 最終更新日:2017/08/19 看護計画 全科共通 

廃用症候群

看護ケアを適切に行うためには、弊害や対象となる疾病、リスク因子やリハビリの意義・手段など、廃用症候群に関する様々な知識を深める必要があります。また、長期的な安静保持によって、誰にでも起こりうる病気であるため、細心の注意を払った観察が重要です。

臨床経験が少ない看護師は特に、どのようにケアしていけば良いのかと悩むことが多々あると思いますが、知識を深めることで対処法が自然とみえてくるため、当ページをしっかりと熟読して、廃用症候群に関する知識・理解を深めていってください。

 

1、廃用症候群とは

廃用症候群とは、長期に渡って安静状態が続くことにより起こる、心身の機能低下など、身体に異常をきたす病気のことを言います。中でも高齢者に多く、廃用症候群にかかることで、脳梗塞や骨粗しょう症など、さまざまな病気の発症リスクが高まり、さらにQOL(Quality of Life)が著しく低下します。

重篤な疾病や精神障害などにより、安静状態をを強いられる状況下において発症するため、避けることは非常に難しく、やっかいな病気として知られています。

中でも筋委縮や筋力低下などの身体機能の低下が著しく、1週間~2週間の安静状態でも廃用症候群を発症することが多々あり、全身の身体機能に悪影響をもたらすことにより、最悪な状態では、寝たきりとなってしまうことがあります。

 

2、廃用症候群の弊害

廃用症候群を発症することによって、以下のような身体機能の低下や異常、精神的症状が発現します。

身体的 筋骨格系 筋力低下、筋萎縮、骨粗鬆症拘縮
心血管系 心機能低下、循環血液量低下、起立性低血圧、持久力低下、血栓塞栓症
呼吸器系 換気障害、荷重側肺障害、上気道感染
代謝系 成長ホルモン、アンドロゲン、上皮小体ホルモン、電解質、インスリン、タンパクの変化
泌尿器系 排尿困難、尿路結石、尿路感染
消化器系 体重減少、食欲不振便秘、誤嚥
神経系 不安、抑うつ、感覚障害、錯乱、知的低下、協調運動障害
皮膚 褥瘡
精神的

社会的

情緒不安定、うつ病態、家庭生活・対人生活の不調、経済的損失、社会復帰の不調

 

3、廃用症候群の対象疾患

廃用症候群は、重篤な全身性疾患、重症の神経疾患、意識障害、多発外傷、開胸術・開腹術後、低栄養状態などの場合に発症しやすく、特に、歩行障害、悪性腫瘍、呼吸器障害、心臓機能障害に発症しやすい病気です。

また、ステロイド、神経筋阻害剤、鎮静剤といった薬物治療によっても発症リスクがあります。高齢者で特に気をつけなければいけないのが、術後による発症であり、免疫力の低下やストレスにより容易に合併症を併発してしまいます。それゆえ、特に術後における廃用症候群の発症には十分な注意が必要です。

 

4、廃用症候群の診断

廃用症候群の診断基準は開発されておらず、臨床経験に基づいた主観的診断に頼らざるを得ません。それは廃用症候群が厳密な病気ではなく、筋力低下などによる機能低下全般のことを指すからです。

それゆえ、正確な判断は困難ですが、一般的には「長期的な休養による著しい心身の機能低下がみられ、リハビリ無しでの改善の余地がない」のような場合において、廃用症候群と診断され、リハビリ実施による改善を図ります。

 

5、廃用症候群のリスク因子

廃用症候群には様々なリスク因子が存在します。これらは発症原因によって異なりますが、程度の具合・状況によって具合によって発症の可能性を見極めることができます。

リスク因子 水準 評価の基準
年齢 70歳未満
70歳~80歳
80歳以上
悪性腫瘍による障害 悪性腫瘍なし / 家庭内と近隣では制約なし
自宅内での限られた生活:骨髄抑制・易疲労・体重減など
身辺処理に介護が必要 / 終末期
心臓機能障害 通常の社会生活の活動が可能
社会生活の活動に著しい制限あり(EF:30~40%)
家庭内の日常生活が著しく困難(EF:30%以下)
呼吸機能障害 社会生活が可能(自己ペースで階段や坂の昇降が可能)
自宅ないし近隣の生活が可能(1Kmの平地歩行が可能)
在宅酸素療法ないし自宅内での限られた生活
腎臓機能障害 社会生活の活動が可能(Cr:2.0mg未満)
社会生活の活動に制限あり(Cr:2.0~3.0mg以上)
血液透析または腹膜潅流
疼痛による障害 社会生活の活動が可能(疼痛コントロールが良好)
自宅内生活や近隣での活動が可能(疼痛コントロールが可能)
疼痛が著しく、身辺処理に介助が必要(疼痛コントロールが困難または不可)
歩行能力の障害 自宅内歩行と近隣の散歩が自立
自宅内歩行が自立(歩行器や伝い歩き)
介助歩行または歩行不能(車椅子での室内自立)
精神機能障害 障害なし、または支援を受けて社会生活が可能
日常生活で支援が必要
日常生活が困難であり介助が必要
知的能力障害  正常から境界域の知的能力(支援を受けて社会生活が成り立つ)
軽度・中度の知的能力障害(日常生活に支援が必要)
重度の知的能力障害(日常生活に介助が必要)
認知症による要介護状態 要支援(16≦HDS-R≦19)
要介護1~2(11≦HDS-R≦15)
要介護3以上(HDS-R≦10)
Body Mass IndexBMI 18.5~24.9
13.5~18.4または25.0~29.9
13.5未満または30.0以上

※水準における数字はリスク度を示し、1:低リスク、2:中リスク、高リスクとなる。

 

6、廃用障害度評定

さらに発症時にも軽度・中度・重度といったように、程度を評定することができます。

判断基準 軽度 中度 重度
活動度・安静度 制約なし ベッド上で制約なし未離床 ベッド上で制約あり
基本動作能力 起き上がり・座位・移乗自立・支持で立ち上がり可能 起き上がり介助・静的座位バランス可・立ち上がり介助/不可 臥床状態・介助にて座位・座位バランス不安定・立位不能
精神心理機能 認知症であっても覚醒良好・身体拘束なし 覚醒良好・指示にぼぼ従命可・身体拘束あり(せん妄/危険行動防止) 意識障害/低覚醒/せん妄・従命不十分・身体拘束
機能訓練の場 機能訓練室 ベッドサイド ベッドサイド

 

7、廃用症候群の治療(リハビリ)

発現症状によって廃用症候群の治療はさまざまですが、主にリハビリで改善を図っていきます。廃用症候群は、筋力の低下が顕著であるため、筋力の増加または関節稼動の広域化を主とした運動機能向上を図ります。

また、リハビリによって精神的な安定化も図ることができるため、重篤な病気ではない患者さんに対しては積極的にリハビリを実践していきます。

 

≪リハビリの目的≫

  • 機能障害の回復促進
  • 残存能力の強化
  • 日常生活動作の訓練
  • 心理的立ち直りの促進

 

■筋萎縮(筋力低下)

筋力の維持には最大筋力の20%~30%の筋収縮を行う必要があり、それ以下である場合には、筋力が低下していきます。リハビリとしての筋力の維持・増加には「等尺性収縮」と「等張性収縮」を利用した筋肉トレーニングが一般的であり、最初は負荷の少ないトレーニングから始めます。なお、このトレーニングは1日数回行い、筋持久力を高めるために各部位が疲労するまで行います。

使用する機械は施設によってさまざまですが、設備の整っている施設ではBIODEX(等速性筋力評価・トレーニング装置)が用いられます。

 

■関節拘縮(柔軟性低下)

関節可動域は関節の運動によって維持・増加しますが、不動の状態が2週間程度続くと減少していきます。関節可動域は、股関節・肩関節・足関節など、各関節を1日10回程度、ゆっくりと全方向にゆっくり動かすことによって維持・改善できるため、看護師の手のもと、患者さんの各関節を十分に稼動させてあげます。

関節稼動域の維持・増加を図るリハビリでは、機械を用いることが少ないため、設備の整っていない施設でも積極的に行われています。

 

■骨萎縮(骨粗鬆症)

骨の生産や吸収速度とは適度な刺激によって維持されますが、安静療養時には刺激が著しく減少するため、骨吸収率が産生率を上回り、骨萎縮が生じます(廃用性骨萎縮)。骨萎縮の改善には、「臥床筋力増強訓練」や「座位訓練」が主に行われます。また、「立位保持」や「歩行訓練」など可能な場合には、それらを積極的に行っていきます。

 

■循環機能低下

安静臥床や身体の不動により、起立性低血圧をはじめ、さまざまな循環機能低下が起こります。これは心拍出量が減少することにより最大酸素摂取量が減少するために起こり、臥床期間を短くすることで予防につながりますが、長期臥床を必要とする場合には循環機能低下は避けられないため、「斜面台」などを用いて段階的な「起立訓練」を行います。

 

■末梢循環障害

末梢循環は、筋活動の低下に伴って減少し、関節拘縮や外圧により血管が狭くなることで静脈血栓症が発症しやすくなります。末梢循環は主に、膝下の下肢の筋活動に強く関わっているため、「立位保持」や「歩行訓練」が有効です。

 

■呼吸機能障害

安静臥床では、深い吸気の頻度低下により呼吸効率や肺活量が低下し、呼吸機能障害を起こすことがあります。これにより肺の一部にうっ血が生じ、沈下性肺炎が発症しやすくなります。安静臥床による呼吸機能障害の発症時には、定期的な「深呼吸訓練」や「咳訓練」、「体位ドレナージ」をもとにリハビリが行われます。

 

8、廃用症候群の看護計画

廃用症候群の看護では、「QOL(生活の質)の向上」、「ADL(日常生活動作)の向上」、「個別基礎的機能の向上」、「社会交流・参加レベルの向上」、「精神的ストレスの緩和」の5つの観点からアプローチをかけ実施していきます。

 

QOL(生活の質)の向上

廃用症候群を発症することで、行動の制限や身体機能の低下などにより、QOLが低下します。この状況下では廃用症候群の発症原因となっている病気や障害などの治癒速度が著しく減速します。また、廃用症候群の各症状における進行速度の増速に伴い重度化する可能性があります。それゆえ、室内での快適な雰囲気作りや、趣味の実施、可能であれば車椅子を利用した外出などにより、QOLの向上に努めなければいけません。

看護におけるQOLの意味とQOL向上に向けた取り組み

 

ADL(日常生活動作)の向上

トイレに行く、料理を作るなど、日常生活における「できること」「していること」の質や量を高めることも重要です。また意欲があれば「したいこと」への援助も忘れてはいけません。これら日常生活動作を向上させることで、QOLの著しい向上を図ることができ、早期改善を大きく促進するため、可能な範囲内で自立支援を行っていきましょう。

 

個別基礎的機能の向上

身体機能、心機能、呼吸機能などが低下することで、それら以外にも様々な弊害が出現します。リハビリなどを積極的に行い、これら個別基礎的機能を高めることで、廃用症候群の進行が止められ、改善へと向かわせることができます。定期的なリハビリの実施が困難である場合でも、簡易的な訓練によって各基礎的機能の向上は可能であるため、いかなる場合でもあっても積極的な実施が必要です。

 

社会交流・参加レベルの向上

長期臥床は、外界との交流が遮断されやすく、コミュニケーションの時間も激減します。これにより、身体症状だけでなく気分消沈などの精神症状が出現することがあります。デイサービスへの自発的通所や、外部との交流、社会活動への参加などにより精神的安楽を獲得することができるため、実施・参加の援助を行い、社会交流・参加レベルの向上を図っていきましょう。

 

精神的ストレスの緩和

長期と言わず、安静期間が3日~1週間程度でも精神的ストレスは蓄積します。実は、廃用症候群の症状においては、身体機能の低下よりも精神障害の方が厄介であり、特に高齢者の場合には致命的になりうる精神疾患を併発しやすいため、早期にストレスの緩和に努める必要があります。

 

9、廃用症候群の看護における注意点

廃用症候群は長期臥床により、高齢者に関わらず誰しもが発症の可能性を持っていますが、廃用症候群を改善させるために最も重要なのは「長期臥床の早期離脱」であるということを忘れてはいけません。

発症症状をいかに早く改善させるかではなく、長期臥床の早期離脱が看護の主であるため、「頑張りすぎ」「頑張らせすぎ」は禁物です。高齢者の場合には特に、基礎体力が低下していることで、訓練のしすぎ・刺激の与えすぎによって、体力の消耗や意欲の低下など、逆効果になってしまうことがあります。

この場合にはQOL、ADLともに著しく低下し、最悪の場合には寝たきりになってしまいます。それゆえ、高齢者の場合には特に注意を払い、可能な範囲内で無理なく看護していかなければいけません。

 

まとめ

廃用症候群は筋力低下だけでなく、様々な症状が発現し、これらは患者さんによって異なります。それゆえ、各人に合わせた看護が必要になってきます。各人に合った適切な看護ケアを実施するためには、臨床経験は非常に重要ですが、廃用症候群に対する理解の深さが何より大切です。

廃用症候群は頻度の高い病気であるため、仕方がないと安易に考えがちですが、患者さんのQOLに大きく関わってくるだけでなく、最悪の場合には重篤な合併症の併発、または寝たきり状態になることもあります。

これらを予防し、発症時にはQOLの向上と共に早期治療を図るためには、各人に合った看護プランが重要となり、それを実施するためには知識と理解が不可欠なのです。それゆえ、まずは知識を深めることに努め、得た知識をもとに各人に合った看護プランを設計・実施していきましょう。

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