NPPVの適応・観察項目、BiPAP Visionにおける操作・設定(2016/04/06)
人工呼吸法の1つである「NPPV」。侵襲性は低いものの、合併症の発症率が高いことで看護量は多い傾向にあります。ゆえに、さまざまな項目について綿密な観察を行わなければいけません。
また、機器関連トラブルも多く、早急な対処が行われなければ場合によっては重篤化することもありますので、機器の操作やアラーム発生時の対処についてもしっかり把握しておく必要があります。
1、NPPV
NPPV(非侵襲的陽圧呼吸法)は、気管挿管や気管切開などの侵襲的処置を行わず、マスク装着だけで一定の圧力や空気量を肺に送る人工呼吸法のことです。
人工呼吸法には他にも気管挿管や気管切開を行うIPPV(侵襲的陽圧呼吸法)がありますが、IPPVは主に自発的に呼吸ができない患者に対して適応となり、NPPVは自発呼吸ができる患者に対して適応となります。また、それぞれの相違点は以下のように多岐に渡ります。
■NPPVとIPPVの相違点
NPPV | IPPV | |
気管内挿管 | 不要 | 必要 |
気管内吸引の難度 | 困難 | 容易 |
気道・食道の分離(気道確保) | 確保されない | 確保される |
回路のリークの有無 | あり | なし |
O2濃度 | BiPAP Visionのみ設定可能 | 設定可能 |
発声・食事の可否 | 可能 | 基本的には不可能 |
鎮痛剤など薬剤の使用 | なし | 必要になることが多い |
意識レベル | 維持 | 鎮静することが多い |
患者からの訴え | 判断が容易 | 判断が困難 |
合併症の発生(VAPなど) | 少ない | 多い |
口腔内の清潔保持 | 保持が容易 | 保持が困難 |
離脱の難度 | 比較的容易 | 慎重 |
看護ケアの必要性 | 多い | 安定すれば比較的少ない |
■NPPVとIPPVの長所
NPPV | IPPV |
|
■NPPVとIPPVの短所
NPPV | IPPV |
|
|
NPPVは自発呼吸ができる患者に対して、簡便に開始できる反面、患者の協力が不可欠であり、看護量も多いのが特徴です。それゆえ、看護師はNPPVを行う患者に対して、適切かつ綿密な観察とより良い看護を行わなければいけません。
2、NPPVの適応・禁忌
NPPVが開始される条件として自発呼吸が可能であることが第一であり、その他にもさまざまな条件が存在します。また反対に、禁忌となる症例も数多くあり、NPPVが実施できない場合にはIPPVの実施が検討されます。
■NPPVの適応
|
■NPPVの禁忌
なお、NPPV実施時に、病態・意識レベルの悪化、症状が軽減されない、新たな合併症の発現などがみられると、IPPVに移行することもあります。
3、NPPVに伴う合併症
NPPVは、常時マスクを着用し口と鼻の同時送気により、「皮膚トラブル」「口腔・鼻腔内の乾燥」「結膜の乾燥」「呑気・腹部膨張」「圧迫感・不快感」などの合併症が起こることがあります。
これら1つ1つは重大な合併症ではないものの、改善が困難であることから、患者の著しいQOL低下を助長しますので、合併症を起こさないために、まずは患者の全身状態を細かく観察し、機器側の綿密な管理を行っていくことが大切です。
■皮膚トラブル
常時、マスクを着用していることで、特に鼻根部や前額部が圧迫され、皮膚損傷や褥瘡などの皮膚トラブルが起こり得ます。マスク着用によるスキントラブルの発症率は約30%にのぼり、リークを防ぐためにキツく固定することが主な原因です。
キツく固定することは非常に重要ですが、30L/min以内であれば、多少のリークは許容できる範囲内ですので、30L/minを目安にゆるめるのもよいでしょう。また、褥瘡を防ぐために、呼吸が安定している場合には2時間に1回ほどの頻度でマスクを外し、圧迫解除を行う工夫も大切です。
予防的対策 |
|
■口腔・鼻腔内の乾燥
NPPVは口や鼻を介して多量の空気を出し入れするため、口腔や鼻腔内が常に乾燥した状態になります。程度に差はあるものの避けることが不可能であり、うがいや口腔ケアの施行、加湿器の使用が必要不可欠です。また、口腔内用の保湿剤の塗布も有効ですので、積極的に実施していきましょう。
予防的対策 |
|
■結膜の乾燥
結膜の乾燥は、フルフェイスマスクやトータルフェイスマスクの着用で発生しやすく、鼻根部や尾翼部からのリークにより、気流が目に当たることで起こります。急性期において点眼薬や眼洗浄などにより対応しますが、急性期を脱したらマスクの変更を検討するなどの工夫が必要です。
また、大量のエアリークがある場合にはマスクの再固定が必要ですが、キツく固定しすぎると皮膚トラブルを助長させるため、固定の圧加減には注意しなければいけません。
予防的対処 |
|
■呑気・腹部膨張
NPPVでは、マスクによって口と鼻を同時に送気しますので、胃に空気が入り込んでしまい呑気や腹部膨張が起こることがあります。呑気・腹部膨張には胃管の挿入・留置による脱気が最も有効ですが、そのほか、設定圧の変更や排便コントロールも有効な手段です。
予防的対処 |
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■圧迫感・不快感
覚醒下でマスクを使用して換気を行うため、実施早期においてはマスクによる圧迫感や不快感が必ずあります。マスクによる圧迫感・不快感は、マスクの固定を緩めたり、サイズや種類の変更が有効ですが、固定を緩める場合にはリークを考慮してください。
予防的対処 |
|
これらはNPPVを実施している以上、完全に避けることはできず、1つ1つは軽度な合併症であるものの、長期化することでQOLは著しく低下します。特に皮膚トラブルは発症すると改善するのに時間がかかりますので、マスク装着部や患者の全身状態を綿密に観察した上で、予防のための対処を積極的に行っていってください。
4、NPPV施行中の観察項目
NPPV施行中の観察項目は主に、患者の「呼吸状態」「循環状態」「意識レベル」「消化器症状」などです。何かしらの異常があれば機器側(BiPAP Vision(後述))でアラームが発せられますが、その兆候を瞬時に察知するためにも、以下のように患者の観察が不可欠です。
呼吸音 | 血液ガスデータ |
呼吸回数 | 1回換気量・分時換気量 |
呼吸パターン | 気道内圧 |
呼吸困難感 | リーク量 |
補助呼吸筋の動き | 安全弁(呼気ポート)の開閉 |
胸郭の動き | 意識レベル |
NPPVと患者の同調性 | ECGや血圧などの循環動態 |
気道分泌物の量・喀痰状況 | グラフィックモニター |
SPO2 | NPPVの合併症の有無 |
これら観察項目はNPPVのものですが、原疾患に関する観察も忘れないよう注意してください。また、NPPV使用中に高い圧をかけている場合には、肺の圧損傷(緊張性気胸)や腹部膨張などの合併症を引き起こすことがあります。高圧時には特に注意しておきましょう。
5、BiPAPの操作・設定
BiPAP(BiPAP Vision)とは、NPPVに使用される機器(フジ・レスピロニクス社)のことで、その高い品質と性能により、現在では多くの医療施設に設備されています。
呼吸器関連の医療用語の中にBIPAP(Iの文字が大きい)がありますが、これは高相と低相の二相のPEEPを一定時間交互に繰り返す“換気モード”のことであり、BiPAPとBIPAPは根本的に異なります。
ここでは、多くの医療施設に設備されているフジ・レスピロニクス社の製品「BiPAP」の操作・設定についてご説明します。
■BiPAPの外観
■モニタリング項目
表示の種類 | 単位 | 表示内容 |
Vt | MI | 一回換気量(計算された予測値) |
MinVent | L/min | 分時換気量(計算された予測値) |
PIP | cmH2O | 最高気道内圧 |
Ti/Ttot | % | 吸気の割合 |
Pt.Leak | L/min | マスクからのリーク量(呼気ポートを行わないと表示されない) |
Tot.Leak | L/min | 呼気ポートやマスクからの全てのリーク量 |
Pt.Trig | % | 過去30分の自発呼吸の割合 |
■アラーム項目
内容と画面表示 | LED | アラーム音 | 原因・対処 |
電源消失
(画面表示なし) |
点滅 | ピッ ピッ | 機器の接続不良や電源の供給不良などが原因です。他のAC電源に接続してください。 |
作動停止
Ventilator Inoperative |
点灯 | ピー | 機器関連トラブルが原因です。直ちに患者からマスクを外し、手動蘇生器または別の人工呼吸器に切替えてください。 |
圧下限
Low Pressure |
点滅 | ピピピッピピッ | 呼吸回路の破損または接続外れが原因です。インレットフィルタの汚れや空気取入口の閉塞、リークを確認してください。 |
圧上限
High Pressure |
点滅 | ピピピッピピッ | 患者の容態の変化(ファイティングなどの可能性)や回路の閉塞が原因です。まずは患者の状態を確認し、異常がなければ閉塞箇所・閉塞原因を特定・改善してください。 |
分時換気量下限
Low Minute Vent |
点滅 | ピピピッピピッ | 呼吸回数・1回換気量の低下/呼吸回路からのリークが原因です。患者の状態を確認し、患者の呼吸に問題があれば、処置とともに1回換気量や呼吸数などの設定変更を行ってください。 |
回路外れ
Patient Disconnect |
点滅 | ピピピッピピッ | 回路の接続不良または接続外れが原因です。回路を接続し直すか、リークを修正してください。 |
無呼吸
Apnea |
点滅 | ピピピッピピッ | 患者の容態の変化(無呼吸や呼吸間隔の延長などの可能性)が原因です。直ちに蘇生などの治療・処置を行ってください。 |
まとめ
自発呼吸の可能な患者に対して実施されるNPPVは、IPPVと比べて侵襲が低いものの、看護量が多いのが特徴です。また、皮膚トラブルや各部乾燥などの合併症が起きやすいため、患者の全身状態をよく観察しておく必要があります。
NPPVにはBiPAPが広く使用されていますので、操作・設定変更方法やアラームの内容・対処は必ず覚えておきましょう。なお、患者の年齢や状態に応じてV60やCarinaなど他の機器も広く使用されています。所属する医療施設に設置してあるすべての機器の使い方は必ず把握しておいてください。
1965年生まれ、静岡県静岡市在住。スタッフナース歴11年、看護師長歴2年。静岡県内の大学で教育を学び、卒業後は小学校教諭として勤務。後に看護師の道に目覚め、看護学校へ入学し、同県内の総合病院(循環器科)へ就職。現在はイベントナースやツアーナース、被災地へのボランティアなど、幅広い分野で活躍している。
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