精神遅滞の看護|原因と精神遅滞に対する理解や看護計画(2017/02/16)
精神遅滞は精神発達遅滞や、知的障害といった言葉で表現されることもあります。知的障害に関する知識を十分に持った医療従事者が少ないとの指摘もありますが、具体的に精神遅滞の患者に対して看護面でサポートする場合、どのようなケースが想定され、どのような点がポイントとなるのでしょうか。精神遅滞の定義や原因などとともに、まとめてみたいと思います。
1、精神遅滞とは
精神遅滞についてはアメリカ精神医学会の「精神障害の診断と統計の手引き」などの基準が適用されており、
・全般的知的機能が同年齢の平均より低い。
・意思伝達、自己管理、家庭生活、社会的・対人的技能、学習能力など各適応機能スキルにおいて制限がある。 ・18歳以前に発症する。 |
などの定義づけがなされています。これは、知的障害の症状に加えて生活面でも適応問題が生じている状態を指すと捉えることができます。具体的な特徴としては、話す、言葉や状況を理解する、形を認識する能力などが年齢に比べて低く、社会生活を送る上で支援が必要な状態を、精神遅滞と呼ぶことができるでしょう。
知的能力については、心理発達テストによって評価することができます。具体的な数値を挙げると、IQ<35は重度、IQ35~50は中度、IQ50~70は軽度の精神遅滞などとする基準があります。
精神遅滞自体を改善させることは難しいとされていますが、てんかんなどの合併症に対して抗けいれん剤を投与して認知レベルが向上したり、多動、興奮、不安などの精神症状や睡眠障害に対して精神安定剤や入眠薬を用いることで行動異常が改善し、集中力が増す、といった効果を見込むことは可能です。
出典:遺伝性精神遅滞の病因解明とリサーチ・リソースの構築 独立行政法人国立精神・神経医療研究センター
2、精神遅滞の原因
精神遅滞になる原因は多様にあり、原因を特定できないケースも少なくありません。具体的には、遺伝的、環境的要因などが相互関与して精神遅滞になっていると考えられますが、出生前はダウン症候群など遺伝子の異常、薬物・アルコール摂取などの母体環境、出生前後は低栄養や低酸素虚血性脳障害、出生後は外傷や感染症などの原因が含まれます。
3、精神遅滞患者と看護師の関わり
それでは看護師が精神遅滞の対象者と関わるケースを挙げ、接し方や看護のポイントなどをまとめてみましょう。
■乳幼児健康診断
乳幼児健康診断は、さまざまな病気や病態の兆候を見つける機会となりますが、障害についても、乳幼児健康診断での早期発見の重要性が指摘されています。乳幼児期における精神遅滞は言語の遅れとして症状が現れるほか、運動発達にも遅れがみられたり、外界からの刺激に対して反応が乏しいという特徴も挙げられます。看護師として乳幼児健康診断のスタッフを手掛ける機会がある場合、そのような特徴を有していると考えられる子供を認めたり、母親からそのような声を聞いた際には詳細を念入りに聞き取ったり、医師などに伝達するなどして十分にチェックできるきっかけを設けましょう。早期に精神遅滞が判明することで、親の心配や不安感なども軽減することが可能です。そして精神遅滞が判明したら、親に対して予後や治療、具体的な子供との関わり方や支援、療育や訓練などについての情報が速やかに伝えられるようなサポート体制を現場全体で整えることも、肝心です。
■患者からの暴力行為に対する問題
精神遅滞や統合失調症などの患者を扱う精神医療の場では、患者から看護師など医療への身体的および言語的な暴力行為が問題点の1つに浮上することがあります。患者から暴力を受けた看護師の中にはショックを受けたりうつ状態に陥り、看護ケアの質や仕事従事者意欲の低下を招いたり、やがては離職につながることにもなりかねません。
看護師が患者から暴力を受けるケースについて、
・無防備に部屋に入るなど、患者の場に踏み込んでしまって突然暴力を受ける
・脈絡もなく暴力を受ける ・けんかを止めようとするなど、患者の行動を変えようと働きかけた時に暴力を受ける ・妄想など患者の症状が影響して暴力を受ける |
の4パターンが示されています。1)
このうち暴力に至ったプロセスで見てみると、脈絡がなかったり、患者の症状が影響して暴力を受けるパターンでは、看護師自身の自覚的判断なしに暴力行為が起きていると言えます。一方、看護師に自覚的判断があったにも関わらず、暴力を受けたケースに関しては、看護師が患者を観察した上で状態判断や問題分析をしているのでなく、患者に対する先入観が先行し、その時の現場体制など周囲の事柄に影響されて判断を行った結果、患者による暴力を受けてしまったという事例も見られます。そのような場合、看護師自身が『患者に対する判断が未熟だった』と振り返ることや、臨床判断を意識化することで、暴力によるショックから立ち直り、今後の暴力発生の防止につながる対策になり得る、としています。
■患者のコミュニケーション向上に影響する関わり
皮膚科的手術のために入院した精神遅滞患者に対する情報を看護師が共有した上で、多面的に関わり続けたことで、患者のコミュニケーションの拡大に有効となったとする事例が報告されています。山口大学医学部附属病院の院内看護研究発表会集録掲載の「緘黙によって気づかされた看護の役割」では、結節性硬化症で手術が必要となった精神遅滞の患者について、入院生活を送ることでこれまでと違った環境で刺激を受け、発語が困難な状態から他患と簡単な会話が可能になった経緯を記しています。
患者が自然と口を利くようになった経緯について、元々持っていた人懐っこくて積極的な性格に、病棟内での新しい人間関係が刺激となったこと、周囲の人に関わりを求めており、看護師それぞれに示すタッチングなど特有の動作について看護師が理解したことで関わりや言葉かけも多くなったこと、他患が優しく接したこと…などが挙げられており、看護とは病気という体験のなかで患者のもつ潜在力を信じ、その自己実現過程を援助すること2)と記しています。
■家庭でのケア指導
主に重度精神遅滞と慢性反復性下腿潰瘍の症状を抱え、入退院を繰り返す生活を送る患者やその家族に対し、退院後の家庭でのケアなどに関する指導をした事例もあります。患者にとって可能な範囲でのセルフケア目標を設置し、反復練習を毎日繰り返して達成したということですが、患者への接し方としては創処置で患者自身が最も興味を持つ動作を自主的に行わせ、上手にできたら褒める、といった方法をとったとのことです。このような接し方をとることが、患者の前向きな意欲を引き出す上で重要なポイントとして位置づけられています。
まとめ
今回紹介したように、普段施設や家庭で過ごしている精神遅滞の患者に対して、入院などをきっかけに看護の面からのサポートを行うことで、その後の患者の行動や生活に変化をもたらす可能性が期待されます。看護に期待できる面がそれだけあるということを念頭に、精神遅滞の患者と接する際には、精神遅滞に関する情報も幅広く取り入れた上で、観察力や理解力を研ぎ澄ましてケアにあたる姿勢が肝心です。
参考文献
1)安永薫梨「精神科閉鎖病棟において患者から看護師への暴力が起こった状況と臨床判断」2005『福岡県立大学看護学部紀要』
2)坂之上智子 他「緘黙によって気づかされた看護の役割」1998
水間美智子 他「プロリダーゼ欠損症患者の感染予防について―精神遅滞のある患者の退院指導を考える―」『看護研究集録』」
1983年生まれ、広島県広島市出身。看護学校を卒業後、広島県内の大学病院(精神科)に就職。夫の転職を機に退職し、妊娠していたこともあり、そのまま専業主婦の道へ。現在は2児のママとして、子育てに奮闘しながら看護師の知識を生かし、在宅ライターとして活動。復職を視野に入れ、看護ならびに心理学の勉強に精を出している。
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