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ALS(筋萎縮性側索硬化症)|看護ケアのポイントと看護計画(2016/02/26)

公開日: : 最終更新日:2017/12/09 看護用語 千葉県 脳神経外科 

ALS

筋力が徐々に低下していく完治の難しい疾患、ALS(筋萎縮性側索硬化症)。ALSを患う方は生活面において、さまざまな障害を持ち、さらに筋力低下に伴う合併症(二次的疾患)の可能性もあるため、多角的な視点から看護を実施する必要があります。

以下にALSの概要に加え、看護ケアの方法についてご紹介しますので、ALS患者の看護を行う看護師や今後受け持つ予定の看護学生は、しっかりとお読みいただき、参考にしていただければと思います。

 

1、ALSとは

ALSとは「筋萎縮性側索硬化症」のことで、運動を司る神経(運動ニューロン)に障害が及び、手足・喉・舌などの筋肉が徐々に痩せていく難病です。

原因は未だ完全に解明されていませんが、神経系の老化や遺伝子の異常などが原因であるという見方が強く、徐々に原因が明らかになってきています。

また、ALSの根治治療は存在しておらず、症状の緩和や進行の遅延を主として治療を行っていくため、発症から死亡までの期間は概ね2~5年で、多くは呼吸不全で死亡します。

よって、ALSを患う患者に対する看護師のケアは、QOLを向上させることが第一であり、献身的な“寄り添う看護”が非常に重要となります。

 

2、ALSの基礎的看護ケア

ALSを患う患者は手足・喉・舌などの筋力低下により、「運動障害」「嚥下・呼吸障害」「コミュニケーション障害」を発症します。また、精神的苦痛や合併症の併発、生活活動範囲の縮小など、さまざまな問題がでてきます。さらに、患者家族にも多くの問題が出てきます。

これら障害や問題に対するニードを充足させること、つまりQOLを向上させることが看護師の役割であり、患者・家族に対して多角的な視点からケアを実施することが求められます。

 

■運動障害

手足の筋力の低下や麻痺に伴う運動障害の症状改善は難しく、現状ではリハビリテーションによる症状進行の遅延や装具による運動補助などを実施するほかありません。特にリハビリテーションにおいては、時として脱臼や靭帯損傷などの危険があるため、患者の筋力量や筋肉の可動域を正しく見極めた上で、患者のペースに合わせた無理のない援助が不可欠です。

 

■嚥下・呼吸障害

嚥下・呼吸障害は生死に関わるものであり、障害が深刻化するとQOLを著しく疎外します。嚥下障害が深刻化し十分な栄養摂取が不能となればPEG(経皮内視鏡的胃瘻増設術)の導入の検討、呼吸障害が深刻化すれば人工呼吸器の装着や気管切開を検討しなければなりません。よって、事前なインフォームドコンセプトが何より重要になります。

嚥下・呼吸障害ともに筋力の低下により症状が進行していくため、胸郭可動訓練・吸気筋訓練などのリハビリテーションも有効ですが、加重負荷を考慮し、患者の同意のもと無理なく実施してください。

 

■コミュニケーション障害

コミュニケーションに障害が及び意思伝達手段がないと孤独感やさまざまな葛藤が起こり、QOLは著しく低下します。コミュニケーション障害の発症は嚥下・呼吸障害に随伴し、障害が深刻化すると言語でのコミュニケーションが困難となるため、機能が残存している早い段階でコンピュータなどを用いた言語療法(コミュニケーション手段)を開始することが重要です。ただし決して無理強いはせず、可能な範囲で、またやる気の範囲でゆっくり進めてください。

 

■精神的苦痛の軽減

症状の進行に伴い、また死に近づくにつれて患者の精神的苦痛は増大していきます。多くは看護師―患者間で信頼関係が築かれれば患者はより安心でき、精神的苦痛が軽減します。コミュニケーションを通して都度、献身的な姿勢で接するとともに、ニードを最大限に充足できるよう援助を行ってください。

看護コミュニケーションの目的と意義、信頼獲得のための術

 

■合併症の予防・緩和

ALSの合併症は、滲出性中耳炎、流涎過多、肺炎無気肺、腸管麻痺、眩暈浮腫褥瘡などの他、痛み・かゆみ・めまい・不眠などの症状が発現することがあります。これら全てを確実に予防することが困難ですが、特に皮膚トラブル(浮腫褥瘡・かゆみ)は負荷圧力の分散により予防できる、または進行を遅らせることができます。1つ1つ起こりうる合併症を確認し、発症の危険性が高いものを優先的に予防・緩和に努めてください。

 

環境整備

寝室・浴室・台所など移動や活動に際して不便とならない環境を工夫することも大切です。特に自立歩行ができるなど生活活動範囲が広い早期においては、安心・安全・安楽に活動できる環境の整備に努めてください。これを行うためには、まず患者の生活活動範囲や筋力量・筋肉の可動範囲、転倒・転落など危険性の有無をしっかりアセスメントすることが不可欠です。

環境整備|目標設定・観察をもとにした看護ケアの実践と手順

 

■家族に対するケア

患者だけが身体的・精神的に負担を感じているのではなく、患者家族も同様です。また、患者家族は身体的・精神的負担に加え、社会的負担(財政面など)も大きくのしかかります。患者家族の心理や社会的背景を十分把握した上で、患者家族の負担軽減に努め、社会資源の情報提供・ケア方法・療養環境などについて十分な指導を行ってください。

 

3、ALSの看護計画

ALSを患う患者の看護問題ならびに看護計画は、症状や症状の進行度、身体的・精神的・社会的負担の程度により多岐に渡ります。

概ね、身体の問題(運動障害・嚥下・呼吸障害・コミュニケーション障害)、精神の問題(不安・死への葛藤)、生活上の問題、適切な看護・診療の提供の問題、家族の生活保障の問題などがあります。

まずは現状において抱える患者の看護上の問題(看護問題)や家族の問題を抽出し、短期・長期の両方の目標を適切に設定することが非常に大切です。

 

  • 症状の進行状況・障害の程度、それに伴い阻害されているニードは何か
  • 発病による患者―家族の生活の変化、改善すべき点はあるか
  • 患者と家族の生活背景の中に原疾患の増悪因子は存在するか

 

まとめ

ALSは根治治療が存在しない難病であるため、QOLを向上させることが最も重要な看護ケアです。

症状の程度や進行度、負担因子、ニードなどを正しく見極め、献身的な看護を通して患者・家族双方のQOLの向上を図ってください。

高田典明 看護師

東京都出身、千葉県在住。高校卒業後、一般企業に就職。父が脳梗塞で倒れたのをキッカケに、脳血管障害を有する人の治療に携わりたいと思うようになり、看護師の道を志す。看護学校へ入学、看護師国家試験に合格の後、千葉県内の市立病院(脳神経外科)に就職。父の介護が必要になったことで5年の勤務を経て離職。現在は介護の傍ら、ライターとして活動中。同時に、介護の在り方や技術などにおける勉強も行っている。

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