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いまさら聞けない!看護計画

うつ病の看護|看護診断から看護計画の立案、急性期と回復期の観察項目(2017/05/27)

公開日: : 最終更新日:2020/06/09 看護計画 広島県 精神科 

近年うつ病の患者数は増加傾向にあり、病気に対する社会の認識も高まってきています。うつ病は、脳の働きに何らかの問題が起きた状態であると考えられています。このため、うつ病は治療が必要な病気の一つであり、心だけでなく、様々な身体的症状を伴うことも理解しておかなければなりません。

 

1、うつ病とは

うつ病とは日常で感じるストレスや悲しいこと、嫌なことなどが重なって気分が沈んだり、言葉では表現できないほど落ち込んだ気分や喜びの喪失が、ほぼ毎日、かつ一日中という状態が2週間以上続き、日常生活や仕事に支障が出てくる状態を言います。気分が正常の範囲を超えて高揚したり落ち込んだりすることが一定期間続くことでその人自身の社会生活に支障が出てしまいます。

引用元:一般社団法人 日本健康倶楽部

 

引用元:こころの陽だまり

 

2、うつ病の症状

うつ状態とは、抑うつ感情が中心にあり、すべての精神生活が抑うつ感情に浸されている状態を言います。興味や意欲、気分の消失やその他様々な症状を認めます。以下のような症状が2週間以上続くとうつ病と診断されます。この抑鬱状態の期間を「大うつ病」エピソードと言います。

1.食欲の減退・増進

2.体重の増減

3.睡眠障害

4.強い焦燥感

5.疲労・気力の減退

6.集中力・思考力の低下

7.自殺願望

8.精神運動機能障害

9.頭痛

10.便秘下痢

11.呼吸困難

12.心悸亢進

13.口渇

14.めまい

15.発汗

16.性欲減退

うつ病患者では脳内の神経伝達物質であるセロトニンやノルアドレナリンの量が減少し情報伝達がスムーズに行われていない状態であり、これらの物質の働きが悪くなっていることから起こる疾患と言えます。このため、各症状に合わせた治療が必要となります。

 

3、うつ病の診断基準とは

うつ病は血液検査や画像検査では診断ができないため、心療内科などの医師と患者さんとの面接臨床症状・ご家族からの情報をもとに診断を行います。近年、日本ではうつ病が多様化しており、双極性障害やパーソナリティー障害等の他の疾患との鑑別も重要です。うつ病の診断として世界的に使用されているのは、米国精神医学会が1994年に提唱したDSM-IV(ディーエスエム・フォー)の診断基準です。日本では、DSMが導入される以前は、患者さんの訴える症状、発症誘引があるかどうか、生育歴や病歴、病前性格などを総合的に考慮して診断する方法がとられていました。これを「従来型分類・診断」と呼びます。現在の日本では従来型分類・診断とDSM-IVの両方が使用されています。

 

引用元:DIAGNOSING PSYCHOLOGICAL DISORDERS

 

引用元:うつ病/非定型うつ病 | 医療法人和楽会

 

4、うつ病のアセスメント・看護診断について

看護診断では、臨床判断が的確に行えるかどうかが重要な鍵となります。看護過程の前段階であるアセスメント・情報収集・全体像の把握を確実に行い的確な看護計画の立案・実行が行えるよう努めなければなりません。

・患者情報

・患者家族の情報

・生活環境

・社会的役割・仕事

上記のような患者さんと患者さんを取り巻く環境、患者さん自身の性格や生活環境などから現在に至る臨床症状を踏まえ関連図と今後起こりうる問題のアセスメントを行い看護計画の立案していく事が大切です。

 

引用元:Pinterest • The world’s catalog of ideas

 

5、看護目標

うつ病の患者さんの社会生活への復帰を最終目標として、それぞれの患者さんに適した看護計画、目標を立案し患者さんのペースで目標が達成できるよう関わっていきましょう。

 

5−1、看護目標・看護計画

■目標1:治療計画が順調に進み抑うつ気分が改善する

①観察:OP

・抑うつ気分の程度

・患者の言動・行動・表情・態度

・気分の日内変動

・必要な内服がきちんとできているか(服薬の拒否などがないか)

・日常生活の送り方

 

②看護ケア:TP

・服薬を確実に行う

・清潔の維持や身体症状の変化に留意する

・安易な励ましは、かえって自信を失わせ孤立感を強め、苦痛を与えるの で避ける

・できる限り休息生活に入れるよう環境を整える

・定期的な関わりを継続し、患者さんの日々の変化に対応できるようにする

・患者さんにとって大きな問題についての決定や環境の変化を延期する

 

③教育・援助:EP

・患者さんの訴えを根気よく聞き、患者さんの辛い気持ちを受け入れて、理解するよう努める(傾聴・共感)

・患者さんのペース、声の調子に合わせる

・身体的ケアを通して、患者さんに安心感をもたらす

・軽度のうつ状態あるいは急性期においては、自殺企図が多いので安全を図るように配慮する

・治る病気であることを説明する

・治療中の病状は一進一退のあることを繰り返し説明する

・服薬の重要性と自律神経性の随伴症状をあらかじめ説明し、心配のないことを説明する

・入院加療が必要な場合は、その必要性について患者さんがどのくらい理解・納得し病気を受け止めているかについて傾聴する

 

■目標2:食欲低下・拒食による栄養状態の悪化を防止できる

①観察:OP

・食事摂取量・間食の有無

・全身状態(顔色・脱水の有無・皮膚状態など)

・体重の増減

・検査データ

 

②看護ケア:TP

・状態に合わせて配膳や食事への誘導・介助を行う

・身体的援助と声かけを行い信頼関係の構築をする

・患者さんの負担にならない程度に付き添う

・患者さんの嗜好や好む場所で食事ができるよう配慮する

・食事の摂取が困難な場合には医師に相談し点滴等を考慮する

・全身状態や症状に合わせて輸液などの栄養補給を行う

・体重測定、IN-OUTバランスのチェックを行う

 

③説明:EP

・食事の必要性を説明する。また、家族にも協力を得られるよう説明を行う

・食べやすいもの、好きなものを摂取できるよう説明する

 

■目標3:睡眠時間が確保できる

①観察:OP

・睡眠サイクル

・夜間の睡眠状態

・昼寝の有無

・環境的問題

・不安や心配事の有無

 

②看護ケア:TP

・睡眠パターンに応じた眠剤の服用

・不眠等の訴えがある場合にはよく話を聞く

 

③説明:EP

・眠れないことを深く考えず気が紛れる事ができるよう生活環境に配慮する

・眠れない時は眠剤を使用するよう説明する

 

■目標4:身辺の清潔を保つ事ができる

①観察:0P

・身の回りの整理整頓ができているか

入浴あるいはシャワー浴が行えているか

・洗面・歯磨き・整髪等の身だしなみ

 

②看護ケア:TP

・患者さんの自尊心を傷つけないよう配慮しながら身辺の整理や清潔保持における介助を行う

 

■目標5:褥瘡・関節拘縮等の身体的障害が起こらない

①観察:OP

・日常生活活動における意欲の有無

・一日の生活パターンの把握

・循環障害・褥瘡の有無

・関節拘縮の有無・程度

 

②看護ケア:TP

・無理に離床を促すのではなく、患者さんのその日の状態に応じて身体介助を行う

・ベッド上できる簡単なストレッチや作業あるいは散歩等、負担にならないよう配慮しながら一緒に何かしようと誘う

 

③説明:EP

・気分が乗らない時はゆっくり休むよう説明する

・皮膚トラブルやADLの低下について説明し、患者さんだけでなく、ご家族にも協力してもらえるよう支援する

引用元:看護のための病態生理とアセスメント

 

6、うつ病の急性期における治療

うつ病の患者さんは性格的にとことん自分を追い詰めてしまい、うつ病にかかってもなかなか治療を受けようとしません。しかし、急性期においては、度重なるストレスにより脳の働きが上手くいかない状態であるため、可能な限り早い時期に1ヶ月から3ヶ月の絶対休息を取る必要があります。

 

6−1、以下の急性期に必要な治療について知っておきましょう。

①休息 人の心と体を動かす脳がオーバーヒートしている状態です。ゆっくりと休んで疲れた脳を休ませることが必要です。
②服薬 抗うつ剤、精神安定剤、睡眠薬など症状に合わせて服薬をします。効果は個人によって違うため、医療者、患者さん、家族としっかりコミュニケーションをとり患者さんが安心して服薬できるよう関わっていかなければなりません。また、抗うつ薬は効果が出るまでに時間がかかるため、症状が良くならないことに不安を抱かないよう説明しておくことも大切です。
③大きな決断をしない 患者さんの人生にとって転機となる物事など、大きな決断をしないよう関わりを持ちましょう。症状が落ち着くまで考えないよう生活環境に配慮していく必要があります。
④症状の回復の有無に一喜一憂しない 日々の状態の変化にとらわれないよう回復には時間が必要であることを説明し、患者さんの話をしっかり聞くようにしましょう。
⑤自殺念慮・企図 急性期の患者さんはとても辛く、不安で押しつぶされそうな状態です。患者さんの多くが「死にたい」などの言動や、自殺を試みようとする衝動にかられるため、私たち医療者だけでなく家族の協力も必要となります。

適切な治療を行い必ず良くなることを繰り返し伝えましょう。

 

6−2、抗うつ薬について

抗うつ薬は様々な種類のものがありますが、日本では三環系・四環系・SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)・NaSSAなどが使用されています。各症状や急性期・回復期で使用される薬も変わるため、どんな薬が主に使用されているかを知っておく事が看護を行う上でも大切です。

 

7、うつ病の回復期における治療

休息と服薬の継続により症状が和らぎ、症状が安定してきます。日常生活のリズムも整い始め社会復帰に向けたリハビリに移る時期になると、やれることを少しずつやってみるなど昼間に活動する時間を徐々に増やしていきます。「早く復帰しなくては」という気持ちが先立って無理をしてしまいがちですが、一つ一つ目標を定めて医師や家族と共に無理のない範囲で目標を達成していけるよう援助していく必要があります。また、うつ病の再発を防止するためにも、うつ病になった当時のことを振り返り、どのような状況であったのかを確認し同じような悪循環に陥らないようコミュニケーションを取っていくとともに、再発を防ぐにはどうすれば良いかを考えておくことも大切です。

 

まとめ

うつ病のみならず、精神障害が増加傾向にある現代社会においては精神医療分野の役割は大変大きな位置を占めます。ストレスの多い中での社会生活や家族環境の変化に伴い今後も様々な場面で「メンタルケア」が必要となってくるでしょう。

うつ病においては、急性期における休息や服薬などの治療が必要不可欠であり、症状が消失してからの8週間は「うつ」の再燃が非常に多くなる時期であるため、社会復帰を焦らないよう指導していく必要があります。また、継続的な服薬の指導を合わせて行い、ストレスに対しての対処行動を身につけるための支援をしていく事が重要です。

 

参考文献

うつ病サプリ

日本うつ病学会

メンタルケア協議会

うつ病患者の回復過程における改善の認識 川崎医療福祉学会誌|山川裕子(2006)

高山千里 看護師

1983年生まれ、広島県広島市出身。看護学校を卒業後、広島県内の大学病院(精神科)に就職。夫の転職を機に退職し、妊娠していたこともあり、そのまま専業主婦の道へ。現在は2児のママとして、子育てに奮闘しながら看護師の知識を生かし、在宅ライターとして活動。復職を視野に入れ、看護ならびに心理学の勉強に精を出している。

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