多発性骨髄腫の看護|症状と治療、看護目標、看護計画とケアのポイント(2017/06/18)
血液の中には、酸素を運搬する赤血球、免疫をつかさどる白血球やリンパ球、止血に関与する血小板などの血液細胞があります。
血液細胞は造血幹細胞から分化し、それぞれの役割を持つ細胞へと成熟していきます。その中に、リンパ球から分化・成熟した「形質細胞」があり、形質細胞には免疫グロブリンという蛋白を生成し、体内に侵入した異物を攻撃する役割を担っています。
多発性骨髄腫は、その形質細胞に異常が生じる疾患です。ここでは、その病態や症状、看護のポイントについて説明していきたいと思います。
1、多発性骨髄腫とは
多発性骨髄腫(MM:Multiple Myeloma)とは血液がんの一種で、形質細胞ががん化し異常増殖する疾患です。がん化した異常細胞は骨髄腫細胞と呼ばれ、そこから免疫グロブリン(M蛋白)が産生され、これらが様々な症状を引き起こします。
多発性骨髄腫の原因は不明ですが、遺伝子的素因や放射線、化学薬品などの影響が考えられています。
比較的、年齢の高い方での発症が多く、40歳未満での発症は非常にまれです。男性に多いとされ、日本での発症率は10万人に2~3人と言われています。
2、多発性骨髄腫の症状
多発性骨髄腫では、形質細胞(骨髄腫細胞)の増殖とそれに伴うM蛋白の増加により、貧血、骨病変、腎機能異常などの症状が見られます。
■貧血
骨髄腫細胞により正常な造血細胞のはたらきが妨げられ、血球が減少し貧血を引き起こします。貧血に伴い、動機や息切れ、めまい、全身倦怠感などの症状が出現します。
■骨病変
骨の障害は、多発性骨髄腫の特徴的な症状で、骨髄腫細胞は骨を壊す働きを活性化させ、骨を再生するはたらきを抑制します。その結果、骨がもろくなり、骨痛が出現したり、容易に骨折(病的骨折)することがあります。また、骨のカルシウムが血液中に溶け出すことで、高カルシウム血症となり、口渇や便秘などの脱水症状、精神症状、意識障害を引き起こすことがあります。
■腎機能障害
腎臓にM蛋白が付着すると、腎機能が低下します。また、脱水や高カルシウム血症などが原因となり、腎機能が低下する場合があります。腎機能が低下すると、尿量減少やむくみ、嘔気、息切れなどの症状が出現します。
その他、正常な免疫グロブリンが減少するため、感染を起こしやすくなったり、M蛋白の増加により血液が粘調となるため、頭痛や視覚障害などを引き起こす過粘調症候群や、M蛋白が心臓や神経、消化器などに沈着し、不整脈や神経障害などを引き起こすアミロドーシスなどの合併症が出現する場合があります。ただし、初期には自覚症状がないことが多いため、検診やドックなどの血液検査で異常所見が見つかる場合があります。
3、多発性骨髄腫の治療
多発性骨髄腫では、がん細胞である「骨髄腫細胞」を死滅させるための治療を行います。無症状の場合は一般的に定期的な経過観察のみで。症状の進行度、年齢、全身状態により、化学療法、放射線療法、造血幹細胞移植などの治療が選択されます。
■化学療法
多発性骨髄腫の化学療法では、分子標的薬や抗がん剤、ステロイドなどを組み合わせた治療を行われます。
・VAD療法
ビンクリスチン、アドリアマイシン、デキサメタゾンの3種類の薬剤を中心静脈カテーテルで投与する方法です。MP療法よりも速効性がありますが、副作用の出現に注意が必要です。
・MP療法
メルファランとプレドニンを併用します。経口投与で通院治療が可能ですが、VAD療法よりも効果が出るまでに時間がかかります。
・BD療法
ボルテゾミブを静脈注射で投与し、デカドロンを経口投与します。治療効果が高く。自家造血幹細胞移植との併用も可能なためBD療法が一般的に行われるようになっています。
ボルテゾミブの他に、レナリドミド、サリドマイド等の薬剤があります。以前は1次治療(初発)の保険適応があるのはボルテゾミブのみで、レナリドミドやサリドマイドは再発または難治性の場合にのみ使用可能でしたが、2015年12月にリナリドミドに未治療の多発性骨髄腫に対する保険適応が追加されました。
■放射線療法
放射線療法は、骨痛などの疼痛緩和および腫瘤の消失・縮小を目的に行われます。
■造血幹細胞移植
あらかじめ自分の造血幹細胞を採取しておき、大量の化学療法で骨髄腫細胞を死滅させたのち、造血幹細胞を移植することで、正常な血液細胞を増加させる効果が期待されます。患者への負担も大きいため、65歳以下で全身状態が安定している場合に適応となります。
4、多発性骨髄腫の患者の看護問題とケアのポイント
多発性骨髄腫の患者の看護問題として、症状出現に伴う身体的・精神的苦痛、合併症のリスクの増強、治療に伴う副作用の出現、疾患や予後に対する不安などが挙げられます。
苦痛の軽減および合併症の早期発見・予防、精神的サポートが看護のポイントとなります。また、病状が進行した場合は、緩和ケアを取り入れるなど、患者と家族のQOLの向上を目的とした看護ケアが必要となる場合があります。
いずれの場合も、患者の状態を把握し、患者が少しでも安心して治療を受けられるよう、また、苦痛を最小限にとどめられるよう、状況に応じたケアの提供が必要となります。
まとめ
多発性骨髄腫は、新薬の開発などにより予後の改善が見られるようになったものの、一生付き合っていかなければならない病気のひとつです。
患者が疾患や治療に必要性を理解し、納得した上で適切な治療を受けられるようサポートしていくことが大切です。また患者や家族のQOL向上に配慮したケアを提供できるよう心がけていきましょう。
1986年生まれ。北海道札幌市出身・在住。同市内の看護学校を卒業後、北海道大学病院の内科で2年勤務。その後、同市内の個人病院で6年間勤務し、結婚・出産を機に離職。現在は育児をしながら、看護師としての経験を生かし、WEBライターとして活動中。
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