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人工股関節置換術(THA)の看護|合併症や5つの術後看護計画(2020/11/02)

公開日: : 最終更新日:2021/12/18 看護師 看護計画 埼玉県 整形外科 

人工股関節置換術(THA)とは、変形した股関節の代わりに人工股関節を挿入する手術のことです。疼痛で歩けなかった患者は、この手術を受けることで、疼痛から解放され、さらに歩行可能になります。人工股関節置換術の基礎知識や合併症、術後の看護計画、禁忌肢位をまとめました。実際の看護の参考にしてください。

 

1、人工股関節置換術(THA)とは

人工股関節置換術(THA=Total Hip Arthroplasty)とは、変形した股関節を切除して人工の股関節に置き換える手術のことです。

 

人工股関節置換術

出典:人工股関節置換術-整形外科-(大阪府済生会中津病院)

 

関節リウマチや変形性股関節症、骨折、大腿骨頭壊死などの疾患で、股関節が変形すると痛みが生じます。股関節痛が強くなると歩行が困難になり患者のQOLは大きく低下します。人工股関節置換術で変形した骨を切除し、金属やポリエチレンでできた人工関節に置き換えることで、股関節の疼痛から解放され、さらに安定した歩行が可能になりますので、患者のQOLを向上させることができます。

人工股関節は長年使っていると摩耗してきます。患者さんの状態にもよりますが、10~20年で人工股関節の入れ替え(再置換術)が必要になります。

 

2、人工股関節置換術(THA)の合併症

人工股関節は股関節の疼痛で歩けない患者を歩けるようにできる治療方法です。ただ、100%安全な手術であるとは言えません。人工股関節置換術には、次のような合併症があります。

 

■脱臼

人工股関節置換術の合併症の中では、脱臼が一番怖いとされています。術後3ヶ月程度経てば、軟部組織や筋肉が安定しますので、脱臼のリスクは低くなりますが、術直後~術後3ヶ月までは、脱臼のリスクが高いので、ベッド上での体位・離床時などには注意が必要です。もちろん術後3ヶ月以降も脱臼するリスクはありますので、日常生活内でも脱臼には気を付けなければいけません。

 

感染

THAでは人工物を体内に入れるのでどうしても感染のリスクは高くなります。術後の創部感染はもちろんですが、手術創が落ち着き日常生活に戻った後も虫歯やその他の感染症を発症した時に人工股関節部位に感染が起こり、人工関節を取り除かなければいけないこともあります。

 

■深部静脈血栓

THAの手術中は脚を動かしませんので深部静脈血栓が作られ肺塞栓症を発症するリスクがあります。

 

■人工股関節のゆるみや破損

人工股関節は金属やポリエチレン製で、組み立て式になっています。

 

THA

出典:人工股関節置換術(THA)(医療法人社団紺整会 船橋整形外科病院・船橋整形外科クリニック)

 

そのため、摩耗したりゆるみが出たりします。耐久性が高い素材を使っていますが、10~20年で再置換が必要です。また、股関節に強い衝撃が加わると、股関節が破損してしまうこともあります。このほか、骨セメントを圧入したことによる血圧低下や術中の骨折、術中の血管や神経の損傷などがTHAの合併症となります。

 

3、人工股関節置換術(THA)の術後の看護

人工股関節置換術の術後は、次のような流れで看護をしていくことになります。

1.オペ後の全身観察

2.脱臼のリスクや安全性に配慮しながら、離床を進める

3.リハビリの看護

このような流れで看護を進めていく中で、立案すべき具体的な看護計画を紹介していきます。

 

3-1、人工股関節置換術(THA)の看護計画

人工股関節置換術の術後の看護計画は、次の5つがあります。

①急性疼痛

当然のことですが術後は創部の痛みが生じます。創部の痛みは、食事や睡眠の妨げになりますし、疼痛自体がストレスになります。また、術後の離床の妨げにもなりますので看護師は急性疼痛を看護問題として挙げて、疼痛コントロールのための看護計画を立案する必要があります。

看護目標 ・疼痛コントロールができ、良眠できる
・疼痛が離床の妨げにならない
OP(観察項目) ・バイタルサイン
・疼痛部位
・創部の状態(発赤、腫脹、出血の有無)・疼痛の程度(ペインスケール)
・睡眠の状態・食欲、食事量・痛みの訴え、表情
TP(ケア項目) ・冷罨法
・医師の指示による鎮痛薬の投与・安楽な体位の工夫(禁忌肢位に注意)・気分転換を促す・不安の傾聴
EP(教育項目) ・痛みは我慢する必要はないことを伝える

・レスキュー薬が使えることを伝える

 

②感染リスク状態

THAのオペ後は感染に注意する必要があります。創部の感染はもちろんですが、挿入した人工股関節が感染を起こすリスクもあります。さらに、オペ後はバルンカテーテルが挿入されていますので尿路感染を予防するためのケアを行わなければいけません。

人工股関節の感染が起これば再手術して洗浄、もしくは再置換術を行わなければいけませんので、看護師は術後の感染を予防するためのケアを行っていきましょう。

看護目標 感染が起こらない
OP(観察項目) ・創部の状態(発赤・腫脹・疼痛)

血液検査データ(WBC、CRP)

・バイタルサイン

・尿検査のデータ

・尿の性状(混濁の有無、浮遊物の有無)

TP(ケア項目) ・指示された抗生剤の確実な投与

・創部の清潔操作を徹底する

・手洗を徹底する

・陰部洗浄は1日1回行う

・指示が出たら速やかにバルンカテーテルを抜去する

・バルンカテーテルの尿バックは床につかず逆流しない場所に固定する

EP(教育項目) ・創部に触れないように指導する

・創部に腫脹など違和感が出てきたら、すぐに報告してもらうように指導する

 

褥瘡発生のリスクがある(皮膚統合性リスク状態)

人工股関節置換術後は、一般的には術後翌日から離床が始まりますが、それでも疼痛で自由に動くことはできません。また脱臼を防ぐために禁忌肢位がありますので、体位に制限があるのが普通です。そのため、同一体位を取る時間が長くなりますので、褥瘡発生のリスクがあります。特にTHAの手術は60歳以上の高齢者が多く、栄養状態が不良で皮膚が脆弱化していることが多いので、褥瘡の発生リスクは高いと考えたほうが良いでしょう。

看護目標 ・褥瘡が発生しない
OP(観察項目) ・皮膚(特に褥瘡好発部位)の観察
・疼痛や掻痒感の有無
・血液検査データ(TP、Alb等)・自発的に体動があるかどうか・皮膚の湿潤の程度・機械的刺激の有無
TP(ケア項目) ・体交枕を使用して褥瘡好発部位に圧がかからないようにする

・禁忌肢位に注意して体位交換を行う

・全身清拭などで清潔を保つ

・シーツや衣類のしわを伸ばす

ルート類が体に当たらないように注意する

・安静度に応じて離床を促す

・皮膚保護剤やフィルムを使用する

EP(教育項目) ・長時間、同一体位は取らないように指導する

・体位交換の必要性を説明する

・痛みや発赤などがある場合は、すぐに報告してもらう

 

④深部静脈血栓のリスクがある

THAのオペは通常2~3時間かかります。その間は脚を動かすことはありません。さらに術後も自由に脚を動かすことはできません。そのためTHAの術後は、深部静脈血栓のリスクが高いです。深部静脈血栓が肺に飛べば、肺塞栓症を発症し命に関わります。術後は、深部静脈血栓を予防するためのケアを行っていきましょう。

看護目標 深部静脈血栓が作られない
OP(観察項目) ・血液検査データ(Dダイマー)
・下腿部の熱感や腫脹の有無・下腿部の皮膚の変色の有無・下腿部の倦怠感の有無・浮腫の状態・下腿の左右差

・足背動脈の触知の有無、左右差

・バイタルサイン(SpO2)

・呼吸苦や胸痛の有無

TP(ケア項目) ・安静度の範囲内で下肢を動かす
・弾性ストッキングや弾性包帯を着用してもらう・水分摂取を促す・医師の指示があればフットポンプを用いる
EP(教育項目) ・安静度の範囲内で自発的に下肢を動かすように説明する

・水分摂取の重要性を伝える

・下腿の違和感や呼吸苦・胸痛を感じた場合はすぐに伝えてもらうように指導する

 

⑤転倒リスク状態

THAのオペ後は、術後翌日から車イスや歩行器を使っての離床が始まることが多いです。術後の離床時は疼痛や恐怖、筋力低下などの要因から転倒するリスクがあります。術後に転倒すると、脱臼や股関節の破損、骨折などの危険がありますので看護師は転倒をしないようにケアをしなければいけません。

看護目標 転倒しない
OP(観察項目) ・バイタルサイン

・血液検査(Hb、Htなど)

・術前のADL

・疼痛の程度

・離床への意欲

・離床時のふらつき、歩行の状態

・車イスや歩行器の使用状況

TP(ケア項目) ・ベッド周囲の環境整備

・車イスや歩行器は使いやすい場所に置く

・衣類や履物を動きやすく転倒しにくいものにする

・必要時は指示された鎮痛薬を投与する

・ベッドの高さを下げる

・必要なら離床センサーを使う

・移動時の見守り

EP(教育項目) ・離床時はナースコールを押すように指導する

 

4、人工股関節置換術(THA)の禁忌肢位

人工股関節置換術後に注意しなければいけないことは脱臼予防です。術後はどうしても脱臼が起こりやすく、特に術後3ヶ月までは筋肉や軟部組織が安定しないので、脱臼のリスクは高いと考えたほうが良いでしょう。THA後の脱臼のリスクや禁忌肢位は、術式によって異なります。人工股関節置換術は後方進入法(後方アプローチ)と前方進入法(前方アプローチ)に大きく分けることができます。

 

最小侵襲手術

出典:最新の最小侵襲手術(医療法人社団 弘人会中田病院)

 

少し前までは後方進入法が一般的でしたが、15~20cmと大きく切開しなければならず、さらに大臀筋を切開するため、軟部組織が不安定になり、脱臼のリスクが大きくなります。そのため、最近は前方進入法が主流となっています。切開は8~10cmと小さく、筋肉や腱を切開する必要がないため。術後の回復が早く脱臼のリスクも低くなります。後方進入法と前方進入法では、禁忌肢位は異なります。

術式 禁忌肢位
後方進入法 股関節の屈曲・内転・内旋(股関節を曲げて膝が内側に入った状態)
前方進入法 股関節の伸展・外旋(立位で患足を後ろに引き、内側に入った状態)

後方進入法も前方進入法も、股関節を深く曲げる動きは危険ですし、ねじりを加えるとさらに危険です。深いソファーに座ったり、座って脚を組んだり、横座りをしたりするのは、術後3ヶ月以上経っても脱臼の危険がありますので看護師は患者に禁忌肢位や脱臼のリスクについて、しっかり指導しておく必要があります。

 

まとめ

人工股関節置換術(THA)の基礎知識や合併症、術後の看護計画、禁忌肢位をまとめましたが、いかがでしたか?人工股関節置換術は患者のQOLを大きく向上させる治療方法です。ただ、脱臼やその他の合併症のリスクがありますので、看護師はそのリスクをできるだけ低下させるための術後看護を行っていくようにしましょう。

沢田希望 看護師

埼玉県在住。埼玉県内の大学病院(整形外科)で正看護師として5年勤務した後、結婚・出産を機に離職。現在は2児のママとして、育児をしながらライターとして活動している。趣味はヨガ。産後の体型維持のために始めたものの、今では体幹トレーニングなど、スポーツとしての楽しみを感じている。

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