食道静脈瘤の予防的看護・治療後(EIS・EVL)の看護実践(2016/04/07)
食道粘膜下層にある静脈が突如として破裂し、吐血や下血を伴い、多くは緊急治療を要する危険性の高い食道静脈瘤。予防するためには看護師の観察・指導だけでは不十分で、患者の積極的な協力が必要不可欠です。また、再発率が高いため、治療後も綿密な観察とともに予防策を積極的に実施する必要があります。
ここでは、食道静脈瘤の概要や予防するための看護実践、治療後の観察・指導などについて詳しくご説明しますので、食道静脈瘤の可能性のある患者または発症した患者の看護方法を学び、実践にお役立てください。
1、食道静脈瘤とは
食道静脈瘤(Esophageal Varix)とは、食道の粘膜下層にある静脈が破裂する疾患のことで、バリックスとも呼ばれています。(ただし、バリックスは静脈瘤のことを指しているため、一般的には食道静脈瘤ではなく、下肢静脈瘤の洋語として用いられています。)
食道静脈瘤は肝硬変や慢性肝炎、門脈・肝静脈の狭窄・閉塞に伴う門脈圧の上昇(門脈圧亢進)が原因で起こり、特に肝硬変の合併症としてよく知られており、食道静脈瘤の90%以上が肝硬変の合併症です。
通常、胃や腸の血液は肝臓を通る必要がありますが、肝硬変などにより血液の流れが悪くなると、血液は別の道を通って心臓に戻ろうとします。その道の1つが食道であり、食道の粘膜下層にある静脈に必要以上の血液が流れることで、次第に静脈が太くなります。
食道は飲食物が通る道であるため、飲食物が通ることによる圧迫で太くなった静脈が耐えられなくなり、ある日突然、破裂して吐血・下血(タール便)の症状をきたします。食道静脈瘤の自覚症状はほとんどなく、突然吐血して初めて気づくことが非常に多く、医療従事者でも食道静脈瘤の兆候を見抜ける者は非常に少ないのが実情です。
食道静脈瘤における予防的観察・看護は未だ充実していないものの、飲食物の制限や食事方法、排便管理、服薬管理などを行うことで、予防または遅延させることができます。また、内視鏡的硬化療法(EIS)や内視鏡的静脈瘤結紮術(EVL)などの予防的治療を行い、静脈瘤を閉塞または壊死・脱落させることで、症状発現の遅延または改善を図ります。
これらの治療法は予防的にだけでなく、症状発現後(吐血・下血後)の治療としても行われており、症状発現後はまず輸液・輸血を行い、必要に応じてバルーンによる圧迫止血を行った後にEISやEVLを実施します。
症状が発現しEISやEVLを実施した術後患者の看護は、EIS・EVLの偶発症やバイタルサインの観察、再発防止のための飲食物・排便・服薬などの管理・指導が主となります。
2、食道静脈瘤の症状と進行過程
上述のように、食道静脈瘤の症状は吐血・下血であり、前触れもなく突如として発現します。しかしながら、食道静脈瘤は肝硬変などの原疾患に起因していますので、肝硬変であれば疲労感・倦怠感・黄疸・胸部の血管が浮き出る・手のひらが赤くなるなど、原疾患の症状が顕著に表れるにつれて、食道静脈瘤の悪化と捉えることができます。
つまり、原疾患の症状を観察することで、食道静脈瘤の発現を予測することが可能です。しかしながら、発現の時期を正確に予測するのは看護師など医療従事者が綿密な観察を行っていても、非常に困難なのが実情です。
吐血量は静脈の膨張や破裂の程度によって増減しますが、大量吐血になるとショック状態に陥って死亡することもあり、肝硬変の場合は出血による肝臓の血流低下により肝不全に陥ることも少なくありません。
3、食道静脈瘤の予防
静脈の破裂を防ぐためには原因となる原疾患の治療が第一ですが、時として原疾患が改善されても破裂することがあります。というのも、食道は飲食物が通る道であり、飲食物による圧迫や刺激は静脈にダメージを与えるためです。
また、排便管理や服薬管理を徹底し、定期的に内視鏡検査を行い、静脈の状態(色調、傷の有無、瘤の形態・発赤など)を確認するなど、さまざまな予防策を並行して実施する必要があります。
■食事制限・食事管理
血流量が多くなった静脈は弱化しているため、内的な圧迫に加え、外的な刺激・圧迫が破裂を助長します。硬い食べ物、骨、香辛料など刺激の強い食べ物、熱湯(熱いお茶など)、アルコール、タバコなどが破裂を引き起こします。
また、柔らかい食べ物であっても、摂取量(食道に通る飲食物の量)が多い場合には、それが静脈を圧迫して破裂を引き起こします。ゆえに、堅い食べ物は柔らかくする工夫や刺激物を摂取しない食事管理を徹底することが食道静脈瘤の予防の第一となります。
■活動制限
静脈の破裂は血圧上昇によっても起こります。重い物を持ったり過度に運動すると血圧が上昇するため、活動制限を設けることも食道静脈瘤の予防に繋がります。
■排便管理
便秘や排便困難な状態になると、1回の排便に大きく力を要し、いきむことにより血圧が上昇します。そのため、生活上における活動制限に加え、排便管理も徹底しなければいけません。下剤を使用してでも1日1回の排便が必要です。看護師は患者の排便を促すとともに、いきまないことへの指導、便の色を観察してください。
■服薬管理
食道静脈瘤は肝硬変などの原疾患に起因しているため、原疾患が悪化するにつれて破裂の可能性が高くなります。入院時には比較的容易に患者の服薬管理を行うことができますが、退院後の服薬は患者本人の実施に委ねられます。それゆえ、入院時の徹底した「コンプライアンス」や「アドヒアランス」が非常に大切です。
■内視鏡検査
食道静脈瘤の進行度は、超音波検査・CT・血液検査などでもある程度把握できますが、内視鏡検査が第一選択となります。内視鏡により直視下で静脈の状態(色調、傷の有無、瘤の形態・発赤など)をみることができ、進行度を正確に把握することができます。内視鏡検査が最も有効な検査であることから、食道静脈瘤をきたす可能性のある疾患を有する患者に対しては、内視鏡検査の定期的な実施を促進・指導してください。
■予防的治療
内視鏡検査などにより、食道静脈瘤をきたす可能性が高いと判断される場合には、予防的治療として内視鏡的硬化療法(EIS)や内視鏡的静脈瘤結紮術(EVL)が行われます。これらは内視鏡的に静脈瘤を閉塞または壊死・脱落させるため、予防としては最も効果的です。ただし、原疾患が改善されなければ再発することが予想されますので、再発に関しては留意しておく必要があります。
また、咳が静脈破裂を促すことが多いので、咳をしている時は静脈破裂の可能性を十分に考慮し、早期発見できるよう体制を整えておきましょう。
4、食道静脈瘤の治療
食道静脈瘤の治療は、①内視鏡的治療(EIS・EVL・EISL)、②IVR(カテーテルなど)を応用した治療、③外科的手術、④薬物治療(発癌抑制、肝線維化改善のためのIFN治療・門脈圧低下、ARB投与など)、⑤保存的治療の5つがあり、患者の状態に応じて選択します。
ただし、外科的手術は侵襲性が高く、薬物治療は緊急時には適応とならないため、食道静脈瘤の治療(症状出現時または可能性が高い症例)には簡易的に行え侵襲性の低い「EIS」「EVL」「EISL」などの内視鏡的治療が主として実施されます。
■内視鏡的硬化療法(EIS)
EISは瘤のある静脈に内視鏡下に穿刺し硬化剤を注入し、静脈瘤を塞栓する治療法です。EISにはオレイン酸モノエタノールアミン(EO)の血管内注入法と、エトキシスクレロール(AS)の血管外注入法の2種類ありますが、基本的には血管内注入法が選択され、血管内注入が困難な場合に血管外注入法が選択されます。
■内視鏡的静脈瘤結紮術(EVL)
EVLはゴムバンドを用いて食道静脈瘤を結紮し、人為的に血栓性閉塞を引き起こす治療法です。手技が簡易であることから積極的に実施されますが、EISよりも再発率が高いことが欠点として挙げられます。なお、肝機能の低下した場合(高度黄疸、低アルブミン、血小板減少、脳症、腹水)や、緊急時の一時止血にEVLが有効です。
■EIS とEVLの同時併用療法(EISL)
EISによる高い治療効果と再発予防効果、EVLによる機械的で確実な止血効果を併用した治療法がEISLです。2つのメリットを融合した革新的な治療法であるものの、手技がより困難になる、入院期間が長期化する、緊急時の止血には適さないなどのデメリットも存在するため、吐血後の治療ではなく、主に予防的治療として実施されています。
5、予防的治療後・静脈破裂後の看護
内視鏡治療後(止血・塞栓・閉塞後)は主に、内視鏡治療に伴う合併症に留意した看護が主体となります。内視鏡治療に伴う合併症には、胸痛、発熱、食道潰瘍、食道狭窄、腎機能障害などがあり、ほとんどは自然経過または内服加療で回復しますが、高度の食道狭窄を起こした場合には食道をバルーンで拡張する必要があるなど、迅速な処置が必要となることも多々あります。
また、脳梗塞が引き起こされることもあり、さらに食道静脈瘤は原疾患に起因していることで、再発の可能性があります。概ね、再発率は2年以内に50%以上になりますので、合併症の早期発見や症状緩和に努めるとともに、再発を防ぐための指導・管理が必要不可欠です。
■合併症の早期発見
上述のように内視鏡治療に伴う合併症は多岐に渡ります。局所的なものとして出血・食道潰瘍・食道狭窄、全身的なものとして発熱・胸痛・ショック・腎機能障害・肝機能障害・門脈血栓などがあります。看護師がこれらの合併症を予防することは不可能ですが、症状の増悪を防ぐことは可能ですので、治療後には患者の全身状態やバイタルサインを綿密に観察してください。
なお、単なる発熱・胸痛と思っていても、発熱は誤嚥性肺炎や縦隔炎が起因していることも考えられ、また強い胸痛がみられる場合には食道穿孔なども考えられます。発熱・胸痛には起因となる合併症を考慮した上で観察していくことが大切です。
■合併症の症状緩和
発熱・胸痛の多くは経過観察で消失します。しかしながら、内視鏡的治療により患者は体力が低下している状態ですので、単なる発熱・胸痛でも患者にとっては大きな苦痛です。これらを緩和させるためには、①安静な体位、②心身の安静、③温湿布などが効果的です。積極的に苦痛緩和に取り組んでください。
■食道静脈瘤の再発防止
「3、食道静脈瘤の予防」で詳しく述べましたが、静脈の破裂は食道を通る飲食物が大きく関係しています。また、血圧上昇や原疾患の進行も要因となっているため、①食事制限・食事管理、②活動制限、③排便管理、④服薬管理を徹底し、退院後は患者自身でしっかり管理できるよう、指導・教育を行うことが大切です。
また、食道静脈瘤は吐血による発見が多いものの、下血(タール便)で発見できることもあります。ゆえに、入院時には看護師が便の状態を観察し、退院後には患者自身が積極的に観察するよう指導し、下血がみられる場合には来院する旨をしっかり伝えてください。また、内視鏡検査を定期的に受けるよう指導してください。
■精神的苦痛の緩和
吐血や内視鏡治療(患者視点では手術)は、患者に大きな精神的苦痛を与えます。特に「吐血=死の可能性」という考えが一般化していることで、死への恐怖や人生に対する不安など、治療後の精神的苦痛は大きいものです。それゆえ、看護師はコミュニケーションや寄り添う看護を通して精神的苦痛の緩和を図り、患者のQOL向上に努めなければいけません。
まとめ
食道静脈瘤は原疾患に伴う二次的合併症ですので、再発率は2年以内に50%以上と非常に高く、食道静脈瘤による死亡例も少なくありません。
静脈の破裂は突如として起こり、発症の時期予測は非常に難しいため、まずは予防的対策を講じることが大切です。また、治療後には治療に伴う合併症の早期発見・症状緩和、予防的対策、精神的苦痛の緩和を図り、患者のQOLを最大限に向上できるよう綿密な観察・指導、寄り添う看護を実施していってください。
愛知県名古屋市在住、看護師歴5年。愛知県内の総合病院(消化器外科)で日勤常勤として勤務する傍ら、ライター・ブロガーとしても活動中。写真を撮ることが趣味で、その腕前からアマチュア写真家としても活躍している。
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