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低カリウム血症・高カリウム血症患者への看護のポイント(2016/12/07)

公開日: : 最終更新日:2020/06/05 看護用語 東京都 全科共通 

低・高カリウム血症

私たちにとって身近な食物から摂取できるミネラルの代表でもあるカリウムは、体内での貯蔵量が不足または過剰になったりして、濃度に異常が発生すると低カリウム血症や高カリウム血症を引き起こします。

いずれも初期段階では無症状であったり、さまざまな原因が考えられるといった共通の特徴があり、慎重かつきめ細かい看護が求められます。

低カリウム血症・高カリウム血症が疑われる、もしくは発症する可能性が高い患者に対して、どのような場面でどのような事柄に注意を向けることが重要になるのか、ポイントを踏まえた上で対処していくことが大切です。

 

1、低カリウム血症・高カリウム血症とは

カリウムは細胞内の主要電解質で、体重の約4割を占める細胞内液に含まれています。カリウムには、神経刺激の伝達や筋肉収縮、細胞内の浸透圧の維持を図る働きがあります。

低カリウム血症および高カリウム血症は、カリウム濃度に異常がきたされることで起きます。細胞内外のカリウム濃度比は細胞膜の分極のほか、神経伝導や筋細胞の収縮などに影響を及ぼすため、血清カリウム濃度に小さな変化が起きるだけで、大きな臨床的な症状をもたらすこともあり、重症化すると生命にも危険が及びます。

 

■低カリウム血症

低カリウム血症は、血清カリウム濃度が3・5mEq/Lを下回る状態を指します。この状態は、体内の総カリウム貯蔵量が不足するか、カリウムが細胞内に異常に移動して、細胞外のカリウム濃度が低くなることによって起きます。

通常は腎臓や消化管からカリウムが過剰に失われて起こります。血清検査によって診断され、カリウム投与や、原因疾患への対処などの治療法が取られることになります。

 

■高カリウム血症

高カリウム血症は、血清カリウム濃度が5・5mEq/Lを上回る状態を指します。この状態は、体内の総カリウム貯蔵量が過剰になったり、カリウムが細胞の外に異常に移動することによって起きます。

血清や血漿のカリウム濃度の測定結果をもとに診断し、治療としては陽イオン交換樹脂投与のほか、緊急性が高いケースであればインスリンやグルコン酸カルシウムを投与したり、透析などの手法が取られることになります。

 

1-1、カリウムの摂取

カリウムは、果物や海藻類、肉、野菜、魚介類などの食物に多く含まれていますが、食品の加工や精製度が進むにつれて、その含量は減っていきます。

厚生労働省の「日本人の食事摂取基準(2015年版)」では、日本人はナトリウムの摂取量が多いため、ナトリウムの尿中排せつを促すミネラルであるカリウムを摂取することの重要性が述べられています。この中で、成人の1日のカリウム摂取の目安量は、男性が2500mg、女性は2000mgとされています。

 

1-2、カリウムの細胞内外移動

前述したように、低カリウム血症・高カリウム血症ともに、カリウムの貯蔵量だけでなく、カリウムが細胞内外に移動することも発症に影響します。

カリウムを細胞内に移動させる因子としては、インスリンが挙げられます。インスリンが高値になると血漿カリウム濃度は低下し、反対に低値になるとカリウムが細胞外に移動して血漿カリウム濃度は上昇します。

他には、βアドレナリン作動薬はカリウムを細胞内に移動させ、β遮断薬やα作動薬はカリウムを細胞外に移動させる機能があると言われています。

 

2、低カリウム血症の原因

低カリウムの血症になってしまう原因としては、嘔吐下痢アルカローシス、カリウム摂取不足、腎機能障害、高血圧疾患などが挙げられます。

夏場にかく大量の汗とともに、カリウムが失われて発症するケースもあります。利尿薬や緩下剤を乱用することで、持続的な低カリウム血症に陥る可能性も指摘されています。

 

3、低カリウム血症の症状

軽度の場合は無症状であることが多いのですが、中等度になると嘔気、脱力、筋力低下などの消化器や骨格筋に症状が現れます。長期化すると、尿の濃縮力が低下し、多尿症を引き起こします。

また、インスリン分泌低下やインスリン受容体の感受性低下を起こし、糖尿病の人は病状悪化を招くことも指摘されています。そして重度に至ると、四肢や呼吸筋の麻痺、イレウスも引き起こします。また、低カリウム血症は心室細動などの致死的不整脈の原因にもなります。

低カリウム血症は、心電図上のQT時間(心臓の電気的収縮時間)の延長症候群を引き起こす原因にもなります。QT延長症候群は低カリウム血症などの電解質異常や薬剤、徐脈などが影響して生じ、めまいや失神、突然死を起こすこともあります。

低カリウム血症および高カリウム血症の心電図パターン

出典:低カリウム血症および高カリウム血症の心電図パターン カリウム濃度の異常 MSD

 

4、低カリウム血症に関する看護

ここで、低カリウム血症にかかった患者を看護する上でのポイントを挙げてみましょう。低カリウム血症につながりやすい疾患の例として、心不全患者への接し方も取り上げます。

また、血清カリウム値を下げることが求められる対象として透析患者を例として、食事指導についても触れてみましょう。

 

■低カリウム血症の患者に対する看護のポイント

低カリウム血症の症状が現れた患者に接する際には、利尿剤の内服歴、嘔吐・下痢や糖尿病などの病歴を確認することが重要となってきます。たとえ患者が落ち着いている様子だったとしても、容体に異常が起きていないかどうか、しっかりとチェックして、不整脈などが起きてしまった時に速やかに対処できるような体制を整えておくことも重要です。

特に、もともと心疾患を抱えている患者の場合、致死的不整脈を招きやすくなりますので、低カリウム血症の症状が軽度であっても注意が必要です。

 

■心不全患者に対する注意点

心不全治療を受けている患者の場合、ループ利尿薬などの薬剤あるいは心不全そのものの影響により、致死的不整脈を招きかねない低カリウム血症に陥る可能性が指摘されています。心不全で低カリウム血症になっている患者には、利尿薬の種類や量などをしっかりと調べて把握した上で、致死的不整脈が起きていないかどうか、継続的に観察しましょう。

 

■患者への食事指導

食事の摂取不良や栄養障害が潜んでいると低カリウム血症にかかりやすいとも言われていますが、特に透析後の患者に対しては、血清カリウム値が低くならないように注意することが重要です。イモ類、野菜類、果物類などのカリウムの含有量が多い食品を摂取し、カリウム値を上げるように指導することで、心不全の防止にも役立ちます。

 

5、高カリウム血症の原因

高カリウム血症の原因には、腎不全アシドーシス、カリウムの過剰摂取、降圧剤の投与などが挙げられます。インスリン枯渇による高血糖のため、血漿浸透圧が上昇してカリウムが細胞外に流出した場合などでも、発症します。

また、災害現場でがれきなどに身体を挟まれていた被災者が救出された後、突然容体が悪くなって死亡したケースなどが「クラッシュ症候群」として報告されていますが、ここにも高カリウム血症が関わってきます。

身体を挟まれて圧迫されていくうちに筋肉の壊死が始まり、血流が滞っている状態だったのが、救出後に長時間の圧迫から解放されて血液が再灌流すると、壊死した細胞から一気にカリウムが流出して血中での量が多くなることが影響しています。

 

6、高カリウム血症の症状

高カリウム血症は、筋力低下にもつながる神経筋症状が指摘されます。弛緩性麻痺が認められることもあります。重度の場合は心室細動や心停止といった事態に及ぶ危険性があるものの、通常は心毒性が現れるまでは無症状です。

また、高カリウム血症にかかると、心房停止などの徐脈といった心電図異常が起こることも指摘されています。

低カリウム血症および高カリウム血症の心電図パターン

出典:低カリウム血症および高カリウム血症の心電図パターン カリウム濃度の異常 MSD

 

7、高カリウム血症に関する看護

それでは、低カリウム血症と同様、高カリウム血症に関する看護のポイントをまとめてみましょう。検査や診断の段階から災害現場での対処法、予防のための食事指導など多岐に渡りますが、いずれの場面でもポイントを踏まえて、業務にあたることが重要と言えます。

 

■偽性高カリウム血症の確認

高カリウム血症が疑われる患者に接する際には、採血の段階から特に注意しなければいけません。なぜならば、もしも高カリウム血症が疑われる場合でも、局所的に血清カリウム値が偽性上昇となっている可能性があるからです。このような現象を、偽性高カリウム血症と呼びます。

例えば、何度も手を握ったり、強く握った状態でいると、前腕の筋肉由来のカリウムが局所的に増えることがあります。検査結果に溶血が影響する可能性も考慮してください。溶血は、静脈穿刺時の機械的溶血のほか、採血スピリットを振りすぎて起こることもあります。

採血の際には細い針を使って急に血液を吸引したり、血液検体を過度に撹拌しないようにしましょう。また、検体を長時間放置した状態にしておくと、細胞内からカリウムが移動するという現象も発生しますので、そのような状況になっていないかどうかも、チェックすることが重要です。

 

■高リスク患者への注意

低カリウム血症の患者に接する場合と同様、患者の病歴や内服歴のチェックがポイントとなります。重度である場合は速やかな治療が不可欠ですが、腎不全やACE阻害薬、カリウム保持性利尿薬を使用中の重症心不全を抱える患者の場合、高リスクと言えます。

さらに不整脈なども見られる場合は要注意です。患者のリスクの高さを把握した上で、容体観察をより入念に行うなどの配慮が必要となります。

 

■患者への食事指導

腎臓障害が継続する慢性腎臓病により腎機能が低下すると、腎臓からの排せつが阻害されるため、高カリウム血症につながります。慢性腎臓病が進行している患者には、不整脈の原因となる高カリウム血症を防止するため、新鮮な生野菜や果物などの食事に制限をかける必要があります。

食事療法は医師や看護師、栄養士らスタッフがサポートしていくことで有効に進めていくことができますので、他のスタッフと協力して患者に働きかけましょう。

 

■クラッシュ症候群への対処

災害支援ナースとして被災地に赴いた場合、クラッシュ症候群が疑われる被災者をがれきの下などで発見した際は、救出後に高カリウム血症などによって容体が急変することを防ぐ必要があります。

現場では応急処置として、圧迫されている身体の部位よりも心臓に近い部分をタオルで縛ったり、輸液や経口での水分補給といった手法が挙げられていますが、救出された後に直ちに医師の診断が受けられるように対処することも重要です。周辺にどのような医療施設があるか、どのような搬送手段があるのかといった情報を把握して、患者が速やかに搬送されるように努めましょう。

救出された患者が病院に搬送された後は、血液浄化法などの処置が取られます。もしも勤務先の病院に被災者が運ばれてくることが考えられるような場合は、クラッシュ症候群および高カリウム血症にかかっている患者を看護することを想定して、迅速に対応しましょう。

 

まとめ

血清カリウム濃度の異常が原因で起こる低カリウム血症と高カリウム血症ですが、いずれも特に初期状態であれば無症状の可能性を秘めているということですので、要注意な症状と言えます。

さらに、さまざまな原因が考えられるため、診断や治療に当たって原因の特定が重要な作業になり得ることや、診断や治療のために、患者の病歴や薬物の内服歴などをチェックする点も共通しており、患者へのアプローチがとても重要になってきます。また、患者の病歴・内服歴など諸々の情報の共有・伝達が現場で行き渡っていることで、診断や治療をよりスムーズに進めていくことができます。

低カリウム血症や高カリウム血症になることを防ぐための食事指導も、有効に進めていくために、栄養士ら現場スタッフとの連携が求められます。日ごろから情報共有や連携が図れる現場づくりに取り組む姿勢が、ポイントになってくるのではないでしょうか。

山岸愛梨 看護師

東京都在住、正看護師。自身が幼少期にアトピー体質だったこともあり、看護学生の頃から皮膚科への就職を熱願。看護学校を経て、看護師国家資格取得後に都内の皮膚科クリニックへ就職。ネット上に間違った情報が散見することに疑問を感じ、現在は同クリニックで働きながら、正しい情報を広めるべく、ライターとしても活動している。

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