脱水症の発現症状・程度に基づく点滴(輸液)の実施と看護ケア(2016/12/20)
通常人間の身体は約6割が体液、つまり血液・リンパ液・尿・唾液・粘液・消化液などから成り立っています(割合は年齢によって異なり、新生児では7~8割、高齢者では5割程度です)。
体液は身体にとって不可欠なもので、腎臓によって一定量に保たれています。摂取する水分量が不足したり、排出される水分量が増えると体内の水分が減り、体液が不足します。この体液が不足した状態を「脱水症」と言います。
目次
1、脱水症状とはどんな症状なのか
脱水症になると、単に体内の水分が不足するだけではなく、電解質も同時に不足して、様々な問題が生じます。重度になると生命にも関わります。
体内の水分が不足すると、血液(血漿)の量が減って血圧が下がり、内臓をめぐる血液量が減って血液が担う役目(栄養素の配布、老廃物の排泄など)がうまく果たせなくなります。
同時に、電解質(ナトリウムイオン・カリウムイオン・カルシウムイオン等)が不足すると、体液の浸透圧の維持ができなくなり、神経や筋肉に影響が出て、脚がつったり、しびれや脱力が起こったりします。
症状 | ・ 口渇、口唇など皮膚粘膜の乾燥
・ 尿量の減少 ・ 脈が弱まる、意識障害 |
原因 | ・ 水分や食物の摂取不足
・ 大量の発汗または不感蒸泄 ・ 糖尿病などによる多尿 ・ 種々の腎疾患 |
2、脱水症の種類
脱水症は水分と電解質(主にナトリウム)が不足した状態ですが、水分と電解質のどちらがより多く失われるかで、3つのタイプに分けられます。
■高張性脱水症(水分欠乏性脱水‐体液浸透圧が高い)
水分の摂取量が低下して、細胞内水分が浸透圧の高くなった血液に移り、電解質より水分が多く失われる症状。発汗以外にも不感蒸泄で常に水分を失っているため、自分で水分が補給できない乳幼児や高齢者に起こりやすい傾向にあります。
軽度での口渇感などから、皮膚粘膜の乾燥や尿量の減少、重度になると発熱や全身衰弱、痙攣、昏睡、興奮や幻覚などの精神的・神経的な症状が現れ、死亡に至るケースもあります。
■低張性脱水(ナトリウム欠乏性脱水‐体液浸透圧が低い)
下痢・嘔吐・発熱など、あるいは長時間の発汗などで体液が失われ、水分より電解質が多く失われる症状。電解質が不足しているのに電解質濃度の低い飲料や水・お茶などを大量に飲んだ時にも起こります。
口渇感や発熱は無く、軽度では脱水症状を伴わない場合が多いのですが、進行すると頭痛・倦怠感・脱力感などから眩暈、手足の冷え、血圧低下、頻脈、腎機能の低下、昏睡、無関心や嗜眠などの意識障害から、死亡に至ることもあります。
■等張性脱水(混合性脱水‐体液浸透圧が正常)
水分と電解質がほぼ同程度に不足している症状で、下痢や嘔吐で体液が一気に失われた時に起こります。喉の渇きから水分を大量に摂って、低張性脱水症になる場合が多いので、注意が必要です。
3、脱水症の重症度と体重減少の関係
脱水症の重症度と体重の減少は、大きく関連しています。重症度は体重の減少率により判断でき、それによって適切な処置が決まります。
■減少率1~2%
体重減少が1~2%(隠れ脱水)の場合はごく軽度の脱水症で、見た目には分かりません。頭痛や眩暈、ふらつき、立ちくらみ、倦怠感、食欲不振、喉の渇きなどが主な症状です。
■減少率3~9%
体重減少が3~9%(軽度~中等度)では、頭痛や眩暈・嘔吐などに伴い、口の中や粘膜が乾いて、唾液や尿の量が減ります。血圧や臓器内の血流が低下し、痰を出すのが困難になります。
■減少率10%以上
体重減少が10%以上(重度)になると、意識障害や痙攣を起こします。昏睡・幻覚・錯覚などの精神症状が起こることもあり、重篤な脱水症状です。
4、脱水症における点滴の必要性
軽症の脱水症状の場合で、喉の渇きや食欲の減退程度ならば、水を飲むだけで回復しますが、塩分の補給も大切です。水だけを補給すると血液中の塩分が薄まり、体液濃度を元に戻そうと身体が水分を尿として排泄し、自発的脱水症状と呼ばれるものになります。
また、緑茶やウーロン茶に含まれるカフェインには利尿作用があり、水分の排泄を促してしまいます。日本体育協会では、水に0.1~0.2%程度の食塩と糖質を含んだ飲料を推奨しています。冷たいものの方が吸収が早いので、10℃程度に冷やしたものが最適です。ただし、腎臓病・心臓病・糖尿病などの持病がある場合は、医師に相談する必要があります。
口からの水分・電解質補給が勧められる軽度から中等度の脱水症状でも、頭痛や嘔吐・倦怠感などがある場合は、同時に点滴をした方が回復は早くなります。
重度の場合、意識障害や痙攣などの症状が無くても、極端な口渇や発熱、早い脈拍や呼吸、汗が出ないなどの症状が有れば、緊急処置として即刻点滴が必要です。
4-1、点滴が必要な場合の注意点
体重減少が5~10%程度の場合の多くは、点滴による水分・電解質補給が必要になります。特に意識が無い場合は口から飲ませずに、点滴による処置をします。まず生理食塩水などの急速な点滴で水分を補い、生命の危機を脱する対応をします。同時に血液検査で血液中の電解質を調べ、バランスの調整に必要な輸液を選びます。
脱水症が起きている時は血管が細くなっているため、点滴の針を刺しづらくなっています。特に小さい子供の場合は緊急性があり、早い速度の点滴で水分を補給すると同時に、できれば口からも水分を補給すると、重症化が防げます。心臓病や腎臓病の人や、高齢者で心機能が低下している場合は、ゆっくりした速度での点滴が必要です。
5、脱水症状を呈する患者への点滴(輸液)
脱水症を放っておくと、血液量の低下から熱中症、心不全、電解質不足による発作や昏睡状態など、生命にかかわる合併症に繋がる可能性が大きく、病院で脱水症と診断された患者は、ほとんどが既に重度の脱水症に陥っているので、即刻点滴が必要です。
重度の脱水症状は、腎臓内の血流の悪化から血栓症や炎症などを起こして尿毒症に陥る危険性があり、心臓の血管内に血栓ができて心筋梗塞を起こす可能性もあります。脱水症の患者の対処法は、症状・年齢・持病の有無などによって異なりますが、点滴が必要な場合は早急な処置が肝心です。
■高張性脱水症
可能なら口から水分を与えますが、口からの補給が不可能な場合や、症状が緊急性を持っている時には、低張複合電解質輸液の2号液を点滴します。点滴の速度は、患者の症状などによって決定します。
■低張性脱水症
重症で緊急性が高い場合は、ナトリウム濃度が高い高張食塩液を点滴します。中枢神経に障害が出ている場合など、ゆっくりと血液中のナトリウム濃度を上げることが大切です。症状が改善されたら、等張複合電解質輸液の生理食塩液か乳酸リンゲル液に切り替えます。
■等張性脱水症
緊急性の高い場合は、まず血液と同じナトリウム濃度の等張電解質輸液を点滴して、循環不全などを改善します。症状が改善したら様子を見て、必要に応じて適切な輸液に切り替えます。
脱水症の治療では大量の点滴が行われるため、患者を細かく観察して、合併症の危険を防ぐ必要があります。治療中や予後に起こりうる合併症には、脳浮腫、肺水腫、心不全、心停止、循環虚脱などがあります。患者に自覚症状が無い場合も多いので、以下に挙げる項目に注意して、早期の回復を図ります。
観察項目 |
・ 全般的な症状・容体
・ 血圧、脈拍数、心電図、CVP などの循環動態 ・ 呼吸回数、パルスオキシメーター、動脈血ガス分析などの呼吸関連 ・ 尿量や尿比重 ・ 酸塩基平衡、血糖、血清電解質、ヘマトクリット、血液ガス、総蛋白などの血清学的検査 |
6、脱水症状を呈する高齢者の看護での注意点
身体に必要な水分は、成人でも高齢者でも同じですが、高齢者は体内に貯えられる水分量が減ります。細胞外液よりも細胞内液や筋肉・骨などの組織中の水分が減ります。また、加齢によって腎組織が老化し、尿の再生能力や濃縮・希釈機能が低下して、脱水症状を起こしやすくなります。
糖尿病や高血圧、認知症等の影響で脱水症状を起こしている場合もあります。ただ高齢者は脱水症状が現れにくかったり、単なる老化現象と思われたりして、病院で脱水症の診断を受けた時点では、緊急性を要する場合が多くなります。
高齢者には点滴が負担になる場合があるため、不足している水分・電解質を補充したら、できるだけ早く点滴を切り上げて経口摂取にします。輸液が過剰になると、心臓や肺に負担がかかって心不全を起こしたり、身体が吸収しきれないと肺水腫などになる可能性があります。
まとめ
脱水症は、本人が気づかないうちに進行している場合が多く、病院での診断の時点ではほとんどがかなり重度となっています。医師の診断に従って処置を施すと同時に、患者の症状を細かく観察して少しでも合併症の発症を防げるよう努めてください。
東京都在住、正看護師。自身が幼少期にアトピー体質だったこともあり、看護学生の頃から皮膚科への就職を熱願。看護学校を経て、看護師国家資格取得後に都内の皮膚科クリニックへ就職。ネット上に間違った情報が散見することに疑問を感じ、現在は同クリニックで働きながら、正しい情報を広めるべく、ライターとしても活動している。
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