看護師が行う血液検査の目的や内容など、よく使う7つの項目(2020/11/13)
救急外来で緊急搬送された患者や入院病棟で急変を起こした患者などに行う緊急時の検査は、大きくは3つの視点で分けることができます。①血液や尿などの検体検査, ②超音波検査や心電図検査などの画像検査、③さらに脳血管造影や心臓カテーテルといった侵製の大きな検査です。中でも血液検査は、ほぼ全ての緊急患者に行う検査です。今回は緊急時に行う血液検査に着目して、勉強していくことにしましょう。
1、血液検査とは
血液検査は、健康診断や定期受診・ちょっとした体調不良や命に係わる緊急時などを含め、あらゆる場面で検査の基本となるものです。ただし、血液検査は緊急時の診断に必要なものと健康を維持するための指標として必要なものでは、調べる項目・目的は全く異なります。
血液を検体とする検査にはたくさんのものがあります。一般的な静脈からの採血だけではなく、時には動脈からもとりますし、その血液をガス分析にかけることもあれば培養検査にまわすこともあり、それぞれの目的も結果が出るスピードも異なります。
ここからは、健康診断で重要視されるコレステロールや中性脂肪・HbA1cなどではなく、緊急時に必要な検査として必要とされる項目を優先度や必要性から考えていきます。
2、血液検査 項目・基準値
①血球検査(赤血球,白血球,血液像など)
臨床現場において、末梢血液検査(CBC)は基本中の基本の検査で、「血算」や「末血」と呼ばれます。国内ではほぼどの医療機関でも、基本となる紫のスピッツで調べる検査項目です。
血球検査は検査室を有する医療機関のほぼ全施設が実施しているといっても過言ではなく、また検査結果はものの数分で出るため、緊急時には特に有用な検査です。これにより、大まかな炎症の度合いや貧血・出血状況・凝固異常などを推測することができます。
出典:臨床検査基準値一覧(国立がん研究センター中央病院 臨床検査部|2016年6月)
②血液生化学検査
臨床現場で採血をする際に、基本となるのは「血算」と「生化」です。血算は上に挙げた血球検査のことを意味しますが、これとセットになっている「生化」というのは、正式には生化学検査と言います。茶色のゴム栓にゲルの入っているスピッツに採取することから、現場では「茶ゲル」とも呼ばれますね。
生化学は抹消血液検査より検査時間は必要ですが、より詳しい情報を得ることができます。例えば白血球よりもより詳しい炎症状態(CRP)、電解質異常(Na.K.Cl)、腎機能(BUN.Cre.GFR)・肝機能(GOT.GPT.γ-GTP)もわかります。肝機能を示す項目の中には、心筋が虚血に陥ったときに上がる項目(CK.GOT.GPT)もあるので、生化学検査の範囲は非常に広く、臨床現場では血算・生化の採血に画像検査を加えて診断することが多いですね。
出典:臨床検査基準値一覧(国立がん研究センター中央病院 臨床検査部|2016年6月)
③グルコース(血糖)
臨床で最も基本となる採血が血算・生化の2つだとすると、ここから先はおまけといいますか、少し幅広い検査になってきます。基本の紫・茶の2本のスピッツに足すとしたら、まず次にくるのは血糖でしょう。一般的にはグレーのスピッツで採取しますが、生化学の茶ゲルスピッツで血清血糖を調べることで代用できますので、実際には調べていてもスピッツに糖(グレー)が含まれていないこともあります。
血糖は意識障害に大きく関与していることもあるので必要ですし、治療をする際に糖尿病がベースにあるかどうかも大きな情報となります。ただし、輸液ラインをとりながらの採血を行うのが基本の現場において、もっとも迅速に血糖を調べる方法は血糖測定器でこれだけを調べることです。ですから、意識障害を起こした患者さんには、輸液ラインや採血セットを用意している間に、まず血糖測定だけを行うこともあります。(血糖の正常値は、生化学検査の基準値表を参照してください。)
④凝固系
血算・生化・糖ときたら、次に臨床現場で採取する血液検査が、凝固系です。黒いスピッツで調べる項目ですね。凝固系が必要になる理由としては、血液凝固機能の異常による出血性の疾患を特定する場合や、脳梗塞や心筋梗塞などの血栓を溶解するような治療の場合にはその値によって適応を決定したり、治療を開始してから経時的な観察が必要となるために行います。
出典:臨床検査基準値一覧(国立がん研究センター中央病院 臨床検査部|2016年6月)
⑤血型(交差適合試験)
救急外来に搬送されてきた患者さんの中には全く受診歴がなく、どんな既往歴を抱えていて、受傷時の様子もわからないような、情報の極端に少ないケースが多々あります。そんな場合、このあとでどのような診断がくだってどの治療を行うにしても困らないように、最初から思い当たるものを全て採血しておくということは、現場の常識です。
実際に検査のオーダーは緊急に必要な血算・生化・糖・凝固の4種類だけであっても、このあと入院や輸血の可能性が高い場合には、あらかじめ血型や交差適合試験(クロス血)専用のスピッツに輸血前検査など、どうしても調べるなら専用スピッツが必要なものを末梢血管確保(ルート確保)と同時に一度にとってしまうことがあります。現実には、①~④と画像検査でおおよその診断がつくことが多いので、これらは今後の治療をスムーズに行うためのものですね。
⑥血液ガス検査(ABG)
血液ガスは、指先で図る酸素飽和度(SpO₂)よりもより正確な呼吸状態を知ることができます。特にCOPDの患者ではただSpO₂の値が低いことを確認するだけではなく、CO₂がどのくらい溜っているかも治療上重要ですから、基礎疾患に呼吸器系が含まれる場合や現時点の呼吸状態が悪い場合には、血液ガスを採取します。
pHだけを知りたいような特殊な場合には静脈血で採取することもありますが、緊急時に行う血液ガス測定では動脈血での採取が基本となりますので、看護師は医師の介助を行った後に確実に止血を確認する必要があります。
出典:臨床検査基準値一覧(国立がん研究センター中央病院 臨床検査部|2016年6月)
⑦血液培養
近年、抗菌薬を使用に対する見解がきびしくなってきました。これは多剤耐性菌問題が深刻になっており、抗菌薬をやたらに投与するのではなく、その患者が感受性のある薬剤を選ばなくてはならないからです。そのためには、血液培養が必要になります。
ただし、現実には迅速に結果がでるものではありませんから、まずは見立てで抗菌薬を投与し、それでも効果が得られない場合や血液培養の結果で今の薬剤に耐性があると報告された場合に、他の薬剤への変更を行います。血液培養の検体は抗菌薬を投与する前の血液であることが鉄則ですので、病棟に入室する前に救急外来で採取するケースもよくあります。「こんな忙しいときになぜ!?」と思うこともあるかもしれませんが、それは十分理にかなっているのです。
3、血液検査 看護
ここまで、緊急時に必要な検査である血算・生化学・糖・凝固に加え、血液型や血液ガス・血液培養まで、看護師の取り扱う血液検査についてお伝えしてきました。看護師はデータをもとに患者の診断を行うわけではありません。しかし、それぞれの検査は、ただ採取するだけでは看護師としては不十分です。
<採血をするときはここに注目‼>
・患者の疾患や病態に対し、なぜこの検査が必要なのか(目的)
・検査データから、患者は今どのような病態にあるのか(推測) ・その病態から、どこを観るべきか(観察) ・このあと、どのような検査や処置・治療が必要になるのか(予測・準備) |
これらを常に考えながら、看護師は血液検査に携わることが求められます。そして、血液検査だけではなく、最終的には他の画像検査や既往歴、患者の受傷起点など、複数の情報を合わせて最終的に病態を理解します。看護師が病態を理解することは、どこに注目して観察したらよいのかを知ることができるだけではありません。医師が次に求める情報や処置を予測することで、少ない人員でも効率的に動き、最小限の時間で患者に必要な看護・治療を行うことができるようになるのです。
そのためには基本的な病態と検査の関連を理解しておく必要があり、おおよその基準値も覚えておかねばなりません。とくに生化学検査の範囲幅広く、血液ガス検査では理解が難しいので敬遠してしまう気持ちもわかります。
全ての正常値やその検査の意味を知ることは難しいかもしれません。しかし、緊急時に必要なポイントに絞って覚えておくだけでも、あなたの看護のレベルは格段にUPすることは間違いありません。
まとめ
血液検査と一口にいっても、幅広くて奥が深いですね。検査値を正しく読みとるには疾患に関する知識が必要ですし、そのデータから病態をその場で結びつけることは難しいかもしれません。しかし、めげずに特訓していけば、患者の状態から医師は何を疑ってどんな検査をオーダーするか予測がつき、結果を見ることで医師がどう診断して次にどの治療を行うかという予測を立てることができるようになります。そうなったら、あなたは立派なエキスパートナースです。
参考文献
EBMに基づいた緊急時に必要な検査とその看護(メディカ出版|藤原正恵、松月みどり|2003年1月1日)
臨床検査基準値一覧(国立がん研究センター中央病院 臨床検査部|2016年6月)
東京都在住、正看護師。自身が幼少期にアトピー体質だったこともあり、看護学生の頃から皮膚科への就職を熱願。看護学校を経て、看護師国家資格取得後に都内の皮膚科クリニックへ就職。ネット上に間違った情報が散見することに疑問を感じ、現在は同クリニックで働きながら、正しい情報を広めるべく、ライターとしても活動している。
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