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看護リフレクション|プロセスに沿った実施方法と事例(2016/02/12)

公開日: : 最終更新日:2017/12/09 看護用語 広島県 精神科 

看護リフレクション

自分自身を見直すために、自身の看護の質向上を図るために実施される看護リフレクション。当ページでは、概要や有効に活用するために思考、実施に際するプロセス、事例など、看護リフレクションについて包括的かつ詳細にご説明します。

看護リフレクションとは何か、どのように方法を用いて実施するのか分からないという方は、最後までしっかりお読みください。

 

1、看護におけるリフレクションとは

リフレクション(Reflection)とは、①鏡に映った自分やものごとの像、②過去の行為・決定について注意深く考え直すこと、という2つの意味があります。

看護を提供する中で、「何か気に障ったことを言ったかな」と、自分の発現した言葉に対して患者の行動に違和感を感じることがしばしばあるはずです。これは看護だけでなく、友達との会話の中での相手の表情や仕草からも読み取れ、「もっと優しく、柔らかな口調で言えば良かったな」と、反省することでしょう。この反省がリフレクションです。

自分を見つめ直すために、自分の看護の質向上を図るために、看護行為や対話の中で“違和感”を感じたことに対して、なぜ違和感が生じたのかを追求するとともに、原因を特定し、次に生かすための改善策を練る、という一連のプロセスを踏んで、反省的な姿勢で振り返る取り組みがリフレクションの考え方です。

看護師は日常的に自分自身に対してや他の医療従事者に対して、患者に対してリフレクション(反省)を繰り返していますが、基本的にこれは“無意識”の中で行っています。それゆえ、反省による改善の程度は低く、2度3度と同じ失敗を繰り返してしまうのです。

そこで、“無意識”の中で行っている反省を、一定のプロセスを経て“意識的”に行うことで、同じ失敗を繰り返さず、反省による改善の程度を高くすることができ、自身の看護の質を向上させることができるのです。つまり、単なる振り返りではなく、意識的に自己との対話を図ることが、看護リフレクションの効果的な実践に必要な思考なのです。

 

2、無意識から意識への移行

まず、看護リフレクションの考え方(プロセス)を説明する前に、無意識から意識への移行についてお話します。というのも、看護リフレクションを実施するためには、無意識の中で行われている日常の反省を意識的に行う必要があるからです。

人間の脳は常に稼働しているわけではなく、多くの場面では“無意識的”に働いています。たとえば、本を読んでいる間には周りの声や物音が聞こえにくくなるはずです。これは、本を読むことに集中(意識)し、その他のことに対しては集中が分散(無意識)しているからです。

全てのことに対して集中している状態では、脳の許容量が超えてしまい、いわゆるパンク状態になってしまうため、脳は1つのことに対して集中力を費やす反面、その他のことに対しては集中力を分散させるというメカニズムを自然に働かせているのです。

勉強するにあたって、ダラダラ暗記していては頭に入らず、一晩寝るとすぐに忘れてしまうでしょう。しかしながら、集中して(意識的に)勉強することで、暗記の効率が高くなり、暗記量の増加を図ることができるとともに、一晩寝てもある程度の暗記量は確保されます。

このように、無意識で行うことに対しては向上を図るのが難しく、意識的に行うことでより効率的に向上を図ることができるのです。それゆえ、看護リフレクションを実践するにあたって、まずは今まで無意識的に行ってきた“振り返り”から脱却し、意識的に自分と対話するとともに一定のプロセスに沿って行う必要があるのです。

なお、意識と無意識の概念についてより深く学びたいという方は、精神分析の創始者である「ジークムント・フロイト」の書籍を閲読すると良いでしょう。

 

3、看護リフレクションの必要性

では、なぜ看護リフレクションが必要なのでしょうか。上では、“効率的に自身の看護の質を高めるため”、と述べましたが、それだけでなく、人間性の向上や思考力の向上など、看護の枠を超えて1人の人間として成長を図ることができるのです。

  • 人としての個人的成長につながる
  • 専門家としての成長につながる
  • 習慣的な行為から脱却する
  • 自分自身の行動に気づく
  • 観察に基づく判断から理論を構築していくことができる
  • 不確実性の多い事柄を解決したり、決定することができる
  • 個人としての自己をエンパワメントしたり解放することができる

 

4、看護リフレクションのプロセス

では、どのようなプロセスを経て看護リフレクションを実践すれば良いのか、ここでご説明したいと思います。

まず、看護リフレクションを行うプロセスは、すでにGoodman、Gibbs、Johnsなどによって、いくつか開発されています。

 

Goodman(1984)

LEVEL1 何が起こり、そのとき何を行ったかを描写する。
LEVEL2 行為の示す方向と成り行きをアセスメントし、理論と実践の関係についてリフレクションする。
LEVEL3 看護の目的や実践の価値を超えた議論における正当性や開放性の問題についてリフレクションする。

 

Gibbs(1988)

記述・描写 ≪何が起こったのか≫

その出来事はどこで起こったのか、そこで何をしていたのか、自分以外に誰がそこにいたのか、その人は何をしていたのか、何が起こったのか

感情 ≪何を感じ、何を考えたのか≫

その出来事においてどのような気持ちで何を考えていたのか、何が自分をそのような気持ち・考えにさせたのか、他者の言葉や行動がどのように関係しているのか、その出来事の成り行きによって自分の気持ちや考えはどのように変化したのか

評価 ≪その体験は何が良くて何が悪かったのか≫

出来事や行動に対して何が良くて何が良くなかったのか、そこで起こった価値や重要性は何か

分析 ≪その状況の意味は何か≫

なぜこのような状況が起こったのか、状況が良くなかった時は何をすべきであったのか、状況を良くするために何を行ったのか、自分や他者は何に貢献できたのか

総合 ≪ほかに何ができたのか≫

探求を通して自分自身に何ができたのか、自己のどのような成長に繋がったのか、他者の行動にどのような影響を与えたのか

行動計画 ≪再び起こった際にはどうするのか≫

再び同じような状況になったとき、自分はどうするのか

 

Johns(2000)

経験の説明 何が起こったのかを説明し、それに対する重要な要素は何だったのかを考察する
リフレクション 自身が行おうとしたこと、それに対する結果はどうなったのかを考察する

(どのような努力をしたのか、なぜそのような介入をしたのか、行為の結果として何が得られたのか、患者はどのような気持ちだったのか)

影響要因 内面的・外面的・知識的な事柄が自身の決定にどのような影響を与えたのかを考察する
回帰 状況を良くするために他の方法はなかったのか、その方法を実施した場合の結果はどうなっていたのかを考察する
学習 その経験による何が変わるのか、その経験について何を感じ・どう思ったのか、その経験は自身の科学的・道徳的ならびに気づき・美学においてどのような変化を与えたのか

それぞれの理論家によってプロセスは異なりますが、概ね「状況の描写・明確化」→「状況の分析・評価」→「学習」という3つのプロセスを踏むことで、看護リフレクションを実践することができます。

どのプロセスを活用すれば良いのか分からない場合には、簡略化した「状況の描写・明確化」→「状況の分析・評価」→「学習」の3つのプロセスを経て実践すれば、円滑に進めていくことができるでしょう。

 

①状況の描写・明確化

患者の状況や、看護行為・言動の内容、それに対する患者の反応を詳しく描写し、シート等に記述します。シート等に記述することで、より詳しくその時に状況を描写することができ、次の分析・評価を円滑に行うことができます。

 

②状況の分析・評価

次に、患者に対する看護行為や言動において、患者がどのように感じたのか、自分の行動は正しかったのかなど、客観的に分析します。また、実施して良かったこと・良くなかったことなど、1つ1つ評価していきます。

 

③学習

最後に、以上のすべてを振り返り、看護師としての自分と向き合いながら、個人の看護経験を看護の知識へと変換させます。今回のことを踏まえて、良い結果をもたらしたことに関しては、より良い結果を導けるよう考察し、悪い結果をもたらしたことに関しては、同じことを繰り返さないよう肝に銘じておきます。

 

5、看護リフレクションを実践する場面

看護リフレクションは、いわゆる“気掛かり”な場面で実践しますが、たとえばどのような場面において実践すればよいのか、ここで具体例をいくつか提示します。

  • 患者の言葉に対して、どう言ったらよいのか分からなかったから
  • 会話中に患者の表情が変わったため、気分を害することを言ったのではないか
  • 患者の要求に対して、どう対処していいのか分からなかったから
  • 患者の行動が理解できず、何も言えず、何もできなかったから
  • 患者の病気に対する不安を軽減することができなかったから
  • 患者との距離が近づいたと実感できたが、何が要因だったのか振り返るため
  • 患者との関係が一向に良くならず、自分に何か原因があるのかと考えたから
  • 自分の説明の仕方によって、患者と自分との関係性に悪い影響を与えてしまったから
  • 患者から心配事を話してもらえたが、なぜ急に話してくれたのか分からなかったから
  • 患者の恐怖心に配慮した言葉がけが出来ていない気がするから
  • 患者への声掛けで、どのように言葉をかけたらいいのか分からなくなったから
  • 患者の主観的な発言を取得しようと頑張るあまり、プライバシーに配慮できていなかったと感じたから
  • 手技の実践中に急に無言になり、何か何が原因でそうなったのか突き止めたかったから
  • 笑顔で話していたのに、急に苦笑いになり言葉を濁されて、違和感を感じたから
  • いつもとは何か違う感じがしたから
  • 患者の言動や行動が生活によるものなのか、病気によるものなのか見極めたかったから

 

これらはあくまで例ですので、例にはない場面で、あなた自身が“気掛かり”に思ったこと全てに対して実践しても問題ありません。

 

6、看護リフレクション実践の事例

次に、看護リフレクション実践の1つの事例をご紹介します。「患者の言動」・「私が感じたこと考えたこと」・「私の言動」の3つをもとに、起こった状況を描写し、それに対して患者の状態や行動の良悪を分析・評価し、学んだこと・次に生かすためにすべきことなど、「状況の描写・明確化」→「状況の分析・評価」→「学習」に沿って実践していきます。

≪患者情報≫

C氏 58歳 男性 統合失調症 入院期間:10年

幻覚(幻聴)が活発な状態である

≪この場面をとった動機≫

幻聴によって言動が左右されているC氏に、どう対応したらよいのかわからなかった。もう少し、C氏の気持ちを汲んだ対応を考えたかったから

患者の言動 私が感じたこと考えたこと 私の言動
①「先生が退院はダメだけど、学生さんと相談して学生さんがいいよって言うんだったら、退院していいよって」 ②えっ、本当にそうおっしゃったのかな? ③「先生が本当にそうおっしゃいましたか?」
④「うん、そう言ったよ」 ⑤どうしよう、何て言おうかなあ ⑥「先生のほうが私よりえらいので、私は勝手に判断できないんです」
⑦「けど、先生がそう言ってたし頼むよ、何でもするし・・・」 ⑧どうしよう、どうしたらいいのだろう ⑨「私、学生なので勝手に決められないんです」
≪分析・考察≫

C氏が痰インの希望を強く持っていることが分かった。また、その希望の強さから幻覚の内容はできあがっているのではないだろうか。

はじめ、私はC氏の言葉に混乱してしまい⑥⑨のように曖昧な対応を続けてしまっている。

≪私がこの場面で学んだこと≫

幻聴に左右されているC氏も混乱しているし、私も同じように混乱していたのでは、判断がお互いにつかなくなる。落ち着いて、じっくりC氏の言葉を聴いていくことが大切であると思う。(以下略)

長谷川雅美・白波瀬裕美『自己理解・対象理解を深めるプロセスレコード』39項より抜粋、一部改変

 

このように、看護行為や対話の中で起こった出来事について、「状況の描写・明確化」→「状況の分析・評価」→「学習」のプロセスを辿ることで、自身の看護の質向上や患者の問題点がみえてくるのです。

なお、上表は「プロセスレコード」と呼ばれ、リフレクションにおける“記録”です。通常、日常の看護実践の場面では、看護師は患者との関係に深く巻き込まれ、即座の対応を迫られます。それに伴い、自身と患者との相互作用を反省的に意識しながら看護を行えません。

また、患者の頻回な入退院や多くの受け持ち患者数により、看護リフレクションを行った状況は次第に忘れてしまいます。そのために、プロセスレコードを用い記録として残し、後日振り返ることで、さらに深く自分を見つめ直すことができるのです。

看護における「プロセスレコード」の目的と書き方・記入例

 

7、セミナー・グループワークのススメ

看護リフレクションは、自身の人としての成長ならびに看護の質向上のために不可欠な取り組みです。しかしながら、個人単位で実施するのは無理があり、特に看護リフレクションについてこれまで詳しく知らなかったという方は、教授・指導してくれる教員が必要です。

もちろん、一個人で実施することも可能ですが、そうすれば問題解決の糸口は自分自身の主観でしか見つけることができませんので、一個人で行う場合には必ず同僚など第三者からの意見を取り入れることが大切です。

現状では、看護リフレクションは未だ広く実践されておらず、院内で実施している医療施設は極少数です。そのため、看護リフレクションの実践法を深く学ぶためにはセミナーやグループワークに参加しましょう。また、研修に参加するのも良いでしょう。

看護リフレクションは文章のみの理解で、効率的かつ有効に実践することはできません。セミナーやグループワーク、研修に参加することで、実体験の中で学ぶことができ、さらに他の参加者と交流を図ることで、より詳細に実践法を習得することができます。看護リフレクションの実践への意欲がある方は、ぜひ実体験の中で学んでください。

 

まとめ

看護リフレクションは、自分の今までの看護行為を見つめ直すため、看護の質向上を図るために非常に重要な取り組みであり、“反省する”ということは、看護師だけでなく全ての人にとって大切なことです。

スポーツ選手でも、何が悪かったのかを反省的に考察しなければ、自分の悪い部分は一向に改良されず、一流のスポーツ選手になることは非常に難しいでしょう。このように、人は何においても向上するために反省的な姿勢で振り返らなければいけません。

看護師は数ある職業の中でも多大な責任を負います。また、疾病を有する患者に対して全人的なケアを行えるのは看護師など医療従事者だけです。自身のため、患者のために、この機会にぜひ業務の一環として看護リフレクションの実践を検討してください。

高山千里 看護師

1983年生まれ、広島県広島市出身。看護学校を卒業後、広島県内の大学病院(精神科)に就職。夫の転職を機に退職し、妊娠していたこともあり、そのまま専業主婦の道へ。現在は2児のママとして、子育てに奮闘しながら看護師の知識を生かし、在宅ライターとして活動。復職を視野に入れ、看護ならびに心理学の勉強に精を出している。

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