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冠動脈バイパス術(CABG)の看護|適応と合併症、術前・術後のケア(2016/09/15)

公開日: : 最終更新日:2017/12/13 看護用語 静岡県 循環器科 

冠動脈バイパス術(CABG)の看護

日本では現在、毎年約5万例の心臓手術が行われていますが、その約3分1を心筋梗塞狭心症患者を対象とした「冠動脈バイパス術(CABG)」が占めています。

CABGは心臓手術の中で主軸を担う手術であり、すでに確立されているものの、手術の成功率は医師の技術によるところが大きく、術後合併症の発症率も比較的に高いのが実情です。また、術前における精神的不安を抱える患者も少なくありません。

それゆえ、看護師はCABGを受ける患者、CABGを受けた患者に対して、身体的・精神的の両面から包括的にサポートすることが必要不可欠です。CABGの看護に不安があるという方は、まずはCABGに関する知識を深めておいてください。

 

1、冠動脈バイバス術(CABG)とは

冠動脈バイパス術(CABG)とは、一般的に行われている開胸心臓手術のことで、主に心筋梗塞や狭心症の患者に対して行われます。心筋梗塞や狭心症の患者は、一部の血管が閉塞または狭窄を起こしており、心筋に十分な血液が供給されない状態にあります。

そこで、脚や胸、腕、腹部にある健康な静脈・動脈を採取して、閉塞・狭窄を起こしている血管に接続し、新しい路(バイパス)を形成します。この手技のことを冠動脈バイパス術と言います。

心筋梗塞や狭心症などの虚血性心臓疾患の治療には、冠動脈バイパス術のほか、血管拡張薬やベータ遮断薬などを用いる「薬物治療」、閉塞・狭窄した部分をバルーンのついたカテーテルで拡張する「冠動脈形成術(PTCA)」があります。

薬物治療は主に軽度、冠動脈形成術は主に中等症の症例に対して行われ、薬物治療でも冠動脈形成術でも改善がみられない場合、施行が難しい場合などに冠動脈バイパス術が行われます。

  適応症例 利点 欠点
薬物治療 軽症 非侵襲 効果が小さい
冠動脈形成術

(PTCA

中等症 低侵襲

薬より確実

中等度の侵襲性

再狭窄率が高い

冠動脈バイパス術

(CABG

重症 開存率が高い

完全血行再建

高度の侵襲性

再施行が困難

冠動脈バイパス術はすでに確立されている手技であるものの、成功率は医師の技術によるところが大きく、術中の移植の失敗や脳梗塞などの重篤な合併症を発症するケースがあります。しかしながら、手術が成功すれば移植後10年ほどは移植血管が適切に機能し、長期生存が期待できます。

 

2、冠動脈バイバス術の適応

上記のように、冠動脈バイパス術は虚血性心臓疾患の患者に対して、薬物治療・冠動脈形成術(PTCA)で成果が期待できない患者に対して行われます。適応となる具体例は以下の通りです。

  1. 冠動脈主幹部あるいは左前下行枝の根元近くに狭窄・閉塞病変がある場合すべて
  2. 左前下行枝、回旋枝、右冠動脈のすべてに狭窄・閉塞病変がある
  3. 薬物治療、冠動脈形成術(PTCA)が不適切な重症例

冠動脈造影による狭窄度や形態の評価、負荷心電図・負荷心エコー図などでの心筋虚血の証明により、適応の可否が決定されます。

冠動脈バイパス術は、薬物治療・冠動脈形成術(PTCA)では成果が期待できない重症例に対する治療であるため、基本的に禁忌はありません。

しかしながら、透析患者、多臓器障害(脳血管障害・肺機能障害・肝硬変・出血傾向)を持つ患者、再手術の患者は、施行における危険性が高く、また術後の合併症の発症リスクが高まりますので、特に注意が必要となります。

 

3、冠動脈バイパス術の種類

冠動脈バイパス術には大きく分けて、「オンポンプ(on-pump)」と「オフポンプ(off-pump)」の2つがあります。“ポンプ”とは、人工心肺装置のことを指し、人工心肺装置の使用の有無によって手技が異なります。

 

オンポンプ(on-pump

オンポンプは人工心肺装置を使用し、心臓を止めて手術を行う方法です。一時的に心臓を止めることで手技としての完遂性が高く、オフポンプと比べて手技が容易であるという特長があります。オンポンプは古くから行われてきた手技で、すでに確立された方法であるため、一般的に冠動脈バイパス術といえばオンポンプのことを指します。

 

オフポンプ(off-pump

オフポンプは人工心肺装置を使用せずに、心臓が動いたまま手術を行う方法です。1990年代後半から急速に普及し、近年では冠動脈バイパス術の主流になりつつあります。心臓を止めないために、侵襲性が低い、術後合併症の発症リスクが低い、発症時にも重篤に至りにくいという特長があります。その反面、手技が困難であり、オンポンプよりも卓越した技術が必要になるため、現在でも一部の医療施設でしか行われていません。

 

緊急度・年齢・血管を繋げる部位などを考慮して、グラフト選択を行いますが、開存率の観点から、基本的には内胸動脈が選択されます。

 

4、冠動脈バイバス術施行後の合併症

冠動脈バイパス術は、虚血性心臓疾患の治療に非常に有効な手術ではあるものの、合併症の発症率が比較的に高いのが実情です。「循環器病の診断と治療に関するガイドライン」によると、院内死亡1.94%、周術期心筋梗塞2.2~3.4%、脳血管障害2.2%~2.6%、感染症1.8%と、重篤な合併症が高率で発症しています。

冠動脈バイパス術における代表的な術後合併症には、「出血」、「心機能障害」、「脳梗塞」、「感染症」、「肝機能・呼吸機能障害」などがあり、いずれもおよそ1~2%の確率で発症します。

 

術後出血

冠動脈バイパスの吻合部、またはグラフト採取部位から出血を認めることがあります。出血量が多い場合には、再縫合の処置や輸血が必要となりますが、再開胸止血術を必要とする術後出血の発生頻度は約1%にとどまっています。

 

心機能障害

術中バイパスされたグラフトに良好な流量が得られない場合には、周術期心筋梗塞の原因となります。また、術後の約0.5%の症例において、冠動脈攣縮が原因となり、心筋梗塞が起こることがあります。

さらに、急性心筋梗塞に対する緊急手術では、心筋ダメージによる術後心機能低下・心室不整脈の遷延、術前から心機能低下の患者に冠動脈バイパス術を行った症例では、心機能の改善を認めずに心不全から離脱できない症例もあります。

 

脳梗塞

冠動脈バイパス術による脳梗塞発症の原因には、①大動脈遮断や送血に伴う上行大動脈内に存在する動脈硬化性粥腫の遊離、②心内血栓の遊離、③体外循環中の空気塞栓といった血栓塞栓症、④頚動脈狭窄病変・脳血管狭窄病変、⑤体外循環中の低血圧、⑥不整脈、⑦術後の低心拍出量症候群、などが考えられます。このうち、人工心肺装置が原因となるものもありますので、オンポンプよりもオフポンプの方が低リスクとなっています。

 

術後感染症

感染症の多くは手術創からの細菌感染によるもので、この場合には創周辺に化膿・炎症・熱感などの症状が現れます。感染症は手術侵襲による免疫力の低下に強く起因しており、中には肺炎敗血症を発症することもあります。

 

肝機能・呼吸機能障害

冠動脈バイパス術自体による合併症ではありませんが、術前から肝機能・呼吸機能障害を有する症例では、これらの臓器障害が悪化することがあります。

 

5、冠動脈バイパス術の術前看護

冠動脈バイパス術を受ける患者の身体状態の把握や、手術に向けた入念な準備は、手術を円滑に遂行するために必要不可欠なことですが、精神的ケアも非常に重要となります。

術前患者の精神的不安は大きく、不安を抱える患者は一貫して、術後の経過が不良となり、回復までに時間がかかってしまいます。

町本 実保、佐藤 まゆみ、佐藤 禮子の3名が行った調査によると、術前患者の手術に対する認識が術後に大きな影響を与えるとしており、術前において精神的な看護介入を適切に行うことで、術後の早期回復を促すという結果が示されました。

 

術前回復に対する認識と術後回復との関連の有り様

術前回復に対する認識と術後回復との関連の有り様

 

術前の認識と術後の実際の回復状態に相違があった場合、手術の結果を否定的に捉えることで、術後の健康状態が低下してしまうことがあるという結果が示されました。反対に、術前患者が術後経過や回復状況を現実的に認識することで、健康状態が向上し、早期改善に寄与するということが分かりました。

要するに、術前には患者が術後回復に対する現実的な認識を抱けるよう、術後の経過や症状の変化、日常生活への回復見通しなど、患者の視点に立った情報の提供が必要不可欠なのです。

それを行うために、患者が何に対して不安に感じているのか、その詳細を的確に把握することが大前提となり、患者の言動や表情などから不安状態を読み取り、患者の背景を踏まえて不安の内容や不安の程度をしっかりアセスメントすることが必要となります。

その上で、術後に起こりうる合併症や経過、症状の変化などを細かく説明し、また理解・共感の意を示し、相互に信頼関係が築けるよう、献身的な態度でコミュニケーションを図ることで、術後患者の早期回復に寄与することができます。

 

6、冠動脈バイパス術の術後看護

冠動脈バイパス術は、虚血性心臓疾患に対して非常に有効な手術であるものの、術後合併症の発症率は1%~2%と比較的高いため、術後には綿密な看護が必要不可欠となります。

特に術後まもなくのICUにいる期間は、一般病棟に移った後よりも合併症の発症率が高く、また重篤になりやすいため、早期発見・早期対処ができるよう入念に観察しなければいけません。

また、手術に伴う胸痛や、安静保持における全身の苦痛のほか、服薬管理や精神的ケアも必要となり、これらを包括的に行うことで患者の術後の早期回復に寄与することができます。

 

合併症の予防、早期発見・早期対応

なによりもまず、合併症の予防、早期発見・早期対処のための入念な観察が必要不可欠です。「4、冠動脈バイバス術施行後の合併症」にあるように、術後には「出血」、「心機能障害」、「脳梗塞」、「感染症」、「肝機能・呼吸機能障害」などのリスクがあります。

出血や脳梗塞は手術(侵襲)に伴う合併症であり、感染症の多くは創部から発症するものです。心機能障害と肝機能・呼吸機能障害も手術に伴うものですが、術前にすでに機能低下・免疫力低下がみられる患者は発症しやすい傾向にあります。

このように、合併症の発症リスクは術前~術後で起因が異なり、また患者の年齢や体調など、さまざまな原因によって発症リスクが高低します。ゆえに、患者の個人データを詳細に把握するのはもちろん、バイタルや全身状態、表情、行動など、多角的な観察が必要となります。

 

苦痛に対する緩和処置

術後の苦痛には、切開に伴う創部痛、麻酔薬に伴う全身痛、呼吸管理に伴う苦痛、合併症発症に伴う苦痛・疼痛、体動制限に伴う苦痛・疼痛などがあります。苦痛の程度が大きい場合には、主に鎮痛薬を用いて対応しますが、まずは苦痛の部位や程度などをしっかりと確認してください。

感染症にしろ脳梗塞にしろ、苦痛は合併症の前兆として発生することが多いので、苦痛の部位や程度を知ることで、合併症の予防や早期発見・早期対応に役立ちます。

苦痛がある場合にすぐに鎮痛薬などを用いて対応するのではなく、まずは苦痛の部位や程度などを把握し、合併症の可能性がある場合には特に、入念に観察するようにしてください。

 

服薬・飲食などの管理・指導

冠動脈バイパス術は根治治療ではなく対症療法です。術後も冠動脈全体の動脈硬化はそのまま残っているため、薬物治療や食事・水分管理、運動などを行っていかなければなりません。これは術後はもちろん、退院後にも気をつけるべきことです。

術前にあった胸痛や息切れなどの症状は、術後に消失することが多いことから、患者の中には説明を受けていても、完全に治ったと錯覚してしまうことがあるため、服薬に関しては特に、患者の理解度を確認し、理解度が低い場合には、看護師からもしっかりと説明するようにしましょう。

看護におけるアドヒアランスの意味と向上に向けた取り組み

 

コミュニケーションによる精神的ケア

一段落して安心する方、疼痛に対するストレスを抱える方、回復が遅いことに不安を感じる方、社会復帰への不安など、術後患者の精神状態はさまざまで、術後の日数によっても変わってきます。場合によっては、術後精神病に発展することもあります。また、「5、冠動脈バイパス術の術前看護」で述べたように、術後の精神状態は身体的回復にも影響を及ぼします。

術後回復の意欲となる要因には、医療従事者の誠意・信頼、回復の実感、十分な説明と納得、信念、ソーシャルサポート、苦痛の緩和、安心感などがあり、特に看護師など医療従事者の言葉がけや献身的な態度といった誠意のある対応は、患者の精神状態を大きく好転させます。患者が安楽な状態で早期回復できるよう、誠意を持って献身的にコミュニケーションを図るよう努めてください。

 

まとめ

冠動脈バイパス術は非常に有効な治療法であるものの、術後の合併症の発症リスクが高いのが実情です。術後合併症に伴う死亡例は1%程度と報告されていることから、合併症の重篤化も懸念されます。

合併症の発症リスクは術後まもなくが最も高いものの、一般病棟に移ってからも油断はできません。看護師のサポートは、患者の早期回復や再発防止に大きく寄与しますので、合併症の予防や早期発見・早期対応はもちろん、苦痛管理、服薬管理、精神的ケアなど、包括的かつ献身的な看護を実施していきましょう。

佐藤良子 看護師

1965年生まれ、静岡県静岡市在住。スタッフナース歴11年、看護師長歴2年。静岡県内の大学で教育を学び、卒業後は小学校教諭として勤務。後に看護師の道に目覚め、看護学校へ入学し、同県内の総合病院(循環器科)へ就職。現在はイベントナースやツアーナース、被災地へのボランティアなど、幅広い分野で活躍している。

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