看護におけるアドボカシーの役割と意義、遂行のためのポイント(2016/12/14)
看護におけるアドボカシーとは端的に言うと「患者が自身の権利を守るための自己決定をできるように支援すること」です。その実現のために看護師は、患者やその家族に十分な情報を提供し、理解を促して自己決定できるように働きかけます。さらには、医療従事者との仲裁も行います。
1、アドボカシーとは
アドボカシーとは、権利擁護の主張を意味します。これを看護領域に当てはめると「患者の権利擁護」であり、患者の生命や安全の保護をするのはもちろん、社会的不利益を被らないように援助をし、尊厳を守ることを意味します。
つまり、患者にすべての治療におけるメリットのみならず、リスクを理解できるように十分な情報を伝えて支えることでエンパワーメントすることが必要となります。
さらに、医療者との仲裁や医療者間の調整を行います。それによって患者は納得をして治療を承認することや、医師に対して意見をすることもできるようになります。
■概念の属性
保護する | 患者/家族の権利・利益、プライバシーを守り、患者/家族を代弁する。 |
支える | 患者/家族が遂行できるように提案し、自己決定を支える。 |
伝える | 患者/家族に情報を与えて保障しインフォームド・コンセントを行う。 |
エンパワーメントする | 患者/家族を教育し、エンパワーメントする(患者/家族を強引に説得するのではなく、自己決定できるように働きかける)。 |
仲裁する | 患者と家族、医療者の仲裁をする。 |
調整する | 患者情報を医療チームに報告し、調整し連携を図る。 |
看護における「アドボカシー」の概念分析より引用
1-1、患者の擁護されるべき権利とは
「患者の権利に関するリスボン宣言」において、医師が是認し推進する患者の主要な権利のいくつかを述べています。「良質の医療を受ける権利」「選択の自由の権利」「自己決定の権利」「意識のない患者」「法的無能力の患者」「患者の意思に反する処置」「情報に対する権利」「守秘義務に対する権利」、これらの中から以下の4つの権利について取り上げておきます。
■良質の医療を受ける権利
- すべての人は、差別なしに適切な医療を受ける権利を有する。
- すべての患者は、いかなる外部干渉も受けずに自由に臨床上および倫理上の判断を行う ことを認識している医師から治療を受ける権利を有する。
- 患者は、常にその最善の利益に即して治療を受けるものとする。患者が受ける治療は、一般的に受け入れられた医学的原則に沿って行われるものとする。
- 質の保証は、常に医療のひとつの要素でなければならない。特に医師は、医療の質の擁護者たる責任を担うべきである。
- 供給を限られた特定の治療に関して、それを必要とする患者間で選定を行わなければならない場合は、そのような患者はすべて治療を受けるための公平な選択手続きを受ける権利がある。その選択は、医学的基準に基づき、かつ差別なく行われなければならない。
- 患者は、医療を継続して受ける権利を有する。医師は、医学的に必要とされる治療を行うにあたり、同じ患者の治療にあたっている他の医療提供者と協力する責務を有する。医師は、現在と異なる治療を行うために患者に対して適切な援助と十分な機会を与えることができないならば、今までの治療が医学的に引き続き必要とされる限り、患者の治療を中断してはならない。
■選択の自由の権利
- 患者は、民間、公的部門を問わず、担当の医師、病院、あるいは保健サービス機関を自由に選択し、また変更する権利を有する。
- 患者はいかなる治療段階においても、他の医師の意見を求める権利を有する。
■自己決定の権利
- 患者は、自分自身に関わる自由な決定を行うための自己決定の権利を有する。医師は、患者に対してその決定のもたらす結果を知らせるものとする。
- 精神的に判断能力のある成人患者は、いかなる診断上の手続きないし治療に対しても、同意を与えるかまたは差し控える権利を有する。患者は自分自身の決定を行ううえで必要とされる情報を得る権利を有する。患者は、検査ないし治療の目的、その結果が意味すること、そして同意を差し控えることの意味について明確に理解するべきである。
- 患者は医学研究あるいは医学教育に参加することを拒絶する権利を有する。
■情報に対する権利
- 患者は、いかなる医療上の記録であろうと、そこに記載されている自己の情報を受ける権利を有し、また症状についての医学的事実を含む健康状態に関して十分な説明を受ける権利を有する。しかしながら、患者の記録に含まれる第三者についての機密情報は、その者の同意なくしては患者に与えてはならない。
- 例外的に、情報が患者自身の生命あるいは健康に著しい危険をもたらす恐れがあると信ずるべき十分な理由がある場合は、その情報を患者に対して与えなくともよい。
- 情報は、その患者の文化に適した方法で、かつ患者が理解できる方法で与えられなければならない。
- 患者は、他人の生命の保護に必要とされていない場合に限り、その明確な要求に基づき情報を知らされない権利を有する。
日本医師会ホームページ内「患者の権利に関するWMAリスボン宣言」より引用
これらの患者の権利を擁護するために看護師はアドボカシーの概念と、その必要性を理解することが求められます。全ての患者がアドボカシーの対象であることを認識し、日々の業務の中で積極的に患者を支援して行くことが必要です。患者の自己決定に対して適切かつ十分な情報を提供して、患者の自己決定を尊重することが重要な役割といえます。
2、看護アドボカシーにおける問題点
看護アドボカシーを患者に行うことにはリスクも伴います。なぜなら、看護師個人の義務感や感性に委ねる部分が多く、ともすれば看護師の思い込みや自己判断で患者の気持ちを代弁してしまうこともあるからです。看護師が患者に成り代わって看護師が代弁することはアドボカシーとは言えません。
3、看護アドボカシーの遂行のために
なによりもまずは患者に寄り添い信頼関係を築く必要があります。看護師と患者との距離が近づくことで、看護師は医師と患者の架け橋になることができます。
例えば、医師から治療の説明を受ける際にも、医師には直接聞けない疑問や不安があることを看護師が察知して、患者に質問を促したりすることができます。「ここまでで、何か質問はないですか」という声掛けひとつが、患者の緊張を和らげ、患者の考えを引き出すきっかけとなります。そうすることで、患者は自分の治療について十分理解した上で治療を受けられるようになります。
つまり、患者が治療に対するメリットやリスクを理解するために、適切な情報を提供するために重要な役目を果たすこととなります。その際に、完治後の生活において、どのような制限が生じるかなど、様々な視点からの情報を提供できるのも患者にとって一番身近な存在である看護師だからこそです。自身の役割の大きさを十分に自負することが大切です。
そして、この患者の自己決定をサポートするにあたって最も気をつけなければいけないことは、看護師が自分の考えを患者に押し付けないことです。あくまでも治療に関する自己決定権は患者にあり、看護師はそのサポート役であることを認識することが大切です。
まとめ
看護師は他の医療従事者に比べて患者と接する機会が多いため、患者にとって一番身近な存在です。普段の看護業務を通して患者と信頼関係を結び、患者が些細なことでも気軽に尋ねることができる信頼関係を構築することが大切です。
そうすることで、患者の意向を汲みとりやすくなり、より広い視野から適切な情報を伝えることができ、患者の自己決定を支えることができます。その上で、他の医療従事者との架け橋となり、医療従事者間の情報共有などの調整役を担うことになります。そして、これらの看護師の働きが患者の権利・利益の擁護につながるのです。
東京都在住、正看護師。自身が幼少期にアトピー体質だったこともあり、看護学生の頃から皮膚科への就職を熱願。看護学校を経て、看護師国家資格取得後に都内の皮膚科クリニックへ就職。ネット上に間違った情報が散見することに疑問を感じ、現在は同クリニックで働きながら、正しい情報を広めるべく、ライターとしても活動している。
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