在宅介護の看護計画|訪問看護師の病院、地域との連携と役割(2015/08/18)
在宅看護とは、人々が生活している居宅において看護を行うものであり、予防的ケアから健康の維持回復をめざすケア、そして安らかな死に至るまでの終末期ケアまで、幅広い健康レベルを対象とした看護です。
また、在宅看護を行う居宅は、人々の生活の場であることから、気候・風土・文化・政治・経済・教育といった地域の特殊性によって影響を受け、非常に多様です。一方、地域には在宅看護を提供する訪問看護ステーションや診療所などの組織のほかに、さまざまな保健・医療・福祉にかかわる機関が点在します。そのため、各機関はネットワークを広げ、一人ひとりの患者を支えていくことが求められます。
このような視点からは、患者のみならず、在宅看護を提供する組織を含む地域ケアサービスのシステムもまた在宅看護の一部です。
しかし、在宅看護は、施設内看護と異なる点が多いです。看護全般との共通性を保ちつつ、在宅看護の特殊性を十分理解し、社会の変化に応じた在宅看護を創造し続けることが求められています。
目次
1、在宅看護の歴史
わが国の在宅看護は、明治時代の「派出看護婦」がその原型とされ、その後、貧困者への巡回看護や結核患者への訪問看護事業といった公衆衛生看護に引き継がれました。現在の在宅看護の形態は、1970年代に病院から退院する患者への継続看護として、先駆的な医療機関が取り組み始めた活動が元になっています。
1980年代に入ると時代は高齢化に突入し、1982年、老人保健法が制定され、ここに訪問看護活動が制度化されました。その後、1992年に老人訪問看護ステーションが創設され、1994年の健康保険法改正により高齢者にかぎらず、すべての年代に訪問看護が実施できるようになりました。
こうして在宅看護は飛躍的な変化を遂げ、在宅看護の対象者は小児から高齢者まで幅広くなり、医療機関から離れた地域であっても、訪問看護ステーションがあれば在宅看護が可能になったのです。
2、介護保険施行後に訪問看護はこう変わった
発展を経た在宅看護は、2000年の介護保険法施行とともに次のステップを迎え、それまで医療保険により行われていた訪問看護は、介護保険での実施が可能になりました。
介護保険サービスは、ケアマネジャー(介護支援専門員)が計画した居宅介護支援計画に基づいて提供されます。介護保険による訪問介護では、ケアマネジャーとの連携が必須となります。
また、介護保険法の施行は、これまで家族内のものであった介護を社会化する大きな動きとなりました。在宅重視の政策により、訪問介護、訪問入浴介護などの、患者の居宅で行われる介護保険サービスが拡大し、患者はサービス内容や費用などの条件から、利用するサービスを選択できるようになりました。
そのため、改めて訪問介護の独自性が問われ、各介護保険サービスとの違いを利用者が理解できるように伝える責任が課せられたといえます。
在宅看護の視点として考慮しなければならない特徴は、①医療従事者と患者の位置関係、②看護師の責任、③患者を支える在宅ケアチームの連携、の3つです。
■医療従事者と患者の位置関係
在宅看護では、医療従事者が居宅にいる対象者の生活の場を訪れます。そのため在宅看護においては、患者にとって看護師が訪問者(ゲスト)になるのです。
■看護師の責任
看護師が居宅を訪問するときには多くの場合一人であり、その場には他の医療従事者は通常いません。つまり、1人の看護師の観察や判断、それに伴う看護実践に対する責任が非常に重いのです。
■患者を支える在宅ケアチームの連携
施設内のケアチームと異なり、一般に多職種・多機関で構成されます。しかもチームメンバーが時間や場所を共有することが大変難しいです。そのため、チームメンバーとの連携が重要であり、関係調整能力が求められています。
3、在宅看護における看護師の役割
在宅看護は、患者の健康回復と維持増進、または平和な死に寄与します。そのために、患者が必要とする医療とその人自身の生活が、共存できるように援助することが必要です。これは他の看護領域と共通する点ではありますが、在宅看護の場合、行われる場が医療機関ではないことから、まずは必要な医療が在宅で適切に実施できるための医療専門家でなければなりません。
また、これらの在宅医療はその人の生活の一部であるため、看護師は日常生活の援助者の役割ももちます。日常生活の援助は、その人の能力を最大限に発揮し、QOLを高めるように行ないます。
日常生活は24時間絶え間なく続くことから、日常生活の援助の直接的実施者は看護師ではない場合が多いです。したがって、看護師は家族や他のチームメンバーを指導・支援しながら、生活の援助を行うことが大切です。
多職種が関与する在宅ケアチームのなかで、看護師は診療の補助と日常生活の視点をもつことができる職種です。したがって、在宅看護では、看護師はチーム全体の調整者としての役割が大きいのです。
在宅看護では、看護師が療養者に接する機会は断続的になります。このとき、前回と今回の訪問の間に患者に変化が起きていないかどうか、次の訪問まで安定して生活できるかどうかを判断することが重要となります。また、急に苦痛となる症状が現れれば、緊急に訪問することもあり、このときにも身体に何が起こっているのかを判断しなくてはなりません。
在宅看護を受ける患者は、複数の疾患を抱える患者や、苦痛な症状を有することも多く、さらには、運動機能やコミュニケーション能力に障害がある場合には、身体に不調が出現したとしても、自ら外来受診ができないことも多いです。
そのため、在宅ケアチームにおいて、ただちに患者を訪問することができ、どのような医療が必要であるかを判断できる訪問看護師は、患者の安心に重要な役割を果たします。
つまり、在宅看護では、看護師が患者の身体に起きたことを判断し、それを的確に、かつすみやかに医師に伝える能力は必要不可欠です。在宅看護に携わる看護師にとってフィジカルアセスメントは必須の技能(スキル)といえます。
4、フィジカルアセスメント(身体的判断)
フィジカルアセスメントは患者が訴える症状や兆候をきっかけとして、それに看護師の五感から得た情報を加えて、患者の身体にどのようなことが起きているのかを判断していく過程全体です。
そのため、数多くの疾患について、症状や観察項目を基礎知識として知っておかなければなりません。そのうえで、患者が訴える症状を十分聞き出すコミュニケーション能力と、身体に起こっている徴候を的確に把握するフィジカルイグザミネーションの2つのスキルが必要です。さらに、この2つから得られた情報を分析し、結論に導く、判断(思考過程)が必要となります。
フィジカルアセスメントの思考過程として、例えば、腹痛を訴えている大腸がん術後で肝転移のある患者の場合を考えてみましょう。問診にフィジカルイグザミネーションを加え、そこから得られた情報に沿ってアセスメントを行ないます。アセスメントによって身体の状況についていくつか想定される候補を挙げ、さらに、そこからもっとも該当しやすいものに絞っていく思考過程です。
フィジカルイグザミネーションには、問診、視診、触診、聴診、打診の5つが挙げられます。看護師は、問診、視診、触診は比較的よく用います。しかし、聴診、打診については十分な技術を習得していないこともあります。聴診と打診によって、身体の内部に起きている変化についてより多くの情報収集が可能となるため、必ず習得しておくようにします。
5、他の医療職との地域連携
年をとっても障害をもっても、自分らしく、住み慣れた地域で療養生活を送りたい、というニーズをもつ人々は多いです。そのため、家族が介護の負担を担って当然という考えではなく、社会全体で介護リスクを支え合うという「リスクの共同化」の視点が明確になり、2000年に介護保険制度が創設されました。
これにより在宅医療の現場も大きく変わり、「施設から在宅へ」の大きな流れのなか、医療依存度の高いがん、難病や小児、精神疾患をもつ人々も地域で療養できるようになってきています。
さまざまなニーズをもった療養者と家族を支えるために、その人に合った適正な援助が行えるよう、有効な連携を行う保健、医療、福祉の仕組みづくりが必要となってきました。
地域包括ケアシステムとは、地域住民に対し保健サービス、医療サービスおよび在宅ケア、リハビリテーションなどの介護を含む福祉サービスを、関係者が連携、協力して、地域住民のニーズに応じて、一体的、体系的に提供する仕組みです。
すなわち、ソフト面では、その地域にある保健・医療・介護・福祉の関係者が連携してサービスを提供するものであり、ハード面では、そのために必要な施設が整備され、地域のサービスの資源が連携、統合されて運営されていることです。言い換えれば、医療、介護、生活支援のサービスが切れ目なく提供されることを目指しています。
6、病院・施設との連携
継続看護とは、1969年にICN(International Council of Nurses:国際看護師協会)において「その人にとって、最も適切な時期に最も適切なところで、最も適切な人によってケアされるシステムである」と定義されました。
在宅看護に移行する退院時は、療養者、家族とも在宅生活に対する不安は強いです。療養者が望む療養生活を送るためには、病院と訪問看護ステーション双方の看護師の役割が重要になってきます。
診療所に対しては、その機能を高め、病院と連携して在宅医療を推進し、看取りや認知症への対応を含めた訪問診療を実現させる方向を目指しています。すなわち、「治す医療」から「治し支える医療」へとこれまでの医療の考えを見直す時期に来ています。
病院に対しては、従来の臓器治療中心の機能に加え、「生活能力の回復」という視点の強化が必要です。
診療所と病院が連携し、生活者としての療養者の日常を家族も含めて支える機能を強化します。これらのことを通して、人生の最期をその人らしく迎えることができる在宅医療の普及を推進することができます。
■病病連携(病院・病院の連携)
病院は規模や機能により、地域支援病院(急性期病院)、慢性期病院、療養型施設などに分類されています。病病連携とは、病院同士で個々の役割分担を行って療養者にふさわしい医療サービスを提供するための情報交換のシステムです。たとえば、リハビリが必要な患者に対しては、病院から回復期のリハビリ病院へ転院させ、適切なリハビリを提供した後は在宅での療養に移行する、という連携がなされています。
■病診連携(病院・診療所との連携)
病診連携とは、病病連携に対し病院と診療所の連携を言います。在宅医療では診療所の医師と病院の医師との連携が重要です。普段は近くのかかりつけ医師が診察し、精密な検査や入院が必要な症状になった場合は病院へ送ります。また、患者の退院の際に近くの診療所を紹介する、という連携もあります。このように双方の医師が連携をとりながら、在宅療養者を支えることが重要です。
7、看護計画はケアマネジャーとの連携が必須
要支援、要介護と認定された場合、ケアマネジャー(介護支援専門員)が居宅・施設サービス計画を作成します。計画書を作成するにあたって、ケアマネジャーは利用者の生活課題(生活ニーズ)を明確にし、解決すべき問題を把握します。これを課題分析(アセスメント)といいます。
この課題分析をもとにケアプランの原案を作成し、サービス担当者会議にて検討します。会議にて決定されたケアプランを利用者に説明して同意が得られたら、プランに基づいたサービス事業所と調整を行ないます。これらの手順をふみ、サービス利用開始となります。
介護保険下での在宅サービスの調整はケアマネジャーが行っています。また、訪問看護は医療保険で利用し、ほかのサービスを介護保健で利用している場合でも、ケアマネジャーが作成するケアプランに基づいて訪問計画書を作成し、訪問看護を実施します。
訪問看護師は、看護師の立場から適切にアセスメントし、ケアマネジャーを中心に他職種と連携を取り合いながら、利用者の状態に応じた訪問介護を提供します。また、日常生活の援助を通じて家族関係や介護状況の情報を入手したり、介護者の身体的および精神的な疲労に関する観察を行ない、必要に応じてケアマネジャーに情報を提供します。
このような連携によって、利用者に必要なサービスが導入されるように調整することも訪問看護師の重要な役割です。
まとめ
医療機関の在院日数の短縮化が進むなか、今後は在宅においても医療依存度の高い利用者が増えると予測されます。訪問看護師は、利用者の病状を的確に把握、アセスメントし、今後の病状変化を予測した情報提供や看護を行う必要があります。
東京都在住、正看護師。自身が幼少期にアトピー体質だったこともあり、看護学生の頃から皮膚科への就職を熱願。看護学校を経て、看護師国家資格取得後に都内の皮膚科クリニックへ就職。ネット上に間違った情報が散見することに疑問を感じ、現在は同クリニックで働きながら、正しい情報を広めるべく、ライターとしても活動している。
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