PSVT(発作性上室頻拍)の看護|波形や原因、治療、看護の5ポイント(2020/10/29)
PSVTとは発作性上室頻拍のことで、140~250回/分の頻脈が突然起こる不整脈です。薬剤を使わず、迷走神経刺激だけで発作を止めることができるケースもありますので、看護師は適切な対応ができるようにしておく必要があります。PSVTの基礎知識や心電図波形、原因、治療、看護のポイントをまとめましたので、実際の看護の参考にしてください。
1、PSVT(発作性上室頻拍)とは
PSVT(paroxysmal supraventricular tachycardia=発作性上室頻拍)とは、心房が関与している不整脈の一種で、突然140~250回/分の頻脈が起こることが特徴です。PSVTは心房が関係して起こる頻脈を表す病名であって、1つの不整脈を指し示すわけではありませんので、次のような不整脈に細かく分類することができます。
・房室結節回帰性頻拍(AVNRT)
・房室回帰性頻拍(AVRT) ・心房頻拍(AT) |
この中でAVNRTとAVRTの2つが90%以上を占めます。
出典:発作性上室性頻拍・心室頻拍(慶應義塾大学病院 KOMPAS|2017年2月)
PSVTの発作が起こると、「今始まった」と患者本人がわかるほど、明確な自覚症状が現れます。
・動悸
・不快感 ・胸痛 ・めまいやふらつき ・脱力感 ・血圧低下 ・失神 |
PSVTの発作は数分~数時間で自然に停まりますが、治療をせずに放っておくと、発作の頻度は増加し、発作の継続時間は長くなると言われています。1)
2、PSVTの波形
心電図と聞くだけで、拒否反応を示す看護師は多いですが、PSVTの波形は不整脈の中では比較的判別しやすいので大丈夫です。
出典:発作性上室頻拍(PSVT)(医療法人社団回心会・青秀会)
PSVTの波形の基本的な特徴は、次の3つです。
1.脈拍は140回/分以上
2.QRS波は幅が狭い 3.RR間隔は規則的 |
要はサイナスリズム(sinus rhythm)と同じような波形だけど、頻脈になっているのがPSVTの波形ということになります。
ただ、AVNRTとAVRTでは、特徴が少しだけ違います。
・AVNRTの波形の特徴 | →P波はQRS波に埋もれていることが多い |
・AVRTの波形の特徴 | →QRS波の後に逆行性P波が見える |
ここまで来ると、少し難しくなるので、心電図が苦手な看護師は「脈拍は140回/分以上」、「QRS波は幅が狭い」、「RR間隔は規則的」という3つを押さえておけばOKです。心電図に自信が持てるようになったら、P波の違いに着目すると良いと思います。
3、PSVTの原因
PSVTの原因は、心臓の電気回路の異常です。通常の心臓は、洞結節で電気信号が発生し、刺激伝導系を通って、心臓の中心部にある房室結節に伝わり、そこからヒス束、プルキンエ線維を通って心室に伝えられます。
でも、PSVTはこの電気回路の中に、異常な回路が生じてしまい、そこを電気信号がグルグル回る(リエントリー)ことで、頻脈が起こります。
出典:発作性上室性頻拍(一般社団法人日本不整脈心電学会)
AVNRTは房室結節付近にリエントリー性の異常回路が生じることで起こります。AVRTは、心房から心室に向かう経路の中に副伝導路と呼ばれるリエントリー性の回路が生じることが原因です。AVRTはWPW症候群が原因で副伝導路が生じるケースが多いですね。
心臓に電気回路の異常が生じる原因は、WPW症候群以外にリウマチ性心疾患などがありますが、健康な人もPSVTが起こることがあります。心疾患がないのにもかかわらずPSVTが起こる場合は、甲状腺機能亢進症やアルコール、喫煙、カフェインの過剰摂取、麻薬による薬物中毒などが原因となることがあります。
4、PSVTの治療
■発作時の治療
PSVTの発作が出ている時には、まずは迷走神経刺激を行います。迷走神経を刺激することで、房室伝導が抑制されますので、サイナスリズムに戻すことができます。
<迷走神経刺激の方法>
・息を止める方法
・顔に冷たい水をかける方法 |
迷走神経刺激をしても、発作が止まらない場合は、薬物治療を行い、それでも停止しない場合は、電気ショックを用いることもあります。
■根本的な治療
発作が繰り返し起こる患者には、頓服薬の処方や予防のための薬物療法を行います。ただ、発作により患者のQOLが大きく低下する場合は、カテーテルアブレーションを行います。カテーテルアブレーションの治療効果は非常に高く、約95%で治療効果がみられます。2)
5、PSVTの看護のポイント
PSVTの患者の看護のポイントを押さえておきましょう。
①迷走神経刺激を行う
PSVTの発作を起こしている患者がいたら、まずは迷走神経刺激を行いましょう。
一番簡単な方法は、息を止めてもらうことですね。息を止めることで、胸腔内圧を上昇させることができるので、迷走神経を刺激することができます。迷走神経刺激の方法には、頸動脈洞の圧迫や眼球圧迫もありますが、これは脳梗塞や網膜剥離のリスクがあるので、看護師はやってはいけません。
②バイタルサインの確認
PSVTでは血圧が低下して失神を起こすこともありますので、バイタルサインを測定してください。また、12誘導を取ることや自覚症状の確認も重要になります。
③不安の除去
PSVTの発作を起こした患者は、突然頻脈になり、動悸などの自覚症状があることで、「このまま死ぬのかもしれない」、「何か深刻な病気なのだろうか?」と大きな不安を抱えます。看護師は患者に対して、治療方法を丁寧に説明し、不安を傾聴するなど、不安を除去するためのケアを行っていかなければいけません。
④迷走神経刺激の方法の指導
PSVTの発作で来院し、発作が落ち着いた患者には、迷走神経刺激の方法を指導しましょう。PSVTはまた発作が起こる可能性があります。その時に慌てず落ち着いて対処できるように、看護師が正しい迷走神経刺激の方法を指導しなければいけません。
指導すべき迷走神経刺激の方法は、息を止める方法と冷水を顔にかける方法の2つです。念のため、頸動脈洞圧迫や眼球圧迫は危険であるため、絶対にやってはいけないことも指導しておきましょう。患者本人が胸痛や不安でパニックになったために、自分では迷走神経刺激をうまく行えないこともあります。その時は、家族が代わりに行えるように、患者本人だけでなく家族も一緒に指導しておくと安心です。
⑤発作のリスクを減らすための指導
発作のリスクを減らすための生活習慣の指導も行いましょう。
PSVTは喫煙やカフェインの過剰摂取、アルコール、ストレス、過度の運動などが引き金になることもあります。そのため、看護師は原因となる生活習慣を説明するし、改善するように指導しなければいけません。
禁煙や節酒を指導するほか、カフェインを含む飲み物を伝えて、カフェインの摂取は控えめにすること、ストレスは溜め込まないようにすること、医師に指示された範囲での運動を守ることを指導して下さい。これについても、本人だけでなく、家族も一緒に指導することが大切です。
⑥カテーテルアブレーションの説明
PSVTの根本的な治療方法は、カテーテルアブレーションになります。PSVTが原因でQOLが大きく低下している患者には、非常に有効な治療方法です。ただ、発生率は1%以下と高くないものの、脳梗塞や心穿孔、感染などの合併症のリスクは伴います。
また、心臓にカテーテルを到達させて治療することに恐怖を感じて、治療を拒否する患者もいます最終的に判断するのは患者本人ですが、看護師はカテーテルアブレーションの有効性や合併症のリスクをきちんと説明して、必要な情報提供をし、患者と家族が納得した上で治療を受けられるように、支援していく必要があります。看護師が丁寧に説明するのはもちろんですが、必要があれば、何度でも医師に説明してもらえるように、インフォームドコンセントの場をセッティングするようにしましょう。
まとめ
PSVTの基礎知識と心電図波形、原因、治療、看護のポイントをまとめました。PSVTは循環器内科や救急外来ではよく遭遇する不整脈です。ただ、それ以外の診療科でも患者が発作を起こすことはあります。看護師はPSVTを正しく理解し、迷走神経刺激を行えるなど、適切な看護ができるようにしておきましょう。
参考文献
1) 循環器最新情報(公益財団法人 日本心臓財団)
2)発作性上室性頻拍(一般社団法人日本不整脈心電学会|奥山裕司)
1965年生まれ、静岡県静岡市在住。スタッフナース歴11年、看護師長歴2年。静岡県内の大学で教育を学び、卒業後は小学校教諭として勤務。後に看護師の道に目覚め、看護学校へ入学し、同県内の総合病院(循環器科)へ就職。現在はイベントナースやツアーナース、被災地へのボランティアなど、幅広い分野で活躍している。
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