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事例を踏まえた分かりやすい看護師の倫理綱領・倫理原則 (2015/12/28)

公開日: : 最終更新日:2020/06/05 看護師 看護用語 東京都 全科共通 

看護論理

質の高い看護を行う上で重要となる「倫理」。看護学校ではもちろん、臨床においても度々その言葉を耳にしますが、「倫理」とは何か、なぜ重要なのかを、完璧に理解できていますでしょうか?

倫理の存在なくして、また、倫理に従わなくして、質の高い看護を提供することは出来ないと言われているほど、看護倫理は非常に重要なものなので、「倫理」とは何かを、まだハッキリとは分からないという方は、当記事を参考に理解に努めてください。

 

1、看護倫理とは

看護倫理とは、いわば看護師が業務を行う上で守るべき「道徳」「規範」のことで、簡単に言うと、質の高い看護を提供するための「考え」「行動」の指針のことです。

指針が定まっていなければ、各看護師・病院が行うケアに大きな差異が生じてしまい、患者が適切な看護・治療を受けることができなくなってしまうため、看護倫理の存在やそれに準ずることは非常に大切なのです。

看護倫理の始まりは今から約65年前の1953年で、すべての患者が質の高いケアが受けられるよう、適切な看護を行う上でのガイドラインとして、国際看護師協会(ICN)が、世界で初めて国際的な倫理綱領(行動指針)を策定しました。

日本においては日本看護協会が1988年に初めて、看護師の基本的責任と人間性の尊重、ケアの質の向上への努力、差別のない看護の提供、プライバシーの保護など、10項目を策定。

目まぐるしい医療技術の発展や社会情勢の変化に伴い、日本看護協会は従来の倫理綱領の見直し・改定に取り組み、2003年に新たな行動指針を提示し、それが現在の看護倫理として、日本の看護ケアの指針となっているのです。

 

2、看護者の倫理綱領

2003年に日本看護協会によって提示された倫理綱領は15項目あり、すべての看護師がこれらの行動指針をもとにケアを実施していかなければいけません。以下に日本看護協会が掲げる倫理項目を、事例を踏まえて分かりやすく要約し列挙します。

 

①人間としての尊厳及び権利を尊重する

いかなる場面においても、生命・人格・尊厳が守られることを判断・行動の基本として、患者の自己決定を尊重し、 そのための情報提供と決定の機会の保障に努めるとともに、常に温かな人間的配慮をもって対応すること。

事例 排尿困難の患者が排尿の意思を示した際、排尿の可否に関わらず、誠意を持って対応する

 

②対象者に平等なケアを提供する

年齢、性別、国籍、人種・民族、宗教、信条、経済的状態、健康問題の性質にかかわらず、すべての対象者に平等な看護ケアを提供すること。

事例 病院として利益となりうる経済的に裕福な患者の入院を優先して受け入れるのではなく、すべての患者に対して平等に対応する

 

③対象者との信頼関係を築いた上で看護を行う

効果的な看護援助が行えるよう、患者との信頼関係を築くと共に、築かれた関係によって生まれる看護者への信頼感や依存心に誠実に応えるように努めること。

事例 採血時に、目的や注意点など細かく説明し、患者にとって安心感のある看護実践を行う

 

④知る権利・自己決定の権利を尊重する

看護・治療などに関して十分な情報を得た上で、その方針を選択する権利、自己決定に際する権利を尊重し、さらに診療録や看護記録などの求めに対しては、施設内の指針に則り、誠意を持って応じること。

事例 患者の家族が患者に対して病気の通知拒否を懇願した場合でも、患者本人が通知を望むなら、それを叶え、患者・家族・医療関係者が一丸となって治療を行える体制を整える

 

⑤守秘義務・個人情報の保護に努める

個人情報の利用目的を説明し、職務上で知り得た個人情報について守秘義務を尊重するとともに、情報の漏出を防止すること。

事例 勤務時だけでなく、プライベートにおいても患者の名前や年齢、病名や病状などの情報を口外しない

 

⑥看護阻害時には保護し安全を確保する

保健医療福祉関係者によって看護・治療が阻害されている時や、適切に実施されていない場合、さらに家庭内暴力など身体・精神的に危険にさらされている場合には、患者を保護するために働きかけるなど、適切な看護を受けられるようにすること。

事例 頭部損傷で来院した小児患者が、頭部だけでなく胸部、腹部、背部、四肢などに多くの外傷がみられる場合には、虐待の可能性を考慮し、児童相談所に報告するとともに、話し合いの場を設ける

 

⑦看護実践において個人としての責任を持つ

自己の能力や看護に対する責任を認識した上で、看護実践を行うこと。また、自己の能力を超える看護が求められる際、他の看護者に委譲する場合には、自己および相手の能力を正しく判断した上で、看護実践を行うこと。

事例 未知の薬剤を使用する際には、薬効や投与量、注意点などをしっかりと確認した上で、投与を行う

 

⑧継続的な学習により能力の維持・向上に努める

質の高い看護を提供するために、研修や学会・研究会、そのほか自主学習など、専門職業人としての自己研鑽に努めること。

事例 病院の基準的な看護方針だけに準じてケアを行うのではなく、個人の能力向上において高い意識を持ち続け、より有効な早期治療法・ケア法の習得に邁進する

 

⑨他の医療関係者と協働して看護を提供する

患者に関する知識・理解の交換や、看護・治療における工夫の提案など、他の看護者や保健医療福祉者との協力関係を構築・維持することによって、より質の高い看護を提供すること。

事例 認知症患者が退院し在宅療養に移行する際、患者が安心・安全・安楽な生活を送ることができるよう、ケースワーカーや在宅看護師と連携して、在宅移行支援を行う

 

⑩看護において望ましい規定を設定し、実施する

自らの職務に対して、質の高い看護を行うために重要となる行動基準(自主規制)を設定すること。また、これを遵守し実施すること。

事例 カンファレンスにおいて症例ごとにジレンマが生じ、方針が定まらないことで患者に適切なケアを実施できない場合には、グループ・病院単位で基準を設ける

 

⑪研究や実践を通して、看護学の発展に寄与する

日本または世界中で行われている最新の研究を活用して、看護を実践すること。また、自らが率先して専門的知識・技術の創造と開発を行い、看護学の発展に寄与すること。

事例 看護研究を行う際、また、看護研究論文を提出する際には、多忙を理由に研究への参加を拒否せず、積極的に協力する

 

⑫自身の心身の健康の保持増進に努める

より良い看護を提供できるよう、自身の健康管理をしっかりと行うこと。特に援助専門職が陥りやすいストレスや燃え尽きを予防・緩和するために、職場における活動と私生活における休息のバランスを保ち、ストレスマネジメントをうまく機能させること。

事例 看護を提供する者として、心身ともに健康な状態を維持し、ウイルスなどの感染防止や医療ミスを防ぐためにも、病気発症時には出勤せず、自宅で療養する

 

⑬個人としての品行を常に高く維持する

社会または看護を必要とする人々からの信頼を得るよう、誠実さ、礼節、品性、清潔さ、謙虚さなど、社会的常識を十分に養い、看護を提供する専門職としての品行を高く維持するよう努めること。

事例 患者が安心して治療を受けられるよう、倫理的配慮を持って看護を行うとともに、看護提供者としてボランティアなどを通して地域社会に貢献する

 

環境整備の問題の解決に努める

対象者の健康を保持増進するために、施設内における環境整備だけでなく、自然環境の破壊や社会環境の悪化に関する問題について、積極的に介入し解決に努めること。

事例 禁煙が必要な患者の喫煙現場を目撃した際には、禁煙を促す(これには、患者の健康維持と、環境破壊の防止の効果がある)

 

⑮よりよい社会づくりに貢献する

看護の質を高めるために、保健医療福祉および看護に関する、社会の変化と人々のニーズに対応できる制度の確立に積極的に携わるとともに、専門職能団体などの組織が行う活動を通して、よりよい社会づくりに貢献すること。

事例 研究会への参加、研究の発表など、専門職業団体の一員として活動を行い、看護全体の質の向上に貢献する

 

3、看護の倫理原則

臨床現場において、看護職員と看護ケアや治療の方針を決定する際に、釈然としない思い、いわゆるジレンマを抱くことがあります。これは、看護を提供する人それぞれに異なった思考が存在するために起こります。

さまざまな思考が存在することで、看護実施における困惑が生じ、患者に適切な看護・医療を提供できなくなってしまうため、看護を提供する者すべてに共通する概念として、日本看護協会によって「倫理原則」が作られました。

なお、看護の倫理原則には、医療倫理学に基づいた「自律尊重原則」「善行原則」「無危害原則」「正義原則」の4つの原則に加え、医療専門職に課せられた義務や規則の基礎となる「誠実の原則」「忠誠の原則」(以下、統合)の2つの原則があります。

 

■自律尊重原則

自律とは、「自由かつ独立して考え、決定する能力」のことを指し、臨床現場において、情報の提供や疑問の解決を通して、患者の意思決定を尊重すること。

事例 胸部大動脈瘤の手術で、破裂のリスクと対麻酔になるリスクをインフォームドコンセント(正しい情報を得た上での合意)した上で、治療に際しては患者が選択した治療法を尊重する

 

■善行原則

病院や医療関係者に利益のある決定を下すのではなく、患者にとって利益となる行動をとること。

事例 術後、除脈のために体外式のテンポラリーペースメーカーを外せない患者に対して、体内留置型のペースメーカーを植え込む処置を行う

 

■無危害原則

転倒・転落の予防など、患者が危害を及ぶことを避けるために十分な注意を払い、リスクを最小限に抑えること。

事例 歩行が不安定で転倒歴のある術後のせん妄患者は、歩行する際にナースコールをするように説明・指導しても、一人でトイレまで歩行することがあるため、患者本人と家族の同意を得て、夜間のみ離床センサーを使用する

 

■正義原則

集中治療室のベッドや災害医療用機器などの医療資源を提供できる人数の範囲内で、平等かつ公平に提供すること。

事例 病棟業務が多忙な状況であったとしても、緊急入院の患者を受け入れ、他の患者と同様に質の高い看護・医療を提供する

 

■誠実・忠誠の原則

虚言や欺瞞など、信頼を損なう行動をとらないこと(誠実)。また、秘密や約束を守ること(忠誠)。

事例 患者から「信頼しているから言うけど、他の人には話さないでね」と秘密話をされた際、その内容を看護や治療の目的以外で他者に口外しない

 

4、臨床倫理の4分割法

臨床現場では、カンファレンスを通して患者や家族に対しする看護・治療方針を決定しますが、その際に看護師や医師など医療関係者のさまざまな意向が交錯し、患者・家族・医療関係者が足並みを揃えて治療を進められない事態に陥ってしまいがちです。

そこで、臨床倫理学・臨床医学における倫理的決定のための実践的なアプローチ法として、「臨床理論の4分割法」が提案されました。これはカンファレンスに際する円滑な方針決定のための一つの考え方であり、「倫理綱領」や「倫理原則」にも準じています。

 

医学的適応

(Medical Indication)

  • 診断と予後
  • 治療目標の確認
  • 医学の効用とリスク
  • 無益性
患者の動向

(Patient Preferences)

  • 患者さんの判断能力
  • インフォームドコンセント
  • 治療の拒否
  • 事前の意思表示
  • 代理決定 (代行判断、最善利益
幸福追求:QOL

(Quality of life)

  • QOLの定義と評価
  • 誰がどのような基準で決めるか
  • 偏見の危険
  • 何が患者にとって最善か
  • QOLに影響を及ぼす因子
周囲の状況

(Contextual Features)

  • 家族や利害関係者
  • 守秘義務
  • 経済的側面、公共の利益
  • 施設の方針、診療形態、研究教育
  • 法律、慣習 、宗教
  • その他 (診療情報開示、医療事故)

 

4-1、臨床倫理の考え方

カンファレンスにおいて、上記の各項目に準じた、以下のチェックポイントをもとに、各患者に即した看護・治療方針を決定していきます。

 

医学的適応 患者の医学的な問題点、病歴、診断、予後はどうか?
急性の問題か慢性の問題か?重篤か?救急か?回復可能か?
治療の目標は?
成功の可能性は?
治療に失敗した時の対応は?
医学治療と看護ケアでこの患者は恩恵を受け、害を避けられるか?
患者の意向 患者がどのような治療をしたいと述べたか?
患者は利益とリスクについて情報を与えられ、理解し、同意したか?
患者の精禅的対応能力、法的判断能力は?判断能力がないという根拠は?
事前の意思表示があったか?
判断能力がないとしたら、代理決定は誰が?適切な基準を用いているか?
患者は治療に協力しようとしないのかできないのか?もしそうならなぜ?
総じて、倫理的法的に許される限り患者の選ぶ権利が尊重されているか?
QOL 治療した場合としなかった場合の患者がもとの生活にもどる可能性は?
備見を持った評価者が患者のQOLにバイアスをかけてみることはないか?
治療が続けば、患者がどのような身体的、精禅的、社会的不利益を被るか?
患者の現在や将来の状態は、患者が耐えがたいと判断するようなものか?
治療を中止する考えやその理由づけはあるのか?
患者を楽にする緩和的ケアの予定は?
周囲の状況 治療の決定に影響を与える家族の問題があるか?
治療の決定に影響を与える医療提供者(医師看譲師)側の問題があるか?
財政的、経済的な問題があるか?
宗教的、文化的な問題があるか?
守秘義務を破る正当性があるか?
資涯の不足の問題があるか?
治療決定の法的な意味合いは?
臨床研究や教育の問題があるか?
医療提供者や施設間の利益上の葛藤があるか?

 

5、倫理の必要性

「倫理綱領」「倫理原則」「臨床倫理」など、倫理における様々なガイドラインが提唱されていますが、はたして倫理というのは本当に必要なものなのでしょうか?

そもそも倫理というのは、「道徳」や「規範」といった、人として守り行うべき道であり、これは看護という枠組みの中だけに存在するのではなく、様々な職業においても存在します。

また、私たちの生活の中でも、たとえば「妊婦や高齢者に席を譲る」「落し物を交番に届ける」など、これも一種の倫理に当てはまります。

このように、秩序が保たれることで、社会全体が良い方向に進み、反対に指針となるものが存在しなければ、このような善行が一般的に行われることがないため、社会の秩序が乱れてしまいます。

看護においては、急速な医療技術の発展や社会情勢の変化に伴い、各人の価値観が多様化したことで、患者に最適なケアを提供することがますます難しくなってきています。それゆえ、すべての患者が最適なケアを受けることができるよう、行動指針となる看護倫理の存在や、それに準ずる精神は非常に大切なのです。

 

まとめ

優秀な看護師とは、豊富な知識と高い技術を有している者に限りません。いくら知識と技術を有していても、倫理で提唱されている事項、つまり患者を優先した看護の考えに則して行動していなければ、優秀とは言えないのです。

看護倫理は、すべての患者に質の高い看護を提供するための“指針”であり、自分本位ではなく患者を優先にした、看護における理想的な考えであるため、看護学生はもちろん、臨床経験豊富な方も、初心に戻って再度理解に努め、質の高い看護実践を行っていってください。

山岸愛梨 看護師

東京都在住、正看護師。自身が幼少期にアトピー体質だったこともあり、看護学生の頃から皮膚科への就職を熱願。看護学校を経て、看護師国家資格取得後に都内の皮膚科クリニックへ就職。ネット上に間違った情報が散見することに疑問を感じ、現在は同クリニックで働きながら、正しい情報を広めるべく、ライターとしても活動している。

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