人工呼吸器|適切な吸引実施のための看護計画と観察項目(2015/04/20)
看護師をしていると、様々な壁にぶつかることがありますよね。なかでも意外と聞かれるのが、人工呼吸器という壁。患者さんの生命を左右する重要なものですし、看護師として身につけておきたいスキルではあるけれど、ハードルが高い・・・、わけがわからない・・・と感じている人が多いようなのです。
そこで今回は、人工呼吸器について徹底的に解説していきます。一度マスターしてしまえば、どんな場面でも恐れることはありません! 扱うたびに胃がキリキリ・・・なんてことがないように、緊急時でも冷静に対処できるようになりましょう。
目次
1、人工呼吸器とは?
ではまず、人工呼吸器とはどんなものなのか、見ていきましょう。人工呼吸器は、自力で呼吸することが難しくなった際に、換気を人工的に代行する機械のことをいい、ベンチレーターやレスピレーターと呼ばれることもあります。一般に人工呼吸に行われる換気経路には、次の3つの種類があります。
気管挿管 | 緊急時や手術時においては、最も迅速で確実な気道確保。ただし、抜去事故の危険性とは常に隣り合わせで、肺炎の危険もあるので、人工呼吸が長期に及ぶ場合には気管切開に移行する。 |
気管切開 | 2週間以上の長期間に渡っての、経気管による人工呼吸管理に用いられる。患者の家族でも訓練を受けることで、気管吸引や呼吸器の操作ができるようになるので、在宅での管理にも向いている。死腔が少ないという点でも有利である。 |
マスク換気 | 非侵襲的陽圧換気(Non-invasive positive pressure ventilation:NIPPV)に対して用いる。着脱も容易なことから、睡眠時無呼吸症候群などの患者が自己管理することも可能である。ただし、長期にわたって装着し続ける場合は、マスクの圧迫による褥瘡が生じる。 |
そもそも、人工呼吸とは換気の補助や代行をすることをいいますが、気管に人工気道を留置して呼吸管理をする“侵襲的換気法“と、マスクを使って呼吸管理をする”非侵襲的換気法“にわけられるのです。今回は、“侵襲的換気法“について解説していきます。
ちなみに、かつては「鉄の肺」とよばれる、首から下の全身を機械の中に入れるという大掛かりな設備による人工呼吸器も存在し、一部の病院で使われていましたが、現在では博物館で見られる代物となっています。その後、気管挿管による人工呼吸が一般的になってくると、挿管チューブによって換気する現在の方式が広まってきました。
そして、現在ではさまざまな種類が使用されています。1機種で統一されていればいいのですが、複数種を扱っている医療施設も多いので、それぞれの機種に対応することが求められます。中でも、新しい機種では独自の動作モードや機能を持ったものが多く、こうした機器の多様化が管理を複雑化し、医療事故の一因ともなっているのが現状です。
その一方で、新しい機種になるほど医療事故を防ぐための機能が充実しているので、 正しく理解した上で扱えば医療現場での強い見方となるのです。医師のみならず、看護を行う人は十分な知識と注意が必要とされているのですね。
1-1、適応
人工呼吸の対象となるのは、自発呼吸の消失や不足が見られるなど生命維持が危機的な状況にあったり、酸素投与のみでは酸素化が不十分、または呼吸困難感や強い努力呼吸がある場合などです。通常、用手人工呼吸の適応となる心肺蘇生とは異なり、さまざまな病態による呼吸不全が適応となります。
2、人工呼吸療法の目的と目標
人工呼吸器を用いる療法には以下の目的があります。
|
そして、人工呼吸器からのウィニング(離脱)と、予後の改善を目標とし呼吸管理を行います。目標を達成するためには、合併症の予防と安全の管理に十分配慮し、人工呼吸器管理をすることが求められます。
3、人工呼吸器の構造経路
次に、実際に人工呼吸器を用いた際にはどのような経路を通って換気が行われるのか見てみましょう。侵襲的陽圧換気を行う場合では、人工気道を留置し、人工呼吸回路を接続して換気を行います。そして、人工呼吸器からのガスが漏れ出さないように、カフを膨張させます。本体には電源や圧縮空気、圧縮酸素の配管を接続します。
■人工呼吸器による空気の経路
患者の口腔または気道→Y字呼吸回路→呼気弁→ガス流方向変換装置(送気装置を通して酸素と圧縮空気を送る)→呼気弁→加温加湿器→Y字回路→患者の口腔または気道 |
吸気時には、吸気弁が開いて呼気弁が閉じた状態になります。この時に吸気側の回路を介して吸気が行われます。反対に、呼気時には吸気弁が閉じ、呼気弁が開くことで呼気側の回路を介して呼気同左を行います。基本的には、吸気のサポートのみで、呼気は自発呼吸と同じように、肺胸郭の弾性によって受動的に行われます。
そして、これらの動作が適切に行われるために、医師が患者さんの状態やデータに基づいて人工呼吸器の設定を行います。患者さんの換気動作は人工呼吸器に委ねられますので、常に状態のアセスメントを的確にすることが大切です。
4、準備のポイント
呼吸器とはどのような仕組みのものかがわかっていただけたかと思いますが、それでは実際に、人工呼吸器を使用するためのポイントを説明していきます。
4-1、換気モード
まずは、人工呼吸器の換気モードについて把握しておきましょう。人工呼吸器のモードは、患者さんの呼吸をどのように補助するかで分類されていて、強制換気主体か、自発呼吸主体か、両者を組み合わせた方法かによって大別されます。
また、換気様式として、換気量と吸気フローを設定する従量式(VC)と、吸気圧と吸気時間を設定する従圧式(PC)がありますが、現在ではその両機能を備えた人工呼吸器が多いようです。
■主な換気モード
持続的強制換気 | CMV | 患者さんの呼吸について、全てが強制的に行われる |
同期式間欠的強制換気 | SIMV | 患者さんの自発呼吸に合わせて、強制換気が間欠的に行われる |
呼気終末陽圧 | PEEP | 呼気時に気道を完全に解放せず、呼気終末の気道を陽圧に保つことで肺胞を膨らませ、※無気肺の予防と機能的残気量を増加させる(全ての換気モードとの併用が可能) |
持続的陽圧換気 | CPPV | 呼気終末陽圧を吸気時も呼気時も持続的にかける |
持続的気道陽圧 | CPAP | 自発呼吸下で、吸気と呼気に持続的に陽圧をかける |
圧支持換気 | PSV | 自発呼吸の吸気努力をトリガーとしてフローを送り、吸気を補助する(自発呼吸との併用可能) |
※無気肺とは、肺胞が虚脱し、酸素化不全になっている状態
このうち、最もよく使われるモードはSIMVです。患者さんの自発呼吸はあるけれど、それだけでは十分ではない時に使うモードで、患者さんの呼吸に同期させ、時々強制的に換気させるという方法です。また、PSVも頻繁に使われるモードです。このモードでは換気量も回数も時間も設定せず、全て患者さん任せとなります。つまり、自発呼吸のある患者さんの呼吸を低めの圧でサポートするというイメージです。
そしてこの他にも、サーボ、エビタなどには独自の高機能モードがあるので、使用機種によってその特徴を把握しておくことが必要です。セッティングや設定は医師が行いますが、適切なケアをするためには看護師も機器に対する理解を深めておくことが求められます。
5、準備チェック項目
続いて、人工呼吸器の使用にあたり、確認しておくことや、注意することをまとめておきましょう。
1、医師が記入した、指示簿の設定条件を確認
2、電源の接続、スイッチを確認(※電源は無停電電源に接続し、耐圧チューブを酸素と圧縮空気の配管に正しく接続する) 3、設定条件どおりに、正しく動いているかを確認 4、回路が確実に接続され、きちんと動いているか確認(①呼吸器回路は滅菌済みであり、破損や緩みがないこと、②吸気側と呼気側を正しく接続できていること、③回路内の結露や、ウォータートラップの水の確認、④バクテリアフィルターを交換したか確認) 5、加湿器には滅菌蒸留水以外のものを入れないように注意 6、アラーム音の設定を確認しておく(それぞれの設定により異なる)(※アラームが適切に働かないと、異変に気がつくことができない) 7、換気モード、酸素濃度、換気量・回数、回路内圧、トリガーレベル、呼気終末期陽圧レベルが設定どおりになっているか確認 8、カフ圧の確認(高すぎても、低すぎてもいけない)(サクション後、カフ圧計を使って25cmH2o前後にあわせる) 9、アンビューバッグなどの用手的換気物品、気管内挿管物品、吸引物品を準備しておく(※万が一の際に救急蘇生の準備をしておく) |
これらの項目は、医師の指示に変更があった際や、ケア・処置の終了後、勤務交替時などにもチェックをしっかり行う必要があります。
6、観察項目
さて、続いて実際の看護にあたって押さえておくべき観察項目をチェックしてみましょう。
●患者さんの表情や呼吸困難などの訴えの有無
●患者さんの全身状態(バイタルサイン、意識レベル、精神状態、チアノーゼや四肢冷感等の異変の有無) ●呼吸状態の把握(呼吸数、音、パターン、痰の量と性状、胸郭の動き) ●検査結果の確認 ●治療方針と説明内容、またそれについての患者さんや家族の状況確認 ●挿管チューブの状態(固定位置、長さ、挿管チューブやカニューレのカフ圧の確認) ●人工呼吸器の作動確認(自発呼吸の有無、気道内圧、一回の換気量、ファイティングの有無等 ●人工呼吸器の点検(マニュアルは常に身近に置いておき、マニュアルに従って実施する) ・・・換気モード、アラームなどの設定 ・・・加湿器の蒸留水 ・・・呼吸器回路の緩みやねじれ、破損が無いか ・・・圧縮空気、酸素配管が適切に挿入されているか ・・・呼吸器が動かないように、きちんとストッパーがかかっているか |
人工呼吸器では、患者さんに危険が及ぶ可能性を少しでも減らすために、安全管理体制を常に徹底していることが大切です。万が一の不具合は、決してあってはなりません。看護にあたる際も、いつも細かいところまで気を配り、ミスや事故が起きないようにしましょう。
7、在宅・訪問看護での人工呼吸器
人工呼吸器を使った看護は病院内だけとは限りません。自宅療養や在宅での治療を望む患者さんには、在宅・訪問看護で人工呼吸器を使用することもあります。そこで、在宅・訪問看護での人工呼吸器の使用についてどのようなことに注意すればよいのか、ポイントをチェックしていきましょう。
7-1、対象となる療養者
対象となるのは、肺線維症や慢性閉塞性肺疾患(COPD)などの肺疾患、筋ジストロフィーや筋萎縮性側索硬化症(ALS)などの神経筋疾患の患者さんで、医師が在宅人工呼吸療法を必要とすると判断した場合です。現在、在宅で人工呼吸器を使用する際には、携帯型人工呼吸器が普及しています。
7-2、ケアのポイント
では実際のケアについて見ていきましょう。まず大切なのは、在宅人工呼吸療法を開始する前に、患者さんや家族の意志や受け入れ状況をよく確認しておくことです。そして、些細なことでも相談に乗りやすい環境を作っていれば、より安心して在宅看護を受けてもらえますし、何より事故の防止にもつながります。
■気道内のケア
●吸引前に肺音の聴取を行う
●介護者とともに吸引を行って、介護者が正しく吸引できているかを確認し、必要があれば指導する ●カフ圧の設定は医師の指示に従う。過剰なエア注入は気道の圧迫壊死を引き起こす危険性有りなので注意する ●気道切開部を観察し、発赤や腫脹、肉芽、出血、膿等の有無を確認する ●カニューレ交換 ●気管内吸引(下の表で技術指導についてチェックしておきましょう) ●消毒とガーゼ交換は1日1回行い、汚染が見られた際はその都度実施する ●口腔内のケアもぬかりなく |
■気管内吸引の技術指導
準備する物 | 吸引カテーテル、吸引器一式、接続管、ピンセット、洗浄用の水を入れた容器、使用後のカテーテルを入れる容器、ペーパータオル |
手順 | ①開始、終了時は石けんで手を洗う |
②吸引器のスイッチを入れ、圧が上がるのを確認する | |
③ピンセットで吸引カテーテルを取り出し、接続管につなぐ | |
④療養者に声をかけてから、気管カニューレと呼吸器回転コネクタとの接続をはずし、きれいなガーゼの上に置く | |
⑤吸引圧がかからないように、圧を親指で調節しながら、吸引カテーテルを気管切開カニューレ内部まで挿入していく。(3〜10cm位) | |
⑥吸引圧が120mmHgを超えないように注意する | |
⑦調整している指をゆるめ、痰を吸引しながらカテーテルを引き上げる | |
⑧吸引の最中や吸引後は、呼吸の状態、顔色等に注意し、痰の観察をする | |
⑨吸引後は、すぐに呼吸器回転コネクタを気管カニューレに接続する | |
⑩ペーパーでカテーテル外側の痰を拭き取り、内側の痰は水を吸って洗い流す。 | |
⑪使用済みカテーテルを所定の容器に入れる | |
⑫吸引器のスイッチをOFF | |
⑬患者さんに吸引の終了を伝え、十分に取りきれたか聞く |
7-3、指導と安全管理
●在宅訪問時には、入室時と退室時に呼吸器の管理と点検を行う
●アラーム設定や換気量、気道内圧、回路や回路内の貯留水、酸素濃度、加温加湿器の滅菌蒸留水のチェックなど、確認項目のチェックを行う(チェック表などを用いるとよい) ●何か困ったことが無いかどうか、コミュニケーションを取りながら様子をチェックする ●介護家族やヘルパーに、操作のポイントや保守点検項目についてしっかり指導する ●トラブルが発生したときの対処方法や、アンビューバッグを使った用手的換気法の指導を行う ●病院や訪問看護ステーションなどへの連絡方法を確認する。 ●家族の介護手技や知識が一定水準に保持できているかどうか定期的に査定し、支援する |
ここで気管切開カニューレのトラブルシューティングを確認しておきましょう。
トラブル | 対応 |
抜去(チューブが抜ける) | ・早急に再挿入する・固定バンドを利用し、確実に固定する・カフ圧を適切に管理できているか確認・ 体位変換時などに負荷をかけないようにする |
カフの破れ | ・カフ部分に負荷をかけない・早急に再挿入する |
出血・皮下気腫 | ・気管カニューレを確実に固定する・頸部の過伸展をしない |
内腔の閉塞 | ・気道浄化を適切に行う・二重管式カニューレを利用する |
気管粘膜の潰瘍・圧迫壊死 | ・カフ圧を適切に管理する |
誤嚥・サイレントアスピレーション | ・口腔ケアの徹底・カフ圧を適切に管理する |
次に、吸引についての注意点です。
吸引圧 | ・喀痰の正常を見極めて、適切な吸引圧を調節する・ 吸引圧が低いと吸引に時間がかかったり、頻回に吸引することとなり合併症の危険が上がる・吸引圧が高いと、無呼吸状態が続くことで低酸素血症につながることがある・気管壁に接触すると気管粘膜を損傷させる危険があるので注意する |
吸引時間 | ・吸引時間が長くなると、低酸素血症になりやすくなる・ALS患者では、吸引中は呼吸ができないだけでなく、肺内酸素が低下するため、短時間(20秒以内)での吸引を心がける |
吸引チューブ挿入の深さ | ・吸引チューブ挿入による合併症を防ぐ・ 無理に挿入すると気管粘膜を損傷する危険があるため、挿入の深さはチューブの先端から3〜5cmまでの気管分岐部程度にとどめる。 |
7-4、QOLの向上
●枕やクッションなどを利用し、安楽な体制を工夫する
●適切な運動を行い、関節可動域の維持や関節拘縮、筋力低下の予防を図る ●患者さんの状態をよく観察し、音楽やTVを活用したり、可能であれば外出をして気分転換をするように指導する ●言葉を発することができない場合は、ホワイトボードや透明文字盤などを用いてコミュニケーションを図る |
1994年から在宅人工呼吸法が医療保険の適応となったことを皮切りに、98年には非侵襲的陽圧換気(NPPV)も医療保険の適応となりました。さらに、2003年には筋萎縮性側索硬化症、2005年には遷延性意識障害や筋ジストロフィーなどの在宅療養者についても、家族の負担軽減のため、介護者による痰の吸引が認められるようになりました。
こうした背景から、人工呼吸器を使用しながら在宅医療を受ける患者の数は増えていますが、人工呼吸器は万が一のトラブルが患者さんの生命に直結します。そのため、事故を防ぐための安全管理を徹底することが、看護師にとって最も重要な役割の1つと言えます。
8、人工呼吸器のセミナー
ここまで人工呼吸器についてのポイントをまとめてきましたが、まだまだ不安があるという方や、救急救命に携わっている方、人工呼吸器のエキスパートになりたいという方は、セミナーなどもあるのでぜひ受講してみてはいかがでしょうか。
9、人工呼吸がわかる書籍
人工呼吸に活かす! 呼吸生理がわかる、好きになる~臨床現場でのモヤモヤも解決!
この他にも様々な書籍やDVDが出ていますので、自分に合いそうな内容のものを選んでみて下さい。
まとめ
今回は人工呼吸器についてまとめてきましたが、いかがでしたでしょうか。さまざまな機種や機能があって複雑化している人工呼吸器。そのハードルは高いかもしれませんが、克服してしまえば、看護師としてかなりの強みになります。
いままで苦手意識を持っていた方も、この機会に人工呼吸器ともう一度向き合い、人工呼吸器を心強い味方につけてください。
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