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双極性障害の看護|双極性障害の治療法と薬、看護計画(2017/03/23)

公開日: : 最終更新日:2020/06/23 看護計画 広島県 精神科 

双極性障害看護

自我高揚感や万能感にとらわれる躁状態と、自信喪失や自己卑小感、自責・罪責感にとらわれるうつ状態を繰り返す双極性障害。双極性障害の病態を調べるための研究は、数多く行われていますが、決定的な知見はこれからなのが現状です。今回は、双極性障害の治療法と看護計画について詳しくお伝えするので、双極性障害の患者様と接するときはぜひ参考にしてください。

 

1、双極性障害とは

双極性障害(躁うつ病)は、気分障害と呼ばれる精神疾患の一つです。気分障害では、一般に「気分の異常」「思考の異常」「意欲・行動の異常」「身体症状」が現れると言われており、うつ状態の特徴と、躁状態で、以下のような特徴が出現します。

 

■うつ状態の特徴

うつ状態の特徴

 

 

 

 

 

■躁状態の特徴

躁状態の特徴

一般に双極性障害は再発を繰り返すことが多く、その経過も多様であり、最初に現れる病相も人により様々ですが、男性の場合は一般的に躁状態から始まることが多いと言われています。

診断方法としては、WHOの診断分類であるICD-10が用いられており、躁病エピソードが1回以上みられると双極性障害と診断されます。というのも、躁病エピソードがあると、必ずうつ病エピソードもともなうという考えに基づいているからです。

 

■躁病エピソード

躁病エピソード

しかしながら、双極性障害の病態を調べるための研究は数多く行われているにもかかわらず、決定的な知見はこれからというのが現実。これまでの研究からは、「遺伝子」「生育歴」「脳細胞内のミトコンドリアの機能異常」「ストレス」「性格」「体質」などが複雑に関係しているのではないかと言われています。

 

2、双極性障害の治療法と治療薬

双極性障害の治療の基本は、薬物療法と精神療法です。しかしそれだけでは十分でないので、認知療法、通電療法、天然物質、代替療法などを併用します。薬物治療の第一選択として、気分安定薬が効果的と言われており、炭酸リチウム、バルプロ酸、カルバマゼピン、ラモトリジンなどが使用されています。双極性障害に使われる気分安定薬は、躁状態にもうつ状態にも効く薬で、一見正反対の作用のものを用いると思われがちですが、上下に乱れた気分を安定させれば良いわけなので、どちらの状態にも効く薬を使います。

薬物療法で気を付けたいポイントは、双極性障害のうつ状態と、単極性うつ病の治療法を分けることです!同じうつ状態でも、中心的に用いる薬は異なり、単極性うつ病では抗うつ薬を第一選択に、双極性障害のうつ状態では気分安定薬を第一選択にします。というのも、双極性障害のうつ状態に抗うつ薬を使用すると、躁転(うつ状態から躁状態に移行すること)が起こり症状がさらに難しくなってしまうからです。

薬物治療以外にも、双極性障害の患者にはサポートが必要です。双極性障害の患者の特徴として、気分が良いと新たな課題を設定して無理を重ね、ダウンすることがあるため、生活指導が必要です。症状が治まると自己判断で薬をやめてしまうこともあるので再発のリスクも高いです。また、夏場によく、冬場は陰うつなどの、個人ごとの異なる気分の波があるので、個人ごとに年間計画を立て、過大な計画によって自らを追い込まないよう生活設計を取り入れていく必要があります。

 

3、双極性障害の看護計画

双極性障害の患者における看護計画は、「うつ状態」と「躁状態」の場合で分けて考えます。

 

3-1、うつ状態の患者の看護計画

うつ状態では気分が沈み、活動が低下するものです。さらに感情や意欲の日内変動にともない、日中臥床傾向にあることが生活リズムに影響を及ぼします。うつ状態ではカテコールアミン系の消耗が増え、睡眠時間が増加する場合もあるため、うつ状態の改善と十分な休息をとるように援助していく必要があります。

 

■自殺リスク状態

観察項目

・表情、言動

・自己尊重、コーピング、抑うつ、自己嫌悪、罪悪感の程度

・妄想、自殺念慮、願望

 

ケアプラン

・小さめの声でゆっくりと、患者と同じペースで話す

・自傷、自殺に関する患者の考えを聞く

・患者が安心して感情表現できる雰囲気を作る

・つらい気持ちを受け止める

・励ましたり、叱ったりしない

・できるだけそばにいて安心感を与える

・必要ならば危険なものを一時預かる

・正確な薬物療法を行う

 

指導項目

・憂うつな気分は何日かすれば必ずよくなることを説明する

 

■睡眠パターンの混乱

観察項目

・睡眠時間、深さ

・入眠時間、覚醒時間

・睡眠状況の観察(入眠困難、早期覚醒、中途覚醒、熟眠感)

・睡眠を妨げる因子はないか(疼痛下痢、頻尿、吐き気、不安、恐怖、無気力、騒音、明るさ、室温)

 

ケアプラン

・安心して眠れるよう、就寝前に短い言葉かけをする

・リラックスできる方法(自律訓練法、瞑想、イメージングなど)を行う

・生活のリズムを整える(睡眠、食事など)

・睡眠を妨げる因子が見つかればできる限り調整する

・正確な薬物療法を行い、睡眠状況と薬物の効果を医師に報告する

・就寝前に入浴、シャワーや足浴を行う

・入眠前に軽い読書や好きな音楽を少し聴くことをすすめる

 

指導項目

・喫煙をさけるよう説明する

・就寝前の軽食やコーヒー等さけるよう説明する

・温かいミルクを就寝前にとると眠りやすいと情報提供する

 

 

■栄養摂取消費バランス異常

観察項目

・喫煙をさけるよう説明する

・就寝前の軽食やコーヒー等さけるよう説明する

・温かいミルクを就寝前にとると眠りやすいと情報提供する

・食事時間に患者のそばにいて援助する

・患者の食べたいものがあれば病院食以外に提供する

・患者が望めば栄養強化オレンジジュースや高たんぱくの麦芽飲料を用意する

・可能ならば日中の軽い運動(散歩など)に誘う

 

■更衣/整容セルフケア不足

観察項目

・更衣、整容のレベル

 

ケアプラン

・自立を妨げないように配慮しながら、不足している部分を介助する

・衣類や洗面具、櫛などを患者の手に届きやすいところに置く

 

■不安

観察項目

・不安の症状、徴候

・緊張、振戦、いらいら、そわそわ、発汗、過呼吸、頻脈、血圧上昇、表情の緊張、顔面蒼白、紅潮など

・不安のレベル(軽度、中等度、強度、重度)

 

ケアプラン

・共感的・受容的態度で接する

・静かにそばにいることや軽く身体に触れることなどで、安心感を与える

・可能ならば午後に軽い気分転換活動を促す

 

便秘

観察項目

・排便回数、量、性状

・便秘に伴う症状(頭痛食欲不振、悪心、腹部膨満感、腹痛)

 

ケアプラン

・水分摂取を促す

・腹部マッサージ

・適切な薬物療法を行い、排便状況を医師に報告する

 

指導項目

 

■自己尊重慢性的な低下

観察項目

・自己に対する否定的な感情表現(無気力、無価値感)

 

ケアプラン

・低いトーンの声で話し、過度に陽気にならない

・無理に頑張らなくてよいことを伝える

・本人の頑張りを認める

・患者のことを心配し、価値のある人間だということを伝える

 

3-2、躁状態の患者の看護計画

躁状態は、感情高揚に精神運動興奮があいまって、他者の迷惑をかえりみない言動を数多くとるようになり、トラブルを起こしやすくなるため、調整を必要とします。また、体力消耗してしまうので十分な休養を促していくことが大切です。

 

■自分自身、または他者に対する暴力行為のハイリスク状態

観察項目

・落ち着きのなさ、興奮行動、他者への干渉、頻回の電話

 

ケアプラン

・周囲の刺激を減らす

・必要に応じて患者を隔離する

・行動が破壊的になる前に臨時薬を適切に用いる

・看護師全員が一貫性のある対応をする

 

■思考過程の混乱

観察項目

見当識障害

・集中力の低下

・早口で休みないおしゃべりの有無

・幻覚、妄想

 

ケアプラン

・暴言を吐かれても患者のペースに巻き込まれない

・患者と実行できない約束はせず、必要に応じ現実を具体的に強化する

・周囲からの刺激を減らす

・今後の治療や退院の計画に対する感情を表現できる機会をつくる

 

■セルフケア不足

観察項目

・食事、水分摂取パターン、摂取量

・排泄パターン

・清潔行為が行えているか

・活動と休息のバランス

・睡眠パターン

 

ケアプラン

・患者の行動の不十分な点について説明し部分的に補う

・患者のスケジュールに休憩時間を作る

・就寝時に刺激を減らす

・夜間は他患者との関りを制限する

・注意が清潔保持の行動に向けられるように患者をひきつけておく必要がある

 

■知識不足

観察項目

・患者家族の知識状況

・理解、記憶の状況

・学習への関心

 

ケアプラン

・情報は必要ならパンフレット形式でわかりやすく説明する

・指導後感想や疑問があれば話してもらう

・患者が落ち着いていれば、躁状態になった原因、回避する方法について話してもらう

 

指導項目

・患者家族に、躁状態、双極性障害について指導する

・治療薬の投与量と副作用について説明する

・気分が安定してきたからと言って中断しないよう説明する

・家族や職場と調整を行い、社会復帰の支援をする

 

まとめ

うつ状態と躁状態を繰り返す患者に、最初は困惑してしまうこともあるかもしれません。しかし、意識して一貫した態度で接することで、患者も自身も守ることができます。患者は病識がないため、何度も再発してしまうで知られている躁うつ病。退院後も再発しないよう、病院内だけではなく退院後も見据えて看護できるよう、ぜひ今回の看護計画を実践してみてください。

 

参考文献

川野雅資:精神看護学Ⅱ:ヌーヴェルヒロカワ(197-201,289-293,389-371 平成22年2月26日)

医療情報科学研究所:看護師国家試験のためのなぜ?どうして?チェキラ第6版(メディックメディア 569,574 平成27年7月10日)

高山千里 看護師

1983年生まれ、広島県広島市出身。看護学校を卒業後、広島県内の大学病院(精神科)に就職。夫の転職を機に退職し、妊娠していたこともあり、そのまま専業主婦の道へ。現在は2児のママとして、子育てに奮闘しながら看護師の知識を生かし、在宅ライターとして活動。復職を視野に入れ、看護ならびに心理学の勉強に精を出している。

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