新たな看護方式「PNS」のメリット・デメリットと今後の課題(2015/12/03)
昨今、PNSという言葉をよく耳にするようになりましたが、詳しく知らない方は多いのではないでしょうか。そんな方のために、当ページではPNSの概要に加え、メリットやデメリット、今後の課題など包括的に分かりやすくご紹介したいと思います。
PNSは看護方式の1つ!とは知っていてもその詳細をご存知ない方は、この機会にぜひ知識を深めてください。
1、PNSとは
従来は、「チームナーシング」「プライマリー・ナーシング」「混合型看護」「機能別看護」などの看護方式がありましたが、すべてに共通するのが1人の看護師が複数の患者を受け持つという自己完結型の看護でした。
チーム
ナーシング |
1つの病棟に2つ以上のチームを編成し、各チームリーダーのもとで、チーム単位で一定の患者を受け持ち、看護ケアを提供する看護方式。 |
プライマリー
ナーシング |
1人の看護師が1人の患者を入院から退院まで一貫して担当し、 24時間責任を持って担当患者の看護にあたる看護方式。 |
混合型看護 | チームナーシングとプライマリー・ナーシングとの折衷方式で、1つの病棟に2つ以上のチームを編成し、チーム内の看護師を一定期間固定すると共に、担当患者の入院から退院までの一貫した看護を行う。 |
機能別看護 | 検温、注射、投薬、清拭など業務ごとに担当する看護師を選定し、各看護師が複数の患者に対し受け持ちの業務を提供していく看護方式。 |
どの看護方式にも大きなメリットがあるものの、自己完結型の看護では、看護師の力量により看護の質が左右され、医師も看護師も患者も不安・不満・疲労・多忙な状況が生じ、これらが誘因となり看護職員の離職の増加や患者に対する看護の質低下を招くことがしばしばありました。
そこで、これらを改善すべく2009年に福井大学医学部付属病院が新たに2人の看護師が共働して、複数の患者を受け持つ看護方式を開発しました。これがPNS(パートナーシップ・ナーシング・システム)であり、看護師・患者双方にとって大きな益を生み出す看護方式として、すでに多くの病院が採用・実践しています。
しかしながら、従来の看護方式にはなかった新たな問題が浮上するなど、未だ確立段階に至っておらず、導入しているすべての医療機関で課題の改善がなされています。
1-1、PNS導入の目的
上記のように、さまざまな看護方式が存在しますが、PNSは従来の看護方式とは異なり2人の看護師が共働することで、多くの益を生み出すとし開発されました。看護師の人員不足が嘆かれている昨今、超過勤務が当たり前となり看護師への負担が増大することで、看護の質低下を招き、離職率が年々上昇するなど悪循環が生じていました。
この状況を改善するため、福井大学医学部付属病院が以下のような目的でPNSに開発に至ったのです。
1-2、互いに必要となるマインド
PNSは従来の看護方式と大きく異なるため、開発元である福井大学医学部付属病院は、PNSを有効活用するためにそれぞれのパートナーが互いに認め合う気持ちや、円滑化に向けた姿勢などが大切であると提唱しています。
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つまり、PNSを効果的に運用するためには、先輩看護師・後輩看護師という垣根を越えた絶大な信頼関係を有するパートナーであることが絶対条件なのです。
これらを踏まえて、「自立・自助の心」「与える心」「複眼の心」の3つのパートナーシップマインドと、それを支える3つ要素「尊重」「信頼」「慮る」が必要であると言われています。
■パートナーシップマインド
自立・自助の心 | 他者依存を捨てセルフヘルプの意識を持ち、自らがエンジンとなるよう先立って行動すること。 |
与える心 | 報酬(見返り)の存在を忘れ、give&takeではなくgive&giveの精神を持って価値提供に注力すること。 |
複眼の心 | さまざまな視点から物事を見ることを心掛け、パートナーの立場に視点をおき、価値観や考え方を正しく知ろうとする姿勢を持つこと。 |
■マインドを支える3つの要素
尊重 | 価値あるもの、尊いものとして大切に扱うこと。相手の話を聞き、理解しようとする謙虚な姿勢を示す立場に応じて言葉使いに注意することが尊重につながる。 |
信頼 | 信じて頼りにする、頼りになると信じること相手のことをよく知り、自分のこともよく知ってもらうこと。お互いが相手のことを十分に理解し受け入れた時、その相互作用によって信頼関係は気付く事ができる。コミュニケーションがその大切な手段となる。 |
虚る | 周囲の状況をよく考え、思いめぐらすこと。思いやる、気配り、推し量ること。 |
2、PNSのメリット・デメリット
PNSは2009年に開発された新しい看護方式ですが、すでに多くの病院で導入され、その成果が報告されています。
従来の看護方式のデメリットを改善すべく開発されたことで、看護職員や患者にとって益となるさまざまなメリットが存在しますが、その反面、従来の看護方式にはなかった新たなデメリットが生じるなど、見直し・修正が必要であるとともに、まだまだ改善の余地があるのも事実です。
■メリット(看護師)
■メリット(患者)
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■デメリット
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3、今後の課題
PNSは看護職員・患者にとって大いなる益を生む看護方式として注目されていますが、上記のようにさまざまなデメリットが存在するなど、改善の余地が大いにあります。
中でも「看護師間のストレス」と「補完管理困難」が大きな課題であり、これをいかに改善していくかがPNSの運用において非常に重要となります。
■看護師間のストレス
先輩看護師に対して気を遣う、先輩看護師との力量差にストレスを感じるなど、常にパートナーシップをとることで特に後輩看護師が大きなストレスを感じることが多いという課題が残ります。
また、PNSを効果的に運用するポイントである“相手の意見や考えを受け入れる”という行為においても自分の意志通りにケアできないストレスがのしかかります。
これを改善するためにはパートナーの選定が重要となりますが、仲の良し悪しを基準に選定すれば他のグループへの人員調整が難しくなり、得意分野や持ち味が同じパートナーで編成すれば妥協が生まれるなど、最終的に看護全体の質の低下を招くため、以下に述べる補完管理もまた非常に重要となってくるのです。
■補完管理困難
PNSの運用にあたって、看護師長・副看護師長・コーディネーターのいずれかがパートナー(グループ・チーム)の編成やチームメンバーの監督・教育、PNS全体の実践・成果を行いますが、PNSを効果的に運用するためには非常に優れた管理能力が必要になります。
パートナー編成においては仲の良さ・持ち味や得意分野・人間性・価値観など、さまざまな点を考慮しすべてのグループを平均化させる能力が求められるため、看護職員に対する高度なアセスメント力が要求されます。
また、PNSはまだ新しい看護方式ですので、看護業務や看護手順の見直し・修正を頻繁に行い、よりよい体制を構築しなければいけないことから、多角的な視野をもとにしたマネジメント力も問われます。
まとめ
従来の欠点を補い、看護職員への労働環境の改善・患者への看護の質向上などを目的として開発されたPNSは、看護職員・患者に対して益となる多くのメリットが存在する反面、従来の看護方式にはなかったデメリットの浮上など、未だ完全とは言えない看護方式です。
新しい方式ゆえに改善の余地が十分あるため、逐一、各医療機関の報告や論文などに目を通しておきましょう。
東京都在住、正看護師。自身が幼少期にアトピー体質だったこともあり、看護学生の頃から皮膚科への就職を熱願。看護学校を経て、看護師国家資格取得後に都内の皮膚科クリニックへ就職。ネット上に間違った情報が散見することに疑問を感じ、現在は同クリニックで働きながら、正しい情報を広めるべく、ライターとしても活動している。
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