緩和ケア認定看護師の役割と入学・資格取得に際する試験対策(2015/11/26)
患者の苦痛軽減・QOLの向上におけるスペシャリストである緩和ケア認定看護師。医療・看護技術の進歩により、緩和ケア分野における知識は非常に注目され、今や多くの病院が緩和ケア認定看護師を欲している状態です。
認定看護師になるためには、教育機関への入学試験に合格し、6か月615時間以上におよぶ課程を履修した後に、日本看護協会が実施する認定審査に合格する必要があり、容易に資格取得できるものではありません。
特に入学試験と認定審査に高い壁を感じる人は少なくないため、当ページで試験対策について詳しく解説いたします。
1、緩和ケア認定看護師とは
緩和ケアは、主にがん患者とその家族を対象に、QOLを維持・向上させるために、身体的・精神的・社会的・霊的な痛みを緩和、または予防するケアのことを指します。
緩和ケア認定看護師は、緩和ケアにおける深い知識と技術を有し、患者やその家族に益となる看護を提供するとともに、現場の看護師の指導や相談を受ける、いわゆる緩和ケアのプロとしての役割を担っています。
緩和ケアは直接的な治療・看護のアプローチではなく、患者やその家族に寄り添って全人的かつ多角的に行うケアであることから、非常に難しく、さらにがん患者だけに止まらず、さまざまな疾患を有する全ての患者に対してもケアの概念(苦痛の軽減・QOL向上)は通じているため、医療機関における緩和ケア認定看護師の必要性は年々増加しています。
2、役割・活動内容
緩和ケア認定看護師の役割は多岐に渡ります。通常の看護師の主な業務は「実践」のみですが、認定看護師になると、「実践」に加え「指導」・「相談」など、チームを支える存在として、また、病院全体のケアの質の向上を推進する人物として、以下のように包括的かつ多角的に業務を行います。
|
このように、「実践」・「指導」・「相談」の3項目を包括的に行い、患者や家族だけでなく、病院全体の技術促進を図るのも緩和ケア認定看護師の大きな役割です。
■実践
全国ホスピス・緩和ケア連絡協議会が掲げる、
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上記の5つのケア要件に準じ、患者とその家族に対して献身的にさまざまな苦痛を軽減させるのが緩和ケアの目的ですが、緩和ケアは心理や症状マネジメントを正しく理解することが必要不可欠です。
緩和ケア認定看護師は、資格取得に際して教育機関にて習得した知識と臨床における経験をもとに、高い水準でケアを行い、率先して患者やその家族のQOLの維持・向上を図ります。
■指導
通常の看護職員は、経験で得た知識をもとにケアを行い、さらに看護職員によって価値観が異なるため、技術力や統一性が乏しく、早期にさらなる向上を図るのは至極困難です。認定看護師の資格取得のために教育機関にて習得する「症状マネジメント」、「スピリチュアルケア」などは非常に有益で、通常業務のみでは習得が難しい知識です。これらの知識を看護職員に共有し、全体の看護の質を向上させるため、各人への指導だけでなく、院内において学習会などを開催・運営を行います。
■相談
緩和ケア認定看護師は、患者や家族、看護職員から相談を受け、適切にアドバイスすることも大切な役割の1つです。現在では、患者や家族に対して、緩和ケア認定看護師による定期的な相談窓口を開設している病院が増えてきています。看護職員に対しては、ラウンドを行いカンファレンスの中で相談業務を行うなど、習慣化している病院も数多く存在します。また、率先して医師や薬剤師など他業種間の連携を図り、業務を円滑に進めるのも認定看護師の大きな役割です。
3、認定取得へ向けた取り組み
緩和ケア認定看護師になるためには、まず日本看護協会が指定する教育機関に入学し、6か月615時間以上の教育課程を修了した後に認定審査(筆記試験)に合格しなければいけません。
緩和ケア分野における課程を履修できる教育機関は全国に10校(10都道府県)ありますが、入学するにはいくつかの要件があり、さらに各教育機関が実施する入学試験に合格する必要があります。
入学試験の合格率は20%~50%(未公表)であることから、認定看護師を目指す方にとってこの段階が最も困難で、2回・3回と試験を受ける人も多くいるのが実情です。
■教育課程の入学要件
|
■カリキュラム
科目 | 科目名 | 単位数 | 総単位数 |
共通科目 | 看護管理 | 15 | 120時間
(+30時間) |
情報管理 | 15 | ||
看護倫理 | 15 | ||
臨床薬理学 | 15 | ||
リーダーシップ | 15 | ||
文献検索・講読 | 15 | ||
指導 | 15 | ||
相談 | 15 | ||
対人関係(選択) | 15 | ||
医療安全管理(選択) | 15 | ||
専門基礎科目 | 緩和ケア総論 | 15 | 75時間 |
がんとがんの集学的治療 | 15 | ||
症状マネジメント総論 | 15 | ||
喪失・悲嘆・死別 | 15 | ||
がんの医療サービスと社会的資源 | 15 | ||
専門科目 | 症状マネジメントと援助技術Ⅰ-Ⅶ | 105 | 195時間 |
緩和ケアを受ける患者の心理社会的ニーズとケア | 15 | ||
スピリチュアルケア | 15 | ||
緩和ケアにおけるチームアプローチ | 15 | ||
緩和ケアを受ける患者の家族・遺族ケア | 15 | ||
臨死期のケア | 15 | ||
緩和ケアにおける倫理的問題 | 15 | ||
総合実習 | コミュニケーション | 30 | 60時間 |
ケースセミナー 事例研究 | 30 | ||
臨地実習 | ホスピス・緩和ケア病棟 | 180 | 180時間 |
※単位は教育機関によって異なる
■教育機関
都道府県 | 教育機関名 |
北海道 | 北海道医療大学 認定看護師研修センター |
岩手県 | 岩手医科大学付属病院 高度看護研修センター |
埼玉県 | 埼玉県立大学 地域産学連携センター |
千葉県 | 国立がん研究センター東病院 認定看護師課程 |
神奈川県 | 神奈川県看護協会 認定看護師教育課程 |
山梨県 | 山梨県立大学 看護実践開発研究センター |
富山県 | 公益社団法人 富山県看護協会 認定看護師教育センター |
静岡県 | 静岡県立静岡がんセンター 認定看護師教育課程 |
兵庫県 | 日本看護協会神戸研修センター |
福岡県 | 久留米大学認定看護師教育センター |
3-1、教育機関への入学試験対策
上記の10つの教育機関で課程を履修するためには、まず入学試験に合格しなければいけません。入学試験は「学科試験(筆記)」・「小論文」・「面接」で構成されており、配点割合は順に5:3:2となっています。
入学試験の合格率は20%~50%と低いことから、入念な対策が必要不可欠で、準備がままならない状態で万が一不合格になると、翌年まで待たなければいけないため、しっかりとリサーチ・勉強し、準備周到な状態で挑まなければいけません。
①学科試験
学科試験では、主に「看護師国家試験出題基準」の中の“緩和ケア”または“緩和ケアに関係の深い”範囲が出題されます。年度によって、また教育機関によって出題される問題は異なりますが、まずは看護師国家試験の参考書などを活用しましょう。
なお、学科試験は“専門科目Ⅰ(択一式)”と“専門科目Ⅱ(記述式)”の2つで構成されています。
専門科目Ⅰ | 緩和ケアに必要な病態生理、症状緩和、緩和医療に関する問題 |
専門科目Ⅱ | 緩和ケアの実践に必要な看護に関する問題 |
学科試験の過去問題(前年度分)は、各教育機関で入手することができます。基本的には、説明会に参加することで過去問題を閲覧できるため、必ず説明会に参加し、入学を希望する教育機関の出題傾向をしっかりとリサーチしておきましょう。
また、「日本看護協会」の会員ダイレクトに登録すると、看護研究学校と神戸研修センターで実施する入学試験問題(前年度分)を閲覧することができます。他の教育機関への入学を希望される方も必ず参考になりますので、この機会に会員登録することをお勧めします。
②小論文
小論文では、与えられるテーマに対して自分なりの問題提起をし、それに基づく根拠を示し、読み手を納得させる文章であることが高得点をとるポイントです。
認定看護師として説明する力やアセスメント力、さらにはコミュニケーション力を図る意図があることから、作文のように自分の想いを書き綴るのではなく、しっかりとした構成を立てて論理的に書く必要があります。
小論文のテーマは「リーダーシップとは?」といった抽象的なものから、「ジレンマとその対応」といった具体的なものまでさまざまで、60分間に800文字以上が推奨されています。800文字以下でも大きく点数を下げられることはありませんが、可能な限り800文字以上書くようにしましょう。
また、これは認定看護師になるための試験であるため、現状ではなく認定看護師としての在り方を書くようにしましょう。
③面接
面接は、緩和ケアに関する経験や知識ではなく、“人間性”がみられます。つまり、認定看護師として適切な業務の実践能力の有無が問われ、さらに配点割合は全体の3割と比重が大きいため、しっかりと対策しておく必要があります。
面接では、主に事前に提出した書類(志望理由など)をもとに質問されますので、書類に書いた事は何を聞かれても矛盾なく応えられるように準備しておきましょう。また、認定看護師は教育や指導を行う立場、いわゆるリーダーとしての業務が増えてくるため、社会人としての姿勢や振る舞いもみられます。面接のマナーもしっかりと心得ておきましょう。
3-2、認定審査対策
各教育機関で6か月615時間以上におよぶ課程を修了した後に受けることができる認定審査では、四肢択一・マークシート方式で筆記試験が行われます。制限時間100分・40問で、150点満点中105点以上が合格となります。
出題方式 | 問題数 | 配点 |
問題1:客観式一般問題 | 20問 | 50点 |
問題2:客観式状況設定問題 | 20問 | 100点 |
計 | 40問 | 150点 |
認定審査では、各教育機関で履修した「緩和ケアカリキュラム」が出題範囲で特定しやすく、さらに合格率は例年90%以上ですので、教育機関で学んだことをしっかりと復習すれば、難なく合格できると言っても過言ではないでしょう。
認定審査の過去問は前年度分のみ、課程を修了した後に受講した教育機関で閲覧することができます。各教育機関によって閲覧方法が異なりますので、希望される方は修了した教育機関に問い合わせてください。
4、緩和ケア認定看護師の求人・転職
2015年時点の緩和ケア認定看護師の人数は1,641人で、感染管理(2,053)、皮膚排泄ケア(2,040)に次いで3番目に多く、全体の約12%を占めています。
領域 | 人数(人) | 領域 | 人数(人) |
救急看護 | 921 | 透析看護 | 182 |
皮膚・排泄ケア | 2,040 | 手術看護 | 314 |
集中ケア | 939 | 乳がん看護 | 244 |
緩和ケア | 1,641 | 摂食・嚥下障害看護 | 521 |
がん化学療法看護 | 1,282 | 小児救急看護 | 208 |
かん性疼痛看護 | 741 | 認知症看護 | 472 |
訪問看護 | 438 | 脳卒中リハビリテーション看護 | 494 |
感染管理 | 2,053 | がん放射線療法看護 | 177 |
糖尿病看護 | 672 | 慢性呼吸器疾患看護 | 171 |
不妊症看護 | 137 | 慢性心不全看護 | 184 |
新生児集中ケア | 341 | 計 | 14,172 |
また、緩和ケア認定看護師1,641人の都道府県別内訳は以下の通りです。
都道府県別、認定看護師数(人) | |
北海道東北 | 北海道(111)、青森(19)、岩手(28)、宮城(20)、秋田(20)、山形(17)、福島(16) |
関東甲信越 | 茨城(33)、栃木(14)、群馬(27)、埼玉(76)、千葉(40)、東京(170)、神奈川(149) |
東海北陸 | 新潟(17)、富山(19)、石川(12)、福井(10)、山梨(47)、長野(40)、岐阜(17)、静岡(35)、愛知(46) |
近畿 | 三重(13)、滋賀(21)、京都(35)、大阪(98)、兵庫(64)、奈良(21)、和歌山(8) |
中国四国 | 鳥取(11)、島根(11)、岡山(23)、広島(61)、山口(18)、徳島(10)、香川(17)、愛媛(17)、高知(7) |
九州沖縄 | 福岡(82)、佐賀(11)、長崎(35)、熊本(27)、大分(18)、宮崎(9)、鹿児島(28)、沖縄(13) |
日本ホスピス緩和ケア協会によると、緩和ケア病棟を有する医療施設は、1990年時点では5棟しかなかったものの、2015年には339棟にまで増幅しており、緩和ケアの必要性はますます高まっています。
緩和ケアの概念である“苦痛の軽減”または“症状マネジメント”は、がんだけでなく全ての疾患が対象であるため、緩和ケア病棟を開設していない医療施設でも非常に高い需要があり、さらに開設予定の病院数も多いことから、今後、緩和ケア認定看護師の需要はますます高まってくることが容易に予想できます。
就業における認定看護師の優遇処置は未だ確立されていないものの、需要の増加により今後は多く病院が資格手当などの見直しを行うことが推測されますので、教育機関への受講などに多大な費用はかかりますが、給与面においても資格取得の意義は十分に出てくるでしょう。
また、転職においても非常に有利で長期的に安定して職に就くことができ、活躍の場が広がります。ただし、認定資格は5年おきの更新が必要ですので、その点は注意しておいてください。
まとめ
患者のさまざまな苦痛の軽減・QOLの向上に貢献するスペシャリストである緩和ケア認定看護師は、今や多くの病院が欲している人材であり、取得者人数以上に求人数が多い、いわゆる需要過多状態にあります。
認定看護師になるためには、多くの時間・労力・費用を必要としますが、患者のために、または自分自身のために、必ず役に立つ資格ですので、緩和ケア認定看護師を目指している方は、苦労は多いと思いますが、信念を曲げず資格取得に向けて頑張ってください。
1986年生まれ。北海道札幌市出身・在住。同市内の看護学校を卒業後、北海道大学病院の内科で2年勤務。その後、同市内の個人病院で6年間勤務し、結婚・出産を機に離職。現在は育児をしながら、看護師としての経験を生かし、WEBライターとして活動中。
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